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悲しい別れです!

 あの後もひと騒動が有ったけど、ナナちゃん先生の軌道修正で、なんとかホームルームを終える事が出来た。

 担任は復活しないまま、副担任のナナちゃん先生が締めると言う、なんともぐだぐた感の残る終わらせ方だ。


「皆さん!帰るまでが卒業式ですよ!」


とはナナちゃん先生の言葉だ。

 遠足か!とクラスの皆でツッコミ、それを最後に教室を去る。

私達のクラスらしい終わり方だった。


「ねぇ、このままカラオケに行こうよ!家に帰ってからより近いでしょ?」

「ダメよ、ちゃんと着替えから集合って言ってたでしょ?ナナちゃん先生が怒られるわ!」


 今は学校から家に帰る所だ、3年間、しーちゃんと一緒に通った通学路を、最後も一緒に下校する。

 ナナちゃん先生は音楽の先生で合唱部の顧問、私としーちゃんも合唱部だった。

 合唱部だった卒業生は、式後に、ナナちゃん先生から小さなカード『13時にカラオケ○○に集合!私服に着替えから来ること!*学年主任に怒られたくない(泣)』を貰った。


「でもしーちゃん…このまま帰ると、13時に間に合わないよ……」

「大丈夫よ、ナナちゃん先生に遅れるって、伝えてあるから」

「ごめった!――」

「――謝らないって、いつも言ってるでしょ、中学校卒業したんだから、学習しなさいよ」


 しーちゃんからチョップをもらう。手加減無しで振り落とされた手刀は、かなり痛い…


「っつー!手加減してよ〜か弱い乙女なんだから〜」

「はいはい、か弱い乙女なら無駄口叩かず、黙って押されなさいよ♪」


 最後の下校も、いつも通りのやり取りをしながら、隣同士の家へ歩いて行く。




 「おまた〜♪」

「待たせたわね!」

「来たー♪」

「小咲ちゃ〜ん!」

「主役はなとやら、だな!」


 カラオケ店には1時間遅れで着いた。

 合唱部のみんなは、「遅い」とは言わない、長い者では7年、短い者でも3年は付き合ってきた仲であるから、私が傷つく様なことは言わない。と言うより、合唱部のマスコットと化していた私に、悪態をつく者は居るはずも無かった。

 自分でマスコットって、なんか、恥い……


「こここっ小咲ちゅわ〜ん――ぶべしっ!」

「小咲に寄るんじゃないわよ!変態教師!」


 訂正する…ひとり変態が混ざっている、「がわいいう゛ぁぜいぎ…ぐぐぐっ」と、しーちゃんにチョップと首締めをくらながらもしゃべり続ける、自分の欲望に忠実なナナちゃん先生も一応いる。



