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11話:哀しみを抱き前へと進む

治療院に薬が届けられてから1刻後、ケインは公城に向かいカリナはアリナもいる冒険者ギルドに戻って行った。

マサアキとメルーナは薬の効力を見るため、各治療室を回っている。

アルバードは今後の事をセーラ副院長とユリを交えて副院長室で話している。

シネラ達はというと…



「後でマリアは、ユリさんにこーーぴどく怒られるよ!」


「私達を置いてったのはシネラ姉達ですー!」


「マリア…それ、さっきも言ってたから…」


シネラはユリが「マリアが身分を明かした事を怒っている」と言っているが、マリアは「自分達を置いていった事が悪い」の一点張りで一向に認めない。

タマはすでに諦めていて、ユリのお叱りを甘んじて受けるつもりだ。


「タマも言い返すですー!」

「いいよ、今回は…今回も私達が悪いしさ…」


マリアは納得しない…すかさず悪口を言う。


「こっこの、タマなしがーですー!」

「私は女だよ!愛称とかけるなよ!」


「タマ…○タマ…ぷぷっ!」


タマが怒るが、シネラはちょっとだけ面白かったようだ。

すると子供達、バルボネ男爵家のマルスとティーナが目を覚ました。


「うっ…う〜ん…」

「…う〜ん…」


シネラ達はマルス達に気づき、マリアが「セーラ副院長を呼んで来るですー!」と部屋を飛び出し、タマが「私は、マサアキさんかメルーナさんを呼んで来る…」と後を追うように部屋を出て行った。

シネラはマリアとティーナの近くに行き声をかける。


「マルス君、ティーナちゃん、気分は?気持ち悪くない?」


「「……」」


マルスとティーナはシネラを見ているが返事をしない。

シネラは困った顔をしながら再度、声をかける。


「大丈夫?」


「……」

「…ねこ…」


声をかけながらよく見ると、マルスはシネラをじっと見つめ、ティーナはシネラに近いベッドの端へ寄ってきてキラキラした瞳でシネラをガン見しつている。


「猫だー!」


「ええ!?」


急にティーナが近づいたシネラに抱きつきシネラを堪能しだす。

シネラは抵抗出来ずにただ驚くだけで、無理矢理引き剥がそうとはしない。


「ティーナちゃん落ち着いて…治療が完全か解らないから、安静にしてないと…」


あまりにしつこく抱きついているため、シネラは少し落ち着かせようと説明する。


「なんでティーナの名前を知ってるの!?」


「はっ!?…そっそうだ!なんで僕の名前を!?」


「えっ?…ああ、トリスティアさんから依頼されて二人を探してたんだよ!私はE級冒険者のシネラ、よろしくね♪」


「嘘だ〜」

「子供が冒険者になれるわけないだろ!」


二人に自己紹介を兼ねた説明をするが、マルスとティーナは信じない。


「ほっ本当に冒険者だもん!」


信じないマルス達にシネラは子供のように反論するが、ティーナがベッドから降りてきてシネラと並ぶ。


「ほら!ティーナと一緒!」

「小さい冒険者なんかいないよな!」


「…ぐっ…」


シネラは我慢する。

病気に…いや、実験にされていた子供達だ、マリア達の様に強く言えないもどかしさがシネラを包む。


「シネラ姉!メルーナさんを……どうしたのシネラ姉?」


タマがメルーナを連れて戻ってきた。

だが、シネラの悔しがる表情を見て訊ねる。


「…冒険者なのに…」


「えっ?いまさらじゃ――」

「――冒険者に見えないって言われた…」


タマは「あー……」とシネラを小馬鹿にするマルス見て納得した。

メルーナはすでにティーナから容態を見ている。


「…大丈夫…生きてる…」


当たり前である。

メルーナのボケに誰も突っ込まず、シネラを小馬鹿にするマルスがシネラの頭を「チビだなー!」と言いながら叩く。

さすがのシネラもキレてしまおうかと思った時、治療室にボルことボルドーがやってきた。


「マルス!ティーナ!」


「「パパー!」」


感動の再開だ。

タマはシネラに「頑張った…」と言い労う。

シネラは頷くだけで何も言わない、タマは(めちゃくちゃキレてる〜!?私に矛先が来ませんように!)と心の中で思う。


「シネラちゃん、タマちゃん…ありがとう…ありがとう!」


ボルドーはシネラとタマに一人づつお礼を言う。


「…うん…」

「うっ……うん!ボルも頑張ったじゃん!?」


まだ苛ついているシネラを横目に、タマは何とか返事をするがシネラが気がかり過ぎて適当な返答になる。

そんなタマはボルドーに近づき耳打ちする。

ボルドーは驚いた表情になりマルスを見て言った。


「マルス、シネラちゃんに謝りなさい…」


ボルドーにいきなり言われたマルスは反発する。


「なんで!?僕、何もしてないよ!」


ボルドーはチラリとシネラを見てマルスに言う。


「…シネラちゃんは、16才で正真正銘の冒険者なんだ…」


その言葉にマルスとティーナ、何故かマリアに連れて来られたセーラ副院長が同時に叫んだ。


「「「ウソだーー!?」」」



「ウケるです〜♪」

「はぁ〜…」

「…まだ…若い…」


マリアは腹を抱えて笑い、タマは気疲れしたため息吐き、メルーナは慰めにもならない事を言う。

シネラはまるで魔法がかかったかのように固まってしまった……




メルーナとセーラの診断が終わりセーラが「今日は治療院で安静に…」と言うので、ボルドーはタマとともに「トリスティアを呼びに行きます」と言い残しマルス達をシネラに頼んで治療院を出て行った。


