初仕事です!
ユリの後ろをガクガクと震えながら歩き、なかなか趣のある雑貨屋にたどり着いた。
「「…ここ?」」
「「ぐふっ!…」」
シネラとタマが尻尾を揺らし首を傾げる姿がシンクロし、後ろの2人はたまらず鼻血を出す素振りをする。
「危なかったです〜」
「…破壊力がありましたね」
「ここでしょ?早く入ろうよ」
タマはぶつぶつ何かを言ってる2人に促すがシネラをじっとり見ていて、シネラは店先の雑貨に興味津々で色々と眺めている。
「…ねぇーここだよね?入るよ〜、…入るね!」
タマは早く依頼をしたくて店の扉を開けて中へ入る。
カランカラン♪
「…すみませ〜ん…」
……誰も居ないのか、店内はしーんとしていてタマの足音しか聞こえない。
「誰かいませんかー?…依頼で来た者ですが――」
「――よく来たやん!てか遅いんだよ!」
急に話し掛けられびっくりするタマ、後ろには自分と同じくらいの白髪の少女が立っていた。
「待ちくたびれたやん、さっさと行くんよ」
「えっ?…どこに行くの…」
タマの質問に呆れた顔をして少女はため息をつく。
「依頼で来たんよね?広場に行くんよ」
「えーと、実は……」
タマは正直に訳を話し、身ぶり手振りで説明する。
白髪の少女も何回も頷きそして…
「わかったん、とりあえず外の子らを呼んできー!」
外で雑貨を堪能しているシネラ他2名を店内に引き込み、白髪の少女に改めて自己紹介をする。
「シネラです!」
「マリアです〜」
「マリです」
「お久しぶりです。3人の引率者です。」
「何なユリやないの?冒険者に復帰したんわ本当やったんね〜」
ここでもユリの知り合いが出てきた。流石というか、歳的にはユリより年下かシネラ達と同年代なのに、ユリにタメ口をきいている。
「ローヌさんも御変わりなく――」
「――えぇよ、ユリがさん付けるとかゆ〜なるんよ、とりあえず広場に行くよ〜」
「…はい、では3人も行きましょう」
3人は頷き後についていく、歩きながらタマが皆が気になる事をユリに聞いてみる。
「ユリさん、ローヌさんて私達より年上の人?」
「年上ですね、まず人族では無いですよ」
「じゃあ!エルフ!?」
シネラが目を煌めかせてユリに詰め寄る。
「…本人に聞いてみると良いですよ」
ユリは優しく背を押し、シネラをローヌの隣に歩かせる。
「何な?」
「ローヌさんはエルフですか?」
「……違いますぅ…」
ローヌはプイッと顔をシネラと反対側へ向け、ふてくされる。
「え〜と、小人族ですか?」
シネラの発言にローヌは顔を真っ赤にして起こりだした。
「クソ猫や!ウチが小人族やと…どぅみてそう思ったん?っん!?いいてみぃよ!」
あわあわと慌てるシネラと、口を押さえて吹き出しそうになるのを我慢するユリ、タマとマリアは小人族では無いことに驚きを隠せない。
「っででで、でも私より小さいし、ユリさんより年上だから…」
「よういいはるなぁクソ猫やぁ、お勉強してはるかぁ?ぅんん?無知は罪よのぉユリや?」
笑いを堪えるユリにローヌが問う、ユリは1つ咳払いをして答えた。
「そうですね、私の教育が足りないせいでもありますので、今から教えるとします。……ローヌはミュア族でそのなかでも1番のお年寄で、1番のちびっ…背が低い――」
