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15話:講習1日目、正午

 正午前…シネラが臨時教官として教えた後をコリスが引き継ぎ、白黄樹海の詳しい特性を説明して、午前の座学は終了となった。

とりあえずサザク教官が「飯に行け!」と言うので、シネラ達は冒険者ギルドの隣にあるゴメンナスッ亭に向かう。


「…ダイナ、一緒いかない?」


ダイナに声をかけたシネラは、ダイナの手を掴みま「いかない?」と上目づかいで言う。

勿論ダイナはキュンとしたに違いない、首を縦に激しく振り誘いにのる。


「あ…ありが…と…」


「行こ♪」

「です〜」

「でーす!」


ちなみにマリアはモビナを、タマはトットを誘ってきた。

他の男性陣は、アドラスに無理矢理どこかへ連れてかれてしまった…




女性陣がゴメンナスッ亭に着くと、いつも元気な女性店員のミィが迎えてくれた。


「いらっしゃいませ〜、あっ!にゃーにゃん達じゃん!」


「ミィさん、にゃーにゃんは止めてよぅ…」


にゃー…まあシネラのことである。

ミィはよく聞こえるはずの耳を持っているのだが、シネラの言葉をスルーして女性陣をテーブルに案内する。


「にゃーにゃん、決まったら呼んでね〜」


「だから!……あのウサギめー」


シネラが止めさせようとするが、ミィはピョンピョンと他の客のところへ行ってしまった。

ちなみにミィは兎人族だ…


「にゃーにゃん?」


モビナが不思議そうに訊ねてくる。

シネラはカリナの娘、アリナに呼ばれるあだ名だと答えた。


「マリアはみゃーにゃんです〜♪」


「「「……」」」


誰もマリアに聞いていないので、軽くスルーされる。

にゃんにゃ…タマにもあだ名があるが、空気を読んで、メニューを読み上げる。

トットは人語が読めない、タマは意外と気が利く猫なのだ。


「これがオススメだよ!サゼの味噌煮〜♪」


「サゼ!?大好物だよ、それにするー!」


オススメをトットに勧めたら大好物だったようだ、サゼは地球でいうサバと似ている魚だ…

モビナやダイナも、シネラやマリアにオススメを聞いて注文が決まった。


「ミィ〜ミィ〜」


タマが店員のミィを呼ぶ。ミィはすぐにやって来た。


「サゼの味噌煮とガルポーのステーキ、チャリス玉子増しに、にゃん達はいつものだね♪」


まだ何も言ってないのに全ての注文を言い当てる。

にゃん達(シネラ達)以外の3人は少し驚いていたが、シネラはいつも通りという感じで答える。


「うん、あとにゃん――」

「――了解〜♪」


ミィは、また素早くピョンピョンと離れていった。

悔しがるシネラをタマが「まあまあ…」となだめる。


「か…かわいい、あだ名だと…思う…」


「…ありがとう、ダイナ」


悔しがるシネラに口下手のダイナが言う。

シネラも可愛いなら仕方がないと思い礼を言う。


「ダイナさんて、かわいいのが好きなの?」


ダイナに質問したのはタマだ、さん付けなのはタマが年下だからである。

この中では、シネラとダイナとトットが同い年、マリアとタマとモビナが同い年になる。


「い…いや、まぁ…かわいいのは、好きだ…」


しどろもどろになりながら答えるダイナ…顔が真っ赤になっている。

トットはすかさず茶々をいれる。


「ダイナはかわいい物を集めるのが趣味なんだよー♪あと、小さい子どもが大好きだよねぇ」


「よ…余計な…えと、その…」


クールな顔に似合わず、かわいい物が大好きなダイナは、さらに顔が真っ赤になり目を回している。

トットとダイナは同じパーティーに属しており、何でも知っている仲のようだ。


「小さい…失礼だよ……シネラ…ごめん…」


何故かシネラに謝るダイナ、シネラはその意味に気づいたが「大丈夫♪」と気にしてないように言う。


「モビナも小さいですー」


小さい、に反応しマリアがモビナを持ちながらシネラの隣にやって来る。

モビナもやる気満々でシネラに向き合った。


「どっちの背が高いか、です〜!」

「勝負ー!」


「え〜」


めんどくさそうにするシネラだが、意外とやる気なようで、椅子から降りてモビナと背中合わせになる。


「むむ〜、はいですー!」


マリアの測定が終わったようだ。


「勝者!モビナ〜ですー!」

「なっ!?」

「やー♪」


残念ながら、シネラが一番背が低いことが確定した。

