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3話:2人の少女と男爵

「ったく…この忙しい時に何なんだ…」


「仕方がないでしょうな…伯爵家のご令嬢が来られたのですから…」


馬車に揺られイライラする青髪の男性と、その前に座りイラついている男性をなだめる壮年の男性は自分の邸へと向かっていた。


「元はといえばケインの部下の不始末だろ!?」


「バルザラス男爵家の衛兵ならびに使用人の不始末は、家長自らとるのが貴族の習わしでは?」


青髪の男性は火に油を注いだように更にイライラする。


「…それに、ご令嬢はご機嫌だと伝令から聞いており、テトリーナ様が上手くもてなしていると思いますぞ」


「ふん…当たり前だ!侯爵家の私がわざわざバルザラス男爵に婿に入ってやったんだ。その妻が愚妻ではやってられんわ!

ヤツはたいして何も出来ないのだからな!」


ご令嬢の機嫌が良いとわかるなり、自分の妻を罵る。

このバルザラス男爵という男はイライラすると妻に八つ当たりをして発散するクソ貴族で、侯爵家三男だというプライドが高い貴族らしい貴族だ。

そこに使えるケインは長年侯爵家に仕える騎士でありながら、コリアノール侯爵より三男マギルスの身辺護衛を命じられ、バルザラス男爵家の警備を任されいる。


「…そろそろ着きますな、ご令嬢へ失礼の無いように……」

「何度も言うな!たかが伯爵家だ。さっさと話を聞いて公城に戻る!」


マギルスはケインの言葉を一蹴し自分の仕事を優先したい言いぐさだ。

ケインは再度なだめながら話す。


「スティフォール伯爵家です…何かがあってからでは困ります…後ろには――」


「――ガルフォール公爵だろう?…わかっておる…落ち着いて対処しようではないか、今目をつけられたらこの計画は失敗する…」


馬車はマギルスの邸バルザラス男爵邸へと着く、マギルスが馬車から降りケインは後ろで聞こえないくらいの声でその後ろ姿に声をかける。


「…よろしくお願いいたします…マギルス様……」




バルザラス男爵邸の応接間で本日4回目のお菓子をお代わりを食べているバカ2人は、テトリーナ夫人のもてなしを遠慮なくいただいていた。

そこに使用人の女性がテトリーナに耳打ちをして部屋をでていく、テトリーナは安堵の表情を浮かべマリアとタマに話しかけた。


「マリアお嬢様、マリさん…主人が戻られたようです」


お菓子を食べる手を止めて姿勢を正すマリア…

タマもマリアの真似をしてきちんと座り直す。


ガチャッ


「おお!よくぞ参られましたなマリアお嬢様、お待たせして申し訳ない!」


青髪でまだ年若い青年といった感じの爽やかな男性が入ってきてマリア達に貴族の礼をする。

マリアは席を立ち貴族の礼をする。


「お久しぶりでごさいます。バルザラス男爵様…わたくしの「成人の義」以来でごさいますね」


ユリの教育の賜物だろう…服装は冒険者そのものだが、美しく可憐に男爵へ返礼する。


「いやはや、伯爵家ご令嬢のマリア様が私などに様付けはよしてください。男爵でよろしいですよ?」

