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今は昔、モニカです!

朝日が昇り、小鳥のさえずりも聞こえてきた公都ガルデア。ユリ以外はまだ寝ている……


「すぴー…すぴー…」

「すー…すー…」

「………」


鼻提灯を作りいい夢を観ているマリア、寝ている姿も可愛いシネラ、布団にくるまり丸くなって寝ているタマ、もう少しで朝食が始まる時間になるのでユリが起こしにかかる。


「…皆さん、朝です起きてくだ」


反応したのは……シネラだけ、目を擦り小さな欠伸をする、それだけも可愛い姿だ。タマはたぶん起きただろう布団がモゾモゾ動いている、マリアは起きないので放っておくようだ。


「おはようーユリさん」

「おはよ、ユリさん」


「おはようございます。二人とも、もうすぐ朝食の時間なので顔を洗って来てください」


「「はーい」」


布を受け取り二人はベッドを降りて中庭の水場に向かった。ユリは二人が寝ていたベッドの布団をたたみ、窓辺にある椅子へ腰掛ける。


「…マリア様、起きていますね?」


ユリに言われてビクッ!とするマリアは布団から出てきた。


「お願い事があると昨日言ってましたが、お願い事とは?」


「……今日は、シネラちゃんの服を買いに行きたいです〜だから――」


「――だから、私達の手持ち金から出したいと?」


「そうです〜」


ユリは黙り考える。手元に有るお金は昨日から減るいっぽうで、マリアの貯めたお小遣いとユリの貯蓄した給金を合わせても金貨1枚弱しか持って来てない、冒険者に成って1日しか経っていない三人には日銭程度しか稼げないのは目にみえているので、ここで散財すると後から苦しくなるだろう。

しかし、タマはともかく転移されたシネラは、替えの下着すら無いし身寄りもいない、ユリは計算してみる……

昨日からの宿泊代が1人銀貨2枚、4人で銀貨8枚。

食事代が1食銅貨15枚だから、4人と今日の朝食込みの3食で銀貨1枚と銅貨80枚。

お風呂が1回銅貨10枚、4人で銅貨40枚。

1日銀貨10枚と銅貨20枚。

それ以外に使った額が許可証銀貨3枚と冒険者登録に4人で17枚で、合計銀貨30枚と銅貨20枚。

残金は銀貨70枚弱、F級冒険者の1日の依頼報酬額は平均銀貨1枚程で、3人で銀貨3枚。

自分が入れば銀貨4枚になり残りを負担すると11日は持つ、10日以内でE級に上がれば討伐依頼で2倍以上の報酬額になる。

ユリは険しい表情から真顔に戻りマリアに告げる。


「……銀貨6枚までなら大丈夫です」


「やったーです〜!」


「では、マリア様も顔を洗って来てください。屋敷とは違いますから、自分の事は自――」


「――わかってるです〜行ってくるです〜!」


シネラに教えるです〜、と、マリアは言い残し中庭へ向かった。


「……さて、アルバードの言う通りスパルタでいきますか……」



ちなみF級冒険者の依頼1件の報酬額は銅貨30枚〜40枚で雑用依頼しか受けられない、F級はこれを1日2・3件の依頼を受ける。

E級になるためには、100件の依頼を達成するとランクが上がる。

3人は10日で100件の依頼を達成しなくてはいけない、普通なら30日以上かかるが裏技がある。パーティーを組めば1件の依頼をパーティーで共有でき、他の者が単独で依頼を達成してもパーティーの件数に出来る。


ただし、依頼ランクに対して上のランク者は件数に加算されないので、ユリはお金を稼ぐだけでパーティーのランクには影響しないし、まずB級がF級依頼を受けれるのかと思うが、引率者又は依頼主から指名で受けられる。

引率者は低いランクの者が受けた依頼に引率又は帯同する。

それでも新人冒険者が3人で100件は大変だ、そんな事を知らない3人は部屋へ帰ってくる。ユリは朝食をとるため宿に隣接する食事処にシネラ達を連れて移動するが、部屋で考えていたことは告げない、何も知らない方が返って都合いい時もあるし知らぬが仏とも言う、まずは食事をとり服を買う、話しはそれからだ……



朝食を終えた4人は、子供服を主に取り扱う市民向けの子供服店で、シネラのファッションショーをしている。


「次はこれです〜」


「このワンピースも良いと思います」


シネラは……目が死んでいる、もうかれこれ10着ほど着せ替えられ、2人のテンションに付いて行かれない様だ。タマは飽きてここには居ない、入り口にある長椅子で日向ぼっこ中である。