シネラはやり直しを要求するが、シネラ以外の者は、どう見てもモビナの方が高いので要求が認められない。

不機嫌になるシネラをよそに、各々の料理が運ばれてくる。

皆が食べはじめ、料理に下を包みながら、昼食の段落は進む…タマがシネラをなだめながら……





サザクとコリスは、冒険者ギルドのギルドマスター室で昼食を兼ねた、報告会をしている。


「恐らく、転生体かと…」

「知識量も並みの転移者と同等…いや、それ以上です…」


アルバードは、二人からの報告を聞いて「…そうか」と呟く、そんなアルバードに、サザクが補足するように言う。


「アドラスさんも、『ミルの単位は地球で使われる単位だ、しかも軍属だろう』と言ってました…」


「…なるほどな、アドラスが言うからには間違い無いな…しかし転生体か、文献を調べてもそんな人物なぞ聞かないのだかな…どうしたものか…」


アルバードは、シネラの素性を調べても何も形跡が無く、転移者と同じか、本当に記憶喪失なのか、または他の何かを探っていた。


「…体と魂の年齢、小猫という未種族…稀にみる頭の良さ、知識量…あの体での怪力はドワーフ並み…か……」


「転生なんておとぎ話だと思いましたが、シネラを見てると、本当にあるのではと思うようになって来ましたよ」


ブツブツと呟くアルバードに、サザクが感じたことを述べる。

コリスも隣で頷きながら同意する。


「ユリにも聞いたが…転生体には会ったことが無いそうだ…可能性が無いわけでは無いが、転移者達は独自にコミュニティを持っているらしい、そこから探ってみるそうだ」


「カズキくんも転移者ですよね?」


コリスがカズキの名前を出すが、アルバードは首を横に振りながら言う。


「カズキは違う依頼がある…機密事項だ、察してくれ…」


「はい…」


コリスは淋しそうに頷く。


「さて、報告は以上か?ならそろそろ午後の準備に行け…あとアドラスにこれを…」


アルバードはサザクに手紙を渡した。

サザクも手紙を受け取り、懐に仕舞いながらコリスと一緒に退室していった。

自室に残ったアルバードは、分厚い文献を読む。


「…転生、神……セビスマスタか…転移者も、ツラい運命を背負わされたもんだな…」


アルバードは、天を仰ぎながら呟くのであった……





堕落の酒場と呼ばれるこの店には、ちゃんとした名前がある。それは『サリーの憩』と言う店名だ。

昼間からお酒を提供してくれるお店だが、今いるお客達は紅茶をのんでいる。


「…マーニ、何かしゃべっくれ…」


「……」


マーニという男性に話しかけるのはマサアキだ。

しかしマーニはいっこうに口を開かない。


「マーニ、それで教官が務まりますか?さっさと報告しなさい」


マーニに冷たく言う女性はユリで、紅茶を飲みながらマーニを睨みつける。


「まあまあ、マーニちゃんもお年頃だから恥ずかしいのよ…」


「お黙りなさいサリー、報告が出来ない事と人見知りは関係ありません」


店主のサリーに一喝するユリは、マーニに向き直り「早く」と言いながら催促する。

マーニの隣に座るマサアキも半ば呆れて、その様子を見守っているだけだ。


「…ぼそ…ぼそ……」


「何ですか?」


やっとマーニが口を開くが、声が小さくて聞こえない。

ユリはイラつきながら聞き返す。


「…ぼそ…かみ…ぼそぼそ…」


「…だから?」


ぼそぼそと言いながら紙をテーブルに出すマーニだが、ユリはハッキリと言わない態度に紙をつき返す。

紙を返されたマーニは涙目だ、すかさずマサアキがフォローに入る。


「か…紙を読んでって事だな!?よし、俺が読んでやる!」


「……」

「…ちっ…」


黙って頷くマーニと、マーニが気にくわないユリは舌打ちをする。

そんな雰囲気の中、マサアキは紙に書いてある事を読み上げる。


「なになに、『現在、白黄樹海は活性化しており、ユリさんの言っていた結界も封印が解かれていた。

また、白黄樹海周辺の魔獣も数体確認している。その内訳は、ダークウルフ1体、ダークベモス2体、メードゥー6体、他にも猛獣数十体がいる。

今、Bランクパーティー2組により討伐がなされているが、現時点では安全の確保が望めない。』だとさ…」


マサアキの読み上げた内容を聞いたユリは、しばらく考えてから立ち上がる。


「…行くわ」


「えっ?どこへ…」


ユリは立ち上がると、すぐに店を出ようと入り口へ向かう。

ユリの発言にマサアキが聞き返すが、ユリは扉を開けながら答えた。