「ねぇ、曲は入れて無いの?」

「ああ、ナナ姉がアニソンを20曲も入れたから、さっき全曲消したんだ」


答えたのは茜で、ボーイッシュな感じで髪も短い方だが、恐ろしいくらい運動音痴な娘だ。


「流石はナナちゃん先生〜♪と言いたいですが〜、さすがに〜、20曲は入れすぎですぅ〜」


 このふわふわした感じの話し方をするのは文月で、通称ふみちゃん。彼女も○コ厨である。


「ねぇねぇ!マラカスってマスカラに似てるよね?ね!」


 訳の解らない事を言っている珍ちくりんは千夏、みんなからはチーちゃんと呼ばれ、後輩達も呼んでいる。

 チーちゃんは、しーちゃんと同じくらい長い付き合いであり、小学校3・4年と中学校1年の時はクラスメイトだった。

 合唱部に入ったのも、チーちゃんが誘ってくれたからだ。


 これで卒業生合唱部は全員集まった。

 ちなみに、元合唱部部長はしーちゃんで、副部長は私だったりする。


「シロ!答辞、面白かったよ!しーちゃんは今でも乱暴!」


 チーちゃんが笑いながら卒業式の話しを始めた。クラスのホームルームでもやり合った話だが、しーちゃん意外は皆違うクラスなのでその話しになる。

 シロと言うのは、チーちゃんのみが私に使う呼び名で、いつの間にかそう呼ばれていた。


「オレのクラスの奴らも面白かったって言ってたぞ!小咲達と同小の奴が多いから盛り上がってたよ!」

「私のクラスは〜小咲ちゃんのことを、『小咲ちゃんマジ天使!』『わたわたする姿が萌える!』『小咲ちゃんは俺の嫁!』

『ハァハァ、小咲たん!』とか言ってましたね〜」


 ふみちゃんのクラスはオタク系が多い。ナナちゃん先生がこのクラスの授業では「教祖さま」「ナナさま」と崇められているらしい。

 ちなみにこのクラス、学校の合唱コンクールでアニソンを自由曲に選び最優秀賞を貰っていたりする。


「あはは…ありがと、ふみちゃんの所は、少し気持ちわるいかなぁ〜」

「うん!キモイ!アイツらシロの事、キモイ目で見てる!ナナちゃん先生もよく同じ目してる!」

「ぐはっ!」


さすがチーちゃん!全くオブラートに包まず、この話しに関係無いナナちゃん先生に大ダメージだ!


「面白く無いわ!でも、小咲らしい答辞だったわね」

「紫織、ボロボロ泣いてたもんなぁ」

「涙腺崩壊〜でしたねぇ〜」


 面白く無いと否定するしーちゃんを、ニヤニヤしながらからかう二人。しーちゃんは両手を振り上げダブルチョップを繰り出す。


「いだっ!」

「ひゃんっ!」


 茜は直撃をくらい、ふみちゃんはギリギリで避けたみたい、あっ、チーちゃんが歌い始めた。

 フランス革命期の娼婦を題材にした曲だ。珍ちくりんなチーちゃんだが合唱部の中で1番歌うのが上手い。


「……相変わらず上手いわね」

「そうですね〜、ギャップ萌えですね〜」

「チーちゃんはすごいな〜」

「いちちっ、ビブラートが脳天に響く…」


 それぞれの感想を洩らしながらチーちゃんの歌声に酔しれる。

ナナちゃん先生がいつの間にか復活し、デンモクを何度もカラオケ本体へかざしていた。


「しーちゃん!?ナナちゃん先生が!――」

「――っ!?任せなさいっ!」


 対面にいた私は隣にいるしーちゃんへ教え、ナナちゃん先生に裁きが下る。


「……これも入れてっぶしゅべっ!」


 しーちゃん、手加減なしだ。チョップが強すぎて、鼻水まで出して白目を剥いている。

 ふみちゃんがマラカスで突っつくが、反応が無い、まるで屍のようだ……


「シロは曲入れた?」


 歌い終わったチーちゃんが、ナナちゃん先生の手にあるデンモクを引ったくり、私の隣に座り渡してくる。


「ありがとう、まだ入れてないんだぁ」

「とりあえず〜予約を削除ですねぇ〜♪」

「20曲も入ってるわよ!?」

「オレも予約したはずなのに、消されてるんだけど……」

「「「はぁ〜」」」


 3人がため息をつく、チーちゃんはナナちゃん先生のお尻をペチペチと叩きながらみんなに提案する。


「あれっ!あれ歌おうよ!1年生の時にシロが歌ったの!」

「イイわね!」

「いいですね〜♪」

「オレも賛成だな!」

「えー、子供ぽいから違うのにしようよ〜恥ずかしいよ〜」


 私に選ぶ権利は?と思うが、私以外は皆賛成する。しーちゃんが「もう入れたわよ?」とマイクを渡してくる。


「シロと一緒に歌う!」


 チーちゃんが私にくっつき、茜に「「みんな」でたろ?」と言われながら、手を剥がされる。茜は自分の膝に上に小咲を乗せるが、しーちゃんが直ぐに奪い取り「小咲は私の膝の上しかダメなのよ!」 と、そんな事をやっていると入れた曲の伴奏が始まる。