「…本物?」

「偽物じゃないか?」


マルスとティーナはシネラの冒険者証を見ていた。


「本物だから…はい、おしまい!」


シネラは納得しないマルス達に冒険者証で信じさせようとしたが、無理だとわかり取り上げる。


「なっなんだよ!?もっと見せろよ!」

「シネラちゃんの耳触りたい!」


マルスはわかりやすいくらい顔を真っ赤にしてシネラに言うが、ティーナは欲望のままを口に出す。

シネラは唯一残ったマリアに再度マルス達に説明を頼む。


「……マリア…」

「はいですー!シネラ姉は私より歳上です〜、ですから、冒険者なのも本当です〜!」


自信満々、と言うよりアホっぽく説明してもマルス達は信じない。


「本当に〜?」

「ウソつきは貴族のはじまりってパパが言ってたぞー!」


「私は貴族の娘ですー!」


…マリアに頼んだのが間違いだった。マルス達は「「ウソつき貴族ー!」」とマリアを指差し連呼する。

子供の様に腹を立てるマリアを見てマルス達の説得を諦めたシネラは、静かに治療室を後にした。



シネラは治療院1階の受付前の椅子に座っていた。

治療室がある2階と違い調査の終わった1階受付周辺は閑散としていた。

ほとんどの冒険者達も各々宿や自宅に戻り、上役やギルマスから指示があった者だけが個々で作業にあたっている。


「…はぁー…」


ため息をするシネラは地下道に入るための扉辺りをボーッと眺めていた。


ガタンッ!


「ん?」


ガタンッ!ガタガタ!


「えっええ!?」


ドガーッン!


