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10話:身を賭して

公都ガルデアの地下道は薄暗くまるで迷路の様な造りをしている。

だが、道幅は広く大人3人でも並んで歩く事が出来るほど広く掘られていた。


「ドゥーラ院長、追っ手が来てます…」


「なら殺せ、帝都治療士長のあんたなら容易いだろ?」


そう治療士長にドゥーラ院長は言うが、治療士長は首を横へ左右に振る。


「たぶん、冒険者の手練れだ…足音でわかる…」


「そうか…ミナルディ様の御加護もここまでか…」


ドゥーラ院長は足を止め後ろ振り返りながら呟く、次第に足音が大きくなっていくのを聞きながら立ちすくむ。


「あの若いのに、罪を被せるのは仕方のない事だと自分に言い聞かせたが…やはり罪を償うべきは私だな…」


「…いえ、私もいます…帝都の老害連中の言うことを聞くのも疲れましたし、ここでご一緒しますよ」


治療士長はドゥーラ院長に短剣を渡して自身も短剣を鞘から抜く。


「…今、戦争に成っては困るからな…ニルニス副院長があのような奴だとは思わなかった。そう思うだろカイラス?」


「えぇ…双子の兄があのような事をするとは…ですが、私達がここで死ねば、我々が罪を被りインデステリアとの戦争を回避でき…それに、子供達は冒険者達が見つけてくれるでしょう……」


カイラス治療士長は哀しみを抑え淡々と話す。

ドゥーラ院長もそれに頷き短剣を両手で握り喉元に近づける。


「カイラスよ…ミナルディ様の御加護があらんことを…」

「…ミナルディア様の…御加護があらん…ことを…」


ドゥーラ院長とカイラス治療士長は短剣を突き刺し、そして祖国のため治療院のため、自ら罪を被り生き絶えた……






中央広場から地下道に入り院長達を追っていたアルバード達は、2人の亡骸を見つめていた。


「…あのドゥーラが…っく!バカ野郎が!!」


アルバードは壁を殴り悔しがる。

ユリとシネラはただ立ち尽くすしかない。


「なんで、こんな事をしたんだ…死んじゃぁ解らないだろ!?…おい!何とか言えドゥーラ!!」


アルバードはドゥーラの亡骸を掴み激しく揺する。


「アルバード!止めなさい…死んでるわ、もう…」

「くっ!!」


ユリが止めに入り、アルバードはドゥーラの亡骸を地面に降ろす。

アルバードは怒りの矛先をどこに向ければいいのかわからず、地面に膝をつき話し出した。


「…ドゥーラはよぉ、俺がギルマスに成ってからの付き合いでよぉ…いい奴なんだよ、若い冒険者達がケガをしたら『若いのはケガをして一人前になる。金は取らねぇよ、一人前になったら踏んだくる!』って無償で治療士をギルドに派遣してくれてな…」


ユリとシネラは安らかに眠るドゥーラを見る。

アルバードもドゥーラを見つめながら続ける。


「…ギルマスになった俺が右も左もわからず困った時に、色々世話を焼いてくれたよなぁ…疲れてるだろうからって、治療魔法をかけてくれたこともあったよな…そんなあんたを、俺は兄のように慕っていたよ…」


