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閑話:ティーナの冒険

バルボネ男爵家のお転婆娘、ティーナのお話し



バルボネ男爵邸の塀には1ヶ所だけ子供が通れるほどの穴が空いている。

だが邸の主人はおろか、使用人達でさえ知らない穴を誰が知っていると言うのか。

否!一人だけ知っている。

今にもその穴から這い出てくる幼い少女は知っていたようだ。


「うんしょ…よいしょ……出れた〜♪」


穴から這い出てきた少女…幼女はバルボネ男爵家長女で双子の兄マルスの妹のティーナだ。


「シネラちゃんは…お昼はギルドで食べてるって言ってたよね♪うん、そうだ!」


独り言に自分自身で完結させるティーナは、ギルドに向けて歩き出した。


「ほわ〜!かわいい〜」


一人で外に出るのがはじめてなティーナは、寂れた雑貨店の前で足を止める。

見とれていたのは小さな猫のブローチで、片方が赤色の猫でもう一方が白い猫だ。


「シネラちゃんとタマちゃんみたい♪」


そう呟くとティーナは雑貨店の店内へと入っていく。


カランカランッ!


「こ…こんにちは〜……」


店の中は閑散としていて人の気配が無さそうな感じだが、店の奥から人の声がする。


「……ぁ……ぃ…」


「すみませ〜ん!」


ティーナは店の奥の方へ声をかける。

すると奥から人が出てきた。


「はいはーい…なんや、お客さんかい…」


お客様に対して失礼な態度の店員はやる気の無さそうな感じでティーナを見る。

ティーナは買い物ははじめてではない。

バルボネ男爵家は平民上がりの貴族で「自分の事は自分でする」とボルドーが決めた家訓があり、それにともない使用人も最低限しか雇っていない。

ティーナもよく使用人と一緒に買い出しについていく事もあるのだ。

買い物なのどお手の物である。


「あ…あのブローチを…」


それでも一人での買い物ははじめてで、口ごもるように答える。

店員は「ブローチ?」と言いながらティーナを見るが、何かを感じ取ったのかおもむろにティーナが見ていた猫のブローチを取りにいきティーナの前に差し出す。


「これやろ?あの猫に似てるもんなぁ〜」


「えっ?…うん、かわいいの!これください」


ティーナは店員の言ってることがわからなかったが、シネラとタマに似たブローチを買うことに決めた。


「そうかい…せや!これも付けたる」


ティーナが買うと言ったからか、店員はもう2つ同じブローチを渡してきた。


「しろネコ〜♪」


ティーナに手渡されたブローチは片方が白い猫だけの物と、赤い猫だけのだ。


「全部で銀貨1枚でええよ♪」


「買います!」


だいぶ太っ腹な店員さんに元気よく返事をするティーナ、店員は「まいど!」と言いながらティーナから銀貨1枚を受けとった。


「バイバーイ♪」


「気をつけやぁ〜」


ティーナはホクホク顔で店を後にして冒険者ギルドに向かう。


「ブローチ〜♪ブローチ〜♪」


計3つのブローチが入った包を抱きながら大通りを歩く。

すると見知った顔のお姉さんに声をかけられる。


「ティーナちゃん♪…おつかい?」


「えっとー……そう!?おつかい!」


おもわずお姉さんに嘘をつくが、お姉さんは「偉いね〜♪」と言うだけで手を振り去っていった。


「ふぅ〜」


ティーナはバレなかった事に安堵して歩き出しす。

そると今度は前から騎士団が現れる。

ティーナは慌てて物影に隠れた。


「……ん?」


「どうしました団長?」


騎士団は「緑牛の騎士団」でティーナのパパ、ボルドーが団長を務める騎士団だ。

ボルドーは副官のスミルの問いに答える。


「今、ティーナがいたような…」


ボルドーの言葉にスミルも視線を向けるがティーナはいない。


「見間違いでは?」


「……そうだね、いたら飛び込んで来るはずだから♪」

「…さいですか」


親バカここに極まるである。

そんな親バカボルドーのおかげでティーナはやり過ごす事ができた。


「…パパだった〜、見つからないようにしないと…」

ティーナは騎士団が過ぎ去るのを待ち、いなくなってから大通りへと戻った。


「あと少しで冒険者ギルドだ〜」


もうギルドは目の前だ。

いき揚々と近づき扉を開けようとするが、中から叫び声がする。


「そうなんです!ティーナが!?」


「まさか!ニルニスの奴が!?」


ギルドの中にはトリスティアとアルバードが、ティーナの捜索開始しようとしていた。


「今朝はいたんです…それで、稽古の時間に部屋に行くと……うぅ…」


「…大丈夫だ。…モニカ、ユリ達を呼んでくれ…あと、ダズルートとコリスもだ」

「了解しました!」


事が大事になってしまった。

ティーナは扉から離れ、ギルド裏手の木箱の隙間に隠れた。


「どうしよ〜…ママ泣いてた…すん……すん…」


自分の仕出かした事に罪悪感が芽生え、ティーナ自身も泣き出してしまう。