「――要らんことも教えんでいいんよ!ミュア族だけ説明しいや!」
余計な事まで教えようとするユリにプンプン怒るローヌ、ユリは面白くなさそうに淡々と説明をする。
「ミュア族は魔力が高く、成人すると……」
ユリの説明はこうだ。
人族は魔力が低い
ミュア族は魔力が高い
人族は成長して寿命までは緩やかに老いる
ミュア族は成人してから寿命まで容姿が変わらない
人族とミュア族の容姿と平均寿命は70才前後と変わらない
ミュア族は白髪で目が赤いので、2000年前は魔族と呼ばれていた等だ。
「……ちなみに、普通のミュア族は私と変わらない背丈です。ローヌだけが小さいのです」
「「「なるほど〜(です〜)」」」
3人の納得した様子にローヌは顔をしかめながら、ぐぬぬっと唸る。昔からユリの口々に勝てた試しがないため諦めるしかない。
「…もうええよ、中央広場に着きはるからてわけして探すんよ!…猫や、あんたはウチと一緒に行くよ?」
「私?」
ローヌに手を掴まれ引っ張られていく、ユリ達と離れて作業をするとなると不安でしょうがないが、依頼の内容に適した人材はシネラしか居ないのでやるしかない。
「さて猫や、依頼内容は把握できてるん?」
「……はい」
依頼内容はこうだ……
昨日、ローヌが買い物をしていたら、巡回をしていた新人兵士に迷子と間違われて無駄な時間を取られたそうだ。
ローヌは子供と間違われた事と、その新人兵士にちびっことバカにされたので仕返しをしたい。
わざわざ兵士の詰所まで行くと仕返し出来ないので、誰かを迷子仕立てあげて自分の雑貨屋まで誘きだし、仕返しをする事を思い付いたらしい。
もちろん、依頼内容は「中央広場の調査又は店のお手伝い(正午まで)」と書かれている。
何とも思念たらしいが受理された依頼を失敗出来ない新米冒険者なのでやるしかない。
ローヌは「昨日とおんなし時間に、ここでうろちょろすれば会えるんよ」と言い店に戻って行った。
「はぁ〜なんで私なの〜、…ユリさん達はあっちで買い出ししてるだけだし…」
ユリ達は、シネラが迷子の子供風を装わなければいけないので、離れた所にいる。
なぜか買い出しせずに喫茶店でまったりしているのが癪だが…
そうこうしてるうちに2人の兵士が巡回にやって来た。
シネラは言われた通りにうろちょろする。
すりと兵士達がシネラに近づいてきた。
「お嬢ちゃん、迷子か?お父さんお母さんは?」
ローヌが話してた内容の言葉を、一言一句も違わず問いかけてきた。
シネラはぎこちなく依頼された言葉を話す。
「お母さんのお使いで、ロージェンヌ雑貨店に…場所が解らなくて……」
迫真の演技をするシネラ、兵士達は疑いもせず案内役をかって出る。
「ロージェンヌ雑貨店はすぐそこだ。案内しようついてきなさい」
何とも優しい兵士だ、近くと言えど中央広場は人が溢れ帰っている。
シネラがはぐれないように手を握り先導してくれる。
新人云々、仕返し云々よりシネラは騙しているようで心が痛むが、仕事だから割り切るしかない。
雑貨店に着き、兵士がシネラの手を離した瞬間、店内から依頼主が飛び出してきた。
ドーンッ!
