16話:講習1日目、連係攻撃訓練
午後の座学は『魔獣と猛獣の特性』からはじまった。
これをコリスが説明をしたが、アドラスに色々と突っ込まれ、あえなくアドラスと説明を交代して進められていた。
「――魔獣の魔石だか……おっ?起きたな…」
アドラスは説明の途中だが、シネラが目を擦っているのが目に入り、一時中断する。
シネラはダイナの腕の中で小さく欠伸をしながら目を開けた。
「ふぁ〜…あれ?」
「お…おはよう…」
周りを見渡しているシネラに、ダイナが声をかける。
シネラは「あわわ!」と驚いて慌てる。
「ごめん!?寝ちゃってた!」
「…大丈夫…可愛かった…」
慌てるシネラを床に降ろしながら言うダイナだが、シネラが起きるまでずっと顔を真っ赤にしながら抱いていたのだ。
時折、アドラスにからかわれながらも、シネラのぬくもりを堪能していた。
「ど…どうも…」
可愛いと言われて恥ずかしがるシネラはダイナから離れ、タマの隣へ行き席に着いた。
「おはようシネラ、とりあえず交代だ!」
「へ?」
寝起きのシネラに、アドラスが手招きをしながら前へ来るようにに促す。
「私、どこまでやってるか解らないよ?」
シネラはやりたくないオーラを出しながらアドラスに言うが、アドラスは「大丈夫、大丈夫♪」と言うだけで、再度シネラを手招きする。
「…もう」
仕方なくアドラスの元へ行くシネラだが、結構怒った顔をしている。
まあ、周りから見たら怒った顔をも可愛いのだが…
「今は魔獣の弱点、魔石の話を――」
「――えっ?魔石が弱点なの!」
「「えっ!?」」
アドラスが引き継ぎをしようと説明しだすが、シネラは知らなかった事を言われて驚く。
何故か教官二人も驚いている。
「知らなかったのか?」
「…うん、ユリさんにはまだ習って無い…」
アドラスは確めるようにシネラに聞くが、シネラは本当に知らないのだ。
マリアとタマも、シネラの言葉に同意している。
「…そ…そうか、なら俺がそのままやろう。悪かったな…」
「…うん、ごめんなさい…」
アドラスはシネラに期待し過ぎたのか、申し訳なさそうに席に戻るシネラを見て、自分の愚かさを感じた。
教官二人も壁際で反省する。
「…よし、続けるぞ!魔石は硬度が高い、だが弱点がある…それは〜」
気をとりなおして説明を再開するアドラスは、小さな魔石取り出す。
「魔石に魔法をぶつける…それも魔獣の弱点となる属性でなくてはならない!」
「弱点?属性?」
シネラが疑問に思う…この世界に来てから、まだ知らないことが沢山あるのだ…
アドラスは頷きながら説明を続ける。
「そうだ、属性とは基本属性と特殊属性がある」
アドラスは黒板に属性を書きはじめた。
「基本属性は、火、水、雷、土、それに風の5つだが…雷は特殊属性に属するとも言われている」
黒板には5属性が円を描くように配置されて描かれる。
「火は水に弱く、水は雷、雷は土、土は風、風は火に弱い…」
シネラは安部なんちゃらを思い出すが、口には出さない。
アドラスはチラチラとシネラを見ているが、シネラはポーカーフェイスを貫いている。
「…次に、特殊属性だが…まずはさっき言った雷だ。なぜ雷が特殊属性に入るのか、それは古代魔法になるからだ」
アドラスは特殊属性と書いてある下に、古代魔法と書き込む。
特殊属性と古代魔法は同種のようだ。
「古代魔法とは、神々が使った魔法の事を指す。その古代魔法は…」
アドラスは黒板に7つの属性魔法を書き込む。
「…光、闇、雷、真理、結界、時空、再生の7属性が古代魔法であり、特殊属性になる…」
7つの属性のうち、闇と雷を丸で囲むとアドラスは言う。
「魔獣で確認されている属性は、基本属性と闇だけになる。闇の弱点は光だが…まあ、この魔法を使えるのは光神様くらいだな…」
「他の特殊属性の弱点は?」
シネラは気になる属性を聞くが、アドラスは解らないらしい。
「他のは弱点すら解らない…真理、結界、時空、再生は解らない事だらけだ、だが再生は身近にあるぞ?」
「身近?」
アドラスはモビナを指さしながらシネラに言う。
シネラは後ろを振り向きモビナを見つめる。
「治癒又は治療か…治療魔法は再生魔法の一端だな…ちなみに、文献での再生魔法は死者をも蘇らせたそうだ。今の神聖ミナルディ皇国の創造神とも言われているぞ?」
「そうなんだぁ」
シネラはモビナを見つめるながら関心している。
モビナは「すごいの?」と首を傾げるだけだが、アドラスの説明が、あまり解ってないようだ。