アルバードはドゥーラに近づきその亡骸を胸に抱く。


「…バカ野郎…バカ野郎が……」


地下道にアルバードの呟く声がこだまし続ける。

そこでシネラの耳がピクンッ!と反応して後ろ振り返る。


「…誰か来る」


ユリも魔法ランプをかざして目を凝らす。

右手に魔剣を握りしめその足音の主を待つ。


「アルバード!」


その声にアルバードは顔を上げる。


「ギルマス!?」


こちらに近づくのはケインとメルーナだった。

ケインはアルバードに近づきドゥーラを見る。


「…アルバード、ドゥーラは…」


「…自ら命を絶ちました…我々が来る頃にはもう…」


ケインは「そうか…」と呟きメルーナを見る。

メルーナはドゥーラともう一人の体を確認して、ケインに顔を向け首を横に振る。


「…ダメ…もう効かない…」


「わかった…2人の亡骸を治療院まで運ぼう……アルバード、しっかりしろ…今はお前ギルマスだろ?」


ケインはメルーナの言葉に頷き、アルバードに諭すように言う。

アルバードはドゥーラを抱き上げながら立ち上がる。


「お見苦しい所を、ギルマス…」

「ギルマスはお前だ、俺はただの暇人だ……!?」


謝るアルバードにケインは冗談を飛ばしながらユリ達を見る。

ユリを見て驚いた表情に変わる。


「…ユリ…久しぶりだな!冒険者に戻って来たんだな!?」


「…はい、ご迷惑をおかけ――」

「――いやいや!そんな事はいいんだ、戻って来てくれて嬉しいぞ!」


ユリは頭を下げながら言うが、ケインが止めて喜ぶように言う。


「まぁ、積もる話しは地上に出てからだな!」

「はい、そうしましょう…シネラちゃん、もう一人の彼をお願い?」


「…うん」


シネラはまだ哀しそうな表情だが、ユリの指示に従いもう一人の亡骸を担ぐ…実は『白猫の守護者』の中で1番の力持ちなのはシネラなのだ。

ケインは驚きユリに訊ねる。


「お……おい、いくら弟子でもあれは…俺が持とうか?」

「いえ、片足が義足の方に持ってもらうとお荷物になるので…」


「…さいですか」


ケインは左足が無く義足だ。

あと、ユリの言うことに反論しない者の一人でもある。


「…メルも…もつ…」

「…うん、ありがとうメルーナさん」


メルーナもシネラを手伝ってくれるようだ。

ユリは心を鬼にしてシネラを見守る。

冒険者とは死と隣り合わせで、ここに来る間にシネラに言い聞かせていたので経験を積ませるようだ。

シネラもユリの意図を解っており黙って従う。


「アルバード、行くぞ?」


「……はい…」


ケインがアルバードを呼ぶ、まだドゥーラの事が割り切れない表情で立っていたが、名前を呼ばれて歩きだす…5人は一路治療院へと戻って行った。





治療院に戻るとカリナとセーラ副院長が出迎えてきた。


「ドゥーラは…」

「院長は…」


アルバード達は2人に事の経緯を話した……



「……そうかい…」

「…そうですか…」


2人は哀しみに伏した。


「それで、子供達は?」


ユリはカリナに聞くが、カリナは険しい表情で言う。


「治療院や隣接してる地下道を探したけど見つからないの…院長達と一緒だと思ったんだけど…」


「…やはり、ニルニス副院長を追いましょう。あとはあの人しか知り得ません!」


セーラ副院長が前副院長の名を告げる。

アルバードとメルーナがその名前に反応する。


「ニルニスが?…アイツは2日前にガルデアを発ったろう?」


「…あいさつ…きた……子供達の治療…残念…言ってた…」


そう、ニルニス前副院長は2日前に神聖ミナルディ皇国へ帰ってしまっている。

しかも帰る前まで調薬局で子供達の治療を手伝っていたのだ。

2人の言葉にシネラが反応し質問する。


「それは2日前の朝ですよね?…それとワイバーンを連れた護衛も一緒に…」

「…朝…」


「ああ、そうだ…そういえば、ユリ達もギルドにいたよな?受付で会ったんだな?」


アルバードとメルーナの言葉にシネラは2日前の事を思い出し、今までの事を繋ぎあわせていく。

