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18話:咎人を追い…

 スティフォール領・交易都市ダリシア…この都市は、インデステリア王国の重要都市として栄えており、公都並みの城壁を備えている。

ダリシアは5つの区画で構成された都市で、中央は行政区、北の軽商業区、東の重商業区、西の民政区、南の市民区があり、行政区以外は自由な往来が可能だ。

そして、民政区にある冒険者ギルド・ダリシア支部では二人組の冒険者が、ダリシア支部のギルドマスターと何かを話している。


「…アルバードも、面倒な案件をよこすね…」


「…すみません…同じ転移者として、何とかしたいのですが…」

「咎人になったケイタが、また人を殺めるかしれないです…」


女性ギルドマスターのカナメロに要件を伝えに来たのは、B級冒険者のカズキと、同じくB級冒険者で女性冒険者のハルナだ。

要件は、同じ転移者のケイタの罪状と、捜索協力を伝えに来た。


「…ダリシアじゃ好きに往来が出来るからねぇ…立派な門があっても機能なんかしてないし、あまり役に立てないよ」


カナメロの言う通り…交易都市ダリシアは壁や門こそは立派だが、商人達の往来が激しい交易都市で、入門審査や積み荷の確認などをやっていたら何時まで経ってもダリシアに入れないため、入門審査をやらずにそのままダリシアに入れてしまうのだ…

なので、ダリシアの冒険者ギルドが協力したところで、見つかる確率は低い。


「そうですが…カナメロさんにも関係する事ですし…」


「そうです、カナさんが頼りなんです!」


カズキとハルナは、どうしてもカナメロに協力して欲しい様だ。

ここまでカナメロに懇願する理由は、ギルドマスターのカナメロ本人が説明してくる。


「関係も何も、私は国際転移者協会の末端理事だし…他の理事達に協力を要請しても、アイツ等は『元冒険者なら、冒険者ギルドで対応しろ』と言ってくるよ…」


国際転移者協会…簡単に説明すると、主に転移者達を管理・支援・保護する国際組織で、カナメロはインデステリア王国北西部冒険者代表の理事である。

そのカナメロ理事に協力を求めに来たのは、国際転移者協会にも情報を流すとともに、カズキ達捜索隊への捜索支援を要請するための取り次ぎも兼ねていた。


「ダメ元でもお願いします…」

「…カナメロさんお願いします!」


遠回しに無駄と言ったカナメロに、カズキとハルナは頭を下げる。

カナメロは頭を掻きながら困った様な顔をしている。


「…父の跡を継いで理事になったけど、私自身の発言力は弱いわ…それでもいいなら、取り次ぐけど…」


カナメロの言葉に、カズキとハルナは顔を見合せ、安堵した表情をする。


「はい、お願いします!」

「ありがとうカナちゃん!」


「…はいはい、お願いされました…」


カナメロは、カズキとハルナの要請を受け入れた。


ちなみにカナメロが言った父とは、カナメロの育ての親であり、血が繋がっていない地球からの転移者だ。

カナメロ本人はラトゥール生まれのインデステリア人だが、生まれた時から父に育てられたため地球の事は転移者達と同じくらい知っている…


「今日はもう遅いから、ウチに泊まっていけば?父も喜ぶし…ちょとボケてるけど…」


カナメロは陽が沈む街なみを窓から眺めながら言う。

カズキ達は「はい!」と返事をして、カナメロ家にお世話になる様だ。


「また日本の話をしてやってよ…大東亜後の日本の話が好きみたいだしさ…」

「はい、今日は新幹線の話をしようかな〜」

「飛行機の方がいいんじゃない?」


カズキとハルナは、どんな話をしようかと言い合いを始める。

カズキ達が言い合いをはじめて、言葉にだした地球の色々な乗り物や食べ物、建造物の名前を、楽しそうに聞いているカナメロは、父が喜ぶと言いながらも、なんだかかんだ自分も聞くのが楽しみなようだ……



