6話:冒険者達の広場
中央広場の一画に集まる武器を携えた冒険者達の集団は、副ギルドマスターのカリナの説明を聞いてギルドマスターのアルバード達を待っていた。
「やっと「爆雷の双魔剣士」に会えるな!」
「…伝説の美少女…めっちゃ美人だろうなぁ」
「ユリ様に会える…キャー!」
カリナの説明を聞いてユリが来ることを知った冒険者達は、皆すでに有頂天だ。
10年前のユリの武勇伝を知る者達はユリを知らない世代の冒険者達に、如何に彼女が凄かったのかを話を盛りつつよく聴かせていたようだ。
おもにギルドマスターのアルバードが、新人達のやる気を上げるために話したことだが…
「ユリさんは人気ッスね〜」
「…あんたも同じ様なもんだったろ…」
しらけたように言うベスに、日本刀のような物を携え長い髪を後ろでまとめている青年が聞く。
ベスはため息を吐いてから答える。
「…はぁ〜、1週間前ならあいつ等と一緒だったけどさぁ…今はなぁ〜」
「毎朝ユリさん達と一緒に、マリちゃんの稽古をつけてあげてるんだろ?…まぁ、毎日話を聞いてるからわからなくも無いけで…」
「だろ!カズキならわかってくれるよな!?今朝だって――」
日本刀を携えた冒険者のカズキはベスの数少ない理解者で、女好きのベスがもつ数少ない男友達だ。
「――キモいんだよ…クソ鬼…」
目の前に白銀の髪を手で払い、燃えるような真っ赤な目をした目付きのキツい女性冒険者が現れた。
「っんだよ!?年増!!」
「やんのかい!?焼き鬼ぎりにしてやんよ!!」
「まあまあ、落ち着いて…そろそろギルマス達も来るから…ねっ?リースも杖を仕舞って?」
一触即発の2人を何とか宥めるカズキ、リースと呼ばれる女性は渋々ながら杖を仕舞う。
「ベスも、手を開いて構えを解いて…」
「…へいへい、カズキが言うなら従うわ〜」
ベスも構えを解いてだらけながらカズキの言うことをきくが、また一言余計なことを言う。
「年上のリーマリャスさんが喧嘩ふっかけきたんだから、俺は悪くないもんね〜」
「ふん!年下のクセに生意気な態度が気に食わないのさっ!」
また喧嘩が再熱しそうな雰囲気になり、カズキは近くで観ていたモニカに目線を送る。
モニカはカズキの物言わぬ視線を感じ取りベス達に近づく。
「…そろそろ終わりよ、ユリさんが来たらこの事言うから…リース、わかってるでしょ?」
「さーせんでした!」
「うぅ…それだけは…」
モニカの脅迫にベスはすぐさま謝る。
リースは過去の記憶からか、顔面蒼白だ…
「…同じ弟子同士、言いたくは無いけど…ユリさんを困らせてはいけないと思うわよ?」
「…仰る通りです…」
リースはモニカと同じでユリの弟子だった。
当時のユリに怒られる恐怖を知る数少ない者だ…
「ユリさんって、そんなに恐いんですか?」
唯一被害に遭ってないカズキが寝ぼけたことを聞いてくる。
被害者の会の3人はカズキの発言に激しく憤慨する。
「アメと鞭の比率だと9割が鞭よ!ほぼ鞭なのよ!?」
「下の毛も生えてない小僧が!私が髪も生えないように燃やしてやろう!」
「お前も殺られろ!」
「ひぃ!?」
酷い言われようだ…
だが被害者の会3人だけではない、マリアとマリも含めて5人になる。
「マリちゃんが今のを聞いたら…カズキのあそこをもぎるだろうな…」
「嫌だよ!マリちゃんはそんな子じゃないでしょ!?」
「…マリアもカズキ君の…そうねぇ、鼻にパンを詰めるわね!」
「なんで!?しかもパン!」
カズキは、ベスとモニカの言葉にツッコミを入れる。
「なにそれ?新しい食べ方?」
リースはモニカが言った「鼻にパン」の事が気になったようだ。
「それはね、今朝だけど……」
……モニカは今朝の出来事を詳しく話す。
それを聞いたベスとリースは、お腹を抱えて笑いだす。
「あはははっ!なんだそれ、マジでうけるわ!?」
「マリアもアホだけど、タマも大概アホね!?あー面白い!」
「マリちゃん…可愛そうに、歯が無くなるなんて…」
ひとりタマの心配をするカズキに、モニカは呆れたように言う。
「はぁ〜、タマは獣人なんだから歯なんてすぐに生えるわよ?カズキ君知らないの…」
「えっ?そうなの、知らなかったよ!」
カズキは初めて知ったようだ。
すると冒険者達が集まる中央広場が黄色い歓声に包まれる。
「キャー!?ユリ様ー!」
「ユリさん!こっち向いてー!」
「めっちゃ美人だー!?」
「爆雷の双魔剣士キター!!」
「今度!手合わせくださーい!」
「握手してー!!」
ユリ達が中央広場に着いみたいで、ギルマスのアルバードが先頭を歩きながらユリへの取り巻きを蹴散らしている。