シネラは幼い顔つきに似合わない真剣な顔つきで説明しだした。


「7日前に私も治療院で治療を受けました…その時、ニルニス副院長が治してくれたんです…」


行きなり話し出したシネラに一同が静まりかえる。


「その時に「君は何歳だい?」と聴かれ、私の年齢を残念そうにしてました。その前の子供は、ケガが治らなかったのを覚えています。」

「まさか!」


ユリもシネラの言葉に何かを思い出したようだ。


「治療院の治療患者と処置をした治療士を照らし合わせてください…」


「ハザックさん!7日前の治療綴り!?」


シネラの指示にセーラ副院長が慌ててハザックに指示する。

ハザックはすぐさま治療綴りを探して持ってくる。


「これです!この日はニルニス副院長が治療を行っています!」


「それと行方の……やはり!?」


セーラ副院長はカリナから渡された書類の行方不明名簿を照らし合わせる。

シネラはそれを見て説明を再開した。


「…すべて副院長が治療した子供達です。そして翌日から実験を行うため子供達を拐った…」


「だが一人では!?」


ケインがその説明に反論するがシネラは続ける。


「一人では無いです…ワイバーンは7日前から公都上空を飛んでいました。おそらく、ニルニス副院長と一緒にいたワイバーンを操る護衛達も関与しているのだと思います…」

「そういえば、あの日から見てないねぇ…」

「…昨日も…いない…」


カリナとメルーナが思い出しなが呟く。


「そして3日前、換金商が治療のため治療院に泊まり子供の泣き声を聞かれた。だけど、それを知られた所でニルニス副院長の計画には影響はなく、予定通りに2日前の朝に逃亡…」


「だが、院長達はどうなる?なぜ一緒に逃げなかった!?」

「アルバード!」


アルバードは悔しげにシネラに詰め寄る。

それをユリが盾になりシネラとアルバードの間に入る。

シネラは哀しそうな表情で続ける。


「…院長達は、たぶん罪を被り自殺したと思う…二人からはグリーンベリオットの臭いがしなかった…」


「…なんだって…」

「…どういうこと?」


アルバードとユリが違う意味でシネラに訊ねる。


「私、グリーンベリオットの臭いを知ってる…独特な臭いで人族には解らないと思うけど……2日前に冒険者ギルドで副院長から、昨日の昼前に換金商の人から…それと、あそこから…」


シネラは1階の階段下にある扉も何もない空間を指差す。

シネラが近づき臭いをかいでユリに言う。


「…ユリさん、ここを…」


「任せて……やぁー!」


ユリは魔剣に魔力込めてシネラの指示する壁を破壊する。

そこには大きな穴が地下に続いていた。


「こんな所に…」

「そんな…」

「私はなぜ、今まで気づかなかっただ!」


治療院を捜索していた3人が驚き憤りを募らせる。


「…行きましょう……子供達を助けないと…」


シネラは地下に続く穴を睨み、込み上げる感情を抑えながら言う。

それを聞いた皆が頷き地下に続く穴へ足を踏み入れた。



地下空間は広く、シネラ達が着いた部屋は実験設備と多くの薬品が置かれていた。


「…あそこから強くグリーンベリオットの臭いがする…」


シネラは奥に見える扉を指差す。


アルバードが先頭になり扉を開け放ち、すかさずユリとシネラが中に入る。

そこには……






「ボル!出来たぞ!!」


「さすがです…」


治療薬士ギルドの地下からかけ上がってきたオナーがボルに薬を見せる。

後ろからは、やつれたマサアキがついてきていた。


「ほとんどの作業は、俺がしたんだかな…」

「固い事を言うな!タマも見てみろ!」


オナーはタマに薬を見せるが、タマは鼻を押さえて後ずさる。


「…やっぱむひ、にほいがきつひよ…」


「臭いです〜?無臭ですー」


マリアは獣人の嗅覚の良さを知らない、ミリも「無臭ですね」と嗅いでみたようだ。


「とりあえず子供50人分は作れたな!」

「俺がな!」


オナーとマサアキが、あーだこーだと言い争いをしていると治療薬士ギルドにアドラスが飛び込んできた。


ドバーン!


