私は幼女みたいです!
私は、透明なガラスの花瓶を見つめる。花瓶には、数輪の青紫色の花が挿してあり、白い丸テーブルの真ん中に飾り付けされている。
自称女神が、話しをする前に『少しお茶を飲んでからにしましょう!』と言って、テーブルと椅子を何処からか出してきて、いつの間にか消えてしまった。
「夢の中……じゃ無いみたい。妙にリアルと言うか……触った感覚が、本物そっくりだし」
ふみふみと、今まで無かった左腕でも確かめてみる。
「左手ってこんな感じなんだ…」
手を組んでみたり、指をひとつずつ触って眺めて、両手で膝下の両足を擦りながら、ふとテーブル上の花瓶に目を向ける。
「白い髪の少女?」
今は、私ひとりの筈だけど?と思いながら花瓶に手を伸ばす。ガラスには手を伸ばしてくる白い髪の少女、自分が手を引くと、その少女も手を引く。
「私の髪は黒かったよね?」
なんとなく髪を触ってみると、後頭部に2つの何かに触れる感触を味わう。尖った皮?髪の毛?
「これはぁ……耳?横には…無いっ!?ど、どどうなってるの!?
横に無いのに上に有って、上に有るのに横に無いっ!!」
慌てて花瓶を手元に手繰り寄せて、自分の顔をまじまじと見る。ガラスに映るのは、白い髪に猫のような耳を付けた幼女がいた。
『ごめんなさい!お待たせしてました!……どうかしましたか?花瓶とにらめっこですか?』
「わわっ!?ななな何でもないです!」
急に現れた自称女神に驚きながらも、花瓶を慌てて元の位置にもどして、慌てて椅子から降りる。
自称女神を見上げて見ると、自分が縮んでいるかの様に感じる。私の目線は、自称女神の腰の辺り。
「背、高いのね…」
『えっ?だいたい1丈半分なので、たぶん5尺1寸くらいですねっ』
尺!?ってなんセンチだよ!と心の中で突っ込みたい。
自称女神が『それが、どうかしましたか?』と首を傾げているので、もう一度聞いてみる。
「センチでお願いします。」
『センチ?……センチ〜?……ちょっと調べますね!』
センチの単位を知らないみたい……センチって、国際基準だよね?
私から見て、この人、身長高そうな気が――
自称女神は目をキョロキョロと動かし『あ〜なるほどです!』と、何か納得したようだ。
『153センチメートルですね!!今は、尺や寸等は使わないのですね!』
あれ?意外と低いぞ!?不安に思い、自分の身長を聞いてみる。
「へぇー。じゃぁ、今の私は何センチくらいに見える?」
『うーん。3尺4寸……2寸くらい、100センチメートルは無いと思いますよ!可愛らしい容姿ですね♪』
「100未満!?足があるのに!?無い時より縮んでる?……よく見ると、手足も細くて小さい様な――」
私が、ワナワナと手足を見ながら震えていると、不意に両わきを持たれ椅子へ座らせられる。何故か頭を撫でられた。
『その事もお話します。まずは淹れたての紅茶を一緒に飲みましょう。今日は上手く淹れられたのです♪冷めないうちにどうぞです』
そう促され。私は小さくなった手でカップを取り、恐る恐る口をつける。甘っ!?
味が少し意外だったので、自称女神の顔を見ると、『ドヤ〜』と言いそうなドヤ顔をしている。早く隠し味を聞いて!早く早く!と顔に出ていたので、私は見て見ぬふりをする。
あっ!ドヤ顔で思い出した。自称女神の自己紹介を、手足に夢中だったから右から左へ受け流しいたので、もう一度聞いとかないと――
「――そう言えば、女神がなんちゃらっ言っていたけれど、ミクロスさん?ミクロナスさん?