市民区にあるカナメロの自宅は、地球…いや日本で言う日本家屋で、屋敷と言っていいほど趣がある自宅だ。


「お父さ〜ん!ただいまー」

「「おじゃましまーす」」


カナメロとカズキ達は靴を脱ぎ部屋へと上がる。

まずは、居間に居るであろうカナメロの父親に挨拶をするため、居間に向かうと…


「あっ!?またコタツで寝てるの!」


カナメロの父親はコタツに入り横になって寝ていた。

また、と言うことはいつもの事なのだろう…カナメロがコタツから父親を引きずりだす。


「寝せてあげなよ…マルヤマさん可愛そうだし…」

「マルさん起きちゃうよ?」


「いいのよー、ヨシオほら起きて!」


カズキ達はそのままでいいと思ったが、カナメロは引きずり出したマルヤマというご老体を揺すり、無理矢理起こす。

カナメロが呼んだヨシオとは父親であるマルヤマの名前で、本名をヨシオ・マルヤマという。


「…なんだぁ〜、飯かぁ…ん〜」


「寝ぼけてないで、ほらカズキ達が来てくれたよ?」


まだ眠そうなマルヤマの瞼を指で無理矢理開けて、顔をカズキ達に向けさせてながら言うカナメロ、ご老体なの容赦がない…


「おじゃましてますマルヤマさん」

「こんばんは、マルさん♪」


カズキ達がマルヤマに挨拶をすると、寝ぼけていたマルヤマが覚醒したように目を見開く。


「おおぉ、カズキにハルナじゃないか!よく来たな、外は寒かっただろ?コタツに入りなさい…カナ、お茶を入れてくれ…」

「はいはい、入れてくるよ〜」


「はいは一回でよい…」

「は〜い」


カズキ達がコタツに入りながら会話を聞いている。

マルヤマがカナメロに「伸ばすんじゃない、はいだ!」

と叱っているが、カナメロは手をヒラヒラさせらがら、台所へと言ってしまった。


「まったく…おお、すまんなカナがアホウで…」


「い…いえ…」

「気にならないです♪」


カズキとハルナは、マルヤマの謝罪をやんわりとかわす。

台所からカナメロが「お父さんもね〜」と大声で言ってた。


「カナのやつめ、ワシをボケ老人だと思いよって…」


カズキ達にも聞こえるのだ、マルヤマが聞こえないはずがない…


ちなみに、マルヤマがカナメロをカナと呼ぶのは、カナと言うのが本当の名前で、本名はカナ・マルヤマと言う。カナメロは冒険者の時だけの名称だ…





「…ほう、あのケイタがの〜、う〜ん…」


カナメロがお茶を持ってきて、カズキ達はマルヤマに事の経緯を話していた。

話しを聞いたマルヤマは、少し残念そうな表情でうつ向きながら唸っている。


「一応カナメロさんに、協会に取り次いでもらうので…」

「ダメなら、自分達で何とか…」


カズキとハルナは険しい表情のまま、マルヤマに心配をかけまいと言う。

だがマルヤマは、カズキ達の表情から感じとった不安な様子を見て言葉をかける。


「若いのが何を遠慮しておる…ケイタが心配なんだろ?ワシが力になってやろう…」


「ですが――」


カズキが言葉を出そしたところで、マルヤマに手で制される。


「――気にするでない…隠居していても、若い転移者達はワシの息子や娘同然だしの♪」


そうマルヤマはおどけて言ってみせる。

カズキ達の不安は消え去り、カナメロも嬉しそうにしている。

マルヤマは安心したカズキ達を見てから言う。


「なら、アドラスとカネザキ…それにマーニも呼んでおきなさい…」


マルヤマの言葉にカズキ達は申し訳なさそうな顔で答える。


「…すみません、アドラスとマーニは、二日後からギルド講習で…」

「カネザキさんは…ロセに行ってまして…」


「なら仕方がない、ワシも他の者に声をかけておく」

マルヤマは「気にするな」と一声添えて、コタツから出る。


「よいしょ…今日はカレーにするか!」


「はい!」

「やったー!」

「よっちゃんカレー♪」


マルヤマが作るカレーは絶品だ。

カズキ達とカナメロが喜ぶのも無理はない…


何故、ご老人に飯を作らせるのか…それはカナメロに料理をさせると、壊滅的に下手くそなのだ。

育ての親であるマルヤマが匙を投げるほどの腕前なので、マルヤマ家は家長自らが料理をするらしい…


「なら、カズキも手伝ってくれんか?」

「はい!」


マルヤマに手伝いをお願いされたカズキは、マルヤマと共に台所へ向かった。

本来なら女性のハルナが呼ばれるところだが、娘のカナメロが料理が出来ない事と、生粋の日本男子だったマルヤマは、女性と二人きりだと会話が弾まない(娘のカナメロは別)ので、カズキを選んだようだ……



食事ができ、カレーをいただいたカズキ達は、カナメロとハルナがお風呂へ行き、カズキはマルヤマを手伝って後片付けをしている。


「…ケイタは…あれか?」


「…はい、多獣召喚をしてその間に姿を消しました…」


皿を拭いているカズキに訪ねたマルヤマは、神妙な思いで聞いている。


「召喚か…しかも複数体とはの…」


「ありえ…ませんよね……召喚に必要な魔力量が足りてない、そして召喚するための魔方陣には人骨が置いてありました…」


カズキは召喚が成された現場の説明をしているようだ。

マルヤマはカズキの話しを聞き、何かを思いだすように言う。


「たしか…錬金術を合わせた…複合?召喚だったかの」


「はい、人の命と引き換えに魔獣を召喚する禁止魔法です」


皿を拭き終り、カズキとマルヤマは居間に戻りながら話を続ける。


「して、何人もの命が奪われたか…か…」

「推測では20人以上…20体以上の魔獣が召喚された事になり、その内の4体は、捜索隊が討伐しました…」


「ガルデア鉱山跡でか?」

「えぇ…魔獣が鉱山から出る前に討伐できましたが…あれが公都に向かったらと思うとゾッとしますね」


カズキは怒りに似た表情で答え、マルヤマも同じ様な表情で話しを聞いている。


「ケイタが、鉱山から消え去ってからすでに1週間が経過してます…被害は拡大する一方で…」


「しかも白黄樹海に魔獣が集まっているんじゃな?」

マルヤマは南の方角に顔を向けながら言った。

カズキは頷き、マルヤマに願い出る。


「本来なら現役の者が対処するのが道理ですが…鉱山ですでに16名もの冒険者が重症を負い、2名の者が亡くなりました…元S級冒険者たるマルヤマさんに、協力をお願いしたいんです」


