13話:講習1日目、朝〜
ギルド講習編、はじまります!
※5話投稿後、途中で説明を入れていきます。
『D級冒険者になった者は、D級になった週の翌週から各ギルド支部で行う講習を、4日間受けなければならない。
講習は連続して行うものとし、原則、分割の受講は出来ない。
また、翌週にやむを得ない事情で講習に参加出来ない場合は、3ヶ月以内のうちに講習を受けるものとする。
講習を受けない者は、D級冒険者の資格を剥奪し、降級処分とする。
冒険者ギルド規則・昇級による教育の実施・細目4項抜粋』
冒険者ギルド公都ガルデア支部は、本日からD級冒険者達の講習を行う。
今回の講習には、9名のD級冒険者が集まり、皆が席に着いて講習が始まるのを待っていた。
すると、男女二人の冒険者が中に入ってきた。
「よく来たな!俺はC級のサザクだ。お前達の教育を任された!よろしくな!」
サザクという、いかにも熱血漢という言葉が似合う男性が自己紹介をする。
続けて隣にいた女性も自己紹介をする。
「こんにちは、同じくC級のコリスです。5日間、よろしくお願いしますね♪」
なんと可愛い女性なのだろうか…
男性D級冒険者達はこぞってはやし立て、中には求婚する輩までいる。
「うるさーい!」
一番前の席に座る白い髪の少女が、渇をいれる。
少女は怒りながら、求婚を申し出たD級冒険者の元に向かい、耳を引っ張る。
「いでででっ!?」
「…アドラスさん、席に戻って…」
耳を引っ張られた求婚者はアドラスだ。
アドラスは痛がりながら謝罪する。
「ソ…ソーリーシネラ…いででっ!せ…席に戻るよ…」
「そうしてください」
シネラは、冷たい目を向けながらアドラスを促す。
アドラスは耳を押さえながら、席へと戻っていった。
「バカだね〜」
「シネラ姉のツネリは痛いです〜」
タマとマリアも呆れながら、席に戻っていくアドラスを見ている。
何故、シネラ達がここに居るのか。
それは、彼女達が昇級資格に達して、D級にあがったからだ。
あまりにも早すぎる昇級だが、治療院の件の功績も相俟って、昇級条件は十分あったのだ。
その昇級条件とは…
依頼件数を計200件、その内、討伐・護衛依頼を10件と副ギルドマスター以上の昇級許可が必要となる。
それと、貴族からの依頼・突発的に行うC級以上の依頼を達成すると、ギルドマスター推薦があれば、昇級出来る。
シネラ達は後者だ。
バルボネ男爵からの依頼と、治療院の事案はC級依頼として受理され、これをシネラ達は達成したのだ。
だが、あれから3週間目となるのに、今、なぜ講習を受けているのかというと、ユリがアルバードに待ったをかけたのである。
ユリは『まだ護衛依頼と討伐依頼をしていません。最低でも5件づつ依頼を達成してからにします』と、アルバードの推薦を保留にした。
シネラ達もそれに従い、5件づつ達成してから、先週末に昇級したのだ。
さて、なぜアドラスがいるのかと言うと…
「アドラスさん、今回の講習を逃すと、またE級からになりますよ?」
求婚されたコリスは、ニコニコと笑いながら話す。
アドラスはごめんなさいのポーズで謝罪した。
「すみませんでした!」
「3ヶ月以内ですから、言動にも気をつけるようにしてください♪」
コリスは茶目っ気たっぷりに脅しにかかる。
再度男性冒険者達が興奮するが、シネラの睨みですぐに静かになった。
コリスの言った通りだが、アドラスは昇級後の講習を受けておらず。
今日、やっと講習を受けにきたのだ。
今まで何をやっていたのかは、アルバードが知っている……
そんなアドラスも含め講習が始まるが、先ず自己紹介からとサザクが言うので、各々が自己紹介をはじめた。
「アドラスだ!」
アドラスはそれだけ言い席に座る。
以外にも有名人なアドラスは、この講習に来ている冒険者達も知っているようだ。
「ブルームです。攻撃魔法と支援魔法が得意です。」
ブルームという男性は魔法士のようで、手には杖が握られている。
「ダイナ…槍剣士だ、よろしくな…」
ダイナは女性で、竜人族のようだ。
尻尾を左右に揺らしている。
「トットだよ!お魚が好きかな〜♪」
好きな食べ物は聞いていないが、トットは女性でタマと同じ猫人族である。
得物はなんと!大剣を扱うようだ。
「ヒーテです。サザク兄さんと同じ銃剣士です。よろしくお願いします」
ヒーテ少年はサザク教官の弟のようだ。
同じと言うことは、サザクも銃剣士となる。
性格はまったく正反対とみる。
「モビナ!剣士!好きな食べ物は…全部!」
元気に自己紹介をする、ちんまりした少女のモビナは、エルフ族と人族と妖精族のクウォーターらしい…本当にかどうかは不明だ。
一応、背中には妖精族のような羽があるが、飛べないらしい。
そして、シネラ達の自己紹介の番になる。
「マリです!拳闘士!よろしく!」
タマはいつも通り、元気に自己紹介をする。
「シネラです。剣士です。よろしくお願いします」
シネラは普通に自己紹介をする。
本当は魔剣士だが、まだ見習いなので魔を含めずに言った。
「マリアですー!剣士ですー!そのうち魔剣士になるですー!」
貴族上がりの見栄っ張りなお嬢様は、剣士見習いのくせに大それた事を言う。
その発言にシネラは沈黙し、タマは「アホだ…」と呟いた。
パンパン!