様付けされたバルザラス男爵は恐縮するように言う。


「…ではその様に…」


マリアは男爵の提案を受け入れ頷く。


「…ありがとうございます…どうぞお座りになってください……そちらのお嬢さんは?」


着席を促す男爵は猫人族の少女に目がいく。

タマが自己紹介をしようするが、それをマリアが遮り紹介する。


「私は――」

「――彼女は冒険者のマリです。今は私達と同行して依頼を行っていただいてます」


ユリ顔負けの簡潔な説明に普段のマリアを知るタマは絶句した。


「そうですか…」


男爵は冒険者と聞いて、タマに興味を無くしたようだ。

マリアは絶句したタマを座らせて男爵に向かい合う。


「それで、依頼内容ですが……」

「申し訳ないですがマリア様…私は依頼を出していないのです」


「「「えっ!!」」」


男爵以外の皆が驚く…

それもそうだ、元々依頼主はバルザラス男爵ではなくバルボネ男爵からの依頼なのだから……


「そそそんなぁです〜…確かに子供の捜索依頼が来てたです〜!」


あまりのショックにマリアの話し方が元に戻ってしまう。

バルザラス男爵は公城を出る前にケインから教えられた依頼の件を知っていて、それは嘘でもしかしたら自分達の計画が洩れて、探りを入れられたのではないかと思っていた。

だが違う様だ、マリアを見るが嘘をついてるようにも見えず。

テトリーナやタマも驚きすぎて固まっている…

これが演技であれば大したものだ。


「じゃじゃぁ間違えたです〜!?どうしようです〜…」

「わわっわからないよー!」

「タマが間違えたです〜!」

「マリアもバルザラス男爵だって言ってたじゃん!!」


依頼主を間違えたマリア達は慌て始め言い争いをする。

2人をオロオロしながら止めようてするテトリーナ、少しだけ安堵の表情を浮かべたバルザラス男爵は2人に本当の依頼主を教える。


「本当の依頼主は、バルボネ男爵ですね――」


2人は言い争いを止めてバルザラス男爵の話を聞く。


「――5日前ほどから行方不明となっていて騎士団も捜索に出ていますが、まだ見つかっていないそうです…」


「それですー!」

「それじゃん!」


バルザラス男爵の情報に喜ぶ2人、バルザラス男爵も自分達の件に関係無いものと判断してマリア達に提案する。


「…では私は公城に戻りますが、バルボネ男爵家の邸はその道中にあります。よろしければお送りしますよ?」


なんとも男前な事を言う御仁なんだと2人が思ったのかは定かではないが、二つ返事で提案をのむ。


「「お願いします(です〜)♪」」


その返事に笑顔で答えるバルザラス男爵。

ここで伯爵家のご令嬢に恩を売っておけば後々の自分達の計画には良い…

バルザラス男爵はマリア達を馬車へ乗せ、バルボネ男爵家へと向かった。





バルボネ男爵邸の自室でトリスティアは泣いていた…


『最悪の事態を想定して動きます。トリスティアはバルボネ男爵にこの事をを伝えて、私達は冒険者ギルドへ行き人手を集めたたら、治療薬士ギルドにも動いてもらうよう要請してきます』


