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閑話:今日も副院長は…

セーラのお話し

あれから2週間ほど経ち、やっと本国の帝都治療院から送られてきた書簡を読んで、セーラ副院長達は愕然とした。


『今回、ドゥーラ院長・ニルニス副院長・カイラス治療士長の殉教に対し、誠に痛感いたす。

神聖サフラ治療院には、此方が推挙した院長を派遣する。

其までの間、セーラ副院長を院長代理とし治療院を運営せよ。


ミナルディ様のご加護があらんことを…』



ハザックは書簡を丸め投げ捨てる。


「ふざけるな!」


「…あれだけ詳細に書いたのに…」


セーラも憤りを感じ、書簡が入っていた封筒をおもわず握り潰してしまう。


「況してや亡くなった子供達の事に何も触れないとは、帝都は何を考えているんだ!」


そう、セーラ副院長達は帝都治療院へ、事の詳細を細部まで書き上げ送っていた。

その中でも子供達の事に大部分を割き報告書を送っていたにもかかわらず、この簡素な書簡だ…誰が読んでも怒り狂うだろう。


「もう帝都には頼りません…これはサフラ治療院の不始末です。私たちで何とかしましょう…」


「何とかって…遺族方は納得しないでしょう!?」


セーラは何とかすると言うが、ハザックは納得しない。


「…とりあえず、アルバードさんに話してきます。ハザックさんは、午後の診療をお願いします」


「それならばいっそのこと!?…いえ、診療に専念いたします…」


ハザックは何か言いたそうだったが、すぐに身を引いて言葉を飲み込んだ。

セーラもハザックが言いたい事が解ってはいるが、目を瞑り感謝を述べる。


「…ありがとうございます。今は我慢するしかありません…」


そう、我慢するしかない…

ハザックは独立を訴えたかったのだろうが、独立した所で、資金も信用も失った治療院が、生きて行けるほど世の中は簡単な事では無い。

現に、亡くなった子供達の遺族への賠償金と、実験にされた子供達への見舞金で、治療院の資金は底をつき掛けている。

帝都からの援助が無ければ、この治療院の運営は立ち行かなくなる。


「何か手立てはおありですか?」


一度は飲み込んだハザックだが、やはり不安なようでセーラに聞いてくる。

セーラは「一応…」と言いながらハザックに話した……




昼食の時間、今日は何を食べようかと悩んでいたモニカは、冒険者ギルドの隣にある『ゴメンナスッ亭』で、メニューとにらみ合いをしていた。


「あ…いたいた!」


メニューとにらみ合いをしているモニカの前に、治療院からこの店までは遠いはずのセーラが現れた。


「ごめんなさい、待たせちゃって♪」


「……」


モニカは当たり前のように相席するセーラを、メニューの隙間からにらみ、じっと見ている。

見られているセーラは、気にしていない様子で、モニカが持っているメニューを奪った。


「私はー、これにきーめた♪…店員さーん!」


「……私…決めてないんだけど?」


急に来て、急に決めて、急に店員を呼んだセーラに、モニカは遺憾の意を述べる。

セーラは「あわわ…ごめんごめん!?」と言いながら、メニューをモニカに返してきた。


「はいどーも…」


モニカはメニューを受けとり、何を食べるか選びながらセーラに言う。


「どうせ、いつもの愚痴でしょ?…食べ終わってからの休憩時間に聞いてあげるから、食事中は黙って食べなさいよ…」


「あ…アハハ…バレてたか〜」


モニカの言葉に頬を掻きながら答えるセーラ、勿論バレバレである。

セーラが昼食時以外で来るときは、大抵が新米冒険者達の治療のためにくる。

昼食時に来る場合は必ず、モニカの休憩時間が終るまで愚痴をこぼしてから治療を行っていた。

そして、今日はその日なのだろう。

話しの長い愚痴を、食事中から聞きたくないと思ったモニカは、先手を打った訳だ。


「ご注文は!」


「私はレーモンの味噌煮定食で〜、彼女は日替わりのモチパン付きで♪」


セーラが呼んだ店員が、注文を聞いてくる。

モニカは当然決まっていないが、セーラは何故かモニカの分も注文した。


「味噌スープ付けます?」


「味噌煮だからな〜…味噌スープで!」


「かしこまり〜」


店員も慣れた感じで注文を取り、厨房へと去っていった。

モニカはジトッとした目で、セーラを見ながら抗議する。


「まだ、決めてないんだけど?」


「え〜、いつものじゃん」


モニカの抗議に、セーラは「いつもの」と常連客のような言い回しで答える。


「モニカは、日替わりしか頼まないから、メニューとか要らないでしょ?」


「……」


なんとも失礼な言い方だが、モニカはぐうの音も出ない。

なんせ店員ですらモニカが何を食べるのか知っているのだ。

それが早速解る現象が起きる。


「お先にお待ち〜、日替わりモチパン付きでぇーっす!」


セーラが勝手に頼んでから、1分もかからずモニカの前に料理が運ばれてくる。

店側はすでに、モニカが入店してから「いつもの」を作りはじめいて、メニューとにらみ合いをしている頃には出来上がっていたのだ。


「あ…どうも……」


「いいえ〜♪」


店員は、モニカにいつもの料理を提供すると、ヒラヒラと手を振り他のお客の所へと行ってしまった。

セーラは「お先にどうぞ♪」と、モニカに食事を促しながらニヤニヤしている。

何か腑に落ちないモニカだが、促されるまま「いつもの」の昼食を食べた。




 食事を終え、冒険者ギルドの休憩室にセーラを招き入れたモニカは、カップにお茶を注ぎながら要件を聞き始める。