「どけぇ!邪魔だと言っているだろ!?」
いかに元A級冒険者と言えど10数人ほど蹴散らしてからは、暴徒化した冒険者達になす統べなく踏み潰されて姿が見えなくなった。
守りが無くなったユリは、ユリにしがみつき狂気に満ちた冒険者達に恐怖するシネラを守るため声を張りあげた。
「静まりなさい!!」
恐ろしいくらいの大声で、冒険者だけでなく中央広場にいた市民も黙る。
「何ですかあなた達は!「緊急召集中は気を引き締め、指示がいつでも受けれるよう万全の準備をする」と書先輩方から教わらなかったのですか!?」
「「「「………」」」」
暴徒化した冒険者達はぐうの音も出ない。
ユリはシネラを冒険者達に見える高さまで持ち上げながら話しを続ける。
「仮にも冒険者なら場をわきまえて行動しなさい!見なさい!シネラちゃんが怖がっているではないですか!?ケガをしたら責任を取れるのですか?あなた達の命で釣り合うとお思いですか?」
「…すみません…」
「…かわいい…」
「ごめんなさい…」
「すみませんでした…」
「かわいい…」
「ユリ様、すみませんでした…」
「ネコかわいい…」
「ごめんな、ちっちゃいの…」
冒険者達は各々謝罪する…数名ほど、ユリに持ち上げられたシネラに目を奪われたようだ…
その目線に耐え兼ねたシネラはユリの手の中で暴れる。
「うぬぬっ!?うおおぉ!うやぁー!?うがぁー!!」
「…ご覧なさい、シネラちゃんも怒っています…」
シネラが暴れたところでユリの腕力には勝てなかった。
むしろシネラが暴れているのは、怒っていると勘違いしての発言をする。
それを少しだけ離れて観ていたモニカ達は、高みの見物とばかりにシネラとユリを観賞している。
「シネラちゃんが吠えてるわね…」
「ネコだから唸って威嚇してんだろ?」
モニカとベスはシネラの行動をユリと同じ様な考えで解釈したようだ。
「あの子がシネラなんだぁ…小猫族?猫人族の子供じゃない…」
「白猫って彼女の事だったんだな…かわいい子だな」
リースとカズキは初めて見たシネラの容姿が気になったようで、暴れるシネラを観察する。
今までは、カズキはベスにリースはモニカづてで聞いていただけだった。
ちなみカズキはマリアにもタマにも会った事がない。
「カズキ〜気をつけろよ?シネラちゃんに手〜出したら、ユリさんに殺されるぞ?」
「なっ!?僕はロリコンじゃないよ!」
「…んぁ?ロリコン?なにいってんだ…」
ニヤケ顔のベスにからかわれ、それを否定する。
ベスはロリコンを知らないようだ。
「…ロリコン…」
「…ロリカズ君…」
ユリと付き合いが長い女子ふたりは軽蔑の眼差しでカズキをみる。
モニカに至ってはアダ名呼びだ。
「カズキは、あい変わらずいじられてるのかい?」
4人のところにカリナがやって来た。
カズキは「よかったぁ〜」と助けが来たと思い安堵する。
「いじってません、事実を述べました」
「忙しい中きたんだからそれくらいいいだろ?」
2人は自身の正当性を主張する。
「…うん、まあカズキ君が幼い子供を愛でても害は無いだろうね…リースも魔法士の活動が優先なのに来てくれてありがとう」
カリナはカズキを見ながら話し、その隣のリースに感謝をのべる。
「モニカが泣きついてきたから、来ただけよ…気にしな――」
リースの言葉にモニカが割って入る。
「――泣きついて無いでしょ!?お願いしたら「ユリさんに会える♪」ってはしゃいでたのは何処の誰ですか?」
「うるさい!モニカは毎日会ってるクセに、ユリさんが復帰してから一度も私に連絡が無いし、知ったのさっきだし!」
実力のある冒険者達の喧嘩は、大抵が言い争いになる事が多い…それは武器を用いて戦えば、その周辺の被害が尋常ではないからだ。
かといって女性の喧嘩は武器こそ使わないが、取っ組み合いにまで発展する。モニカ達も類に漏れず取っ組み合いの喧嘩になった。
「うっ!、この百合野郎!」
「黙れ!年増の未婚者がぁ!!」
「言ったなぁ!このっ!?くそっ!」
「くっ!?ボケカスッ!いりゃ!!」
もう収集が着かないくなった…モニカの大剣とリースの杖はベスとカズキが即座に預かり、カリナはカズキとベスに向け「何とかしろ…」と目で指示する。
それを感じ取った2人は「「ムリです!」」と目を返して訴えた。
「ツンデレ冒険者がっ!おりゃー!」
「くっ!?若作りの行き遅れババアっ!!」
ユリの弟子同士の終わりなき壮絶な闘いが続…こうとしていたが、カリナの横に人影が近づく。
「副ギルドマスターお疲れさまです……バカ弟子達は何を?」
「ユリ…まぁ、喧嘩?かな…昔みたいに止めてくれるかしら?」
