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21話:講習2日目、夕刻〜

 白黄樹海は、光神アイナを祀る石碑を中心とした広大な樹海を1000年以上かけて形成し、その特徴として夜でも木々が発光していて常に明るく、ましてや魔獣はおろか猛獣さえいない樹海だったが…


「あそこに見えるフォール山脈を越えたら、その眼下に見える発光する森林一帯全てが白黄樹海よ」


午後からの護衛訓練を無事に終えた受講者達は、アリスタにある冒険者ギルド出張所の中でサザクとコリスから明日の説明を受けている。


「山脈は高い所で標高4000メールだが、低い所は2300メールほどだ。俺たちは山道を通らずに、そのまま真っ直ぐ低い方の山頂を目指――」


「――はいはーい!なんで山道を通らないの〜?」


教官達が説明の途中だろうがマイペースなトットは手を挙げて質問する。

説明途中のサザクは1つ咳払いをしてから続きを話す。


「うう゛んっ…その説明を今するところだ。真っ直ぐ向かうも、たかだか2400メールだと思うなよ?あそこは1800メール付近から頂上まで断崖絶壁だ…そして、その壁をひたすらよじ登るのが明日の訓練だ!」


「「えぇ〜(です〜)」」

「高い所怖いんだけど〜」

「わたしも〜」


シネラとダイナ以外の女性受講者が、サザクの説明に不平を漏らす。

タマとトットは猫のくせに高い所が苦手な様…ちなみにメールとは地球のメートル単位の読みが短くなった単位だ…

そんな彼女達は例のあの人の存在を忘れて

いるのか、例のあの人は隣の部屋でダズルートと話をしている。



「……後でシメるわ」

「…ほどほどにな…」


女性受講者達の不平はモニカにまる聞こえだった…ダズルートが苛立つモニカを少しばかりなだめてから続きを話す。


「でだ…ここに陣地を構築し終えた捜索隊は、アーゼン組と講習組を明日の夕刻まで待つ。合流後はダリシア組の到着を待たずに石碑まで前進する。アーゼン組にはセルビオがいる、講習組と合流したら指揮はモニカが取ってくれ」


「セルビオなんて懐かしいわね…了解したわ!引き受けるけど…受講者達への説明はダズルートがしてくれないかしら?」


モニカはセルビオの名を懐かしみながらも、面倒な説明をダズルートに押し付ける。


「俺はすぐに戻らねば――」

「――アドラスとシネラに伝えておけば問題ないわ…私はバカ共をシメのに忙しいの…わかる?」


説明が嫌なのではなく、不平を言っていたタマ達をシメるためのようだ…

ダズルートは渋々ながらもモニカに従い、二人で隣の部屋の前に行き、こっそりと部屋の中へ入る。


「だから…下を見なければ怖くないっての!」

「足かける時に下みるじゃん!」

「そうだそうだ!!」


中へ入ったモニカ達をよそにサザクと猫二人が揉めていて、マリアとモビナも先ほどまで文句を言っていた様だが大人しい…だが、二人の顔はニヤついている。間違いなく何かを仕出かすつもりだ…


