17話:講習1日目、連係攻撃訓練終り
今、地下訓練場は文字どおり泥沼とかしている。
「どうすんだよこれ…」
サザクが訓練場の隅で頭を抱えている。
「まさかダイナが、地竜の血を引いているとは思わなかったわ…」
モニカも隣で驚いている。
何故、訓練場が泥沼と化したのかというと、モニカが言った地竜が関係する。
「じりゅ〜?」
コリスに肩車されたシネラがモニカに訊ねる。
モニカは、一班を救助しているダズルートを眺めながら答える。
「地竜は2万年前に存在した竜種の一種よ。他にも沢山いたけど、今の竜人族の先祖と言われているの…」
「ダイナは地竜が先祖なんだね」
シネラはすぐに知識を吸収する。この体になってから、やたらと記憶力がよくなったようだ。
「あの歳で血魂が覚醒してるのもすごいですね!」
コリスは別の意味で興奮している。
「コリスはまだ覚醒して無いわね?」
「そうなんですよ〜、羨ましいなぁー」
モニカは嫌味を言ったつもりだったが、コリスは気にならないようで羨ましがっている。
シネラは新たな言葉に、耳をピコピコと立てて質問する。
「コリスさんも覚醒するの?」
シネラの質問に、コリスは苦笑いをしながら答える。
「あはは…私はまだ出来ないんだ〜、ソウルバースト(魂の開放)は死線を体験しないと発現しないから…」
「獣人種…亜人種とも言うけど、血魂の覚醒は並みの種族では開放できないわ…勿論、シネラちゃんもね……」
モニカは、コリスの話を途中から引き継ぎ、詳しく話してくれた……
覚醒とは…先祖の力を魂で感じとり、自らの血に力を刻みこみ、潜在能力を爆発的発現させる能力だ。
発現には魂の開放を行い、自身の潜在能力を確認する。
確認するまでは、死線を潜り抜けた者なら簡単だ…
確認したら、その潜在能力を体中に巡らせるため、血の巡りをイメージしながら少しづつ馴染ませていく。
馴染んだらひたすら能力を使い、覚醒させていくらしい…
らしい…とは、モニカ事態が覚醒出来ない人族のため、あやふやな答えになる。
「へぇ〜、ダイナはすごいですね!」
シネラは感心しながら、ダズルートに運ばれてくる一班達を見て言う。
「すごいのは良いの…これじゃ訓練出来ないわ…」
忘れていた訳ではないが、今訓練場は泥沼だ…勿論、直せないことはないが、直せる人物は現在、ダズルートに運ばれてきた屍の中にいるダイナしかいない。
「ダイナが起きるまで待つしかないか…」
サザクはしょうがないとばかりに言うが、モニカはそうではないようだ。
「サザク…リースを呼んできなさい…」
「えっ?リースさんですか!?」
サザクはモニカの命令に嫌な顔をしながら訪ねる。
意外とチャレンジャーなサザクだが、シネラが助け舟を出す。
「それなら、ベスさんに言ってもらったら?」
シネラの発言に、モニカは「…そうね」と言いながら、一班のついでにダズルートに助けられたベスを見る。
「ベス――」
「――やだね〜」
ベスはモニカが名前を言ってからすぐに拒否する。
ベスの態度にイラつくモニカは、ベスにナイフを飛ばす。
「っわ!?あぶねーな!なんだよ!?」
「行け…早く、今…」
モニカの殺気を浴びたベスは、ユリほどではないからか…慌てることはないが、ブツブツと文句を言いながら1階へと続く階段を上がって行った。
「さて……ん?」
モニカが何かを言いかけたが、訓練場の泥沼付近から声が聞こえてきた。
「……すぅ〜………たすぅー………」
「モニカさん!?」
「マリアちゃん?」
気づいたのはシネラとコリスの獣人族特有の聴覚だ。
「忘れてた…ダズルート?」
「あぁ、いま行ってくる…」
モニカは完全に忘れていたらしい、ダズルートは泥を払いながら飛び立って行った。
そしてすぐに、泥まみれの芋虫が運ばれてくるが、ダズルートが誤って足を滑らせ、芋虫が空中から地面に落ちてきた。
「ですーーー!?ばぼぶんっ!!」
幸い、高度は低かったので大事にはならないだろうが、その憐れな芋虫はピクリともしない。
「死んだかしら?」
「…大丈夫、マリアだから」
モニカは芋虫に近づき足蹴する。
その隣で、マリアの拘束を解いているシネラが平然と言った。
「すまん…滑ってしまった…」
ダズルートが降りてきて謝罪をするが、モニカもシネラも「大丈夫」と言うので、ダズルートも安堵した。
「おーい!アドラスさんが起きたよー!」
隅で一班達を治療していたモビナが声を張りながら叫んできた。
モニカはマリアを足蹴するのを止めて、アドラス達の元へ向かう。