 この曲は、チーちゃんと合唱部の体験入部へ行った時に、先輩達からアカペラで「何か一曲歌う様に!」と言われ、恥ずかしがりながら歌った曲である。


「あ〜この頃からですね〜、小咲ちゃんが「天使」って呼ばれだしたのは〜」

「あの時は、ナナ姉も先輩達も涙ながらに絶賛してたよな!」


 そんなことを言われながら、歌詞が映し出される。

 「天使」は言われ過ぎだが、あの頃は進学したてで、学校生活に不安があった。

 その心の内を代弁した様なこの歌が、他者の心に響いたのだろう。響いたとか偉そうにいったけど、皆が泣いてたし…… 


 でも、今はそれを願わない。もう叶ったから……


「せーの!「「「「いま〜〜」」」」」


大好きな人達がいるから。




「「バイバ〜イ!」」


 ふみちゃんとチーちゃんは帰る方向が一緒なのでここでお別れ。


「またな!入学式は一緒に行こうなぁ!」

「うん、わかった!」


 私は、茜としーちゃんと一緒の高校に行くので、当日の約束をする。

 終了時間までアニソンを歌えなかったナナちゃん先生を連れて帰ろうとするが――


「ナナ姉ー帰るよ〜」

「イヤー!小咲ちゃんとまた部屋をとって入るー!」


私の前にしゃがみこんみ、お腹に頭をグリグリしたがら駄々をこねるナナちゃん先生。

 ちなみに、ナナちゃん先生と茜は10才離れた姉妹だ、全然似てないけど…


 しーちゃんと茜で無理やり引き剥がし、妹に引きずられながらナナちゃん先生は帰ってく。

 見えなくなるまで「小咲ちゃ〜ん!」と連呼しないで欲しい、めちゃくちゃ見られて恥ずかしかった。



「帰ろ、しーちゃん♪」

「そうね、帰りましょ」


 ふたりで来た道をを帰る。

 チーちゃんがどーなの、ふみちゃんが意外にヘビメタを歌うだの、茜は恋愛系の曲が好きだの、クラスの男子が卒業式後に誰々に告白しただのと、家に着くまで話しは尽きない。

 家に着くと部屋まで上げてから、しーちゃんが「そう言えば…」と話しをする。


「高校の制服は私が取りに行くけど、検査は何時までなの?」


 私は3ヶ月に数日ほど検査で東京に行く。今月はその月で、下旬頃に行くことが多い。


「えーと、○日の金曜の午後から日曜までかな、日曜日は確か…『お父さんのアパートにお泊まりする』って、お母さんが言ってたような……」

「なら月曜日の夕方、そうね…4時くらいに、受け取りに行くわ!勿論、小咲の制服も一緒に持ってくるわ!」

「うん!お願いね!しーちゃん♪」

「っ!もう、小咲は可愛いわね!」


と約束して、しーちゃんは抱きつく。学校や外ではやらないが、ふたりでいる時、私は抱きつかれ猫可愛がわれる。

 馴れたと言うか、自分といる時だけのしーちゃんを独り占めしている感があり、満更でもないけど。


 堪能して満足したしーちゃんは「よしっ!」と一声出して立ち上がり、頭をひと撫でして部屋を出ていく。

 下のリビングにいるお母さんとの会話が聞こえてきた。


「しーちゃん晩御飯は?今日はちらし寿司にしたの!」

「あ〜ごめんなさい、お母さんが「今日はレストランを予約したから家でまってて」と言っていたので、帰りますね」

「そうよね……ごめんなさい、祝いの席をお邪魔しちゃいけないわね、また何時でもいらっしゃい♪」

「はい、ありがとうございます。」

「明日はしーちゃんの好きな、ハンバーグにするわね〜!」


 外から母の声がするので窓から覗くと、しーちゃんが苦笑いをしながら母に手を振り、自分の家へ帰っていった。

 中学校を卒業したが、この生活はあまり変わらない、春から通う高校も近所にあるので、少なくてもあと3年間は一緒に……







「小咲〜、春休みなんだから〜もうちょっと居てよ〜」

「もー、お父さん!しーちゃんと約束があるから帰るって言ってるでしょ!」

「そんなぁ〜」


 月曜日の正午。

 新幹線のホームで駄々をこねる父を言い聞かせる。

 朝からずっとこのやり取りをしているからか、私はご立腹なのだ!


