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22話:束の間の…

 セルビオ・チャリセリタはヘーリテに着くなり、会いたかったようで会いたくなかった人物に出会ってしまう…一緒にいた他の冒険者達は、こぞってその人物に憧れの眼差しを向けながら興奮しているが、セルビオだけは違った…


「……はい…」


「返事をしろとは言ってません、説明をしろと言いいませんでしたか?」


現在セルビオはお説教中で、どちらかと言うと会いたくなかった人物と対面している。


「…はい…すみません…」


恐怖からなのか、セルビオは顔を上げられずにうつ向くばかり、叱っている人物は眼光鋭く見つめ続けている。


「ユ…ユリさん、そこらで許してあげたら……」


セルビオを叱っている人物はユリで、その状況をマサアキがなだめようと口を挟む。


「なりません…気づいておきながら街を去ろうとした愚弟を、師である私が正さねばならないのです!」


「……そうですか…」


セルビオもユリの弟子だったようだ…その師匠のユリが言うのだ、マサアキごときがとやかく言うのはお門違いである。


「ほら、時間が無いのだから早く説明しなさい!」


「は!はい!?」


ユリはセルビオ前のテーブル端をパンパン叩き、説明をするよう急かす。

急かされたセルビオは、ビビりながらも説明をはじめた。


「ああ、あまりにも美しく成られたので!ひ、人違いだと!!」


「……昔の私は不細工だったと?」


卑屈な表現を使うユリに、周りで聞いていた者も恐怖を感じた。

墓穴を掘るセルビオは返す言葉が見つからず、口をパクパクさせながら目を回している。


「冗談よ、セルビオも女性を誉める事が出来る様になったのね?」


「す…すみません」


冗談だったらしい…周りの緊張が和らいだ。何故かセルビオは謝っているが、ユリは気にせず本題に入る。


「昔の私が怖かったのよね?…別れる時もびくびくしていたし、あの中で一番怒られていたものね…」


「あ…いえ!?………はい……」


ユリの言葉にセルビオは正直に頷いた。

ユリは「…でしょうね」と一言だけ言い、セルビオの頭を撫でる。


「えっ?」


頭を撫でられるセルビオは、何故撫でられてるのかわからずユリを見る。

ユリは最近は多く見る様になった笑顔をセルビオに向けて言う。


「立派になったわね…あの頃のセルビオには手を焼いたけど…今は、頼れる仲間達に囲まれた貴方を誇りに思うわ」


「……はい…」


その言葉を聞いたセルビオは、仲間の前ではあまり見せない涙を流した…別れてから約10年、ユリと同じB級冒険者になったセルビオは、憧れていたユリからかけられた言葉に感極まり、テーブルに突っ伏した…