シネラは拘束を解く途中だが、泥まみれで苦戦している…めんどうになったシネラはマリアの足を掴み、引きずりながらモニカのあとを追った。
「おえぇ…泥が口に…ペッペッ!」
起きあがったアドラスは、泥まみれの顔を拭いながら口の中にある泥を吐き出している。
「生きてたのね…」
「生きとるわ!」
その様子を見ていたモニカは、アドラスに毒づく。
アドラスはボケ担当のクセに、良いツッコミをかます。
「アドラスさん、大変だったね?」
シネラは芋虫を引きずりながらアドラスに近より労いの言葉を述べる。
アドラスはシネラが引きずる泥芋虫を見て訪ねる。
「ああ、全くだ……それはなんだ?サンドバッグか?」
「え!?マリアだよ?」
アドラスは「これまた…」と呟いて、芋虫になったマリアを憐れんだ。
そんなやり取りをしているが、モニカがアドラスに言う。
「最初の連係はよかったわ…あと攻撃手順も基本通りで良いわね…」
モニカは一班の批評しはじめた…まだタマとダイナは起きてないが、アドラスに言えば伝わるだろうと思ったようだ。
「泥沼が出来る前までは、多少のズレが合ったから…まあ、即席パーティーにしては許容範囲だけどね…ダイナの覚醒は知ってたの?」
「いや、知らなかった…ダイナが『覚醒します!』と、いきなり言うもんだから対応できなかったぞ?」
ダイナの覚醒は、一班の打ち合わせでは言ってなかった様だ…モニカはチラっとダイナを見て、アドラスに指摘する。
「打ち合わせも大事よ?アドラスなら分かるはずよね…それを怠ったのはアドラスの責任になると思うの…違うかしら?」
「…そうだな…すまん…」
アドラスは、泥だらけの髪の毛を掻きながら反省する。
D級冒険者への要求が高過ぎると思うが、アドラスが並みの冒険者ならモニカもそこまで言わない…アルバードの相談役として、ギルドによく来るアドラスだからこそ強く当たるのだ。
「分かればいいわ…」
モニカはアドラスから目線を外し、二班と三班を視界に入れて言う。
「たぶん二班、三班は大した連係をとれないわ…一班にはパーティーを指揮出来るアドラスがいたけど、あなた達は誰が指揮するのかしら?…あと、自分達の攻撃手順や使える魔法を打ち合わせしたらどうなの?ただ突っ立てるだけなら子供でも出来るわ…」
治療魔法を施しているモビナはともかくも、他の受講者はモニカの言う通り、ただ突っ立ていた…言われて当然の事に、二班、三班は慌てて打ち合わせをはじめた。
マリアはヒーテが連れて行き、シネラは二班に合流して話し合う。
「ブルームは後ろから援護かな?」
「そうしよう、シネラが前衛で…」
「わたしはブルームの守り!」
二班はブルームが指揮をとり、モビナが遊撃、シネラ前衛の布陣をとる。
「僕は雷以外の基本属性を使える。シネラとモビナは?」
「わたしは風だけ!」
「…私…まだ、なにも…」
ブルームは魔法の有無を聞くが、モビナは風魔法を使え、シネラは…本当は使える魔法があるが自身が無いようだ。
「シネラ、魔剣は使えるね?」
ブルームはシネラの様子を見て何かを感じとり、シネラが腰に付けている双剣を指さしながら聞いてきた。
シネラはギクリとするが、正直に答える。
「あの〜…まだうまく纏えなくて…」
「属性は?」
グイグイくるブルームにシネラはムッとするが、一班の件があるので、仕方なく答える。
「…雷、魔法…」
「雷!?」
「スゴいじゃん!」
ブルームとモビナは驚いているが、シネラはワタワタしながら話しを続ける。
「で…でも、片方の刀身しか纏えなくて!…使っても2秒しかもたないの…」
「…2秒でも大したもんだよ…爆雷様に教えてもらったのか?」
シネラは素直に頷く、ブルームは雷魔法を覚えたくて、マリアに願い出たほどユリ信者の様だ。
「羨ましいな…威力はどのくらいだ?」
「並みの冒険者なら、感電させて動きを止められるくらい…」
シネラの説明を聞いたブルームは、モビナとシネラを交互に見てから作戦を思いつく。
「なら、僕が……」
二班の作戦が決まった。あとは泥沼が直り、訓練が再開されるのを待つのみ……
「はい、これでいいかしら?」
ベスが呼んだリースが、土魔法で訓練場を直してくれた。
呼びに行ったベスはここにはいないらしい、たぶん女性を追い回しているなだろう…
「助かるわ…そうだ、今からシネラちゃんの班が訓練するから、見ていきなさいよ」
「そうなんだ…研究があるから帰るわ、ごめんなさい…」
モニカはリースに断られ「そう…」と呟く、リースはこれでも忙しい身だ…引き留める訳にはいかない。
「それじゃ、シネラちゃんも頑張っね!」
「ありがとうございます。リースさん♪」
