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私達は○○です!

冒険者ギルドで依頼を完了させて、ギルド内の待合場所で今日の依頼を振り返り、それぞれの反省点をユリが話している。

他の者はテーブルの木目を見つめ、黙って話を聞く。


「あとマリア様は、水を撒きすぎです。葉が湿る程度にしないと作物が腐る事があります」


マリアは「です〜」と答えるだけで何も言えない。

反省点をあげると切りがないのだが、反省会が始まり半刻ほど経過している。

ちなみにシネラとタマの反省点は1つだけで、あとは全てをマリアが引き受けてくれる。

というより、雑用やお使いなどやった事がないお嬢様なのだ。


「それと、シネラちゃん…」

「ほぉわい!?」


今までマリアばかりだったので、不意を突かれたシネラは変な返事をする。


「ローヌに魔法をかけられたと思いますが、お陰で銀貨10枚を頂けました。まぁ…口止め料だと思えばよいでしょう」


お叱りではなく、ローヌが追加で書いてくれた付加作業に対する報酬の話しだった。


「やったじゃん!」

「10枚です〜!」


「えぇ〜、もう二度とごめんだよ……」


マリアとタマは両脇から抱きつき、シネラの頑張りを称える。

当の本人はあの時の事を思い出して、苦虫を潰した顔をする。


「…なので、明日もシネラちゃんの服を買いにいきます。」


ユリの発言に3人がつっこむ。


「またかよ!」

「ワンピースです〜♪」

「ユリさん!」


肯定したのはマリアだけで、ユリとマリアは可愛く着飾ったシネラを思い浮かべながら別世界へと旅立って行った…

タマは呆れた顔をしてシネラから離れた。


「…もう放っとこうか……、でさ!シネラはなんで色々出来るの?しかもお金の計算も早いし」


タマは最後に依頼されたパン屋さんの事を聞いてくる。

インデステリア王国の通貨と獣王国の通貨は一緒だが、相場の違いと村出身ということもあり、あまりお金と関わりがなかったそうだ。

シネラは、地球から転生して前世の記憶があるとは言えないので適当にはぐらかす。


「それは……あっ!あれだよ!お金が好きだからだよ、私お金大好きだから」


「えー商人じゃ無いのに〜?」


「商人じゃないけど好きなの!」


タマは釈然としない様子だが、本人が大好きと言うほどお金が好きなら仕方がない。


「ふーん、まぁ好きだから計算がはやいんだ〜……でもインデステリアの文字とか読めるじゃん?それは習ったの?私、ちんぷんかんぷんなんだよね〜」


もはやタマごときに探りを入れられるとは思いもしていないシネラは、徐々に冷や汗をかきはじめる。

どうすれば切り抜けられるかわからず「う〜ん」と唸っているとユリが口を開いた。


「…シネラちゃんは転移の影響で記憶が曖昧なのです。色々と知りたいでしょうが、本人が思い出すまで待ってあげましょう」


シネラは自分の設定を忘れていた。

お金の計算も記憶喪失で通せば何とでもなったはずだが忘れていたので致し方無い、文字の件はそれで行くことにする。


「うん、私にも何で読めるのか解らない……」


「そっかー……もしかしたらヒューサンティ領の人かと思ってね…」


タマは残念そうに言って、ユリが思い出した様に話を引き継ぐ。


「…ヒューサンティ領……人魔大戦の激戦地…なるほど、もしかしたらそうかもしれないですね」


「ヒューサンティ…領?」


シネラは、こてんと首を傾げる。


「ヒューサンティ領は10年前にできた獣王共和国の領地の1つです。

元々は獣王共和国の領地でしたが、500年前にインデステリア王国建国の際に領土戦略のため、当時は各獣族のみなし領地に攻め込み王国の支配下置きました。

ですが、人魔大戦後に荒れ荒んでしまった土地をインデステリア王国は手放し、獣王共和国に帰属する事になり、獣王国の復興地として多種族が暮らす様になったのです」