「白黄樹海よ」


ユリの言葉にマサアキは項垂れる。しかも自分とマーニも込みの話だからだ。


「…マーニ、行くぞ…」


マサアキに声をかけられたマーニも席を立つ、先に出たユリを追い、魔獣を討伐するために……





食後はなにかと眠くなるものだが、幼児体のシネラはともかくも、同じ猫種のトットとタマが寝ているのは、まあ…種族性が関係しているのだろう…


「…かわいい…」


昼食を終え、冒険者ギルドに戻ってきた女性陣は、教官達がくるまで談笑をしている。

当然ながら、シネラを抱っこするのを交代しながらであるが…今はダイナが抱っこする番だ。


「昼食後のシネラ姉は、半刻は起きないです〜♪」


シネラの頬をつつきながら言うマリアは、そう皆に教える。

当のシネラは、マリアのつつきがウザいのか、手で払いのけた。


「あはは!嫌がられてる〜♪」


モビナが面白そうにやり取りを見ていて「私も〜♪」とシネラの頬をつつきだす。

だが、それはやっては行けないことであった。


「ギャー!?」


「…あーです〜」

「…指、千切れそう…だ…」


モビナの人指し指は、シネラの怪力により握り潰されようとしている。

マリアは忘れてたとばかりに、モビナに説明しだした。


「あまりしつこいと指を握り潰されるですー、起きるまで放さないです〜」


「ちょっ?なんとかしてー!イタタタッ!?」


痛がるモビナに「頑張るです〜」と声をかけるマリア、何を頑張るかは知らないが、モビナは必死に指を抜こうと、もがき続ける。


「ぬーけーなーいー!」


「少し…濡らす…か?」


ダイナが機転を利かせて、水魔法で手の平から水を出す。

シネラの手に少しだけかけてらモビナに言う。


「抜いて…みて…」


「うりゃー!?…抜けたー!」


ダイナのお陰で、なんとか指が握り潰される事を回避したようだ。

モビナは人指し指を撫でながら、自身が持つ治癒力を高める術をかけている。


「パンパンです〜」

「ソーセージ…みたいだ」


マリアとダイナは、モビナの指を見て感想を述べる。

如何にシネラが怪力かを物語るには十分な被害だが、その指はみるみるうちに元の太さに戻る。


「ふう〜、治った〜♪」


「すごーいですー!」


モビナの治癒魔法を見て、マリアが食い入るように指を見ている。

モビナは「普通だよ?」と言いながら、人指し指を曲げ伸ばす。


「妖精族は治癒力が高いからね、自己治癒力って言うんだよ〜」


「いいなーです〜」


モビナの能力を羨ましいがるマリアだが、そこに教官二人が部屋に入ってきた。


「おっ?アドラスさん達はまだか…」


部屋に入りながら、サザクが女性陣しかいないのを確認して呟くが、そのあとからアドラス達が入ってきた。


「時間ピッタリだな!」

「…食べ過ぎた」

「キツい…」


入ってくるなりブルームとヒーテが、苦しそうに口を押さえている。

たぶん、アドラスにたらふく食わされたのだろう…


「集まったな…席に着いてくれ、午後の座学をはじめ……そこの猫を起こしてくれ…」


座学をはじめようとしたサザクだが、トットとタマが窓際の陽当たりの良い場所で丸くなってるのを見つけ、起こすように命じる。

マリアとモビナが起こしにいくが、マリアが「尻尾を引っ張るです〜」と言うので、モビナも一緒にトットの尻尾を引っ張る。


「「にゃー!?」」


猫だからか、叫び声も猫のように鳴きながら飛び起きた。

猫二人は悪態をつきながら席に着つくが、何故かシネラは寝ているので抗議する。


「シネラ姉は!」

「シネラはいいのか!?」


二人の抗議にコリスが答える。


「『シネラちゃんはお昼寝をしないとダメ』とユリさんに言われているから大丈夫なんです。マリちゃんも知ってるでしょ?」


「そうなの?」

「…うん、そうだった…」


コリスの言葉に、トットがタマに訊ねる。

タマは思い出したように肯定した。


「まっ、そう言う事だな!はじめるからちゃんとした姿勢で聞くんだぞ?」


「「はーい」」


サザクは、先ほどまで寝転んでいたトットとタマに釘をさし、二人は軽い感じで返事を返す。

お昼寝中のシネラをよそに、午後の座学がはじまった。


勿論、シネラが起きるまでの座学は、グダクダだった……






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