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1話:運命と白猫の守護者達

インデステリア王国第2の都市「公都ガルデア」

そこにある冒険者ギルド内の地下訓練場を、毎朝決まった時間に使用する、今ちまたで噂の冒険者パーティーが居た。


「そこは、こうです!何度も言ったでしょう!」

「はい!」


白髪の幼女が教官らしき女性に、双剣型を何度も注意される。


「回転と足運びが遅い!」

「うっ!?…はい!」


赤髪の少女はガタイの良い男性に足を払われ、すぐに立ち上がり拳を握る。


「…論外。訓練場3周して来なさい…」

「またです〜!」

「はやく行きなさい!!」


怒鳴られた金髪の少女は一目散に訓練場を走り出し、教えていた女性は白髪の幼女を教えている女性教官の所へ向かい愚痴を言う。


「…ユリさん、マリアは地力が足りない?それとも型が不完全なの…」


「…いえ、型は大丈夫でしょう。まずはモニカについていける体力はまだ無いので、走らせた後はまた負荷をかけてあげて…」


「…わかった…」


モニカは釈然としないが頷き元の位置へ戻って行く。

彼女は教えると言うより、叩きのめす事をしてきたので教えるのが苦手だ。

ため息をつくユリに男性の教官が寄ってくる。

教えていた少女は打ちのめされてのびているようだ。


「やり過ぎたわ!はははっ!」


「ベス…訓練にならないから手加減を覚えなさい…」


男性はベスという鬼人族の青年で、拳闘士でありB級冒険者だ。


「いや〜、マリちゃん素早いんだけどさぁ、打つときに止まっちゃうしフェイント引っ掛かり過ぎだし〜♪」


鬼人族は、まじめで堅実であり礼儀を重んじる種族なのだが…ベスはまるで真逆の性格なので、チャラチャラしていて礼儀など無い、誰に対してもタメ口をきくので鬼人族の中では異色の青年だ。