「精霊魔法なんて使ったら、私が崖下まで叩きつけるわよ?」


モニカはマリアとモビナに向かっていう。

ビクリとしながら二人は後ろに振り返り、モニカの姿を確認すると、先ほどニヤケ顔には恐怖と混乱を貼りつけ、青ざめた顔しながら小刻みに震えだしている。


「わわわです〜!?」

「ばばばれてる〜!?」


モニカが二人に近づいて来るが、二人はシネラを盾にしつつ言い訳を並べはじめる。


「ま…魔法なんて、使わないです〜!モニカは早とちりしすぎです〜」

「そそっ!精霊魔法をそんなことに使わないよ〜!」


「…バレたって言ってたじゃん…」


盾にされたシネラは呆れを通り越し、哀れな二人に深いため息をついた。


「…モニカさ・ん・で・しょ?陰で呼び捨てにしてるから地が出てるわよ?」

「ひぃ〜!?ごめんなさいですー!」


マリアの胸ぐらを掴んだモニカは、マリアを揺すりながら問いかけるが、当のマリアは戦意を喪失しておりすぐに謝っている。

冷めた目で見ていたシネラに、モニカと一緒に部屋へ来たダズルートが話しかけた。


「シネラ、話がある…着いてこい…」


「え?…あ、はい…」


ダズルートはそう言うと、アドラスを伴い隣の部屋に移動した。

ダズルートが着席を促し、アドラスとシネラが座ったところで話がはじまる。


「二人はもう知っているだろうが…今回の講習は普通の講習ではない……」


アドラスとシネラは眉1つすら動かさない…ダズルートは「ほう…」と一言呟き、話を続ける。


「なら本題だ。樹海に魔獣がいる事はわかっているんだが、術者…召喚士の居場所を知りたい…アドラスの情報網とシネラの予知夢?で、何か情報は無いか?」


そうダズルートは言うと、アドラスとシネラを交互に見る。先に口を開いたのはシネラだ。


「モニカさんにも話したけど、召喚された魔獣は30体以上で、召喚士はダナクマグナっていう精神体の魔獣に身体を操られているらしいの」


「ダナクマグナ……わかった、調べてみよう…」


ダズルートは魔獣の名を聞いて少しばかり不安な顔をするが、続いてアドラスが話し出したのでそちらに顔を向ける。


「セイローの捜索隊情報だが、樹海南部は小型の魔獣しかいないらしい…間違いなくアイナの石碑に近い北部に、大型の魔獣がいると報告があった…」


アドラスは懐から地図を取りだし、テーブルに広げる。地図は白黄樹海周辺を切り出した物だ。


「ガルデア捜索隊が北西部にいるの知っている。明日の朝にはセイロー隊は南部全体を調べ終える…もし南部に居なければ、確実にここだな…」


樹海の北部を指差しながらアドラスはダズルートに言う。

その指の先には『石碑』と記されていた。


「…結界が破壊されたと聞いている。魔獣も入りたい放題だろう…」


「…らしいな…だが、フォール家からの許可が下りてない」


アイナの石碑に行くためには許可が必要らしく、捜索隊は石碑周辺以外の樹海を捜索しか出来ない。

アドラスはニヤっと笑いシネラを見る。シネラも視線を感じたのか、にぱっと笑い話し出しす。


「講習組は許可が下りてるから石碑に行ける…だから、捜索隊は補助教官として一緒に行けば良いんじゃないかな?」


「そ、それはモニカにも頼んだ事だが…」


すでにダズルートはモニカに打診して了承を得ているようだが、シネラはさらに続ける。


「それと召喚士は私たちと同じ冒険者だから、後付けで『講習組は捜索隊指導のもと、行方不明役の冒険者を捜索する訓練を行った』で報告すれば良いと思うよ?」


シネラはアドラスを見て「ねっ!」と言いはにかみ、アドラスも「だな!」と笑顔を返した。


「そうか…その手があるか!?…流石だな!」


ダズルートは心底喜んでいるようで、アドラスとシネラの手を握りお礼を言う。


「魔獣討伐には参加は出来ないが、捜索なら訓練名目になるだろ?D級でも依頼は来るしな!」

「うん、私たちも召喚士を見つけるのを手伝うよ!」


お礼を言われながらシネラとアドラスがダズルートを気づかう。昨日の夕刻に、急きょ伝令として飛び立ったダズルートは、はたから見ても疲れた様子であり、シネラ達は彼の頑張りに報いたいと思っている。