ユリは簡潔にヒューサンティ領の事を教える。


「それじゃあ、そこに私が居た形跡が有るかもしれないね!」


シネラは話しに乗っかりあるはずがない事を言う。

タマも「きっとそうだよ!」と賛同してくる。


「そうですね…あそこも魔族が設置した転移陣があるので可能性はあります。ですが可能性はかなり低いでしょう…」


「「なんで?」」


ユリは無駄にシンクロする猫達に詳しく説明をする。

ユリが言う低い理由はこうた。


『ヒューサンティ領は、人族と魔族が直接大規模に交戦した激戦地。


魔族が設置した転移陣は、魔族しか反応しない帰還用の転移陣である。


両国とも大規模に魔法や火砲を使用した戦闘のため、両国の転移陣には破壊工作がなされた。


転移強行陣を設置するには大量の魔石が必要で、戦闘にも魔石が必要なのに当時は大戦末期、転移強行陣まで回せる魔石は両国とも無かった。』


「…当時、私も義勇軍として王国軍に従軍していたので間違いないでしょう……」


ユリの説明にタマは落胆する。シネラもわかっているのに落胆してしまう。

説明していたユリでさえ、喜んでいた2人に申し訳なさそうな顔をする。


「大丈夫です〜!シネラちゃんはワンピースが似合うです〜♪」


暗い雰囲気をぶち壊したのはマリアだ。

空気を読まない発言で場が一瞬静まりかえるが、シネラ達が出会ってから初めてユリがお腹を抱えて笑いだした。


「ふっ…ふふっ…あははっはは!あはははっ!あはっあはははは……マリア様ふふふっ、さすがですね!あはははっ!」


「ユ…ユリさん?」

「すげぇ笑ってる…」

「ユリが壊れたです〜?」


マリアの言う通り、壊れたユリはなかなか笑いが止まらない。


「ユリがこんなに笑うのは初めてです〜」


10年一緒にいるマリアでさえ初めてなのだ。

この異常事態をどうにかしたいが、笑いが止まらないユリをシネラ達は止める術が無い…

そこに見覚えがあるギルド職員がユリの笑い声を聞いたのか、こちらにやって来て声をかけてきた。


「放っておきなさい、四半刻は戻らないから…」


「…モナカさん…」

「モニカよ?白猫ちゃん…」


素で間違ってしまうシネラにも優しく訂正する彼女はギルド職員のモニカ、ユリの弟子で元A級冒険者だ。

3人は席を立ち兵士並の60度の敬礼をして挨拶をする。


「「「おつかれ様です!!(です〜)」」」


これはタマが仕入れた情報で、「モニカさんに会ったらとりあえず挨拶、気を付けして、しっかりと頭を下げる。」 しないとガチで詰められるらしいのだ。


「……」


3人は頭を上げてモニカを見る。表情はキリッとしていて眉すら動かさないままシネラ達を見つめていた。


「………」


まだ言葉を発しないモニカにシネラ達は動揺する。

噂通りなら自分達は……とはならない。

モニカはただユリを観ているだけで、シネラ達の事はアウトオブ眼中なのだ。無視ではなく今のはユリの事しか情報が入ってこないため、シネラ達は誤解していまう。


「どどどっどうしよう…モニカさん怒ってるよ〜…」

「覚悟を決めるです〜」

「シネラお姉さん…短い間だけど、お世話になりました」


「わっ私だけ!」


「名前を間違えたのはシネラちゃんだけです〜」


3人は罪の擦り付け合いを始めて言い争う、騒々しい中でもモニカはユリを見続けている。


四半刻後、大笑いという名の発作が落ち着き、ユリはモニカがいることに気付いた。


「……モニカ?」


「今朝ぶりですユリさん」


無愛想に挨拶をするモニカの横で言い争いをしている3人娘が目に入る。


「……モニカ…そこの止めてちょうだい…」


ユリの言葉に頷き、モニカは3人に素早く近づき…


ヒュン!


タッ!

「でっじゅ!?」

タッ!

「もっぢべっ!!」

ペチ!

