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7話:作戦はシネラから

「いててっ、すまんなマサアキ助かったぞ…」


マサアキに治療魔法をかけられ復活したアルバードは礼を言う。

マサアキは治療薬士だが治療魔法も使える治療魔法薬士なのだ。

このインデステリア王国では12人しかいない「S級授受者」様で、メルーナもその1人である。

S級と呼ばれる者達は、ギルドや学会又は国家の認定を受けた職人達が、二つ以上の組織からA級の資格をもらい、更にその組織内で副ギルドマスターや理事又は国の機関では長(団長、局長、部長)以上に就くか歴任しなければS級には成れない。

ちなみマサアキは5年前まで調薬局の局長だった。


「気にするな…話しは聞いたが、ユリさんは凄い人気だな…」


「…バカ共が、見ろ…ああやってユリを怒らすと、ねちねちと小言を言われるんだ。あれには参るだろう」


マサアキの言葉に対して違う事を答えるアルバードは、少しだけ震えながら答える。

何か昔にあったのだろうと思うマサアキだが、あえて聞かずに本題を話す。


「それで、もう動くのか?」


アルバードは立ち上がりながら答える。


「…ああ、すでに治療院には監視を送ってある…監視役からの報告が無いということは、治療院には動きが無いということだ」

「…それでは、行きましょうか…」

「…時間も無いしな…カリナ!!」


マサアキの言葉に頷きながら返答するアルバードは、カリナを呼びつけつる。

ユリ達のやり取りを観ていたカリナは抱いていたシネラとともに跳躍してアルバードの元へやって来た。


「ほわぁ〜!?」

「……起きたのアルバード?」


カリナに抱かれるシネラを見てアルバードは羨ましく思う。


「……俺にも抱っこさせろ!」

ビシッ!

「そんな場合か!?」


マサアキにツッコミを入れられるアルバードは、調薬局でのやり取りを繰り返すつもりだったようで、笑って誤魔化した。


「すまんすまん!ついな?ガハハハッ!」


「…しゃんとしてくれよ、仮にもギルマスだろうが…」


「アルバードらしくていいんじゃないか?指揮官は場を和ますのも仕事の内だ!」


呆れるマサアキに隣にいたアドラスがアルバードを擁護する。


「…アドラス――」

「アドラス!余計な事を言うな!?バカが付け上がるだけだ!」

「そうよアドラス、アルバードは空気が読めないだけよ?」


カズキに負けず劣らずの言われようである。

アドラスは「ソッ…ソーリー…」と謝り一歩下がる。

「おいおい、アドラスが可愛そうじゃねーか?」


「「(貴方の)お前のせいだろ(でしょ)!」」


アドラスを庇うアルバードにマサアキとカリナは息があったように言う。

そこにシネラを連れ去られたユリが合流した。


「カリナ、シネラちゃんを返してください」

「うりゃわ!?」


合流早々、カリナからシネラを奪い取る。

シネラはいつの間にかユリの手の中に収まっていた。


「ユリの小言が長いから預かってたんでしょ?怒られるいわれはないわー」


カリナはユリを叱るように言ってから拗ねる。


「うっ!?…そうですね、シネラちゃんを預かっていただきありがとうございました…」

「いいのよ案外楽しめたし、シネラちゃんの温もりも感じれたしね♪」


2人はすぐに和解したようだ。

やり取りを見ていたマサアキが話をきり出す。


「役者が揃ったようだ、行動に移そう…作戦はどうなってる?」


アルバードに聞きながら作戦の内容を聞く。

アルバードはアドラスに目をやり、アドラスが会話の輪に入る。


「作戦の立案をしたD級冒険者のアドラスだ!よろしく頼む…」


「D級?」


ユリはD級冒険者のアドラスに怪訝な顔をして訊ねる。

それをアルバードが簡単に説明する。


「アドラスは遠い国の特殊な部隊の隊長だったそうだ。今回の子供達の救出にあたり、その時の経験を惜しみ無く俺に話してくれた。アドラスの作戦は利にかなっているので依頼したのだ」


「特殊な部隊ね…」


まだ疑いの目を向けるユリに、マサアキが「アメリカの海兵隊だ…」と耳打ちする。

ユリは納得したように頷いた。

納得したユリを見てアルバードはアドラスに促す。


「納得したようで何よりだ…アドラス続きを頼む…」


「了解した。まず現在、神聖サフラ治療院には四方から監視をつけて動向を探らせている。加えて公都地下道の出入口周辺にも監視を付けた」


「何故、地下道?」


シネラが疑問をなげかける。

アドラスは周りで聞いているだろ冒険者達にもわかるように説明する。


「公都の地下道は出入口が6ヶ所ある。その管理は公家の者が行っているが、神聖ミナルディ皇国所属の治療院には有事の際、優先的に地下道を使う事が出来る権利を持っている。これは神聖と付く所属組織が自国に退避するために、この国と結ばれた条約なんだ」