扉がガタガタと音を立てる。

カギがかかっているため、地下道からは入れなくなっていたが扉は爆音とともに破壊された。


「ゲホッゲホッ…コリス、やり過ぎだよ…」

「…まったくね、狭いからコリスに頼んだけど…」

「すすすみません!?モニカさん…」

「頼んだ手前、些か言い過ぎでは?」


破壊された扉から4人の人影が現れ砂埃を払いつつコリスという人を詰る。

シネラは口をパクパクさせながら4人を見ていた。


「過失を指摘するのも先輩の努めで……シネラちゃん!?」


「モニカさん!?」


モニカが鳥の様な羽をもつ男性に反論しながらシネラのいる受付周辺を見回し、椅子にしがみつくシネラを見つけた。

シネラも砂埃が晴れてモニカを認識したようだ。


「シネラちゃん、子供達は!?」

「えっ!?あっ、大丈夫です。薬を投与して、みんな目を覚ましました!」


「治療院の奴等は?」

「あ…あの…その…」


モニカの隣にいた鳥の様な羽を持つ厳つい男性がシネラに訊ねる。

シネラは少し怖がりながら答えようとするが色々ありすぎてうまく言葉がでない。


「ダズルート、シネラちゃんが怖がっているじゃない!泣かしたらユリさんに殺されるわよ?」


「そっそうか…すまなかった…」

「そんな事で泣かないよ!」


モニカがダズルートに注意してダズルートはシネラに謝るが、謝られた本人は二人の会話に不服なようだ。

そんなシネラに、カズキとコリスが近づく。


「君がシネラちゃんだね?僕はカズキ、同じ冒険者だ。よろしくね♪」

「…ほわぁ…美人…」


シネラは長髪で美顔の美少女と間違えそうになるカズキを見て感嘆の声をもらす。


「同じく冒険者のコリスです。シネラちゃんは可愛いね♪」

「あっありがとうございます…コリスさんも可愛いですよ?」


コリスはシネラの頭を撫でながら話して、シネラが上目使いになりながらコリスを褒める。


「モニカさん!?何ですか、この可愛い生き物は!!」


褒められたコリスはシネラの仕草にやられたようで、モニカも頷きながら言う。


「…わかるわ…でもユリさんの方が可愛いわ…」


モニカどこまでもユリが一番らしい…

ダズルートは可愛い生き物のシネラに近づき再度聞く。


「怖がらせてすまなかった…それで、治療院の者は?」


「……はい…治療院の院長が………」


シネラはダズルートの質問に対してしっかりとした口調で説明する……




……シネラの説明を聞いた4人は黙り込む。

皆、院長に世話になった冒険者なのだ…その哀しみは計り知れない。


「ドゥーラ…」

「………」

「いい人…でしたね…」

「…ああ、僕もお世話なったよ……」


ここにいる4人のうちダズルートを除く3人は駆け出しの頃に、ドゥーラ院長の世話になった者達だ。

ダズルートはガルデア支部の出身では無いためさほど面識はないが、よくアルバードに連れられて飲みに行く事があったそうだ。


「たぶん…アルバードが一番、悲しんだだろうな…」

「…そうね、ギルマスはドゥーラさんを兄のように慕っていましたし…」


ダズルートの言葉にモニカは同意する。

アルバードを心配しているのだろう……

すべてを話したシネラも哀しそうな顔でうつ向く。


「何だお前達、治療院に着いてたのか?」


5人が声がする階段を見ると、アルバードが階段を降りてくるところだった。

アルバードは、しんみりとした雰囲気を感じ取り4人を見回してからシネラを見て聞く。


「…話したか?」


「…うん…」


シネラはアルバードの言葉に頷き、またうつ向く。

アルバードはシネラの頭を撫でて言う。


「すまないな…つらい話ををさせて、本来は俺がするのが――」

「――ううん、大丈夫…私も冒険者だから!」


シネラはアルバードの謝罪を遮り気丈に振る舞う。

アルバードは驚いた表情をするが、すぐに表情を戻しシネラに言葉をかける。


「強いな、ユリに似てきたんじゃないか?」


「うん!今の私は、ユリさんの一番弟子だから!!…私、マルス君達を見てくるね!ついでにユリさんにも皆が帰って来たことを伝えてくる!…」


シネラはそう言うと階段をかけ上がって行った。

アルバードはシネラの背中を見つめ4人に聞こえるように呟く。


「…今回シネラがいなかったら、この騒動は解決しなかっただろうな…」


「「「「えっ?」」」」


4人はアルバードの呟きに反応する。

アルバードは4人に向き直り、シネラが導きだした騒動の説明とシネラの類いまれなる能力を話す。

4人は目を見開き驚きを隠せないようにアルバードの説明を聞いた。


「……と、年齢にしてもそうだが…あの推理力、頭の回転の良さ、それに対する嗅覚は異常だ…」


「ですが僕は…」

「カズキ君?」


アルバードの説明を聞いたカズキが何かを言おうするがモニカに止められる。


「ご…すみません…」

「…えっ?どうしたの、何かあるの?」


コリスが、モニカに謝るカズキを訝しがる。

そこにアルバードが咳払いをしつつ話を戻しながらコリスに諭す。


「うっう゛ん!…まぁカズキの言いたいことも解るがそれ以上はギルド機密だ…コリスはC級だから知らないだろうが聞かないでくれ…」


「…了解です…」


腑に落ちないコリスだが渋々頷き返事をする。

アルバードは頭を掻きながら苦笑いをしつつ皆に言う。


「まっ、そう言う事だ。みんなご苦労だったな、各々解散していいぞ!……?」


アルバードは解散を伝えるが、何か足りない様な気がした。


「……あれ?」


「どうかしたか?」


ダズルートが悩んだ表情のアルバードに聞く。

聞かれたがアルバードは思い出せない。


「うーむ……わからん!もういいぞ!解散解散♪」


アルバードは諦めて4人に解散を促す。

解散を言い渡された4人は「疲れた〜」と声を漏らしながら治療院を後にした。

2刻後、忘れられた者が治療院に着き一騒動あったのは別の話しに……






日が沈み地平線が赤く染まるインデステリア王国ジュリアトス男爵領上空…


「ニルニス様…カリミシラ諸島が見えてまいりました…」


ワイバーンに乗る騎士が後ろに捕まるニルニスという男に声をかける。


「やっとか…空は寒いなぁ、少し休まないか?」


ニルニスは騎士に言う。

騎士も頷き周りを護衛するように飛んでいる仲間のワイバーン騎士達に手信号で指示をする。


「カリミシラ諸島…ミナルディ様からの租借地かぁ……今はジュリアトス男爵領、だったか?」


「…いずれ我々の国に戻りましょう…」


ニルニスの独り言に騎士が言う。

ニルニスは殺気を漏らしながら訂正するように言う


「我々ではない…ミナルディ様の元へ戻るのだ……インデス共に荒らされた神聖なる島々を……必ず取り返す!!」


「はっ!!ミナルディア様のご加護があらんことを!」


騎士はそう言うと、ニルニスから漏れ出る殺気が薄れるのを感じ安堵する。

ニルニスは不敵に笑いカリミシラ諸島を眺めながら言う。


「もうすぐだ…インデス共を根絶やしにし、神聖なるカリミシアを奪い返す!……ふふ…ふはは…ふはははははっ!!」


日が沈んだ空に、ニルニスの笑い声がこだまする。

子供達を死の直面まで陥れた彼等はカリミシア諸島の島々に消えていった……





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