カズキの願いに、マルヤマは黙ってカズキの目を見る。

カズキもまた、マルヤマの目を見つめ訴えかける。


「「……」」


二人はにらみ合いとも取れる雰囲気で、一言もしゃべらず暫し時が流れる…

そして、話を切り出したのマルヤマだ。


「…ワシの死に場所が、アイナ様の墓石とはのぉ…まあ、これも運命じゃな!」


そうマルヤマは言い、笑いだした。

カズキは「すみません…」と言ったが、マルヤマは気にせず笑い続ける。

するとそこに、カナメロとハルナがお風呂上がりの格好でやってきた。


「お風呂上がったよー」

「次、お父さん入れば?」


居間へ来るなり、コタツへモゾモゾと入りながら言ってくるカナメロ達、笑っていたマルヤマも「そうじゃの〜」と言いながら立ち上がり、カズキに声をかける。


「背中を流してくれんか?最近、肩が上がらなくての」

「もう歳だよ」


カナメロがマルヤマに対して嫌みを言うが、マルヤマは「やかましい!」と言い、カナメロの頭に拳骨をくれる。


「いったーい!?」


「ははは♪いいですよ、お背中流します」


痛がるカナメロを笑いカズキは了承して、マルヤマとお風呂に向かう。

この後、風呂場でマルヤマの体を見たカズキは、ヒョロい自分の体と歴戦の傷が残るマルヤマの体を見比べて「もっと鍛えないと」と思った……





 1日目の講習が終り、宿に戻って明日の準備をしているシネラ達は、姉妹喧嘩をしていた。


「これ要らないでしょ!」

「必要ですー!?絶対ですー!」


シネラがマリアの背負いの鞄から、枕とぬいぐるみをベッドに投げ捨てる。

マリアは投げ捨てられた猫柄の枕と猫のぬいぐるみを抱き上げてシネラに言い返した。


「シネラ姉とタマも、ブローチを付けているですー!」

「それ関係ないし!」


黙々と明日の準備をしていたタマが、マリアの猫柄枕をひったくって壁に叩きつけながら言う。


「二人だけーーですー!」


マリアは意味不明な言葉を発しながら、シネラとタマに自分の背負い鞄の中身を投げ出す。


「いて!?…止めなさいよ!」

「ちょっ!…なん…もう!いい加減あきらめろよー」

「いやですー!」


鞄の中身が無くなるまで投げつけれたシネラとタマは、途中から朝にやる回避訓練(足さばき)をやり、終わる頃には楽しそうに投げつけられる物を避けていた。


「ムキー!」


投げ終えたマリアは、いつもの口癖を言わないほど悔しがり、地団駄をしてからベッドに飛び込んだ。

それを呆れて見ていたシネラとタマはマリアの投げた物を拾い、マリアの背負い鞄に詰めていく。


「まったくも〜」

「何で本があるんだよ〜」


シネラとタマは、拾いながらも要らない物を分けて文句を言う。

マリアはというと、いつの間にか猫柄枕を回収して顔を押し付けているが、シネラとタマの文句に一々「…いる」と反応してふて腐れている。



「…マリア〜、お風呂に行くよ〜?」


準備と片付けが終わったシネラが、マリアをお風呂に誘いながら体を揺する。

揺すられるマリアは一言「行かない」とだけ言い、猫柄枕に深く顔を埋める。


「いいよシネラ姉〜、二人で行こ〜」


扉を開けて待っていたタマがシネラに声をかけ、シネラは「でも〜」と言いながらマリアを見る。

ユリがいない今は、シネラがお姉さんとして妹の面倒を見なければならない。

マリアも一応成人しているのだが…


「先に行くよ?ちゃんとお風呂入ってね」


シネラはマリアに少し優しく声をかけてから、タマとお風呂へ行ってしまった。

扉が閉まり、マリアはベッドから起きあがると扉を開けて廊下を覗き、シネラ達がお風呂に行った事を確認する。


「バカ猫めーです〜♪」


部屋にあるシネラとタマの背負い鞄をおもむろに開け放ち、何かを詰めだしたマリアは、詰め終わると満足したように着替えをもって部屋を出た。


明日の講習は、シネラの説教から始まる事を、先に教えておくとする……






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