コリスが手を叩き、前の方へ注目させる。
注目させたのは良いが、何故か教官二人は話す気がない。
少しざわめいたが、3分後に静かになった。
「はいっ!静かになるまで3分かかりました」
コリスはなんだか、どこぞの先生が言いそうな言葉を言っている。
それを聞いたD級冒険者達は、どうしたらよいのかと困った顔をしている。
「なな…なんでもない!忘れて忘れて!」
発言者のコリスは、鉄板ネタが受けなかったのが恥ずかしくなり、顔を真っ赤にして言った。
あまりにも可愛そうなコリスに、優しいシネラは突っ込みを入れた。
「避難訓練か!…ですよね?」
シネラの突っ込みに周りは驚くが、コリスは助かったとばかりにシネラに駆け寄る。
「だよね!?だよね!私、間違ってないよね!」
「うっ…まあ、間違ってないけど…誰から教えてもらったの?」
シネラは、すでに犯人を知っているが、あえて聞く。
「…あの人」
コリスは犯人に向かって指を指す。
指の先には、アドラスが噴き出すのを我慢しながら、肩を揺らしている。
マサアキが『アドラスは日本通で、お笑いが大好きだったらしい…』と、シネラは聞いていた。
シネラはムッとしながらアドラスに言う。
「…アドラスさん、女性に恥を掻かすのはどうかと思うよ…」
「ムッ、恥を掻いてこそお笑いは――」
「――はい!そこまーでっ!」
アドラスがシネラに言い返す途中で、サザク教官が割って入る。
サザクは「…さてと」と言いかながら黒板へ行きなにかを書きはじめた。
「いま書いてるのは、これからの日程だ…初日は座学、二日目と三日目はパーティー訓練、四日目と最終日は討伐遠征だ」
サザクは書き終わると、受講者達に向き直り、先ほどの熱血漢は鳴りを潜め、真面目な態度で話を続ける。
「本日の座学は、冒険者ギルドの成り立ちと、冒険者としてのあり方を学んでもらう。…言い争いは、後日やってくれ…いいか?」
サザクに目を向けられたアドラスとシネラは、こくこくと頷き自席へと戻る。
サザクは席に座るのを確認してから「…よろしい」と言い、講習初日の座学をはじめる。
「まずは冒険者ギルドの成り立ちからだ。冒険者ギルドが出来たのは…マリア、何年前だ?」
サザクに指されたマリアは、自信満々で言う。
「200年前ですー!」
マリアの答えに、サザクは頷くが、また黒板になにかを書きだす。
「一応200年前なんだが、その頃の冒険者ギルドは『依頼仲介所』という仲介業で、依頼者と冒険者の仲介をしていたんだ。制式に冒険者ギルドとなったのは50年前で、ギルド組織は存在しなかった。ましてや、他もギルド組織と言うものさえ無かったが、光聖暦1760年に当時の冒険者の一人『リューセー』と商人の『マハバラ』が、ギルドという組織を立ち上げた…」
サザクはすらすらと黒板に書いてる。
コリスは講習の資料を配り終え、部屋の後ろに立っている。
「資料の一枚目を…アドラスさんお願いします」
サザクはアドラスを指名し、アドラスは「はいよ!」と言い、元気に読みはじめた。
「『冒険者ギルドの成り立ち。
まずはじめにギルドとは、同業者達のための組合であり、組合員たる者達のために組織される。
○ギルド設置
・光聖暦1759年年3水月
神聖ミナルディ皇国の帝都に、冒険者ギルドを設置するための準備組織を立ち上げる。
・同年2風月
帝都元老院から設置の許可が下りる。
冒険者ギルド本部予定地が決定する。(帝都風区)
・光聖暦1760年1火月
帝都元老院から運営許可が下りる。
・同年2火月
冒険者ギルドの運営を開始する。』――」
「――はい、そこまで…今現在も、ギルド本部は帝都にあります。では次を…トット、お願いします」
サザクは区切りの良い所で、トットへ次を読むように言う。
「は〜い…読めな〜い」
「えっ!?」
トットは人語が読めなかったようだ。
サザクは教官用の資料を見て「…あ〜」と呟き、顔を上げて言う。
「トットは東海岸出身だったな…あと、ダイナも読めないか?」
「そう!日が沈む方だよ♪」
「話すのはたやすい…読むのは苦手…」
ダイナは人語の読み書きが苦手だ。竜人族は基本ギスカル語を国語としているので、人語を読み書き出来る者は、大抵は商人くらいだ。
そして、トットの出身地東海岸だが、メルニシア大陸の東側にある国で、獣王共和国十王領地の一つだ。
しかし、トットが言ったのはそれだけではない。