「…はう!?」


マリアとタマは世紀末なんちゃら風の叫びを発しながら昏倒し、シネラだけは頭を平手で優しく叩かれる。


「…ありがとう…気絶するまでは求めて無かったけど……」


「…すみません…」


モニカは、怒られた訳ではないがしゅんと落ち込む。

ユリは屍と化した2人を見つめガクブルしながら震えるシネラ抱き上げ椅子に座り直し「よしよし…」と頭をなでる。


「まぁ、シネラちゃんへの対応は正解ですね」

「ありがとうございます…」


シネラはガクガク震えながらモニカに謝る。


「あ…あの…名前…間違って…ごめんなさい…」


「あぁ…いいのよ?別に気にしてないから…」


シネラは、モニカの言葉に「よかった〜」と声を漏らしほっとする。


「許してもらえて良かったですねシネラちゃん。…それでモニカ?何か用があったの…」


シネラを優しく笑顔で撫でるユリを、仏頂面で見つめるモニカにユリは聞く。


「…依頼を3件達成されたので…パーティー申請書を持ってきました」


パーティーを組む者は、最低3件依頼を達成してからパーティー申請をしなければならない。

大抵のパーティーは多少慣れてから申請してくるので、この申請の縛りは有って無いようなものだ。

それに、パーティー申請は上級者が申請するので、この中ではユリが申請書を提出することになるので、モニカが申請書を持ってきてくれたようだ。


「…さすがですね…ありがとうモニカ」


ユリにお礼を言われてまんざらでもない様子のモニカは「べっ別に仕事だから……」と照れる。


「そうですね…モニカは頑張ってお仕事しているものね、誇らしいわ…」


「あっ当たり前よ!そそそれじゃ明日までにパーティー名を決めて、もも持ってきてよね!」


顔を真っ赤にしながら早口で用件の残り言い、足早に受付の奥へ消えてしまった。

そのツンデレ受付モニカを、ユリはニコニコと見送りシネラはキョトンしていた。


「さて…2人を起こして宿に戻りましょう」


「うん…でも起きなかったらどうしよう?」


「……大丈夫ですよ」


2人を起こしにかかるユリは、1人ずつ顔を数回叩き無理矢理起こした。

2人の頬は赤くパンパンに腫れ上がり涙を流して痛がっている。


「びばびべぶ〜」

「ばばびぼ〜」


「大丈夫?」

「ぼべぼぼぼば、ばびぼぶべぶば!?」

「ぼぶば!びばべぼばばべぼ!!」


2人が何を言ってるのか解らない。

シネラは困惑の眼差しをユリに送る。


「…宿に戻りますよ…早く立ってください」


「ぼび!」

「びびぶ!」


たぶん「鬼!」「鬼畜!」と言ったのだろうか…ユリが少しだけ殺気を漏らすと素直に立った。

シネラの手を引きユリは歩き出して宿へと向かう。

2人は後ろで頬を擦り、ブツブツ呟きながらついてくる。


「あれじゃパーティー名決められないね」


「…大丈夫です、皮紙を使って筆談できますから…」

「そっかー、でもタマは獣王国語だよ?」


「私が読めるので問題無しです」


ユリは何でも出来るのだ、何せラトゥールの言葉は全て話せるバイリンガルだから獣王国語もバッチリ……

とはシネラ達も知らないので、ユリは宿に着くまでしばらく口を開かない。


「では夕食前にお風呂に入りましょう…昨日と同じでマリア様はタマと、私はシネラちゃんと順番にです」


「「ばーぶ!」」


2人はバタバタと着替えを持ってお風呂へ行った。

ユリは皮紙を短剣で切って4枚の皮紙を作る。


「…それは…」


「まずは1人でパーティー名を考えてもらい、それをすり合わせるので…」


シネラはなるほどと思う。

ユリから1枚もらい2人が戻るまでパーティー名を考える。

う〜ん、う〜んと考えているが良いものが思いつかない…

そうこうしてると、お風呂からマリアとタマが帰って来たのでユリと一緒にお風呂に向かう。


「…ユリさん…パーティー名ってどんな名前がいいかなぁ…」


お湯に浸かりながらシネラはユリに質問する。


「そうですねぇ……昔、私が居たパーティーは、リーダーが狼人族だったので「赤狼の雷閃」と言うパーティー名でした。

大体のパーティーはリーダーか仲間の特徴を名前に入れますね」


「そうなんだ〜、どうしようかなぁ〜?」


ユリの話しに、シネラは部屋と同じ様に考え出す。

ユリに「逆上せますよ?」と言われるまで考えていた様で、案の定少しだけ逆上せてしまった。

ユリに抱っこしてもらい部屋と戻ると、マリアとタマがパンパンの顔をニヤニヤ顔に変えて2人の帰りを待っていた。


「びばっばべぶ〜♪」

「びびぼばべびば!」


まだ何を言ってるか解らないが紙を1枚出してくる。


「えーと、『白猫の守護者』(しろねこのガーディアン)……えぇ!?白猫っ私じゃん!」


「「びばび(べぶ〜)♪」」


「やっ!?やだよ!他のにしようよ?ねっ!ユリさんもそう思うでしょ?」


もう決まった事の様に喜ぶ2人、シネラはユリに助けを求める。


「…すみません…それを考えたのは私なんです……」

「……えっ?」


ユリの言葉に固まるシネラ…


「お風呂に行く前に書いたのですが…2人が見つけてしまったみたいですね…」

「…でも……」

「……採用されてしまったですし、多数決で決まりで良いと思います」


シネラは心の中で(ジーザス!)と叫び口をパクパクさせる。

ユリはわざとマリアとタマに見える所に皮紙を置いてお風呂に向かったのだ。

必ず2人は気に入るだろうと確信があった訳ではないが、上手くいった。

マリアは可愛いシネラが大好きだから反対しない、タマも猫と入っているし成り行きでパーティーに入るのだから反対する事は無いだろうと踏んでいたが、ここまで上手く行くとは思わなかった。



『白猫の守護者』


今はまだ4人のパーティーだが、ラトゥールの世界にこの名が轟くのはまだ先の話……


白猫と初代守護者達の物語がこの時に始まった。






読んでいただきありがとうございます!


この回で物語の序章が終了となり、次回からが第1話の投稿になります。


序章が長すぎたと思いますが、次回も読んでいただけると嬉しいです!


ド素人の投稿作品ですが、気長にアップして行きますのでよろしくお願いいたします。



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