「猫人族の子供に人気な、尻尾用リボンもありますよ♪」


今喋っている女性店員は、シネラが入って来たとたんに子供服店の可愛い服を集めだし、ファッションショーの原因を作った人物だ。


「付けるです〜!」


「はい、マリア様!」


リボンを無理矢理尻尾に付けられワンピースを着せられるシネラは、これが子供服でなければ喜んでいただろう、精神年齢16才なシネラでも耐え難い苦痛なのだ、早く終わって欲しいがまだ終わる気配がない。


「次は――」


「――まだやってるの?早く冒険者ギルドに行こうよ」


タマが待ち飽きて止めにきた。その言葉にシネラはワンピースを脱ぎ子供服ではあるが街中で見かけた冒険者の様な服を2組選び、その1組に着替え伝える。


「この2組をください」


「ワンピースの方が可愛いですよ!」


「フリフリにしますです〜!」


「シネラはなに着ても可愛いから、なんでも良いじゃん…」


シネラが着ると可愛いが、選んだ服はいたって普通だ、マリアとユリは納得しない。シネラは怒った顔で2人を説得する。


「冒険者に成ったのにフリフリのスカートとかワンピースはいらないし、さっき下着や日用品を買って予算は銀貨4枚…足りないし冒険者には必要無い!この2組で銀貨3枚と銅貨40枚、これで決まり!」


「…ワンピース…」


「…フリフリ…です〜」


「…私は賛成だよ?似合ってるよシネラ」


タマは褒めてくれた。マリアとユリと女性店員は項垂れるが最後の悪あがきとばかりに、リボンを銅貨80枚の所を両者結託して60枚にし、合計金額を銀貨4枚をきっかり使いきる形で決着した。


「ありがとうございました〜」


女性店員に見送られ4人は店を後にする。シネラの尻尾には紺のリボンが着いて2人はご満悦だ。着けている当人も満更でも無い、4人はこの後とりあえず宿に荷物類を置いて冒険者ギルドに向かった。



朝の冒険者ギルドは人が多い、ほとんどの者が依頼を受けに来るのでギルド職員も毎日大忙しだ。

その喧騒も1刻ほどで過ぎ去り、閑散としたギルドにシネラ達がやって来た。


「空いてるです〜」


「…依頼もほとんど無いよ」


マリアの能天気な発言にタマが静かに突っ込む、依頼掲示板には数枚ほどの依頼しか無く、どれもF級とE級依頼の雑用ばかりで、シネラ達には丁度いいがどれも面倒な者が多い。


「F級依頼は4枚です。全て受けましょう」


「ユリさん、これは?」


全てのF級依頼を剥がしたマリアにシネラが掲示板に指を指して尋ねる。


「これは捜索依頼ですね…ランクに関係無く、また冒険者ギルドの他に商業ギルドや魔法薬ギルドにも張り出されいます」


シネラが見つけた張り紙は、行方不明になった者の特長と名前が記載されていて、何枚かは似顔絵が描いてある。シネラはミリファナスに言われた事を思い出して『双子の姉妹』をされてみるが、行方不明の者の中に双子らしき人物はいなかった。


