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9話:治療薬士ギルドにて

冒険者ギルドの目の前にある治療薬士ギルドは昼間とはうって変わって騒々しくなっていた。


「オナー!?これも違うですー!」


「なに!?貴様ー俺を騙したのか!」


マリアがバルザラス男爵改め、オナーに確認した物を偽物だと伝える。

オナーは本日数回目のやり取りをはじめて、偽物を持ってきた商人に詰め寄る。

今、治療薬士ギルドは特殊なグリーンベリオットの緊急買取りをしているが、どれもこれも普通のグリーンベリオットばかりで特殊なグリーンベリオットが買い取れない。

中にはレッドベリオットをグリーンに塗り替え売りにくる者もいた。


「全然集まりませんね…」

「あとは、タマとスミルが頼みです〜」


「…ちっ!仕方がない、俺はマサアキを手伝ってくる…ボル、買い取りは頼んだぞ!」


「わかりました…」


オナーはボルドー改めボルにこの場を任せ、地下へ下がっていった。


この場に残ったのはマリアとボルだけで、タマとスミル改めミルは公都内の換金商を回るため外に出ている。

この組み合わせはタマが『マリアとミルはふざけるから』と自分の事は棚にあげて、オナーも納得して決めた組み合わせだ。

なぜ治療薬士ギルドに彼女等がいるのかというと、時間は1刻ほど遡る……





「にゃんにゃーん!」


治療院へ向かう男爵一行は孤児院の前で呼び止められる。

マリアとタマが聞いたことがある声に、その声の主を探す。


「アリナちゃんの声がしない?」

「するです〜!」


「…今度はなんだ…」


オナーは自由すぎる2人に疲れた様子で聞く、先ほども…やれお腹がすいただの、あれはなんだ?、これを食べたいだの…とワガママ放題、ミルもすぐに言うことを聞くものだから治療院に一向に着かない。

するとトテトテとタマの前に声の主が現れる。


「にゃんにゃん!」

「アリナちゃん!?どうしたの?」

「ママと一緒じゃないです〜?」


タマに引っ付き抱きつく幼女はカリナの娘アリナだ。

「にゃんにゃん」とはタマの事で、シネラは「にゃーにゃん」と呼ばれているが、はっきり言うと違いが解らない…ちなみにマリアは「みゃーにゃん」と容姿にまったく関係ない呼ばれかたである。