「まぁ、そう言う事だ…話がずれたな…それで弱点をつくが、それでも倒せない場合がある。その時は…」
「「「…その時は?」」」
シネラ、トット、タマが同時に聞く、興味が湧くと食いついてしまう種族性がそうさせるのだろう…壁際でコリスが「可愛いー!」と叫んでいる。
「……あ…ああ、その時は魔石を物理的に破壊するか、無理なら逃げるしかない…それだけ魔獣は危険な生物だ。解ったな?」
「「「は〜い!」」」
猫3人が元気よく返事をする。
またコリスが何かを叫んだが、皆が気にしないように無視した。
「さてと、次はどうするんた?」
「地下訓練場に来なさい…」
やりきったとばかりにアドラスは聞くが、答えたのはサザクでもなくコリスでもなく、なんと!モニカが部屋の後ろから入ってきていた
「モニカさん!?」
「うぇ〜です〜」
シネラは普通に驚いたが、マリアは露骨に嫌な顔をする。
モニカはスルスルと椅子の間をすり抜けマリアの前までくると、マリア頭に手を乗せながら言う。
「今から連係攻撃訓練を行います。速やかに訓練場に移動しなさい…」
「ですー!頭〜あたまです〜!?たす――」
モニカはマリアの頭をギシギシと握りながら、受講者達を睨みつける。
冷血の受付嬢(マリアが勝手に呼んでいる)と呼ばれるモニカはマリアを引き連れながら部屋を出ていった。
「…何あれ?」
「え〜と…たぶん禊だと思う…」
事情を知らないトットがシネラに訊ねる。
シネラは苦い顔をしながら答えた。
「マリアはなんかしたの〜?」
モビナは興味津々な様子で、モニカが出ていった扉を見つめている。
大体の冒険者は解るはずだが、一応タマが説明する。
「最近、モニカさんが『冷血の受付嬢』って呼ばれてるでしょ?」
タマの言葉に皆が頷く、タマは続けてこう言った。
「広めたのはマリアで…呼び名を考えたのもマリアなんだぁ…」
皆が「なるほど」と呟く、そこでサザクが提案してきた。
「5分だけ遅く行こう…」
その言葉に皆は黙って従い、マリアの冥福を祈った……
5分以上経ってから地下訓練場に行くと、マリアは頭だけを出して首から下は地面に埋まっていた。
「大丈夫?」
「……」
シネラが近づき声をかけるが、マリアはふて腐れており何も喋らない。
マリアを埋めたモニカはというと、訓練場の片隅で他の先輩冒険者達と打ち合わせをしているようだ。
「…お前達はマリアを引きずり出して、ここで待機しててくれ。俺とコリスはモニカさんの所に行ってくる…」
サザクとコリスはモニカの元へ行ってしまった。
残されたシネラ達は、マリアを眺めて観察している。
「めっちゃウケる…」
「ヤバイな」
「はじめて見た光景だよ」
男性陣は各々の感想を述べるが、助けようとはしない…
一方で女性陣はというと…
「周りを掘れば…」
「首を引っ張って」
「もげるかも?」
「シネラ姉の怪力でー」
「それこそ首が取れちゃうよ!?」
一応、助けようと話し合っているようだ。
埋まっているマリアは、何だか悟りを開いたような顔をしている。
「よし!」
「やっちゃえー!」
最終的に、シネラが引っ張る事になった。
タマはシネラの横で応援している。
「行くよー!……せい!」
シネラが勢いよくマリアの頭を引っ張ったが、勢い余ってそのまま尻餅をついてしまった。
「いで!?……ぃたた〜」
「えー!?」
「うわ〜」
「おいおい」
まさかの事態なのか、タマが驚き、ヒーテが若干引いていて、アドラスは何故か呆れていた。
シネラは手に残る感触を目で確める。
「マリアの顔がー!?」
「…シネラ姉、それマスクだよ…」
シネラは「え?」となりながら、マリアマスクを引っ張って確める。そして叩きつけた。
「もう!脅かさないでよ。じゃぁ埋まってる人はだれ?」
「…あれ」
タマが悲しそうな顔を向けながら、埋まっている者へ指を指す。
「…ベス…さん?」
「……ふん!」
シネラに名前を呼ばれ、目線も合ったはずなのだが、地面に埋まっているベスはそっぽを向く。
「どうせ、また女絡みでモニカに制裁を食らったんだろう…」
アドラスがこの状況を説明してくれた。
他の受講者達も納得した表情になる。
だが、マリアは何処へ行ったのかが解らない…それは訓練が始まってから解るはずだ。
「おーい、マリアは助けって……ベス!?」
サザクがモニカの所から戻ってきたが、埋まっているベスに気づいて驚いている。
