閑話:ベスは今日も…
ベスのお話し
昼間から酒を飲むやからはよくここに来る。
公都では「堕落の酒場」と呼ばれているこの酒場は、個性的な店主が営む数少ない昼間から飲める酒場だ。
「ったくよ〜!普通、連絡あるだろう…なあ、カズキ!?」
「あぁ…そうだね…」
カズキは酔っぱらいに絡まれている。
「だろ!?だぁりょ!?」
「ベス、飲み過ぎだよ…」
絡んでいるのはベスだ。
酷く酔っぱらっていて、先ほどから毒を吐いている。
「年増と3刻も一緒にいて、治療院に行ってみれば冒険者達は解散…なんでい!?可笑しいだりゅ!年増だぞ!?」
「リースさんは悪くないいんじゃ…」
先ほどと同じことを言うベスに、また先ほど同じように言うカズキ。
店主も呆れ顔でそれを眺めている。
「カズキは良いよな〜コリスと一緒でぃ〜、良いよなぁ〜!」
本当にめんどくさい酔っぱらいだ。
カズキはもう何度目か解らないため息をつき立ち上がる。
「はぁー……じゃっ、依頼があるから…」
カズキは銀貨を1枚店主に渡し店を出ていった。
「逃げんにょかぁ〜!」
ベスの声はカズキに届かず、客はベス一人になる。
「んっだよ…」
「あんたねぇ、いい加減にしときな?明日も訓練あるんでしょ〜」
今まで黙っていた店主がベスに言う。
ベスは「はんっ!」と声をだし店主にも絡みはじめる。
「男好きのマスターには解らないだろ?俺!今!無性!女!話す!好きー!」
支離滅裂である。
店主も呆れて何も言わなくなった。
「あーあ、どこかにいい女……コリス!」
「ちょっ!?お金ー!」
ベスは窓の外にコリスを見かけて店を飛び出していった。
店主が支払いの言葉をかけるが素早いベスはすでに外にいた。
店主は仕方なく窓の外をながめるが、そこは修羅場とかした。
「あの子はもう〜」
店主が呆れるその窓の外の先にはコリスに言い寄るベスに、たまたまその周りにいたベスと関係を持っていたであろう女性達がコリスと一緒に、ベスを袋叩きにしている光景だった。
女性達は満足したのか、各々解散しその場にはベスの亡骸だけが残った。
「まったく…しょうがないわね…」
やさしい店主は表に出てベスを回収する。
ベスは抵抗することなく店内へと戻ってきた。
「俺…もうダメだ……」
「はいはい…しっかりしなさい、弟子がいるんだから師匠がこんなんじゃダメよ?」
店主の言葉はごもっともではあるが、ベスの心は傷つき哀しみ、そしてやさぐれていた。
「マリちゃんが言ってたわよ〜?「ベスは手加減なしで教えてくれるいい先生」だって…」
手加減をしないではなく手加減が出来ないの間違いだが、弟子のタマはそう受け止めているようだ。
ベスもその言葉に失いかけていたものが湧き出てきた。
「だ…だろうな!…アイツは俺の一番弟子だからな!」
こうなればチョロいもんである。
店主はすかさず支払いを促す。
「じゃっ♪支払いして、明日も訓練頑張ってちょうだい!」
「おう!いっちょもんでやるぜ!」
ベスは適当に銀貨を投げ出し、店主がそれを拾い釣りを少なめにして返す。
「また来るわ!あばよ!」
ベスはお釣をこれまた適当に受けとり店を出ていった。
店主はベスを見送り呟く。
「はぁ〜バカねぇお釣もちゃんと見ないで…」
店主はおもむろにカウンターの下から箱を出して、差額分の硬貨をしまう。
その箱には「ベス被害者の会飲食代」と書かれていた。
ベスは、今日もまた被害者の会のためにお金を落として帰っていく。
この箱の存在は被害者と店主しか知らない……