ユリは額に血管が浮かび、思わずベスのこめかみを掴みギシギシと力をこめる。


「ぎゃぁー!痛いイタイー!?」

「…まじめにやれ…インデス洋に沈めますよ?」

「はい!?やります!やりますので放して!」


ドスの効いたユリの言葉にビビりながら即答し解放されるベスは、すぐにマリの元へむかって行った。


「…ユリさん、六ノ型を見てもらえますか?」


「…いいでしょう、始めてください」


ユリの開始の合図で2つの短剣を構え型を始める。

だが最後のところで足の運びが間に合わず転びそうになる。


「うっ!?…まただぁ……」


失敗してうな垂れてしまう少女にユリは頭を撫でながら誉める。


「いいえ、シネラちゃんの剣筋はだいぶよくなってますよ。最後はもう少し踏み込みを短くして、コンパクトにしてみてください」


「うん!」


ユリに誉められ嬉しさが溢れる白猫の幼女シネラ、ユリは撫でている手を外し魔器時計を見る…そろそろ朝食を取らなければ依頼に遅れてしまう時間になっていた。


「今日の訓練は終わりにしましょう…みんなさん!こちらに集まってください…」


ユリのかけ声に皆が反応し集まってくる。


「…今日もタマはのびてるの?」


シネラがベスに担がれてやって来たマリ(タマ)の尻尾を引っ張りながら話す。


「ベスが手加減を覚えてくれれば、タマも強くなるのですがね?」


「へーい」


嫌味を言うユリにヤル気の無い返事をするベス、その返事にユリの殺気が漏れでると「ヤバイ!」と言いながらタマを投げ捨て一瞬で訓練場から姿を消した。

タマの亡骸はシネラが受け止め…きれずに顔面から地面に激突した…


「タマー!」

「逃げられましたね…」

「またです〜」

「……バカね〜」


タマを心配するのはシネラだけで、他の者はベスに呆れる。


「う〜ん…なんか鉄の味がー……」


さっきの衝撃で目を覚ましたタマはふらふらと立ち上がる。

シネラがタマの顔を見て絶句した。


「…あ……あぁあ…あわわ…」

「うん?どうしたのシネラ姉?」


あわあわしているシネラに他の3人も気付く。


「…あら…」

「見事なものね」

「うけるです〜」


「えっ?なになに?……げっ!?鼻血!!」


鼻血を拭うタマに、シネラは小さな鏡を渡す。

「鏡?」と呟きながら受け取り自分の顔を写すと…


「…前歯…うう上の前歯が……」


上の前歯が二本折れて無くなっていた…


「綺麗に2本いきましたね」

「ぷーです〜♪」

「獣人だから生え替えるでしょ…」

「ごめんね、受け止めきれなくて……」


もはや他人事の様にシネラ以外は言葉を発する。情の欠片もない…

シネラは謝っているが、タマもうら若き乙女だ、前歯が無くなればショックは大きい。


「…な…なんで……なんで前歯が無いのよーーーー……」


魂の咆哮を叫び、訓練場にこだまする。

その悲痛な叫びは外には漏れでることはないが、他の者にも響くことはなかった…




ユリ達は朝食を取るため、冒険者ギルド2階の食堂に来ていた。

いまだに「無い…お嫁に行けない…」と泣き続けるタマ…

タマをなだめ続けているシネラは端から見ると、泣く姉をあやす妹の様に見える。


「これを使うです〜!」


マリアがパンを丸めて前歯の形にした前歯2本?をタマに差し出す。

タマはせれを受け取りシネラに鏡を催促して「ぷすりぷすり」と指してみる。

「ぴったりじゃん!」

「ぴったりです〜♪」


ぴったりハマった新しい歯に、喜ぶタマとマリア…

ユリとシネラはバカを見る様な目を向け、諦めて食事を始める。


「それでご飯を食べれるです〜」

「よし!食べるぞー!」


2人のバカも食事を取る。

数分後、皆が食べ終わる頃にユリとシネラには想定内の事件が起こった。


「タマー!前歯がです〜!?」

「えっ?あっ!無いよ私の歯がーー!」


当たり前である…歯の素材はパンだ、しかも最初の一口以降からすでに無かった…

それが解らず、バカ2人は食堂内を探し回る。


「…ユリさ〜ん…」


シネラは、どうしようも無い状況に泣きつく。

ユリはため息を1つついてから諦めたように話す。


「放っておきましょう…私達は先に依頼主の所に行って内容を正確に確認します。2人は後から来るでしょうから……」


「…うん、じゃぁ行こ!ユリさん♪」


「行きましょうシネラちゃん♪」


ユリとシネラは立ち上がりバカ2人を置いてギルドをあとにした。

勿論、バカ2人はユリ達が出ていったのは気付いていない…

それは「2階で歯が無いと騒いでる!」とモニカが他の職員に教えてもらうまで続いたらしい……




「いなくなったのは5日も前ですか……」


公都ガルデアに席をもつバルボネ男爵家の客間で、ユリとシネラは男爵夫人から詳しく話を聞いている。


「…はい、主人の騎士団もここ数日捜索したのですが……手掛かりも無くて…」


バルボネ男爵は公都ガルデア内に3つある騎士団の1つを任されている団長様で、騎士団名は「緑牛の騎士団」という。


「…では私達冒険者に依頼されたのは、1つの騎士団だけでは公都を探しきれないと?」


男爵夫人は首を横に振る。


「いいえ…はずかしい話しですが、主人の他の団長は子爵様なので…頼みにくいと言うか…騎士爵だった主人が男爵位を受爵した時のしがらみがありまりて……」


貴族の中ではよくある話だ…

貴族といったら男爵以上をさし、准男爵以下の貴族はほぼ平民と変わらない待遇で一代限りの名誉爵位なのだから。

その平民まがいの名誉爵位を持つ騎士が、功績を立てて男爵へ陞爵してしまえば、貴族達の軋轢も増してしまうのだ。


「なるほど……ですが何故私達、「白猫の守護者」に依頼されたのですか?他にも優秀な冒険者はいるはずです」


そうこれは直接依頼で、掲示板には貼られていない依頼者からのご指名依頼なのだ。

D級パーティーのユリ達は、昨日の夜に直接依頼が来たことを驚いていたし、何故私達に?とも思っていた。


「…やはり覚えて無いのですね……いえ、いいのです。12年も前ですから仕方ないですね……」


「12年ですか?」


少しだけ悲しそうな顔をする夫人は、シネラの質問に答える。


「12年前に私は人拐いにあい、7日間も縄で縛られ数人の少女達と一緒に監禁されていました……」


シネラはどこかで聞いた様な…と思ってユリの顔を見る。

ユリは目を見開き驚いている。


「……もう助からない…皆そう思っていた時に、入口から人の足音近づくと私達に『…いま助けてあげるから、私は冒険者だから大丈夫よ』と縄をほどいてくれ…ました……」


夫人は泣きそうな顔でユリをみる。

ユリはすでに涙をこぼしながら夫人を見つめていた。


「……助かった…皆そう思い泣きじゃくり、助けてくれた冒険者のお姉さんに抱きつきました……私もそうですが、安心したら涙が止まらなかったのでお姉さんは『怖かったよね、大丈夫…大丈夫…よしよし、もうすぐお家に帰れるから…』優しく…皆を安心させる様にずっと側にいてくださいました……」