「昨日はよぅゆうてくれましたなぁ、新米兵士はん?覚悟、できてるやろぅ?」
その容姿に似合わないドスの効いた声をだし、手には魔導杖を握りしめ今にも魔法を発動しようとしている。
「なっ!やめないか!?」
「バカな真似はよせ!」
「私、関係無くない!」
「●●◆■■…凍て尽くせ……」
ローヌは本気で兵士に魔法を放つつもりだ。魔導杖が兵士達へ向けられ裁きの時がくる。
しかもシネラも巻き込まれ新米兵士達と新米冒険者の彫刻が出来上がる。
「はー!すっきりしはったわ〜」
見事に凍らされた兵士を満足した顔で眺めていると、やっとシネラに気づき手を額に当ててどうするか悩む。
「……どないしましょ〜、まぁ半刻で効果は解けるやろし…猫だけ店内に移動しときましょっ」
シネラを担ぎ上げ店内の入り口付近に飾り、兵士は邪魔なので隣の路地へ追いやって一仕事終えたローヌは独りくつろぎ出す。
そこへユリ達が戻ってくるが、シネラが居ないので尋ねてくる。
「ローヌ、シネラちゃんはどこへ行ったのです?」
ユリの問いにローヌは悪びれもせず入り口に佇むシネラ像を指差し答えた。
「そこに居はるやよ、あと半刻で解けるやろうから、一緒にお茶でも飲むんよ」
3人は入り口を見て驚く、タマとマリアが凍らされたシネラを触るが、人肌の感触が残り心臓も動いている。ユリだけは、この魔法の効果を知っているようだ。
「……あいかわらずですね、幻術…しかも精神時間を停止させる精神魔法も合わせて掛けますか…」
「ユリは流石やね〜、いくら血ぃがのぼっても分別はつきはります。せやから猫も兵士も生きとりますよ」
タマとマリアは目を白黒させながら、何の事を話しているのか解らないようだ。
ユリは少しだけ出していた殺気を消してローヌとテーブルを挟んで座り、依頼書を手渡す。
「依頼は完了でよろしいですね?サインと…付加作業も書いてもらいます」
「…ユリは細かいのぉ、まぁウチが巻き込んでしまったやから書きますよぉ」
口を尖らせながら文句を言うが、しっかりと依頼内容に内容を書いてくれる。
ユリは依頼書を受け取り納得して鞄へしまい、シネラをいじくり回すタマとマリアをこちら呼び座らせる。
「お茶をいただきましょう。お口に合わなければ入れ直します…」
「失礼やわぁ〜」
「いただきま〜す」
「いただくです〜」
ぶー!?
ぶふー!!
恐ろしく不味い、どぶ水よりも生臭く苦味を超えて痛みさえ込み上げる。
ユリが言ったことは、この不味いお茶の伏線だったのだ。ユリ本人は一切口にしていないのでローヌが淹れるお茶は昔から不味いのだろう。
何故かローヌは平気で飲んでるのが謎だ。
「なんですーこれ!?不味いです〜」
「不味い…」
「身体によいのをぎょうさん入れたのに〜」
「…新しい物を淹れてきます」
2人に不味い不味いと連呼され不貞腐れるローヌ、色々と何かを入れてくれたようだ。
ユリは店の奥に行ってしまう。
「…ユリもよぅやるわ〜…で、あんたらは何でユリに?」
「ユリは私の侍女です〜」
「昨日から冒険者に成って、成り行きで一緒にいるの」
「そう、まぁ頑張って…死なんようになぁ〜」
ローヌは2人を見て、これから待ち受けるであろう地獄の日々を憂い、適当な言葉を贈る。
2人はキョトンとして顔を見合わせるが、自分達を応援してくれていると思い素直に頷く。
「…新しいお茶です。ローヌの分はありませんので」
いつの間にかお茶を淹れて戻ってきたユリが、人数分のカップを置きながら真顔で冗談をいう。
「ウチのあるやん、ありがと〜…うん、さすが」
「ユリのが1番です〜」
「うまっ!なにこれ!?」
「ただ砂糖を入れた紅茶ですよ」
ユリの淹れた紅茶が美味すぎて皆が絶賛する。
先ほどの会話が聞こえていたのか、ユリはローヌに「余計なことは言わないように」と釘を指す。