ユリ達は冒険者達の暴動が収まり、現在ギルマスのアルバードがのびているので冒険者ギルドの次級者であるカリナを探してこちらにやって来たようだ。
ユリはカリナの説明を聞き呆れるが、即座にバカ弟子達に近づき同時とも見える一撃を溝うちに入れる。
「「うげっ!?」」
2人仲良くお腹を押さえ涙目になりながらユリを見る。
「「…ユ・リ・ざ・ん!?」」
「…あなた達、何をしているのですか?緊急召集中は……」
ユリの説教が始まった…
ガミガミと小言を言われる2人は反論はしない、言い訳をすると2倍3倍になって返ってくるのだ。
「……まったく、何時までも子供のような考え………ベス!貴方も来なさい!」
「!?なんで俺も…こいつらが勝手に…」
「言い訳はいりません、近くにいて止めない者も同罪です。来なさい!」
ユリに見つかってしまったベスは「そんな〜!?」と言いながらユリに首根っこを掴まれモニカの隣に並ばされる。
何故かベスがカズキの腕を引っ張り一緒に並ばせる。
「…貴方は?」
「かっ!?カズキと言います!」
「カズキも一緒にいたから同罪だろ!」
カズキはユリの迫力にビビりながら答え、ベスはカズキを巻き込もうとする。
「…そうなの?」
カズキはユリの言葉に激しく首を横に振る。
並ばされている3人は各々がカズキを引き込もうと喋りだす。
「カズキ!お前、男だろチ○コついてんのか!?」
「男のクセに髪なんか伸ばして、恥を知れ!」
「ロリカズ君だけ助かろうとするの?シネラちゃんに見とれてたクセに!」
「見とれてた?」
「なんで悪口ばっかなんだよ!?…モニカさん、それは言い方がおかしい!?かわいいとは言ったけどそこまででは無い!!」
「…そこまででは無い?」
ユリはモニカとカズキが最後に言った言葉を聞き逃さなかった。
カズキは激しく抗議するがユリの地雷を踏んだ…
「ロリカズ君…貴方も並びなさい…」
「…そっそんなぁ〜!?」
ガズキも巻き込んだユリの説教は治療薬士ギルドが来るまで続けられた。
終盤はシネラの可愛さを説くユリにシネラが赤面しながら止めようとするが、面白がったカリナに無理矢理止められ聞く羽目になっていた。
「…なんだ!?こんな時に笑ってるとは…冒険者は頭がおかしいのか!?」
治療薬士ギルドの副ギルドマスターのマサアキは中央広場に到着するなり、その異様な光景に憤慨する。
「…統率が取れた騎士団と違い、冒険者は荒くね者が多いので好き勝手しているのだろう…」
マサアキの隣で冒険者達を観ているエメラルド色の鎧に身を包んだ女性が、明らかに軽蔑の眼差しで冒険者達を見て言う。
「…フォール副団長、何故ここに?バルボネ団長が「公城にて待機」と言ってたと思いますが?」
「ふん、団長はどうせ「スミルは来ると思ったよ…」と言うに違いありません、もしもの場合を想定して団長を補佐するのも私の勤めなのです!」
マサアキの質問にスミルという女性は堂々とした態度で答える。
マサアキは諦めたようで、「ボルドーも大変だな…」と呟きアルバードに着いた事を報告するため笑い声の渦巻く冒険者達のたまり場に足を進める。
「すまないが、アルバードはどこだ?」
「あぁ?…なんだよマサアキさんか、さっきまで居たんだけど…」
マサアキは、見覚えのある冒険者に話しかけるがアルバードは何処かに消えたようだ。
他の冒険者も同じ様な事を言っていたが、突然肩を叩かれた。
「よっ!マサアキさんよ、どうかしたか?誰か探してるのかい?」
叩いた男性冒険者を見てマサアキは安堵した。
「ああ、アドラスか助かった。…皆、アルバードの行方を知らなくてな…困っていたんだ」
「っんだよ!アルバードならあそこでのびてるぜ!来いよ!」
アドラスという男性はすぐに事情を把握しマサアキを案内する。
このアドラスという男性冒険者はマサアキと同じ転移者だが、日本人では無くアメリカ人で、ラトゥールに来たのは2年前だ。
ラトゥールに来て右も左もわからないアドラスをメルーナが助けたのがきっかけで、マサアキが色々と世話を妬いてあげたのだ。
そんな事もあり、アドラスはマサアキ達に信頼を寄せていて、冒険者になってしまったアドラスだが、マサアキ達も同じように信頼できる友人だと思っている。
「…ありがとう…どうだ?冒険者は大変だろう」
「いいってことよ!ああ、来月中にはC級に上がるための依頼件数を達成するから、半年間後のC級試験に余裕で受けれるわ!」
マサアキは冒険者活動で忙しいアドラスと会話ができ嬉しくなる。
こんな時だが、久しぶりに会う友人と会話をしながらアルバードの元へ向かった。