それを見ていたユリも、周りで聞いていた仲間達もセルビオの心情を感じとり、しばらくそっとしておくのだった…



「泣き虫…行きますよ?」


ヘーリテから樹海へ行くために馬車を借りようと陸運ギルドに来ていたユリ達は、セルビオ以外が後ろの荷台に乗り込み、後は御者台しか空いていない…


「くそ〜…なんで俺が…ブツブツ…」


セルビオは御者台に乗りながら、ブツブツと文句を言っている。


「泣き虫?何かしら…」


ユリはセルビオに訊ねるが、セルビオは「喜んで御者します!」と言い手綱を引いた。

昔から一言多いセルビオはユリの問いにすぐさま従う…いまだに師弟関係は崩れていないようだ…


「あれが…セルビオなのか?」

「カッコ悪…」

「犬だな!」

「うふふ♪」


セルビオのパーティー仲間は、各々が今のセルビオを見て色々言っている。


「セルビオはちゃんとやっていますか?」


そんな仲間達にユリは訊ねる。

話しかけられたセルビオの仲間達は、ユリに恐縮しながらも、セルビオの話を暴露していく。


「えーと…いつも偉そうです!」

「だな、貴族上がりだからか鼻に付く話し方をするよな!」

「腕はたしかですが…すぐに一人で突っ込みますね〜」

「料理が出来ないクセに、味にうるさい!」


男性3・女性2のセルビオがリーダーのパーティーだが、セルビオは相変わらずのようで、ユリは呆れてしまう。


「まったく…泣き虫坊っちゃんは……」


ユリは御者をするセルビオを見ながら心に誓う…(再教育が必要ね…)と…


その視線を感じたのか、セルビオは悪寒を感じ後ろ見る…ユリと目が合い微笑みを返されたセルビオは、すぐ前に向き直り顔を青ざめた…

セルビオは心の中で思う…(目が笑ってない!殺される!!)…と、手綱を握りしめる手に汗が滲むのを感じながら……





 公都ガルデア上空、国際転移者協会保有の小型飛空挺『黄竜三式』を操るマルヤマが、後ろに乗る冒険者達に話しかける。


「ガルデアだ!反転させるぞー、よく見えるようになー!」


飛空挺は上下が反転し、頭上にはガルデアの街並みが見える。

一方、冒険者達はというと…


「ぎゃーー!」

「いやー♪落ちる〜」

「……うぷっ…」

「「「「「………」」」」」

「あらあら〜」


マルヤマ以下13名の冒険者達は、C級が5名・B級が7名(カズキとハルナ含む)が飛空挺に乗っており、C級達はすでに気絶、B級の一部も気絶までは行かないが気持ち悪そうだ…


「…マルヤマさ〜ん…」


マルヤマに非難の目を向けるのは、二つの操縦席のうち、座る事を唯一許されたカズキだ。


「なんじゃ、だらしないの近頃の若い者は!」


マルヤマは飛空挺を元に戻しながら言う。

上下が戻り、後ろでは安堵の声が聞こえて来た。


「ジェットコースターみたいだったね〜」

「乗ったことねーよ!」

「あらあら〜、貧しかったのですか〜?」

「違うと思うよ?」


いま話している女性4人は転移者で、先ほどの飛行をジェットコースターだと楽しそうに話すメグミと、鋭くツッコミをするアズサ、すこぶる天然のトモエ、ザ・普通代表のハナコ達である。


その隣では、ハルナがB級冒険者でラトゥール生まれで日系3世のエイジの背中を擦っている。


「うぷっ!」

「…出すもの出したらいいよ〜」


エイジは先ほどから飛行酔いで苦しんでいる。拍車をかけたのはマルヤマだが…


そしてC級達は…白目を剥いて死んでいる…


「四式戦疾風…でしたっけ?」


「じゃの〜…零式の後継機…四式に比べたら、この飛空挺は簡単じゃな!」


カズキが昨日に聞いたマルヤマの昔ばなしで、マルヤマは戦時中に特攻隊として戦闘機に乗っていたそうだ。

そして敵艦に突っ込むと同時に、ラトゥールに転移したと言っていた…だが、いくら小型飛空挺と言えど、戦闘機みたいに操縦されては乗っている者達もたまったものではない…


「おろろろぉ〜!」


とうとうエイジが戻してしまったようだ…ハルナがエチケットブクロ変わりに、バケツでエイジの戻しを受け止めている。


「エイジは弱いの〜オババとそっくりじゃわい…」


「…オババ?」


マルヤマが懐かしむように言った言葉をカズキが訊ねる。


「ルーのことじゃよ」


「あぁ〜、ルーさんですか。あの方は馬車でも酔いますからね…それに、オババって怖いもの知らずですね…」


カズキもよく知った人物であり、怖い人のようだ。

マルヤマは「怖いものか」と言い、笑いなが操縦悍を左右に揺らす。


「ルーごとき恐るに足らぬわい!」


「…飛空挺を貸してくださった、理事長にいう言葉をじゃ無いですよ…」


カズキは笑い続けるマルヤマに言うが、マルヤマは笑いが治まらない様で、飛空挺も左右へ小刻みに揺れている。

理事長とは、国際転移者協会の第1席であり事実上の協会内トップの理事だ…マルヤマが笑い飛ばしているルーという人物は協会トップの理事長らしい…


「マルさーん!エイジがヤバイから揺らさないでー!」


後ろでエイジを看病していたハルナからクレームが来た。

カズキはマルヤマを見て「…だそうです」と言い、マルヤマは苦い顔をしながら頷いた。


マルヤマが操縦する小型飛空挺『黄竜三式』はガルデア上空を通過し、一路フォール山脈へと飛行する。

その先には樹海が広がり、カズキ達捜索隊の本隊が魔獣と戦っていて、そして…ケイタを探している……





 夕食を済ませた講習組はアリスタを出発し、ナナイの先導でフォール山脈の獣道をひたすら駆け足で登る。

護衛訓練中にナナイの姿が無かったように見えると思うが、実はちゃっかり盗賊役にされてモニカの攻撃を受けてしまい、アリスタに着くまで荷台で気絶していたのだ…勿論、ベスとワードゥルファーも一緒だ…


「ナナイさん、機嫌悪いね?」

「ベスがふざけてるからよ?」

「モニカのせいだろ!?」


走りながら会話をする体力はD級の受講者達にはまだ備わっていない…会話をしているのはコリスとモニカ、それとべ…バカだ。

さすがはC級以上の冒険者だけあって、走る姿は軽やかだが、後ろ着いてくる受講者(アドラスを除く)達は、みな息があがっていて着いていくのがやっとの様だ。


「ほら!後少しで小休止だぞ!」


「そうだぞ頑張れ!」


殿を務めるサザクとワードゥルファーが発破をかけるが、皆が思っているであろう…この二人は暑苦しいと…


「し…死ぬ〜…」

「頑張りましょう!シネラちゃん」


暑苦しい二人の前を走るのは、シネラと暑苦しい兄をもつヒーテだ。

一応言っておくがシネラの容姿は幼女であり、ドワーフに匹敵する怪力の持ち主だが幼女であり、ずば抜けた知能を持っているが幼女なのだ!

