ユリ嬢さすがです!
「まさか獣族とは、思わなかったな…」
アルバードは、そう呟いて黙ってしまい、抱かれたままのシネラは…まだ「…こぬこ…」と言っている。
「獣族だと、なにかあるです〜?」
マリアが疑問を問いかける。
「…ん、ああ…獣族は各種族の中でも…弱い、犬族と猫族は冒険者に成った者がいない…」
「特に小猫族は最弱、先祖が同じでも、猫人族と小猫族の種族の間は天と地の差があるよ」
アルバードの説明に、外れた顎を自力で治したマリが補足する。会話が聞こえたシネラは「最弱…こぬこ…」と最弱を付け加え更にダメージを負った。
隣で聞いていた受付の女性が、アルバードに声をかけてくる。
「ギルドマスター、また勝手に登録をしないでください……」
「アルバードがギルドマスター!?」
ユリが驚く、アルバードは頭をポリポリ掻きながら女性受付に平謝りをして、ユリに話す。
「人魔大戦後にな…成り行きだ……」
「……そうですか…」
二人にはそれ以上の説明はいらない様で、ユリは話しを戻す。
「勝手に登録した…と言うことは、登録できたと?」
「はい、彼女が手を乗せた後に、冒険者証発行陣の作動を確認しました」
お持ちしますね、と言い残し女性受付は奥へ下がる。
冒険者証を発行する為には、発行陣を作動させて、その陣の上に冒険者証用の魔石を乗せておき、受付で先ほどの様に、水晶玉に手を乗せ名前を言えば魔石がプレート状の冒険者証に変わる。本当は手数料の支払いが済んでからこの手順を踏むのだが、ギルドマスターのアルバードは、たまに手順を踏まず気に入った者を登録するようだ。
「まぁ登録出来たってことで、小猫族でもシネラは今日か冒険者だ!」
ガハハハッ!と、勝手に登録した事を笑いとばす。
「冒険者です〜」
「いいな〜」
マリアとマリは、それぞれの感想を漏らす。女性受付はシネラの冒険者証を持って戻ってくると、アルバードに耳打ちをしてから冒険者証を手渡し、自分の持ち場へ戻って行った。
「さてと…シネラ、お前の冒険者証だ。無くすなよ!」
シネラは、アルバードから冒険者証を受け取り、やっと現実世界へ戻ってきた。
「…やった!冒険者だー!」
「よかったですね、シネラちゃん」
「うん!アルバードさんありがとう!」
「おう、頑張れな!」
アルバードはシネラを床へ下ろし、周りに聞こえないようユリだけに何かを伝えて去っていく。
ユリは何も聞こえて無いように振る舞い、マリアとマリにそれぞれ銀貨5枚を渡す。
「それでは、私達も登録しましょう。マリさんも案内役だけでは困りますので、冒険者登録をしてください」
「やったです〜!」
マリアはお小遣いをもらった子どもみたいにはしゃぎながら受付に行く、マリは渡されたままの状態で「いいの!本当にいいの!?」と興奮している。ユリは何度も頷き促す。
「ありがとう!絶対返すよ!」
そう言いマリも受付に向かった。喜ぶシネラを見つつ二人の冒険者登録を待つ、そこにまたアルバードがやって来てシルバーのプレートを渡してきた。
「再登録…と言うより越権登録だな!」
「捕まっても知りませんよ」
それを受け取り悪態をつく、アルバードは「俺が捕まるかよ!ガハハッ!」と笑い去っていく、ユリはその後ろ姿を黙って見送った。
マリアとマリの登録が終わったので、一旦宿をとるためお昼に食事をした宿へ向かう事にした。
「ユリは登録しないです〜?」
「二人の登録に時間がかかるので、私の登録はアルバードにしてもらいました」
ユリはシルバーのプレートをマリアに見せる。マリは自分の冒険者証とユリの冒険者証を見比べる。
「色が違ってない?私達のより上質そう」
「ほんとだ〜なんで?ユリさん?」
シネラも横から覗き自分のとユリのを見比べる。
「それは冒険――」
「――シルバーはB級の意味です〜♪」
ユリが答えようとしたらマリアが言葉を被して答えた。その後も偉そうに続ける。
「EとFはホワイト、CとDはブロンズ、Bはシルバー、Aはゴールドです〜!その上のS級は、忘れたです〜♪」
「…S級はA級と同じゴールドで、冒険者証の級欄がSになるだけです。ちなみ今は、S級を持つ者が二人います」
ユリが補足説明をいれてくれる。へぇ〜となってる三人は知らないが、ユリがシルバーの冒険者証を持っているのはおかしいのだ。
冒険者を辞め再度登録する場合、辞めた時のランクをそのままでは無く、一つ下げて再登録される。本人が虚偽のランクを言っても、各冒険者ギルドには最終ランクと依頼成果、本人の職種の情報が残っており不正は出来ない。ユリは元B級冒険者、再登録ならC級になるはず…だが冒険者証の色はシルバーで、ランクはB級と辞めた当時のまま、不正を行ったのはギルドマスターのアルバードだ……とは言えないので、ユリは心の中にしまう。