「薬は!?」


いきなり開いた扉の音に驚き固まる5人にアドラスは聞く。

アドラスと認識したマサアキがそれを答える。


「ああ、出来たぞ!」


「よかったぁ〜、いま治療院から子供達が見つかったって!」


アドラスの報告に5人は喜ぶ、オナーとマサアキは頷きあいオナーが皆に指示する。


「マサアキとマリア様とタマは治療院に向かってくれ…俺は公城に向かう、ボル、ミリ、行くぞ!」


「「はい!」」

「「わかった(ですー)よ!」」


「返事はハイだろ!」


オナーの指示に騎士らしい返事と、馴れ馴れしいマリアとタマの返事にオナー以外は誰も突っ込まず、治療院を飛び出す男爵一行をアドラスは見送りつつ呟いた。


「なんか…愉快なパーティーだなぁ…」






「…やばい…もう…もたないかも…」


治療院の各治療室ではメルーナと治療薬士数名に加え、治療院にいる治療士達総出で子供達の治療にあたっていた。


「何とかもたせろ!マサアキ達が必ず薬を作ってくるはずだ!」

「そうだよ!メルーナさん、がんばって!」


アルバードとシネラはバルボネ男爵の子供達を、メルーナと一緒に治療していた。


「…シネラちゃん…むり…」


メルーナは対して効かない治療魔法をかけ続けていて、魔力が枯渇しそうになっている。

他の治療魔法を使える者も数名ほど倒れる事態だ。


「メルーナさんなら出来る!諦めたらそこで試合終了だよ!?」

「…しぬ…」


シネラは根性論をメルーナに叩き込むが、メルーナは限界間近で目に涙を浮かべながらシネラの想いを否定する。


「メルーナさん!私が変わります!」


そこに最初に離脱したセーラ副院長が復帰してきた。


「……たのんだ…」


メルーナは事切れたように後ろに倒れる、それをアルバードが受け止め床へ降ろした。


「セーラさん!?大丈夫なの!」

「…ええ、10分はもつからそれ以降は…」


シネラは病み上がりのセーラ副院長に聞くが、セーラも強がりは言わず弱音を吐く。


「他の奴等もそうか…早くマサアキ達が来なければ、子供達は…」

「大丈夫だよ!タマもグリーンベリオットの臭いが解るはず、絶対来るよ!!」


シネラは出来の悪い妹達が来ると信じて待つ。

その願いが届いたのか治療院内にシネラを呼ぶ声が響いた。


「シネラ姉ー!!」

「シネラ姉ですー!!」


「来た!!……マリアー!タマー!」



シネラは自分を呼ぶ2人に大声で叫ぶ、一番素早いタマがシネラ達がいる治療室に駆け込んできた。


「はぁはぁ…こっこれ!」

「うん!」

「はっはい!?助かりました!」


タマはシネラに薬を差し出しシネラは受け取ると、セーラ副院長がそれを受け取る。


「…タマなら見つけると思ったよ…」

「はぁはぁ…だろ?…はぁはぁ…」


シネラは、たぶん全速力で走って来たのであろうタマを抱き締めて労う。


「よくやったな、マリ!」


アルバードもガシガシとタマの頭を撫でて労を労う。

セーラは薬を子供達の口から無理矢理流し込み様子を見る。

しばらくすると子供達の血色が良くなり荒かった呼吸も安定した。


「…薬、効いた?」


セーラ副院長に聞くのはタマだ、ここまで運んだ手前薬の効き具合が気になるようだ。

セーラは優しく微笑みタマに答える。


「えぇ、効きましたよ。グリーンベリオットの効果も中和され目が覚めたら、あとは体力を徐々に戻せば大丈夫です♪」


そね言葉にタマだけでなくシネラとアルバードも安堵する。

それを聞いたアルバードは立ち上がり「他も見てくる」といい部屋を出て行った。

メルーナは床に転がったままだが…


アルバードがいなくなりセーラが子供達に治療魔法をかけている傍ら、シネラはタマに聞いた。


「…特殊なグリーンベリオット…すぐにわかったでしょ?」


タマはニコニコしながら答える。


「あたりまえじゃん!シネラ姉の臭いがする人を探したら、すぐに見つかったよ!」


当然のように言うタマにシネラは笑顔になり言った。


「さすが妹だね!」

「さすがシネラ姉だね!」


2人の猫は姉妹同士通じる物があるようだ。

2人の起こした奇跡…いや必然的に起こされたこの行動は、そのうち解るだろう……







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