「…何も言うな…解ってる、解っているんだ…」
やっと言葉を発したが、ベスは自問自答しながらカッコつけている。
サザクも何かを察し、ベスを呆れ顔で眺めた。
するとタマがベスの頭に手を乗せてから言った。
「師匠……楽しい?」
「楽しくないわ!!」
楽しいはずが無い、ベスをからかったタマは大いに笑い、ベスは頭に乗っているタマの手を噛もうともがくが、サザクの後ろを、後から付いてきたモニカがベスの頭を踏みつける。
「この!?がー!ぐぶゅふん!?」
「うるさい…ほら、はじめるから並びなさい…」
ベスの顔が半分埋まる様を見せつけられた受講者達はすぐさま整列する。
整列したところで、シネラがモニカに聞いた。
「あの〜、マリアは…」
「マリア?…あぁ、マリアは後から合流するわ…」
マリアは無事なようだ。
シネラはホッとしたが、モニカは顔をにやけさせながら続けてこう言った。
「…的役でね」
「「…さいですか…」」
シネラとタマは知ってる…と言うより、毎朝見ているので納得したようだ。
他の受講者達は訳が解らない様子だが、ここで無駄口を叩いたらモニカに怒られてしまうので、それ以上シネラとタマは黙るしかない。
「サザク、振り分けを…」
「はひぃ!」
少し楽しそうなモニカは、サザクに指示を出した。
サザクは変な返事を返しながら、訓練パーティーの振り分けはじめる。
「アドラスとダイナとマリが一班、ブルームとシネラとモビナが二班、ヒーテとトットそれからマリアが三班で訓練をする。三班が終了したら編成を替えるからな…」
「返事は?」
「「「はい!?」」」
サザクの説明を聞いた受講者達に、モニカの流儀が炸裂する。
挨拶にやたら厳しいモニカは、誰であろうと指摘するのだ…
受講者達もびびりながら返事を返す…皆、ベスやマリアには成りたくないのだ。
「では、連係攻撃訓練を開始する。一班は打ち合わせだ…終わったら前に出ろ…」
モニカの指示に打ち合わせをする一班達。
連係攻撃訓練とは、魔獣や猛獣が1対して、多人数で攻撃する事を指す。
「アドラス、打ち合わせは済んだか?」
「バッチリだ!」
前に出てきた一班は前衛2の後衛1の布陣だ。
「全力で行け…ダズルート!」
モニカの合図で訓練が始まる…
魔獣役はB級冒険者のダズルートだ。
「俺が撃ち落とす!マリア、ダイナ、援護しろ!」
「ですー!」
「了解!」
マリアとダイナはアドラスを守る様に囲い、ダズルートの銃撃を跳ね返す。
アドラスもダズルートと同じく銃を扱うので、守られながら応戦した。
「ちっ…速いな…」
「どうするですー!?」
「私が…やる!」
訓練場を自由に飛び回るダズルートを捉えられず苛立つアドラスだが、ダイナが数歩ほど離れ槍を地面に突き刺す。
「土魔法、ロックレイン!」
ダイナは地面にから土の塊を大量にダズルートへ飛ばす。
「ぐわっ!」
ダズルートはダイナの攻撃をかわしきれず高度をさげた。
「今だ、マリ!」
「任せて!…うおりゃー!」
アドラスの指示にタマが姿勢を崩したダズルートに跳躍する。
「!?あまいっ!」
だがダズルートもB級冒険者だ、タマが来る前に体勢を立て直す。
「わっ!?」
体勢を立て直したダズルートにタマが突っ込むが、ダズルートが放つ羽の突風で威力を殺される。
「惜しかったな…うおらっ!」
「なっ!?」
マリはダズルートに捕まり、地面に叩きつけられる。
「よくやった!…ショット!!」
アドラスはダズルートの隙を見逃さない、タマの突撃はこの時の布石だった。
「なに!……なんてな…」
アドラスが放った弾は弾道を変えて天井に当り爆発した。
「…マジかよ…」
「…そんな…」
端から見ても完璧に捉えられた攻撃だった。
打つ手なしの一班にモニカが声をかける。
「終わりか?…まだダズルートは生きてるぞ…死にたいのか?」
モニカなりの檄だろうが、一班はただ立ち竦むだけで動かない。
一班以外も同じ気持ちだろう…「こんなの無理じゃね?」と…
「ほら、早く」
「そうだぞ、本来なら魔獣は待ってくれないからな…」
モニカは一班を急かす。
空中にいるダズルートも次の攻撃を待っている。
「どうする?」
「アドラス…さん…」
アドラスは考える…だが答えは出ない。
「とりあえず、特攻だ!」
「行くよー!」
「了解!」
なに振り構わずダズルートに特攻した一班は、なす統べなく攻撃をかわされる。
一班の懸命もむなしく、屍が出来るのはもうすぐだ……