「お父さんしつこい!お父さんキライ!」

「キライ…」父はその言葉に絶句して、口をパクパクしている。

「あなた?」と母が手を顔の前で数回ふるが

「ダメね、お父さんは放っておいて行きましょ」

「そうしよ、駅員さんも困った顔してるから」


 お父さんを放っておき、乗車口に行く。車椅子で乗る際に使うスロープを持ってきてくれた駅員にお礼を言い、新幹線に乗った。


 指定席に座りホームにいる父を見ると、まだ絶句したままの状態で固まっていて、一部始終をみていた駅員が声をかけているところだ。


「あっ復活した!」

「私達を探してるわね〜♪」


 ふたりで父を見ていると発車のアナウンスが流れ、新幹線が動き出す。

 声は聞こえないが、父は走り出した新幹線を追いかけながら「小咲〜行かないで〜」と叫んでいたに違いない。

 そう、お母さんに言いなが笑い合い、しーちゃんとの約束を思い出しながら、しーちゃんの待つ街に帰っていく


だが、そこに待つものは、私にとって残酷な出来事だった。




「カチッ…ガチャ」

「「ただいま〜」」


 3日ぶりの我が家、何も変わらない。


「カギが掛かってたから、しーちゃんはまだ来てないね」

「4時に取りに行ってくれてるんでしょ?まだ4時ちょっと過ぎだから、来るのはもう少し後になりそうね〜」


 それもそうか、と呟いて小腕上げる。お母さんもすぐに、私を抱いて二階の部屋まで連れて行き、夕食の準備をするわね♪と、キッチンへ向かった。


「ふふっ♪楽しみだなっ!

しーちゃん早く来ないかな〜」


とベッドでゴロゴロと独り言を呟き……





「……ん〜、寝ちゃってたか〜」


 もう部屋は暗く、ベッド上にある時計を見ると、20時34分になっている。


「っ!寝過ぎたー、お母さん!お母さーん!」


 母を呼びながら部屋の照明を点ける。あれ?しーちゃんが来てない……

 しーちゃんは私が昼寝をしてると、必ずベッドの端に寄りかかり、小顔を覗きこむ様に寝てるはずなのに……


「しーちゃん、忘れちゃったのかなぁ」


 しーちゃんが約束を忘れる事は無いと解ってはいるが、次第に、しーちゃんがここにいない事に不安を感じる。 そこに、先ほど呼んだからか、お母さんが部屋に入って来きて、何故か、しーちゃんのお母さんも一緒だった。


「しーちゃんのお母さん?」


 しーちゃんは?と訊ねるが、ふたりは口を開かない、表情が固く怒っている訳ではないがそれに近い苛立ちを感じる表情だ。

しーちゃんに何かあったのかと思い聞いてみる。


「しーちゃんがいないけど……何かあったの?」


 ふたりの表情が焦りと驚きが混じった顔に変わる。

 これだけでも、しーちゃんの身に何か起きたのがわかる。


「っ!しーちゃん!しーちゃんに何かあったの!?ねえ!教えてっ!早く教えてよ!しーちゃ――」

「――小咲ちゃん落ち着いて…落ち着いて聞いて欲しいの……」

「………しーちゃんのお母さん……」

「小咲、落ち着いて聞いてね。しーちゃんは今――」


 私は、母から語られる内容を、最初の言葉以外は頭に入らなかった。

 頭が真っ白になり、何も考えられなくなった。

 しーちゃんのお母さんがすすり泣く声と、お母さんの話し声が次第に遠くなる。

 心は崩れ、行方不明の言葉が頭の中を埋めつくしていた。





『行方不明者 加藤紫織 15才 女性』


 一週間後の新聞には、そう書かれていた。




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