「それじゃ…」


アドラスの説明を聞き、シネラは何かを察したようだ。

アドラスは理解が早いシネラに少し驚きつつも説明を続ける。


「凄いな…まぁ君が感じた通り、このまま治療院を包囲しても地下道を使われて逃げられてしまう…だからそれを今から行う……」

「「「えっ!?」」」


周りで聞いていた冒険者達もシネラも驚く、「逃げられるだろ!」「意味無いわ…」など様々な言葉が飛ぶがアドラスは気にしないで続ける。


「……先ほども言ったが、出入口には監視を付けている。そろそろ報告があるはずだ…」


すると一人の若い冒険者が目の前に現れた。


「報告…西南の大森林に商隊有り…」


報告しすとスッと姿を消した。

シネラはずっと固まり若い冒険者が消えた辺りを見ていた。


「ビンゴだアルバード…」

「…来たなバカ共が?」


シネラは2人のその発言にピンと来たようで話しはじめる。


「その商隊は逃げるために治療院が用意したんだね!そのために監視をつけて各出入口付近に動きがあったらそっちに誘導するために治療院を包囲して、それで治療院側の地下道と大森林側の地下道から挟み撃ちにして捕まえるんだよね!?」


完全に言い当てられたアドラスは驚愕した表情でシネラを見る。

シネラが「違うの?」と、こてんと首をかしげて言うものだからか、ユリは漏れず周りの冒険者達もその可愛さにやられる。

アドラスは我にかえりシネラの話しを肯定した。


「そっ、そうだ…本当に凄いな君は、全部言われてしまったぞ…マサアキ、このお嬢ちゃんは何処のこだ?俺の副官として――」

「「――ダメだ(です)!」」


アドラスが口にしようとした言葉に、アルバードとユリの待ったがかかる。


「シネラちゃんは『白猫の守護者』の、私の右腕です。貴方の副官なんぞにさせません!」

「そうだぞ、アドラスに預けたらシネラちゃんが軍人みたいになる。そんなシネラちゃんは見たくない!」


「おうっ!?冗談だよ、そんなに怒らないでくれ!」

「アドラス…冗談でも言わない方がいい時もある…」

怒るユリ達にビビるアドラスに、マサアキは諭すように注意する。

シネラは「右腕…右腕…」とユリに言われた言葉を何回も復唱しながら喜んでいた。

そんな作戦会議をしていた者達をよそに、カリナが手を叩きながら冒険者達に指示をする。


「ハイハイ!そんじゃぁ、監視の報告も来てシネラちゃんの説明もバッチリだったんだ。行動に移すよ!!」


「「「「「おおーー!!」」」」」


冒険者達の雄叫びが中央広場にこだまする。




大多数の者が治療院へむかう中、8名の者がアルバードに呼ばれた。

ここに居るのは、ギルマスのアルバード、ユリとシネラを含め呼ばれた8名の計11名が中央広場にいる。

カリナは治療院を包囲する冒険者の指揮に、アドラスはその副官で、マサアキは治療薬士達の指揮でカリナ達と治療院へ向かっている。


「後は…リースとベスは西広場の地下道から西南の大森林へ向かえ…」


アルバードは各2名1組で外の地下道から挟み込むようだ。

だが最後の組み合わせに不服がある2人はアルバードに抗議する。


「なんで年増なんだよ!?コリスがいい!」

「黙りなクソ鬼!こっちの方が願い下げだよ!」


コリスというのはC級冒険者の狼人族の女性で、結構可愛いがんばり屋の冒険者だ。

女ったらしのベスはこの場に呼ばれたコリスと組みたかったようだ。

だがコリスはカズキと一緒にガルデア郊外の廃坑にある地下道へ向かってしまっている。


「あんなひょろいカズキより、俺がコリスと適任だろ!」


アルバードは苛つき、怒鳴りながら言う。


「さっさと行けぇー!!バカ共がっ!!」


「「ひー!?」」


2人同時に両手を上げて走りだした。

以外と仲が良い2人は西広場へと消えていった。

モニカも呼ばれた内の1人で、ダズルートというB級冒険者の烏人族の男性の背中に乗り、西南大森林側から地下道に入るため飛び立って行った。

後はアルバードとユリとシネラの3人1組ともう1組だが…何と、メルーナが治療院側から地下道に入るようだ、その相方はその内わかるだろう…


「さて、準備はいいか?」


アルバードはシネラとユリに聞く。


「行こう!許さないんだから!」

「愚問です…ねっ、シネラちゃん?」


アルバードに返答するユリ達は「「ねえー♪」」とお互いに言い合う。

苦笑いするアルバードは「よしっ!」と気合いを入れて中央広場の中央にある時計塔に向かう。