シネラも貰い泣きだ…そう…ここにいる男爵夫人は、昔ユリが人拐いから助けたうちの1人だった。

ユリも助けた子供が立派に男爵夫人として成長したのを見て感無量のようだ……


「……立派になられましたね…」


夫人はユリの言葉に大粒の涙を流しす。


「…あの時は……御礼もできずに…すん……ごめんなさい……ありがとうございます…今生きてこの場所にいれるのは、お姉さんのお陰です…」


ユリは椅子から立ち上がり、夫人の肩を抱きよせる。

感動の再開だ…シネラもう涙腺崩壊である。


「……大丈夫…大丈夫…よしよし、もうすぐ貴女の子供達を助けるから…」


ユリは昔夫人達に言ったように頭を撫でながら夫人を落ち着かせる。


「…ありがとう…ありがとう…子供達をお願いいたします…お姉さん」


「お任せくださいバルボネ男爵夫人……この「白猫の守護者」が、必ず2人を助けだします!」


ユリは依頼受諾する……親子2代で行方不明になる不幸をユリは許さない…シネラも頷き同意する。




男爵夫人はユリとシネラを見て感謝した。

インデステリア王国内で人拐いに合い、救われる人数は極端に少ない…100人に1人と言われるほど難しく、ユリに救われた男爵夫人も奇跡と言っていいほどだ。

それを今度は、自らの子供達が拐われてもう5日も見つからない…

すがる思いで冒険者ギルドに行き依頼をしようと職員に話していると、昔一緒に拐われたモニカが現れた。


『…貴女…男爵のとこのトリスティアじゃない……』


『モニカ…さん…』


同じ街に住んでいて、7日間を共にした仲ではあるが、あれ以来は顔見知り程度で…挨拶くらいはする間柄だ。

モニカは依頼内容が書かれた書類を読んで


『…貴女の子供達?』


『そうなの!お金ならいくらでも――』


トリスティアは掴みかかりそうな勢いでモニカにすがる。

それをモニカは腕一本で止める。


『――大丈夫、ユリさんがいる……』


『……ユリ…さん?』


トリスティアはユリの事を聞き、涙を流す…

運命の悪戯か、自分達を救ってくれた冒険者が復帰しているとモニカか言う。


『あとは私に任せて…明日の朝には、貴女を訪ねてもらえるようにするわ!』


そうモニカは言い残し部屋を出た。

トリスティアはモニカが出ていったドアにむけて深々と頭を下げた。





「マルスとティーナを…よろしくお願いいたします…」

トリスティアはユリとシネラに深々と頭を下げ、捜索依頼をお願いする。

ユリ達もお辞儀をして依頼書をしまい退席しようと席を立つ。


「…あの…ユリさん!」


トリスティアに呼び止められユリは振り向く。


「…はい?」


「わっ…私…私の名前はトリスティアです!…あ…ありがとうございます!」

いきなり名前を教えられるユリは「…?」となるが、すぐに理由がわかり優しい笑顔をトリスティアに向ける。


「トリスティア、私達に任せて…絶対に助けだすから!」


ただの子供だったトリスティアと、駆け出しの冒険者だったユリが出会った時の様な幼い言葉で交わされた別れ際の会話は、トリスティアの心を落ち着かせるのには十分だった。

ユリはシネラを伴い外へと出る。

その目には、昔駆け出しだった頃の光が灯り、その頃の感覚を思い出した目をしていた。


「シネラちゃん…」


「…はい!」


余計な言葉はいらない、ユリの気持ちはシネラにも伝わっている。

大変な依頼なのはわかっているが成さねばいけない…

ユリもシネラも自分達に関わった人達が不幸になる事は許せない…


2人は公都を駆けた。


悲しみを喜びに変えるために……





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