「ママ…わかんない!あとでっていってた!」


「わかんないです〜?」

「あとでって言ってたけど、もうすぐ日が堕ちるよ…どうする?」


2人はアリナが孤児院にいる理由は知っているが、カリナがいつも日が堕ちる前に迎えに行くのを知っているため、どうするか悩む。


「一緒に治療院に行けばいいよね?カリナさんもいると思うし!」


「です〜!アリナちゃん、ママの所に一緒に行くです〜!」

「みゃーにゃんといくー!」


「まてまてダメだダメだ!、治療院は不味いだろう!?…そのママか?…冒険者なのだろうが今は治療院を包囲してるんだ、小さい子どもは危険だろう!」


オナーが勝手に進む話しに待ったをかける。

間違った行動ではないが、アリナは幼い頭でママに会えなくなると解釈したようだ…


「ママ…あえないの?……ぐすん……うぅ……」


「ああ!?泣かないでです〜!」

「会える!?会えるよ!…オナー、泣かしちゃダメだよ!!」


「なんでだ!!私が悪いの――」

「――ああ〜ん!わあぁーん!ああ〜あぁぁ……」


マリアとタマが泣くのを止めようしたが、オナーの叫びとともにアリナが泣き出してしまった。

後ろで見ていたボルとミルは、ただ突っ立っているだけで知らんぷりだったが、既婚者で子持ちのボルが仕方がないとばかりに言う。


「…もう連れてくしかないでしょう…その子のお母さんは怒るかも知れませんが、アリナちゃんの事を考えると連れてく方がいいと思いますよ」


「またよけいな…」


ボルの余計な言葉に苛立つオナーよそに、マリア達は歩き出しながら好き勝手言う。


「そうしよーよ!行くよーアリナちゃん!」

「…うん…」

「そうですー、行くですよ〜!」

「…うん!いくー♪」


ママに会えるとわかり元気に歩くアリナとマリア達、オナーはその後尾を本当に疲れた顔で付いていくのだった。




治療院に着くなりアリナはトテトテとカリナに突進する。


「ママー!」


「えっ?えぇっ!?アリナっどうして…」


孤児院にいるはずの娘が目の前にいる事に驚いているカリナは、アリナが来た方向を見てため息をつく…


「はぁ〜、…そこの5人、こっちに来なさい…」


カリナの物言わぬ怒りを感じ取り、呼ばれた5人は渋々カリナへと近づく。


「何故かアリナがいるのだけれど、説明できる人はいるかしら?」


遠回しに「アリナを連れてきたバカは誰?名乗り出ないと殺すわよ」と言っている。


「「「「「………」」」」」


5人は黙りだ…代わりにアリナが元気よく喋りだす。


「にゃんにゃんとみゃーにゃんみつけたー!おそとくらいくらいだからママのとこにいくーって…でも…あのおじさんが、メっ!てしたー!」


アリナの説明はオナーのみを悪者呼ばわりする言い方だが的を得ている。

母親のカリナはアリナの泣き跡を見逃さない、犯人が特定されれば…


「…うちの娘を泣かせたのはお前かぁぁあクソガキ?」

「ちち違う!…違わないが違うんだ!?」


胸ぐらを掴まれるオナーは支離滅裂な言葉を発するが、もうすでに遅しでカリナの怒りを一手に浴びた。


「…シネ…」

「ごばっふ!…」


「「オナー…(です〜)」」

「「………」」


4人は、オナーの最後を見届けた。

カリナはスッキリした顔になり手を払っている。

そこにマサアキが慌てふためきながらやって来てカリナに怒る。


「何をやってるんだカリナ!こいつは冒険者じゃ無いんだぞ!?」


「えっ?」


カリナはマサアキの言葉に、意味が解らないのか気の抜けた返事になる。

マサアキはオナーに治療魔法をかけながら話しをカリナに続ける。


「こいつはバルザラス男爵だ…あと治療薬士だからものすごく弱い…」


「あちゃー!あのお坊っちゃんかい!?これまた厄介な…」


カリナは一応オナーを知っているようだ。

治療をしているマサアキは苦い顔になりカリナを見る。


「…やりすぎだ…内臓がイカれてる…わるいが治療薬士ギルドで集中治療をするから、この場を離れるぞ?」

「えっえぇ…ごめんなさいマサアキ…」


「…謝るならバルザラス男爵に言ってくれ…それじゃっ!」


マサアキはそう一言を残して治療院を後にした。

反省しているカリナにアリナが太ももに抱きついて顔を擦る。


「さむいー」


「寒いねー、ママお仕事だからにゃん達と遊んで――」

「――やー!さむいーママーさむいーさむいー!」


だだっ子アリナ降臨である…こうなってしまうと、いくら母親のカリナが言っても聞かなくなり、自分の主張が通るまでぐずりまくるのだ。

カリナはちらっとマリア達を見てため息をつく、内心「よけいな事をして…」と思いつつもアドラスを呼ぶ。


「アドラス!」


カリナに呼ばれたアドラスはすぐに来る。


「どうしたカリナ?…って!おっアリナちゃん!?」


来て早々にアリナがいる事にに驚いている。

そんなアドラスにカリナは無茶ぶりをする。


「指揮所を冒険者ギルドに移転して、報告は逐次走らせて…」


「ちょっ!…いま出来たばっかだぜ?なんでまた…」


カリナはアドラスの疑問に答えになってない答えを、娘を抱き上げながら言う。


「アリナが寒いと言うから冒険者ギルドに行くのよ?…文句ある?」


「……ないです…」


アルバードの愚痴をよく聴いていたアドラスは、逆らってはいけないと悟り身を引く。

カリナは娘を連れてきたバカ共を見て、アドラスが作った指揮所に指を指して無言で指示する。

4人は黙って何度も頷き、アドラスの手伝いに行った。


「先にギルドに行ってるわよ!」


「「「「「了解!?(です〜)」」」」」