宿に着くと、マリがユリに願い出た。
「お願い!私も一緒に泊めて!」
「元よりそのつもりです。村までの案内役ですから……?詳しくは部屋で話しましょう」
ユリはマリの願いを当たり前のように聞き入れる。話の途中で、手を繋いでいたシネラが、欠伸をして目を擦るのを感じて、話を切り上げ受付に行き四人部屋をとる。
四人は部屋へ入るとベッドは二段ベッドで、ユリがシネラを上のベッドに座らせ靴を脱がせると、自分でベッドの真ん中へハイハイして行き5秒で寝息をたてて寝てしまった。
「さて、シネラちゃんはお昼寝に入りました。まずは二人とも冒険者証を出してください」
二人は素直に冒険者証出してユリへみせる。
「では…これがシネラちゃんの冒険者証です」
「…さっき見せてもらったよ?」
「です〜シネラちゃん喜んでたです〜♪」
シネラが見せびらかしていた冒険者証を再度見せられる二人は首を傾げ、自分達と変わらないホワイト色の冒険者証だとしか思わない、ユリはシネラの冒険者証の項目を一つ指を指して続ける。
「種族名が小猫と成ってます。普通なら小猫族と記載される筈だと――」
「――でも、水晶玉には小猫族と出てたじゃん?」
「ですです〜小猫族です〜」
「では何故?こちらには小猫だけで族が書いて無いのでしょう?」
二人は「???」と考える、ユリは指を違う項目に動かす。
「この『16才:女性』もおかしいのです。人間の容姿であの身長で16才……獣族の小猫族なのに女性と明記されている…獣族の性別は雄雌の筈です………マリさんならわかりますか?どうですか?」
「…わかりません……」
「……人間や他種族と交配できる種族は、性別を男性と女性と言います。同族でしか交配出来ない種族は、雄と雌となります……勉強してきたマリアは、言ってる意味がわかりましたね?」
「……種族と容姿、性別の矛盾…です〜」
ユリの言葉に二人は理解した、シネラは普通の小猫族では無い、自分達が知っている種族と違う何か…
「…アルバードに頼まれた事に、この件も含まれます」
「この件?…村に返すこと?」
マリの質問に、ユリは首を振る。
「いいえ、猫人族の村には行きます。目的は村では無く、転移陣の調査とシネラの保護と観察です」
「観察です〜?」
「はい、アルバードがシネラちゃんを調べるので、しばらくはガルデアを拠点に活動することになり、その間は私がシネラちゃんを保護観察し、二人は冒険者として地力を上げる期間になります」
二人はあまり納得してない顔をする。「観察=監視」なのだ、シネラが何者かはわからないが、二人が納得しないのはユリもわかっており言葉を付け加える。
「二人が冒険者としてランクが上がり、C級以上になればギルドが依頼を出せます。ケリヒの森は獣王国と魔王国の緩衝地帯で、無断で立ち入る事はできません…」
ここまで言えば二人にも解る。村まで行くのは簡単だ、2ヶ月馬車を乗り継げば行けるがお金がかかる…ユリが言っているのは、ギルドからの依頼であれば、依頼中は各支部から支援が受けられ、自分達が単独で行動出来るよう、冒険者ギルド名で各国に便宜を謀ってもらえるのだ。先ほどの登録手続きで受付の女性が説明していた事を思い出して二人は喜ぶ。
「それじゃー!」
「です〜♪」
「シネラちゃんを調査する事は変わらないですが、時間がかかるそうです。「その時間を有効に活用しろ」とギルドマスターから言われていますので……」
アルバードからは「一年でB級に成ったユリ嬢なら、一年もかからずこいつらをC級に出来るだろ?」とは付け加え無い、あまり期待されても困るのだ。とりあえず、はしゃぐ二人に釘を指す。
「……F級からC級に上がるには大体が3年〜5年かかり、なおかつ試験は年に一回各支部でありますが、その年に一回でも受けると一年間は試験を受けられません……ガルデア支部では半年後に試験があります。死ぬ気で頑張ってください」
その言葉に固まる二人…ユリがどれだけ凄い人物なのか改めてわかるように説明すると……
普通の冒険者は3年〜5年でC級に上がる、それからB級に上がる為には通常依頼の他に、指名依頼とギルド指定依頼を数十件こなし、なおかつ各支部の冒険者ギルドマスター3人と子爵以上の貴族1人の推薦がなければB級に上がれない…C級冒険者はこれを短い者で5年、遅い者で12年程でB級に上がる。ほとんどのC級冒険者は、B級に上がれずそのまま引退する者が多い中、B級以上は並々ならぬ努力と才能を兼ね揃えた強者なのだ。
お分かりだろうが、一年でB級に成ったユリは、それ以上の強者で、人外な人物であるか……
ガクガクぶるぶると震える二人と、お昼寝をしているシネラは、後程しる事になる、ユリの凄まじいスパルタ教育と共に……