日が沈む方…それは、シネラの耳にも届いており、疑問に思うところだ。
「日が沈むのは東?日が沈むのは西でしょ?」
シネラの発言に、他の冒険者達は目が点になる。
当然の事のように言ったシネラだが、トットが言った事は本当であり事実だ。
シネラは、まだユリに教えてもらってない様だ…
「まぁ、なんだ…知らない事は罪じゃ無い、新たに知る事が大切だ…」
皆がシネラを可愛そうな娘の様な目線で見ているのを、サザクが何とかフォローする。
だが!ここぞと言わんばかりに、マリアがシネラをバカにする。
「太陽が西に沈むです〜?ウケるです〜♪シネラ姉の方向感覚は音痴ですー!!」
「なっ!?音痴じゃない!…だって北はあっちでしょ!」
バカにされたシネラは、自分が北だと思ってる方を指を指し「7つ星があるでしょ!」と、マリアに問う。
マリアは笑いながら「ウケる〜です〜♪」を連呼しているが、シネラからの問い反応して平然と言う。
「です〜♪あの7つ星は南半球しか見れないです〜」
「南刀神七星でしょ?南しか見れないよねー」
シネラは、バカ筆頭のマリアと次席のタマにバカにされている。
知らなかったとはいえ、ここまでバカにされるとさすがにシネラもへこんでしまった。
「まあまあ…シネラは記憶喪失なんだろ?そんなに笑ってやるな…シネラもへこみすぎだ、サザクがさっき言う通りで『無知は罪無き者、汝、新知を求めよ』とミナルディ様も言っていたらしいぞ?」
サザクは一応シネラを励まそうとしたが、神教徒でないシネラには、あまりにピンとこないようだ。
そんな様子を見ていたコリスが、後ろから声をかける。
「シネラちゃん気にしないで…知らないのは仕方ないから…ちょうどいいから、次をシネラちゃんが読んでみて」
「そうだな、シネラが次を読んでくれ!」
サザクも同意してシネラに促した。
シネラは仕方ないと思いながらも、しぶしぶ読みはじめた。
「うぅ…わかりました。
『○創始者の意志
・冒険者はその意志を紡ぎ、次代へと伝承される。
来るべき困難を乗り越えるために。
創始者、リューセーは冒険者であり神代司(神託を受け、実行する者)でもある。
リューセーが冒険者になったのは、神からの御指示によるものだと言う。
冒険者になる前のリューセーは、ラトゥールと違う世界から来た『転移者』と名乗っていた。
彼には、それを裏付けるだけの知識と技術があり、また、魔法の存在と人族以外の種族をしらなかった。
そして彼は、人族以外の種族にも公平に接し、ミュア族の差別を無くすために人力する。
また、光聖暦1767年に起きた帝都大地震を予知(神託)し、臣民を守り導いた功績を称え、神聖ミナルディ皇国は、リューセーに神代司の称号を与え、功臣として迎え入れた。
その後も神代司として七神から神託を受け、直接ミナルディ様からの神託も頂き、皇国の危機を数度救う。
ある時、七神の一神『トルーメニクス様』より御指示があり、リューセーはオルニシアへと旅立ち、3年後、オルニシアから帰帝した。
暫くして彼は、冒険者ギルドを立ち上げるために、世界各国を回る旅にでる。
旅の同行者は商人のマハバラのみで、他の者達は同行させなかった。』……ぇえー!?」
シネラはページをめくり、驚いてから読むのを止める。
「どうした?それはシネラが知らなかったものだ、気兼ねなく読んでくれ!」
「っそ!…そうですけど…」
サザクに促されるシネラは、ページの冒涜部分を見ているが、それを読む事を誰よりも驚いている。
「…わかりました…はぁ〜」
シネラは、しょうがないとばかりにため息をつきながら、続きを読みはじめる。
「『リューセーがもたらした技術で作られた方位磁針を使い、道に無き道を迷うことなく進み、1年もかからずに各国を訪問する。
その後も二人は旅を続け、各大陸の正確な地図を作りあげる。
ラトゥールはこの時、はじめて東西南北が解った。
7つの星がつならる星を刀神七星と呼んでいたが、方位磁針は南を指し、名称が南刀神七星にかわる。
また、4つの星が人柱器に似ていることから、人柱器星と呼ばれていた星座も北人柱器星となり、南北を指針する星座として世界各国に広めた。』……」
シネラが次のページをめくると、サザクが「そこまでで…」と言った。
サザクはまた黒板に書きはじめる……
ギルド講習編1日目は5話構成です。
次話も座学のみの話しになります。