カリナはアリナを伴い冒険者ギルドへと向かった。




指揮所を移すため冒険者ギルドにやって来たマリア達は、受付で寝ているカリナを起こさないように作業を行い、その作業を終えようとしていた。

アリナはというと留守番中のギルド男性職員の背中にのり騎士の真似事をしている…将来、男を尻に敷く女性になりそうだ…


「これからどうする?」

「解らないです〜?」

「私もです…申し訳ありません…」


「まぁユリさん達がいないのでなんとも…とりあえずオナーの見舞いに行きましょうか…」


ボルの提案に3人は渋々頷く、マリアとタマは露骨に面倒くさそうな顔をする。

そこにアドラスが会話に入って来た。


「それなら悪いがマサアキに、グリーンベリオットの調達と中和薬の調合を頼む…さっき入った情報だが、すでに治療院内は院長がいないとわかった…子供達もだ」


「それなら早く行きましょうか」

「行こう行こう!」

「治療薬士ギルドはどこですー!?」


アドラスの情報にボルが急を要すると判断して行動を開始する。

タマも続きマリアは治療薬士ギルドな場所を聞く。

その場所をミルが教えた。


「あちらです、マリアお嬢様…」

「ちかっ!」

「近いですー!」


ミルの指差す方を見て2人はシネラと同じ反応をする。


「うるさい…」


「「はい…(です〜)」」


寝ているカリナに怒られてしまった。

たぶん寝言か何かだろうが反応してしまうマリアとタマだった。




……そして現在、治療薬士ギルドに戻る。


「オナー!!」


扉を勢いよく開け放ち入って来たのはタマとミルだ。


「オナーは!?」


タマは受付にいたボルに聞く、マリアに聞かない辺りが流石である。


「マサアキさんの手伝いに行ってますよ。呼んでき――」

「――あったよ!グリーンベリオット!!」


タマはボルの言葉をぶった切り目的の物の名前を叫ぶ、ミルが何故かぐるぐる巻きにされた男性を引きずりながらボルの目の前に転がす。



「ぐげぇ!」

「この者が、「グリーンベリオットを売らない」と言うので捕らえました!」


ミルは当然のように言うので、ボルは呆れてしまう。

だが男性を見て、少し驚いたように話しかける。


「…モットーさん…ですよね?」


話しかけられたモットーという男性はボルの顔を見て安堵する。


「ああ〜!?団長さん、助かった!…あの女が無理矢理!!――」

「――すみません私の部下が手荒な真似をして、すぐにほどかせます…ミル…」


ミルはボルの言葉にすぐに反応して縄をほどく、モットーはほどかれながらボルに質問した。


「つっ!?部下かよ…っで、なんでグリーンベリオットが欲しいんだ?」


「話しが早くて助かります」

「…一応商人だからな、金の話しは早さが大事だ…」

なんだか知り合いの様な話し方をする2人に、マリアが質問する。


「この人は誰です〜?」


マリアの質問にボルが答える。


「この方は特殊なグリーンベリオットを盗まれ、同時に頭に大きなケガを負わせられ治療院に泊まっていた所、彼しかいないはずの治療院から子供の声が聞こえたらしく、怪しんだ彼は私共に通報してくださり、我々の助けになってくれた換金商の方です」


「「「なるほど〜(です〜)」」」


ボルの簡潔な説明に納得したようだ。

ついでに紹介もされたモットーは商談にはいる。


「…何に使うんだ?まぁ言わなくてもいいが…売ってもいいが金貨800枚ならいいぜ?」


「「「800枚!?」」」


その金額にマリア達は驚いている。

その法外な金額にマリアが口癖すら発しないほどだ。


「金貨800枚なんて白金貨1枚と変わらないですー!」

「騎士団の2年間分の予算と一緒では無いですか!」

「え〜と宿代が……わからん…」


3人は各々言うが、計り知れないほどの金額なのだ。

換金商のモットーは話しを続ける。


「本来、1つでも金貨200枚はする。グリーンベリオットを3枚も盗まれてんだ、しかもこの公都にあるグリーンベリオットは俺が持つ1枚だけ…負債額の補填しないとこっちもやってけないんだよ!」


商人であるが故に買い手の足元を見るしかない。

ボルはそれが解っている…


「モットーさん、実は……」


……ボルは事の経緯を話した。

モットーは度々頷きボルの話を真剣に聞く、次第に怪訝な表情になり思い出したように話しだした。


「だからか!」


「…だから、とは?」


ボルが訊ねる。


「いや、昼前に白い猫人族の子供がグリーンベリオットの話を聞いて、顔を真っ青にして何処かに走って行ったんだ!」


「シネラ姉ですですー!」

「さすがシネラ姉!」


モットーの話しにマリアとタマが反応した。

シネラが自分達よりも早く情報を集めていた事を喜んでいるようだ。

喜んでいるマリア達をよそに、ボルがモットーに願い出る。


「…それで、グリーンベリオットですが…」


モットーは右手を指を1本にして差し出した。


「100枚だ…一応俺も商人だ、タダで…とはいかないがそれでいいなら買い取ってくれ」


モットーの言葉に顔が晴れる4人、ボルは頷き書類を渡す。


「金額に、それと署名をお願いします。支払は治療薬士ギルドからになりますので、お間違えの無いように…」


「…わかった。子供達が早く良くなるといいな…」


モットーは書類に金額と名前を書く…

金額に100枚とは金貨200枚のグリーンベリオットにしては破格の値段だ、モットーは金貨700枚の負債を背負う覚悟で書類に署名した。





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