「それで、今日はどんな愚痴をこぼしに来たの?」


言い方はトゲトゲしいが、モニカなりの優しさが包まれた言い方でもある。

セーラは毎回重苦しい話をしてくるのだが、どうも言いづらそうに話すので、話しやすいように冗談混じりで要件を聞いてから話させるのだ。


「…愚痴じゃないんだけど、さっき帝都から書簡が届いて……」


セーラは、治療院で読んでいたクシャクシャになった帝都治療院からの書簡をモニカ手渡す。


「…くしゃくしゃね」


「ハザックさんが癇癪を起こして…」


モニカは「ふ〜ん…」と言いながら、書簡の内容を読む。

読み終わると、ハザックと同じように書簡をクシャクシャにして、床に叩きつけた。


「…ゴミね、何なの帝都は?ケンカ売ってるの…」


モニカの意見はごもっともである。

治療院では、怒りを抑えながらハザックを諭したがセーラだが、内心はモニカやハザックと同じ気持ちだ。


「解らない…何故こんな事を書くのか…もしかしたら帝都は、院長達に罪を被せるだけで済まそうとしているのかも…」


「そうね、ニルニスの名前も入っているから、間違いなく帝都は三人に罪を被せ、国の関与を否定したいんだわ」


帝都治療院から送られてきた書簡には書いていないが、この書簡を読むとこう解釈できる。


『今回、ドゥーラ院長・ニルニス副院長・カイラス治療士長の殉教に対し、誠に痛感いたす。』

という短い文は…

『個人が行った事で、国は関与していないが、彼らは今まで、よく国のためミナルディ様のために働きました。

今回、このような事態になるとは想定外で、驚いています。』

と受けとれる。


「帝都も落ちたものね、あの実験設備には莫大な費用がかかっているはずよ、そんなの何処から捻出したのかしらね?」


「…帝都しか、有り得ませんよね。帳簿には載っていませんが、あれだけの物になると治療院の運営費からは捻出できないから…」


モニカからのあからさまな治療院への不信感を感じ取り、哀しそうな顔をしながら答えた。



「あ…あなた達サフラ治療院は悪くない無いでしょ!?悪いのはニルニスで、治療院の職員達は子供達のために頑張ったじゃない!」


あまりにもあからさま過ぎたのか、聞いたモニカも気まずくなり、セーラを励まそうと言葉をかける。

セーラは「ありがとう」と言うだけで、落ち込んでしまった。

モニカも、それ以上何を言えば良いのかわからず、沈黙が場を支配した。


そんな所に救世主が現れる。


「モニカさ〜ん!助けてです〜!?」


休憩室の扉を乱暴に開け放ちやって来たのは、一応モニカの弟子になるマリアだ。


「何ですか、マリア…」


露骨にめんどくさい顔をしながら、どうせくだらない話しだろうと思い、話を促すモニカ、マリアはプリプリと怒りながら話す。


「ユリが『マリア様のお小遣いは、銀貨1枚までです』と言うですー!?シネラ姉は銀貨3枚ですー!」


本当にくだらない話しだった。

たぶん、週間のお小遣いの話しなのだろう…ちなみにタマは銀貨2枚をもらっている。


「お金が欲しいなら働きなさい。あと、欲しい物をなんでも欲しがるのを止めなさい」


ごもっともな意見である。

モニカの言葉に納得しないマリアは怒りが治まらない様子で、再度同じ事を言う。


「『マリア様のお小遣いは、銀貨1枚までです』と言うですー!?」


「……」


何を言っても聞かないマリアに、モニカは苛立つ。

どうすればこのバカを黙らせるか、セーラがいる手前、暴力は避けたい…治療士は治療が仕事なので、暴力を極端に嫌う者達なのだ。

モニカは考えた末に話をきりだす。


「なら、要らない物を換金すれば良いんじゃない?マリアは何か要らない物はある?」


「う〜んです〜」


マリアは要らない物があるか考えているようだ。

すると何故か、セーラが「ある!!」と言いながら椅子から立ち上がった。


「あるよ!あるある!…治療院の装飾品とか、絵画とか売れば、運営費も賠償費も賄える!」


「です〜?」

「運営費?賠償?」


モニカとマリアは、いきなり叫びだしたセーラの言葉に、何がなんだかわからず困惑する。

そんな二人をよそに、セーラは続ける。


「あれも……うん、あれだって売れば!……椅子も安い物にして〜」


「ちょっ…ちょっセーラ!?お金に困ってたの?」


いきなりお金の話しになり困惑するモニカは「とりあえず座って」とセーラを座らせながら再度聞く。


「お金がないから、物を売るの?」


「そうなの…治療院は火の車で…」


セーラを思い詰めように話し出す。

マリアが「私と同じです〜」と言ったが、モニカに「黙りなさい」と言われ、しゅんとしてしまったが、セーラは話しを続ける。


「本当は、帝都にお願いしていたのだけど…あの内容だから無理かなって…」

「あの内容だしね…」


モニカもセーラの言葉に同意する。


「だから、治療院の備品を売れば何とかなるかなって…今、思ったの…」


セーラの話しに「なるほど…」と呟くモニカは、何かを閃いたような顔をして、セーラに提案した……




「では、よろしくお願いします!」


「任せてください!」

「任せてー♪」


セーラは、シネラとタマに頭を下げてから治療院へと帰る。

なぜシネラとタマがいるのかは、お分かりだろう…


「さて、ハザックさんにも伝えて…うん!院長室の物から片付けよう!」


今日もセーラ副院長は、治療院を立て直すために身を粉にして働く…


ミナルディ様のご加護があらんことを……





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