『ミリフィナス!運命の女神ミリフィナスです!』
「顔が近いし大きな声で叫ばないでよっ!!耳が良くなり過ぎて、耳がキーンってなるから!後、運命の女神は初耳だけど?」
両手で耳をペタンと塞ぎながら、女神の貫禄もへったくれも無い運命の女神様とやらを上目遣いになりながら見る。
頬をプクーと膨らませ、抗議の目しながらのミリファナスはやがて、ため息ついてから話し出した。
『まぁ運命の女神とは言ったものの、私は女神達の中では1番若いのです。神格も、1番下の底辺なのです……それでも、女神になってから2600年は経ってるんですよ?』
「ふ〜ん、すごい、ながいきだね」
『あっ!!全然信じないですね!?じゃあ、天照大御神は知っていますか?この名前は結構有名なんです♪』
なんともビッグネーム飛び出してきやがったが、私は女神だとか神さまだとか信じない。ましてや、運命の女神ミリフィナスなんぞ聞いたことも無い。病室で本ばかり読んでいたせいか、神話の世界の本も読んでおり知識は豊富……だと思う。
「天照大御神は知っているけど、ミリフィナスなんてこれっぽっちも知らない。それに、2600年前となると……月の女神くらいしか知らないし」
『ぐぬぬ、あんな小娘どもより知名度が格下とは……』
いや、冗談だから…とは今さら言えないが、このミリフィナスと名乗る女神、天照大御神だと確信が持てない。まず、何故に天照大御神ではなくミリフィナスと名乗っているのか気になる。
「まあまあ、それはいいから、なんでミリフィナスなんて名乗っているの?天照大御神と名乗るほうが良かったんじゃない?」
『この前までは天照大御神だったんですよ~。それを転生の儀が下手だの神力が弱いだのとバカにされ!……しまいには、『名前負けしてるから改名しろ』って――』
この女神は、仕事出来ない神なんだぁ。
他にも色々言われて来たみたいだけど、聞いても無駄なので簡潔な話しを促す。
「それでミリフィナスになったの?」
女神は首を横に振り、小さな声で何かモゴモゴ言っている。
「え?なんて言ってるの?」
『――だ女神…モゴモゴ』
「はい?」
『駄目女神花子!略して駄女子です!屈辱です!』
そこまで駄目な女神なのか……薄々は感じていたが妙に納得してしまう。
だけど、今の名前とかけ離れ過ぎている。
「…まぁ駄女子とミリフィナスは、何の関係あるの?」
『あぁ〜それは只の当て字ですよ!花子はハナス〜ファナスになって、ミリはこの前地球に、美里と言う所にお使いに行ったので、そこか取りましたです!』
いい名前でしょ♪と言わんばかりのドヤ顔の駄女子に、呆れ混じりで指摘する。
「花子は…まぁ可哀想だからいいとして、美里は美里と読むんだよ?」
漢字も読めないの?と言いながらため息を漏らすと、駄女子は『っそそそれは!?あーで!、こーで!』と言い訳をする。もう正直どうでもいいので、この身体の事を改めて訊ねることにした。
「っで?私はなんで猫娘みたいになったの?元の身体はどこなの?」
駄女子は『えーと、うーんと』と唸り、意を決したのか、モジモジと手をいじりながら話し始めた。
『……えぇーなんと言いますですか……人族への転生の儀が上手く行かなくてですね……、それで上司に教えてもらいながら、何回もやったのですが、「上手く行かないのは、貴女の神力が足りないからです!」と言われましてですね。その、仕方なく私の力が及ぶ範囲で、猫族に転生させましたです!成人女性に転生させたかったですが、力及ばず幼女になってしまったです!』
「……っは?」
額には青筋が浮かび、尻尾は逆立っていく。駄女子は怒りの雰囲気を感じ取ったのか『成長すればもっと可愛くなるはずです!』と見当違いの発言をするしまつ。私の沸点は、其処まで高く無かった。
「おまえが……お前がこの…身体にしたんだな……しかも幼女とか、女神なのに、どんだけ力が無いんだよー!!」
「だよーだよー」と声が白い空間に木霊する。
私は、この先も、この姿か変わらないことを、この姿が成人だと言う事もまだ知らない。知るよしもない。知るわけがない!