「俺達は中央広場から地下道に入る…たぶん治療院側よりも早く奴等とかち合う可能性が高い…シネラは後衛で前衛はユリ、俺が真ん中だ…行くぞ!」

「うん!」

「はい!」


それぞれの地下道での戦いがはじまる。

ユリ達はすでにバカ2人を忘れていた…





中央広場前で馬車を降りた2人の男爵一行は周りを見渡していた。

報告では冒険者達と治療薬士が治療院を包囲していると告げられたが、途中で副官のスミルがやって来て「冒険者ギルドのギルマス達は中央広場にいる」と教えられ、直接治療院に向かうより確実にいるであろう中央広場へと来ていたのだ。


「いないです〜、スミルさんはウソつきです〜!」

「そんなこと言うなよマリア〜、スミルさんが悪いんじゃないだろー?」


マリアはスミルを嘘つき呼ばわりする。

タマはマリアの立場を理解したのか、スミルを擁護する。

マリアに嘘つき呼ばわりされたスミルは青ざめた表情で謝る。


「すすすっ!?すみませんマリアお嬢様!この命をもって、お詫びいたします!!」


スミルは短剣を抜いて首に近づける。

今にも自害しそうなスミルをタマが止める。


「…まって待って!?…マリア!!」

「許すです!」


マリアは反射的に言う。

もう馬車の中で、かれこれ数十回とやったやり取りだ…タマの「マリア!!」という言葉で反応するようになっていた。


「いい加減飽きないか?」


バルザラス男爵が呆れながら訊ねる。

タマが疲れたように答え、スミルに釘をさす。


「本当、疲れるよ…スミルさんも付き合わなくていいから…」


「いえ、マリアお嬢様のお相手に選んでいただいて光栄です!」


「さすがスミルですー!伊達に准男爵じゃないです〜!」

「ありがとうございます!マリアお嬢様の言葉を励みにし、精進いたします!」


(ダメだなこりゃ…)とタマとバルザラス男爵は思う。

バルボネ男爵ことボルドーは、ニコニコしながらその様子を眺めていた。


「…うん、スミル生き生きしていい顔になったね。そのままマリアお嬢様のお付きになればいいんじゃないかな?」


「いいんですか!?団長!」


ボルドーは冗談を言うが、スミルが本気で受けとる。

すかさずバルザラス男爵とタマが突っ込む。


「いいわけないだろう!?ボルドーもバカな事を言うな!」

「そうだよ!ユリさんに怒られるよ!?」


「…それは困りますね…スミル、今のは無しです」

「そうですか…」

「残念です〜」


ボルドーはユリの名が出てきてすぐに訂正する。

マリアとスミルはもの凄く残念そうだ。


「なあ、早く治療院へ行かないか?」

「そうだよ!早く治療院に行かないと…ってバルザラス男爵達は立場的に行けないって言ってたじゃん!?」


バルザラス男爵は皆を治療院へと急かすが、タマが同調しながら馬車内での会話を思い出して言う。


「そんなこと知らん!…いても居なくても変わらんが、ボルドー…お前達は鎧を脱げよ?」


「ふむ、そうですね…スミル、鎧を馬車に……早いですね?」


バルザラス男爵の言葉にボルドーも行くき満々のようだが、スミルはすでに鎧を脱いで冒険者らし服装に着替えていた。


「団長!早く行きましょう!!」


行く気満々で言い張るスミルにボルドーは言う。


「…団長は止めましょう、バレてしまいますので…」


それもそうだ、役名で呼べば所属がバレてしまう。

バルザラス男爵もそうだ。


「なんて呼ぶです〜?」


「そうですねぇ、マリアお嬢様が決めてくださいますか?」


ボルドーはお願いしてはいけないおバカなマリアに頼む。

マリアは意気揚々と決めていく。

「バルボネ男爵はボルドーだから、ボルですー!」

「妻と同じだね♪」


「スミルはミルです〜!」

「有りがたき幸せ!」


「バルザラス男爵は…」


ふとバルザラス男爵の名前が出てこないマリアは、一瞬だけバルザラス男爵を見て続ける。


「…オナラーです〜!」

「なんだでだよ!名前と関係無いだろ!?」


「カリカリするなって、マリア…可愛そうだからオナーにしとこう…オナーよろしく〜」

「いいです〜!よろしくですーオナー♪」


納得しないバルザラス男爵改め、オナラー改め、オナーは突っ込む者が自分しか居なくなり項垂れる。


「もう治療院に行こう…」


と呟き哀愁を漂わせながらトボトボと歩いて行く。

そのあとを鎧を脱いで着替えたボルとマリア達が楽しそうに付いていくのだった…






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