ユリ達はそう言い残して邸を飛び出して行った。

もう5日も経っている…今日で6日目になるのだ、しかも2日前にグリーンベリオット盗難、もう子供達は助からないのでは、と思ってしまう……


すると自室の扉をノックする使用人が告げる。


「トリスティア様、バルザラス男爵様とスティフォール伯爵家ご令嬢のマリアお嬢様がご来邸です…いかがなさいましょうか?」


「えっ!男爵?伯爵家!?」


トリスティアは驚き顔を上げる。


「…何故こんな時にバルザラス男爵が?…しかもスティフォール伯爵家のご令嬢……でも会わない訳には行きませんし……」


子供達だけでも心配すぎて胸が張り裂けそうなのだが、ご来邸あらば会うしかない…

トリスティアはユリ達がいた応接間とは別の応接間に通すよう使用人に命じる。


「もうこれ以上…悪い話が無いように……」


そう言葉に出し、祈りながら応接間に足を運ぶ。


応接間に入るとバルザラス男爵と2人の少女がいた。


「バルザラス男爵様ご無沙汰しております……え〜、マリアお嬢様…でよろしいでしょうか?」


「マリアでいいです〜♪」

「私はマリです!こんにちは!!」


マリアとタマは元気よくトリスティアに挨拶をする。

バルザラス男爵は会釈するだけですぐに椅子へ座る。


「主人は、そろそろ戻ると思うのでお茶でも――」

「――いやお茶は良い、依頼の内容を先に言ってくれ……一応、同じ貴族として心配なんでな、何か力に成れるかもしれん…」

バルザラス男爵はトリスティアのもてなしを断り、貴族らしい建前を述べる。

マリア達も同調して続く。


「ですです〜、依頼内容を教えて欲しいです〜」

「男爵様はいい人だから大丈夫だよ!プライドの高いナルシストだけど!」


「…っ!余計な事を言うな!まったくっ……」


まるで接点の無い3人だが、何故か仲が良さそうな感じだ。

訳が変わらないトリスティアはバルザラス男爵に依頼の件を伺う。


「バルザラス男爵様…依頼はすでに受諾され、今動いてもらっています…」


「うむ、知っている。この娘達のパーティーらしいな?」


「おふたりのパーティー?」


きょとんとするトリスティアにタマが説明する。

ユリ達に置いてきぼりにされた事…

名前を間違えてバルザラス男爵の所に行った事…

馬車の中でバルザラス男爵が屁をした事…

最後は余計な事だったのでバルザラス男爵が怒ったが、マリアがつぼって笑っていたのでそれ以上は怒られなかった。


「…そうですか…今ユリさんは冒険者ギルドと治療薬士ギルドに行っていますので…また戻ってくると言ってましたので――」

「――待ちたまえトリスティア夫人、治療薬士ギルドが何故出てくる?…捜索なら冒険者達だけの方がいいだろう、治療薬士など足手まといにしかならんぞ?」


トリスティアの話しに口を挟んだバルザラス男爵は、治療薬士がいかに冒険者より劣っているかわかっている。

だが、トリスティアは言いづらそうにバルザラス男爵に伝える。


「実は…治療薬士ギルドに行った理由ですが……薬草や治療薬を買い占めている者がいまして…」


思いあたる節があるバルザラス男爵は額に汗がにじむ。


「公都の治療士が病気の双子の兄妹を治療しているらしく、それに使用されているのではないかと推測しまして……」


全て思いあたるバルザラス男爵は滝の様な汗が流れ始める。


「その双子の兄妹が私達の子供ではないかと……そしてグリーンベリオットを使い人体実験を行っていると考えに至りました。ですので――」


「――待て待て…グリーンベリオット?なっ何故そんな物が……」


冷静さを失いそうになっていたバルザラス男爵はグリーンベリオットと聞いて驚きを隠せないでいた。


「はい、2日前ほど換金商のグリーンベリオットが盗まれたらしく、そのグリーンベリオットは特別な物で……使用された者は廃人になるほどの物らしいのです……」


ドンッ!


バルザラス男爵はテーブルを両手で叩き、大声で叫ぶ。


「私はそんな指示をしていない!」


いきなり叫びだすバルザラス男爵に、3人は驚き固まる。

何故かタマがその言葉の意味を質問した。


「なんで男爵が怒るの?誘拐したのは男爵?もしかして実験も?」


タマの質問に黙るバルザラス男爵は、他の2人の目線が自分を疑う様な目をしているのを感じて、落ち着きを取り戻すように椅子に座り直し話し始める。


「誘拐はしていない…バルボネ男爵家の子供は私達とは関わっていない…はずだ」


男爵の言葉にマリアが口を挟む。


「じゃぁ他の子供は関係あるです〜?」


男爵はマリアの言葉に頷く。


「あぁ、双子の兄弟をな…」


「「兄弟?」」


トリスティアとタマの同じ疑問が重なる。


「そうだ、ケインの息子達が病気なのだ……原因が解らない…子供達の命も薬で延命しているほど弱っている……少しだけしか治療薬も薬草も効かないのだ。だから買い占めていた……」