「はいはい」と生返事を返してローヌが、ユリにどうして冒険者に復帰したのか聞きたがる。
渋るユリにマリアがペラペラと喋りだし、冒険者のイロハまで語り出すしまつ、タマのことやシネラのことまで説明をする事と約半刻……
タマはうつ向、ユリは無表情、ローヌは大爆笑をしながら話しを聴いていた。
そんな中、シネラは術が解けてペタンとその場に座り込み回りを確認する。
「…あれ?死んでない……よかったぁ〜」
安堵して店の奥から聞こえてくる笑い声の元へ行くと、奥に座る大爆笑中のローヌと目が合う。
「おぉ!主役がきはったなぁ、座りぃ座りぃなぁ〜」
「…はぁ〜失礼します…」
ユリに隣を促されて椅子に座り、紅茶を出されてお礼をいう。
マリアは喋り足りないのか「続きはです〜」と言った所を聞き手のローヌに止められる。
「…ありがとー、大体の事は解りました。転移陣……発動しはった時の色は覚えてるやろか?」
ローヌの真剣な口調に、行きなりの事でシネラはえっ?とした顔をする。
「陣の上に乗るとピカーって何色かに光るやろぉ?何色やったぁ?」
「……色は、無色?白だったかな?」
たぶん…、と自信なさげに呟くシネラに、ローヌはニヤリと笑いユリを見る。
「ローヌ?なんですか、キモいですよ…」
「ユリはん……えぇわ、とりあえず無色と白…なるほどやねぇ〜」
「なんですか?」
「勿体振りかよー」
「私も教えて欲しいです〜」
興味津々の3人と、バレたと思ったシネラにローヌは両目を瞑り偉そうに腕を組、大きく息を吸い込み「それは…」と言い。
「「「それは!?」」」
「……」
息をのむ4人、ローヌは目をカッ!と見開く。
「解らん!!」
ドテンッ!!!
とユリ以外の3人がテーブルに額を打ち付ける。
ユリはため息だけつき、椅子から立ち上がりローヌに目線を送る。
「……さて、シネラちゃんも復帰しました。次の依頼に行きますよ…」
3人はユリの有無を言わせない圧力を感じ取り、立ち上がりとぼとぼと歩く、入り口でローヌにお礼を言い店を出た。
ローヌは椅子に座ったままニヤニヤしながら手を振り見送ると「さてと…」といい、店を閉めて奥に篭った。
店を出たシネラ達はマリアの「腹が減ったら何とかです〜」の言葉に賛同して昼食をとってから次の依頼に行くことになった。
料理店でマリアは勿論だがタマまでもが、ユリに注意されながらの食事になったが、シネラには関係無いので割愛する。
「この本と……こっちもや…あと〜……」
ロージェンヌことローヌは4人が帰ってから何かを調べ始めたようだ。
「ユリも面白い猫を見つけたなぁ〜…」
ニヤニヤしながら本を捲りめぼしい所には紙を挟み、皮紙にマリアから聞いた事と自分の過去を照らし合わせながら調べいく。
他本からも情報を集め整理していくローヌはいつの間にか真剣に作業をしていた。
ゆうに4刻は過ぎただろうか、店の周りは暗くなっていて酒場の賑わいが聞こえてきていた。
「ふぅ〜、もうそないな時間になっとたかぁ〜」
首を回し目頭をつまみ両手を上げて背伸びをする。
「ん〜っん……猫ちゃんいいわぁ、ウチの店に置きたいなぁ〜……ユリも大概やけど、あの娘も大概やねぇ。」
ローヌはランプの火を観ながら考えに更ける。
ゆらゆら揺れる光に、外の喧騒がしだいに薄れていく感覚を覚える。
わかった事は何も無い、逆に無さすぎて面白い、これは?と思っても類似しているだけで同じでは無い……
転移陣も無色や白のものが見つから無い、いや存在しない。
「久方ぶりに会いに行きますかぁー、…せや!あれも一緒に持ってこ〜♪」
鼻歌を歌いながらローヌは2階へ上がり何かを探し出す。
ローヌを突き動かす何かが何処に有るのか?それを知り得る人物に心当たりがあるのだろうか?
全てはユリとローヌの出逢いから始まった縁で、2人の共通する成り立ちが含まれている。