一方ギルドでは、近くにいたユリ達が到着していて話を聞いていた。


「……手掛かりが無いわね…」


ユリが悔しい表情で言う。


「空から探すか?」


ダズルートはギルド内で訓練をしていたようでユリ達の会話に混ざり提案してくる。


「いや…幼い子供を見分けるのは難しい…ダズルートは怪しい奴がいないか空から探してくれ」


アルバードが的確な指示をだす。

だがそれをシネラとタマが待ったをかけた。


「「待って!」」


シンクロした二人の声に皆が二人を見る。

シネラとタマは止めた理由を話し出した。


「たぶんティーナちゃんは、冒険者ギルドに来てたと思うよ?」

「うん、シネラ姉の言うとおりティーナちゃんの匂いがするもん」


一同は唖然としている。

嗅覚が優れた獣人族の言葉に疑いの余地は無い。

アルバード達は冒険者ギルド内を隈無く捜索した。


「…こっちかな?」


シネラはギルドの外に来ていた。

ティーナの匂いを頼りに匂いが強くなる方へと近づく。


「すん……すん……」


子供がすすり泣く声がした。

シネラは声がする木箱に近づくと、そこには……


「ティーナちゃん?」


「!?」


ティーナは木箱の隙間に隠れていた。

シネラを見てティーナは抱きつきながら謝る。


「う゛うぅ〜…ご、ごめんっなさい〜…ひくっ…ひくっ…」


「あ〜…よしよし、大丈夫…みんな心配してるから、ねっ?行こ」


シネラの言葉に頷き、手を引かれながらギルドの正面へと歩く。

ギルド前にはアルバード達冒険者をはじめ、トリスティア、治療院のセーラ副院長も何故かいた。


「ティーナ!」


トリスティアはティーナに駆け寄り抱きしめる。


「心配したんだから!」

「う゛…うわーん!ごめんなさーい!ごめんなっ…ざーい!」


ティーナの泣き声に皆が安堵する。

すると、たまたま通りがかったローヌが野次馬の如くやって来た。


「なんやなんや♪子供を泣かして〜……おや、さっきのちびちゃんやないか!?どうしたん?」


ローヌは親しいユリに聞いてくる。


「まぁ、家出した我が子が帰ってきたと言いましょうか……で、なぜローヌがティーナをご存じで?」

ユリはローヌに疑いの目を向けながら聞く。

ローヌは然もあらん態度で答える。


「この子はお客さんや…さっきウチの店でブローチを買ってくれてなぁ…シネラちゃんにプレゼントするんやと思って、おまけもしたんやで?」


「えっ!?」


シネラはローヌの言葉にティーナを見ながら驚く。

ローヌはティーナに近づき「ほら渡さなぁ♪」と背中を押してシネラの前に立たせる。

ティーナはもじもじしながら包から白猫だけのブローチを出してシネラ差し出す。


「こ…これ、いつも遊んでくれるお礼!…可愛かったから……」


「あ…ありがとうティーナちゃん!」


シネラはブローチを受けとりお礼を言う。

周りの者達も、そのほっこりする話しに笑顔になる。


「おつかいじゃなくてプレゼントだったのね♪」


セーラは道中にティーナと会っていた。

またまたギルドに来ていてティーナの失踪を知ったのだ。

ティーナが一人でいた理由が解り安心したようだ。


「よかったなシネラ!」


アルバードが嬉しそうにブローチを見ているシネラに声をかける。

シネラも「うん!」と子供みたいに喜ぶ。


「タマちゃんの分も!」


ティーナは残り赤猫だけのブローチをタマに渡す。


「わたしにも!?…ありがとう、大切するよ♪」


タマもブローチを受けとりご満足だ。

喜び合う3人に、主にティーナにユリが諭すように言う。


「嬉しいようでなりよりですが……ティーナちゃん?一人で出歩くのはいけませんよ、トリスティアも心配していましたから…」


「そうよ?一言いってくれないと心配するわ」


トリスティアも同調するようにティーナを叱る。


「ごめんなさい…」


ティーナも自分が悪いと解っており、素直に謝る。


「まあ、ティーナも無事だったんだ。それにプレゼントを渡しに、わざわざギルドまできた行動力は大したもんだ!ガハハハッ!」

「笑い事ですか!!」


アルバードの言葉にユリが突っ込むが、シネラとタマもティーナを擁護する。


「許してあげて!ティーナちゃん頑張ったもん!」

「そうだよー!可愛そうだよ!」


シネラ達の言葉にユリは「しょうがないですね…」と諦めて、トリスティアに目線を送り確認する。

トリスティアも「今回だけですね♪」とユリの考えに賛成のようだ。


「…今回は、おとがめなしです…」


「「「やったー!!」」」


ユリの言葉に喜ぶ3人ははしゃぎだす。

各々がブローチを付け合い楽しんでいる様子を周りにいた者達は微笑ましそうに眺めていた。


唯一ブローチをもらえなかったマリアを除いて。


ちなみにマリアは、2日ほど機嫌を損ねてバルザラス男爵邸に入り浸り、シネラに見つかるまでお菓子を貪っていたという……





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