トリスティアは男爵の言葉に何故だか引っ掛かりを感じた。

原因が解らないのに薬を投与して、しかも効果がない…

なのに薬草や治療薬を買い占める…

買い占める意味は無いのではと思った。

病気の原因が解らないなら病状は解るはずだ。


「バルザラス男爵様、その子供達の病状は?」


「…幻覚と魔力異常だ……しかも魔力欠乏激しい、治療魔法が効かない……」


「………」


男爵の説明に今度はトリスティアが黙り込む。

マリアとタマは話しについて行けずにいる。

バルザラス男爵は独り言のように呟いた。


「…かすり傷も治らず、目の霞みも無くならない…魔力異常さえなんとか…薬がダメなら、もう……」


「……バルザラス男爵様、今なんと?」


黙り込んでいたトリスティアが口を開き、男爵の独り言を再度聞きく。


「ん?…かすり傷も治らず、目が霞むと言ったが…それがどうかしたか?」


「…私の子供達が行方不明になる前日に…かすり傷を作り治療院に行きましたが治らず、邸に帰るとめまいがすると言ってました…何か関係があるのかと思って…」


トリスティアの話しにバルザラス男爵は険しい表情になる。


「どこの治療院だ?」

「え?」


「…どこの治療院だと聞いている」


「はっはい!神聖サフラ治療院です」


男爵は「やはり」と呟きトリスティアの目を見て、怒りに満ちた声で話し始める。


「よく聞けトリスティア夫人…ケインの息子達の他に8人ほどを、私達が預かり治療をしている……だが、バルボネ男爵家の子供達を調薬局では治療をしいてない…

私の推測では調薬局にいる10人以外にも、その症状がある子供達がいると考えている。

…調薬局にいる子供達全員がその神聖サフラ治療院で一度治療を受けている。

間違いなく治療院で何かされたのだと思うが……」

途中で言葉が切れる男爵…

トリスティア夫人とバルザラス男爵は、何処かやりきれない表情になる。

黙ってやりとりを聞いていたマリアだが…


「神聖ミナルディ皇国など関係無いです〜!そのサーモン治療院に討ち入りするですー!」


聖サフラ治療院は「神聖」がつくとおり「神聖ミナルディ皇国」運営の治療院を指しており、インデステリア王国が監督する治療院とは別なのだ。

マリアも知ってはいる様だが、突拍子のない事を言っている…

今、神聖サフラ治療院に本国の許可無く子供の捜索に入れば、国同士の戦争に発展するほどのデリケートな問題なのだ。

今にも治療院へ行きそうな勢いのマリアをタマ達が止めにはいる。


「待てよマリアっ!?」

「バカな事を言うな!?戦争を起こす気か!!」

「マリアお嬢様!?落ち着いてください!私達では――」


「――放すですー!?絶対サーモン治療院が黒幕ですー!」


以外に鍛え上げられたマリアを3人は必死に止めようと奮闘している。

すると応接間の扉が勢いよく開き、バルボネ男爵家の衛兵が飛び込んできた。


「トリスティア様!!「白猫の守護者」ユリ様達と冒険者ギルドならびに治療薬士ギルドが、神聖サフラ治療院を包囲しており。

神聖サフラ治療院は籠城の構えをとって、全面攻勢のようです!!」


4人の知らぬ所で事態が思わぬ方向へと進んでいた。

解放されたマリアは得意気に「さすがユリです〜♪」と勝ち誇り、タマが「はいはい…あとサフラだから…」と適度に流す。トリスティア夫人とバルザラス男爵は急な事態に頭が追いつかず、思考が停止していた。

そんな4人に、衛兵の後ろから立派な鎧をきた男性が現れた。


「ボル!」

「ボルドー!?」


「んっ?調薬局長殿もいらっしゃいましたか…ちょうどよかったです。

今から神聖サフラ治療院に向かう所でして、ユリさんに「バカ2人を連れて来いと」言われまして…一緒に行かれますか?」


イケメンすぎる鎧の男性は、トリスティア夫人の旦那様でボルドー・バルボネである。

バルザラス男爵はまぁ当然の如く呼び捨てだ。


「バカじゃ無いです〜!」

「バカはマリアだけだよ!」


バカ2人は、ボルドー・バルボネ男爵の発言に抗議する。

ボルドーは苦笑いをしながら頬を掻いて話を続ける。


「…あはは…かわいらしいお嬢さんだね。

まぁユリさんの命令だから一緒に行くよ?

トリスティア!行ってくる…」


可愛いと褒められたバカ2人は満更でもない様子だ。

トリスティアは涙を浮かべながら頷く…

そんなトリスティアにボルドーは近づき抱きしめた。


「大丈夫…必ず子供達と一緒に帰ってくるから…」


と落ち着かせるように言い、口づけをする。

バカ2人が食い入るように見つめ、バルザラス男爵が咳払いをする。


「うっう゛ん…ボルドー、時間が無いのでは?」


バルザラス男爵の咳払いにも動じず、しっかりとトリスティアの唇を堪能してから離れたボルドーは、バルザラス男爵達の方へ向き直る。


「さあ!時間も無いのでいきましょう!」


「私が言った事だろう!」

「いくです〜!」

「カリカリするなよ男爵様…」


「皆さま、お気をつけて!…」



トリスティアが4人を見送り、ボルドーとマリアのマイペースさに苛立つバルザラス男爵とそれをからかうタマは神聖サフラ治療院へと向かった。






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