「すまんな…B級の俺がしっかりしないとな…」


気を使わせたと思ったダズルートは、シネラとアドラスに謝る。

シネラ達は一言「お互い様だ(です)!」と言い、ダズルートを労った。


「ふっ…そうだな…では明日、合流地点で会おう!」


「おう!」

「うん!気をつけてくださいね!」


ダズルートは、打開策をくれた二人に背を向けて窓から飛び立って行った。

ダズルートを見送った二人は椅子に座り直し話しはじめる。


「予知夢…バレてんな?」


「う〜ん…隠す必要は無いけど…たぶんユリさんが伝えたんだと思うよ?」


アドラスは心配そうにシネラに聞くが、シネラは然もあらん感じだ。


「それにこの前の直接依頼で、アドラスさん達を見つけられたのも予知夢のお陰だし、たまたまかも知れないかったから…」


シネラが言うこの前とは治療院の件だ…あの後の検証会でシネラは、ユリを含めた冒険者ギルド役員達に予知夢の事を話し、それが解決の糸口になったと報告していた。


「…だが今回も予知夢があった…」


「うん…だから今回も大事になるかもと思う…」


下を向くシネラをアドラスは見つめる…アドラスはアルバードからの手紙の内容を思い出していた…


『シネラが予知夢をみたら警戒しろ。事が重大になっている可能性がある。』


「重大か…」


思い出していたアドラスは一言呟いた後、シネラに話しかける。


「あまり気負うな…シネラだけでに何とかさせようとしてる訳じゃ無いと思うぞ?」


「……うん…」


話しかけるが、シネラはうつ向いたままだ。

いくら怪力や予知夢を持とうと、シネラは他の下級冒険者と比べても弱い…今回の受講者達の中で比べても、魔剣を使わなければ最弱の部類なのだ…


「…戻るか?」


「…うん」


アドラスはシネラを連れだって部屋を出る。

二人は隣の部屋に入ろうと扉を開けるが、入った途端にマリアがこちらに向かって走って来た。


「だっ!?」

「でぶふっ!」


扉を開けたアドラスに激突したマリアは、ぶつかった反動そのままに、モニカが待つ部屋の中心に帰って行く。


「つーかーまーえーたっ♪」

「ぶひぃーーー!!?」


樹海では魔獣と戦っている仲間達がいるというのに、講習組(マリアだけ)は今日も元気な悲鳴を上げる。

マリアに激突され胸を擦るアドラスと、隣に佇むシネラは思う…「「こんなんで明日は大丈夫だろうか…」」と……





 白黄樹海神殿域…光神アイナの石碑前に一人の冒険者らしき男性が佇む。


「…来たか…」


男性は後ろを振り返り、こちらに向かってくる人影を見る。

男性の前に現れたのは5色の髪を持つ女性だ。


「……麒麟様、ご機嫌麗しゅう…」


「挨拶はよい…して、他の麒人族はどうした…お主だけか?」


女性は頭を垂れて返答する。


「いえ、他に5名ほど……!?」


麒麟様と呼ばれる男性は女性に殺気を放つ。

殺気を放たれた女性は、身体を小刻みに震わせながら数歩ほど後ずさる。


「実に嘆かわしい…麒人族がこれほど落ちようとは…」


男性は後ずさる女性の前に行き、女性の手を取り小さな包みを渡す。


「魔道具だ…」


「…魔道具?」


男性が渡した包みを見ながら、女性はおずおずと聞き返す。

男性は包みの紐をとき、中にある5色に輝く魔石を取り出した。


「少なければ作ればよい……ふっ!」

「なっ!?………」


魔石を溝うちに当てられた女性は一瞬で灰となり、そしてそこから魔法陣が浮かび上がった。


「ふむ……我が血を引くものでも、大したものは呼び出せぬか…」


魔法陣からは5体の小型の獣が出現した。男性は獣に念で何かを指示する。


「……行け…」


その一言で獣達は一瞬で消え去り、石碑前には男性だけになる。


「虫共が来たてたか…それもまた一興、楽しませてもらうかの…」


独り言を呟いた男性は、獣と同じように姿を消した。

アイナの石碑前には、灰とかした女性の亡骸だけが風に飛ばされ舞い上がった……





 白黄樹海神殿域北部…


「ぐぅおあーー!?」


『無駄だぁ〜、おまえの身体はもう俺様のもんだー!』


ローブに身を包んだ青年は、独り言を呟いたり叫び声を上げたりと、地面を転がりながらもがき苦しむ。


「で……でてけー!」


『嫌だよ〜、いいから仲良くしようぜー?』

「だ…黙れ!……誰がお前なんか!…」


一人芝居では無いようで、青年は何かに身体を憑依されているようだ。

しかしながら、憑依している何かは話し方が軽い…


『俺たち、マブダチじゃん?もう認めるしかな………なあー!?』


「……今かよ…くっ!」


軽い口調の青年が神殿の方を見て慌てる。

普通の方の青年は苦虫を潰した様な顔をする。


「追って来たのか?」


青年が見つめていた男性冒険者が青年に訊ねる。

青年は背中から剣を二本抜いて構えた。


「麒麟か!?ダナクマグナ!」

『てめえ、ナメんなよ!?…行くぞケイタ!』


交互に違う口調で叫ぶ青年ケイタ又はダナクマグナは、麒麟と呼んだ男性冒険者に斬りかかる。


「…ぬるいな」


麒麟に斬りかかるも、両方の剣は見えない壁に弾かれ、青年はバランスを崩す。

そこに麒麟の前蹴りをくらい、神殿の柱に激突した。


「ぐあっ!?」

『大丈夫かケイタ!』


痛がるのはケイタだけで、ダナクマグナは痛みを感じないようだ…本体の自我はケイタで、ダナクマグナは憑依した精神体である…


「ダナクマグナ…そちらに付くか?」


ケイタ達の方へ歩みを進ませながら、麒麟はダナクマグナへ言う。

ダナクマグナはケイタの口から言葉を発した。


『てめぇの言いなりなんてごめんだぜ!魔獣が何でも屋だと思うなよ!?』


「…そうか…なら死ぬがよい」


麒麟に言い返したダナクマグナだが…逆鱗に触れたようで、麒麟が右手に魔力を溜めはじめる。


『ケイタ、逃げるぞ!』

「逃げるって!?…くそ…やってくれ!」


麒麟の魔法が放たれる…ケイタはダナクマグナに身体を預け、ダナクマグナが魔法を発動する。


影遊移(かげゆい)!』


魔法を発動したダナクマグナ(ケイタ)は、自らの影へと姿を消した。

麒麟の魔法はケイタ達がいた柱へとぶつかり、柱はこなごなに砕け散り、欠片は飛散した。


「……逃げ足だけはあるな…」


麒麟はぽつりとそう呟くと姿を消した……






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