「……いないか…」


「…誰か、探していますか?」


「ううん…」


独り言を呟いたシネラは曖昧に答える。ここでミリファナスの事をいっても依頼が無い以上探す手だては無いし信じてもらえないかもしれない。

とりあえずは依頼をこなして、自分だけでも情報を集めることに決めた。


「うん、大丈夫!…早く依頼を受けよう」


「…そうですね、では受付に行きましょう」


「「です〜(おぉー)」」


受付は昨日お姉さんで、ユリに負けないくらい出来るオーラを纏っている。


「おはようモニカ、この依頼を受付て貰えますか?」

「…ユリさん、F級依頼は……後ろの3人ですね、ユリさんは引率者…ということでしょうか?」


「話が早くて助かります。説明は私がしておくので依頼の受理だけお願いします」


わかりました。とモニカは手早く受理して、冒険者証を4人分受け取り完了させた。


「完了です。この依頼だけ早めにお願いします」


「ありがとう、モニカも大変でしょうけど、ギルド職員の仕事を頑張ってくださいね」


「…はい……」


4人は冒険者を受け取り、ユリがモニカに労いの言葉をかけ外へ向かう、常に無表情で無愛想なモニカが顔を赤面させうつ向きながらお礼をいっていた。

ユリ以外の3人は何が何なのか解らないが、ユリの後を追ってギルドを出た。


「モニカさん真っ赤です〜」

「昨日もそうだけど、受付のお姉さんって無愛想だなって思ってたよ」

「ユリさん?みたいな?」


「シネラちゃん?私とモニカは似てますか」


慌て首を横にブンブンと振るシネラにユリは懐かしむように話し出した。


「モニカは孤児でした。私と会ったのが今から12年ほど前で、駆け出しの冒険者だった私は捜索依頼を受けて……」




『……ここで間違いない……!』


入り口と事務室みたいな所をにいた人拐い4人を手際よく縛り上げて奥の倉庫の様な場所に進む、一番奥の角に6人の子供達が縄に縛られ怯えていた。


『…いま助けてあげるから、私は冒険者だから大丈夫よ』


子供達はユリが来てボロボロと泣き出した。


『怖かったよね、大丈夫…大丈夫…よしよし、もうすぐお家に帰れるから…』


応援の冒険者や憲兵を待つ間も子供達は泣き続け、身元が判明した5人はそれぞれ帰っていくが1人だけ孤児で身寄りがなく数日間だけユリが預かる事になった。


『…名前は?』


『…ない…』


もしや奴隷?と思ったが奴隷紋は…ない。


『…歳は?』


『…たぶん10才…』


話を詳しく聞くとスラム街に住んでいて、年上の娼婦をしている人から、「女性の日が来ているから10才だ」と言われたらしい、その数日後に人拐いに捕まりここに居るというものだ。

間違いなく娼婦にするために子供達を拐ったのだろ、ユリは奴隷や無理矢理娼婦になるという不条理がキライだ。


『…10才なら冒険者見習いが出来るわね……』


『……私…痛いのキライ…魔物…怖い……』


『大丈夫!私と会ったのが運命よ、貴女は冒険者見習いになる。以上!』


『……うん』




「……それで1年くらい一緒旅をして、彼女が12才になり正式に冒険者になって、私が冒険者を辞める時に大喧嘩をしたのです。それ以来会ってませんでした…」



4人は最初の依頼主の所までまだ距離があるのでユリとモニカの昔話を聴いている。何故自分たちに話すのか解らないが3人は黙って聴いている。


「昔は姉妹の様に仲が良い、とよく言われました。今はと聞かれるとどうかわかりませんが…私は今でもモニカの姉であり彼女の師でもあり親友です」

3人がうるうると涙をこぼす。マリアは鼻水まで垂らして嗚咽をこぼしていた。


「……3人とも、泣きすぎです。泣くような事は無いですよ…私が言いたいのは、冒険者ギルド職員になるには並大抵の者には成れないのです。引退してから職員になる者が多いのは確かですが、大抵の者がC級以上で引退しています。なのでモニカもC級以上で職員になったのだから凄い努力をしたのでしょう…先ほどの私がモニカにかけた言葉はそういう意味です…」

「じゃあ、モニカさんは凄いんだね!」


「凄いお姉さんなんだぁー」

「です〜」


3人はモニカの凄さを聞かされ感動している。ユリは感動している3人に水を指す様にいい放つ。


「私が引退したとき、モニカはC級冒険者でした…」

「「「っえ?(です〜)」」」


ユリがモニカを鍛えたのは一緒に旅をした1年くらい、モニカが正式に冒険者になりユリが引退したのはその半年後…と伝えた。


「じゃっ!じゃあモニカさんは半年でC級に成ったの?」

「です〜」

「…まじかよ…」


3人は驚きすぎて開いた口が塞がらないようだ。ユリはさらに爆弾を投下する。


「私が引退したあと、モニカはA級までいきました。引退したのは2年前と聞いてます…」


ユリの言葉に3人は固まるしかなかった…モニカという女性受付はやはりただ者ではない、いやA級様まで昇りつめた強者だった。



「さあ、依頼主の所へ急ぎますよ?注意点を教えながら歩くので、聞き漏らしの無いように…」


その言葉にガクガクと頷く3人は壊れた人形の様に歩き出す。

ユリが色々と説明するが、ユリとモニカの接点が3人には恐怖を煽る。

そうタマに教えてもらった事だが、モニカの後輩冒険者が口々に語る地獄の訓練があるそうだ、「死んだ方がまし」「人がゴミ扱い」「はい、か、はいしか言えない地獄」その他もろもろあるらしい……

そして、そのモニカの師匠がユリとわかれば尚更恐怖する。


3人は恐怖に震えながら依頼主の元へ向かうのだった……






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