体力的に他より劣り、歩幅の違いもあったりで、着いていくのさえ苦しいのだ…


「シネラ!頑張れ、お前なら出来る!」

「自分に負けるな!」


暑苦しい二人はシネラを鼓舞する。

死にそうに走るシネラは(修造かよ!)と心の中でツッコムが、声が出ないのが残念でならない…


「止まれ!」


先頭をひた走るナナイから停止の合図がとぶ、シネラ達最後尾はまだ後ろなので先頭のナナイの所まで走らなければならない。


やっとの事で先頭に追いついたシネラ達はナナイから小休止と聞き、ヒーテがシネラに水筒を渡す。


「ぐびっ…ぐびっ……死ぬ〜…」


「生き返る〜、じゃないんだね?」


水を飲み干したシネラが口をぬぐいなからテンプレを言うと、マサアキが鍛えたコリスが初のツッコミを入れてくる。

だが師匠のアドラスは「ちがーう!?」と叫びながらコリスに近づき、ボケ担当のクセにコリスのツッコミをダメ出しする。


「水飲んで死ぬんか〜い!…か、生きとるやろ!…と、鋭くツッコミを入れるんだ!」

「えっ!?あ…はい…」


コリス本人はツッコミを入れた訳ではなく、所謂天然というやつなのでしょうがない…アドラスもアドラスで、ただ走るだけで退屈だったのか、体力が有り余り過ぎてコリスに絡んで来たようだ。

シネラはヒーテに水筒を返し、ナナイが手招きをするのでそちらに向かう。


「大丈夫か?」


「うん!水を飲んだから元気出ました!」


心配そうに訊ねて来たナナイに、シネラはニコリと笑って返事を返す。

獣道を走る前にナナイは、シネラを本当に幼女だと思っており、シネラを背負うと言ってきたのだ…シネラもそうだが、皆がシネラの年齢を知っており、ナナイが納得するまでアリスタを出発できなかったのだ…


フォール山脈中腹に着いた今でも、ナナイはシネラの年齢を疑い続けている。大丈夫だと言うシネラを見る目が、どことなく心配そうにに見つめている様な気がする…


「…おんぶを…」


やはり心配な様だ。言われたシネラも苦笑いを浮かべながら丁重に断り、タマがシネラを呼ぶ声がするので、ナナイに一言礼を言いタマ達のもとへ向かう。


「シネラ姉〜…ずぴぃー!」


シネラが来た早々、タマが抱きつきながらシネラの服で鼻をかむ。


「汚な!?何するのタマ!」

「ずぴっ……バカマリアが〜」


タマを怒るシネラだが、タマは涙を流し鼻水を伸ばしながら顔を上げてマリアの名を告げる。

元凶はマリアの様で、シネラはマリアを呼ぶ。


「マリア!?ちょっと来なさい!」


「はいで〜…ばっかす!?」


シネラに呼ばれてやって来るマリアもタマ同様、顔を涙と鼻水でぐちゃぐちゃになっている。

そこにアドラスもくしゃみをしながらマリアと共にやって来きてシネラ言う。


「ばくしゃん!?…あぁ〜…シネラ、マリアが胡椒をぶちまけたから…は〜…びっくしゅ!?…」

「アドラスさんが…へ…へ…べくちゅん!?……塩を舐めろと言ったです〜!…」


くしゃみをシネラに飛ばしながら話す二人の説明を、シネラは何とか理解した…

汗をかいたら水分補給をするが、同時に塩分を取るようにとアドラスがマリアに言ったのだろう。

そしてマリアは、ベスが背負っていた補助食を入れた鞄から間違え胡椒を取りだし、蓋が固くて無理矢理こじ開けた…後はご覧の有り様になる…


マリアの周りにいた受講者達もくしゃみをしていて、ナナイが状況を鑑み、くしゃみと涙が治まるまで休憩が延長された。

マリアのせいで小休止が大休止になってしまったが、先ほどまで死にそうにしていたシネラには有難いことだった……






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