リースに声をかけられ、シネラはお礼を言いながらリースを見送った。
「さてとー…二班は前へ!準備は出来てるな?」
「「「はい!」」」
モニカの号令に、二班は準備万端とばかりに返事をする。
威勢の良い返事に、モニカはニヤリと笑った。
「訓練開始よ、ダズルート!」
「さぁ、こい!」
モニカの合図で訓練がはじまった。
「モビナ!」
「まっかせなさーい!」
ブルームの指示にモビナが反応する。
「風の精霊よ、我が身に宿りし魔力を与える、その対価に力を差し出せ…掻き乱せ…ウェザブロス!」
モビナは精霊魔法と風魔法の混合魔法を放つ。
訓練場は暴風に見舞われる。
「ぐ…これでは飛べん!?」
暴風でダズルートが空中へ飛べずにいる。
すかさずブルームが魔法を放つ。
「土魔法…クリエイト!」
ブルームは二班の前からダズルートまでの間に、通路状の壁を二本造り上げる。
「行けるよモビナ!」
「よっしゃー!いっちゃえー!!」
壁の間はシネラが通れるくらいの隙間しかない。
そこをシネラは駆けながらモビナに指示し、モビナはシネラの後方から強い風を送った。
背中に風を受け、シネラは加速する…いや、飛ばされていく。
「…3、2、1、今…弐ノ型、舞桜!」
シネラはダズルートめがけて双剣術を放つ。
だがダズルートは、それを難なく受け止める。
「ふん!残念だったな…」
「……纏え…」
双剣を止められたシネラは、受け止められたままの体勢で、左手の魔剣を発動させる。
「…ボルトスタック!」
「魔剣か!?ぐあぁ!」
ダズルートが魔剣に気づいたが遅すぎたようだ…シネラの魔剣に帯びた雷魔法はダズルートに流れ、感電させる。
「シネラ!離脱!!」
「うん!」
ブルームはシネラに指示しながらも、自ら造りあげた壁を魔法で作り替える。
「ロア・クリエイト!…クリエイト!」
ブルームはダズルートの後ろに壁を作ると、その壁を自分達にむけてうごかす。
「体が…がっ!?壁が…」
ダズルートは感電していて身動きがとれない…壁に持たれかかるようにして二班の元へ近づいていく。
「シネラ!モビナ!…カウント!!」
「いつでもー!」
「いける!」
ブルームは壁を消すタイミングを数える。
シネラとモビナは、向かってくるダズルートを迎撃する構えをとる。
「5…2、1、ロア・クリエイト!」
「飛んでけーー!」
「壱ノ型、桜道!」
「そこまで!」
シネラとモビナがダズルートに斬りかかる一歩手前で、モニカから待ったがかかる。
「ダズルート…早すぎじゃない?」
モニカはダズルートに冷ややかな目線を送る。
「いや…まさか雷魔法がくるとは――」
「――言い訳はいいわ」
ダズルートは感電しながら弁解するが、モニカは言い訳の一言として言葉を切る。
「…二班」
「「「はい!?」」」
モニカはシネラ達に近づきながら声をかける。
「全てがよかったわ…作戦も上々、相手の動きを止める事に着目したのがいいわね…」
「やたー!」
「やったね!」
「よし!」
モニカに褒められ喜ぶシネラ達、だがモニカは褒めるだけではない。
「でも爪があまいわね…シネラちゃんがダズルートを感電させた時モビナが追撃してたら、もう一手早く決着が着いたはずよ?」
「「「……」」」
モニカの指摘にぐうの音も出ないシネラ達に、モニカはさらに続ける。
「それにクリエイトだけど、壊される事もあるわ…あれじゃ土壁よ、造るならもっと頑丈にしなさい…」
「…はい、すみません…」
ブルームは素早く壁を造るために、岩でわなく土で作ったことがバレたようだ。
「精霊魔法は詠唱が長すぎるわ…ダズルートが待ってくれたから出来たと思いなさい…」
「は〜い…」
モビナには長い詠唱で隙が出来る事を指摘したモニカは、最後にシネラと向かい合う。
「……」
「……」
モニカはシネラと向かい合うが何も言わない…
すると突然しゃがみこみ、シネラの頭を撫でた。
「…ユリさんに感謝ね♪」
モニカは一言だけ言うと立ち上がり、シネラに笑顔を向けた。
「…!?、うん!」
それをシネラは褒め言葉と理解して、モニカの笑顔に頷き返す。
モニカは意外とシネラにあまい…セーラの情報だが、ユリの次に好きなのがシネラらしい…
その後、モニカはダズルートに説教をしてから「三班は私とよ!」と言いながら、訓練が再開された。
三班は、拘束が取れないマリアを身代りとして使い訓練を開始するが…ものの10秒で全滅したので割愛する……
講習1日目終了です。
次話は、受講者(登場人物)と各内容の説明をします。
※詳しく説明する物と、言葉を濁した説明をする物があります。




