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56話:自由を奪われた者…


本編再開です!


たぶん、3ヶ月ぶりだと思います。

長らくお待たせしました!



「…説明が不充分だったようだ。ローヌ殿――」

「え?…え?」

「イオリさん、僕が説明します。まずタイガと巨人兵を引き剥がします。これは、巨人兵を操る方法が聖剣だからです。巨人兵の動きを止められれば、あとはタイガに掛けられた精神魔法を解いて、亜空間転移で巨人兵を消すんです」

「…う、うちかて、そんなこと分かっとるんや!タイガを助けんでどうする!当たり前やろ!」


少ない情報でも、ローヌもカズキ達と同じことを考えていた。

怒鳴ってはいるが、タイガを救えると分かり、先ほどよりも落ち着いた様だ。

しかし、カズキの説明はまだあった。これは、この場にいるメンバーの中で、カズキ、イオリ、カンターナしか知り得ない、極秘の情報だ。


「……巨人兵は、ヤマト氏が発掘し、詳しく調査をして、500年と半世紀前から厳重に封印していたんです。もちろん、聖剣以外にも操る方法がありますが、ローヌさんなら、お分かりでしょう…」

「…そりゃぁ、邪気…闇魔法や…――!!?」


ローヌはカズキが何を言いたいのかを聡い、イオリの仮面を睨み付ける。


「協会は、何時から知っとったんや…」

「3年ほど、前から――!」

「ローヌさん!!」

「ロージェンヌ!」


イオリに杖を向けて魔力を込めるローヌ。カズキとカンターナが二人の間に割り込んだ。


「邪魔やぁあ!」

「やめな!イオリを殺したところで、何も変わりゃしないよ!」

「そうです、ローヌさん!…イオリさんは警鐘を与えてく」

「やかましわ!見てるだけのボンクラが、いてもいなくても変わらんやろ!何か言わんかい、イオリィ!!」


激昂するローヌはイオリに問う。

この四人以外のメンバーは、今の会話が何を示すのか、全く理解できないでいる。


「……ヤマト様は、もう…いないだよ…」

「…はぁ?」


カンターナが声を絞り出しローヌに告げる。

カズキの表情が暗い。イオリも黙って下を向く。


「な、なんでキヨがでてくるや。キヨが死んだとでも言いたいか!」

「「……」」


押し黙るカズキとイオリ。

二人に代わり、カンターナが話し出す。


二月(ふたつき)前、転移者協会ヤエバ研究所が消滅した。この事件にはヤマト氏からの命により、即時、箝口令(かんこうれい)が引かれたが、その翌日、調査隊が現地を訪れ――」




 「キヨマツ様!」

「ベトナゼーツ、残りの調査隊を連れて逃げよ!こやつ等の狙いは、地下の巨人兵だ!」

「わ、わかりました!!」


調査隊の指揮官であるベトナゼーツにヤマト伯爵が叫ぶ。20体もの魔獣を使役したヤマト伯爵は、調査隊を逃がすため、黒いローブの男と対峙する。


「流石は"メルニシアの魔王"と呼ばれるだけ、従魔の質も悪くはない。ただ…!」

「うつけている場合かな?私の魔獣は手加減をしらんぞ」


黒いローブの男は、すでにヤマト伯爵の従魔の手で葬られた。

ヤマト伯爵が間合いを詰めてローブの男に剣を突き刺す。


「くっ!」

「呆気ないな。貴様の目的を言え…」


ヤマト伯爵の問いにローブの男は無言を貫く。周りには魔獣、首筋には刀が添えられ、動けばすぐに終わる。

しかし、ローブの男は焦った様子を見せない。


「どこで巨人兵の存在を知った」

「……ふっ」

「な!なんだ、この魔力は!」


不気味な笑みをこぼしたローブの男が立ち上がる。

その男と替わるようにヤマト伯爵が不気味な魔力に当てられ膝をつく。


「何時から、目的?そんなものは、当の昔から存在するのさ…キヨマツ…」

「貴様、は…」


ローブを脱いだ男はヤマト伯爵に顔を近づけ、髪の毛を鷲掴み、自分の顔がよく見えるように引き上げる。


「懐かしいか?…忘れてないぞ、お前の、裏切りを!!」

「ぐぅっ!?」

「苦労したんだ…どうやったら、お前らに、絶望と!恐怖を!破滅をもたらせるのかっ!」

「ぐぼっ、がはぁっ!!」

「故郷が恋しいか、なあ?…お前らのせいで、500年も無駄な時間を過ごしたんだよ!」

「ぐ…だ、確かに…無駄な、時間だ、な…だが…擬星には――!」


何度も頭を打ち付けられたヤマト伯爵。ローブの男はヤマト伯爵の刀を拾い上げ、その刃を伯爵の首につける。


「お前も家族いるだろ、ん?……俺はな、今の家族を守るために――についた…」

「…擬星は…もう、長くは、ない…」

「うるせえぇえ!!なにが地球をだ腑抜け!あそこに何がある!?500年後も守るものがあるのかっ!!言え!」

「……」


ヤマト伯爵は言葉を発しない。代わりに、ローブの男を哀れんだ目で見つめる。


「その目…何もかも知っているような目を……俺達に、向けるんじゃねぇええー!!!」


ローブの男が刀を振り上げる。

ヤマト伯爵は、自分の死を受け入れ目を瞑る。

降り下ろされた刀は、首と胴体を綺麗に切断した。




「――首は魔獣の屍の一番上に晒されてたさ…」

「キヨ…」


地面に崩れ落ち、弱々しくヤマト氏伯爵の名を呼ぶローヌ。


ヤマト方面軍の騎士隊が二日後に研究所へ向かった。これは、ヤマト氏伯爵が『三日後の4の刻(正午)まで帰還せぬ場合、一個騎士隊を派遣せよ』と命令を残していたからだ。

調査隊は全滅。ヤマト氏伯爵の亡骸は首だけ。胴体は見つからなかった。


「リビターナからの伝言があるよ、ローヌ…」

「リビ、から…」

「ああ、妹がね『ロージェンヌ様、申し訳ごさいません。死んでお詫びします』だとさ」

「リビ!」

「死んじゃいないさ、私からも、死ぬならロージェンヌの前で死にな、と言っといたからね…」


ローヌを立たせ、カンターナは正座を、両手を地面につき、頭を下げる。


「今まで、本当のことを黙ってた。邪気に当てられたタイガを…いえ…勇者を、救うためだったことは、嘘なの…」

「なん、や、それ…」

「深層転移者…転移者協会の"深"と、ヤマト氏の主導で始められた"邪気浄化実験"です。

タイガは、ラトゥールに召喚されてからずっと、大気中の邪気に当てられ、体を蝕まれていました…」

「3年前、私とマルヤマ殿、王都聖騎士団長のザロッギーニ殿で、邪気に呑まれた勇者を押さえ込み、ヤエバ封印区に幽閉した。治療法は、邪気を別の器に移すこと。巨人兵を使うのは、ヤマト氏の指示だった――」


黙っていたカズキとイオリが口を開き、ローヌに説明する。

3年前、勇者タイガは邪気を暴走させた。

暴走の原因が、邪気を溜め込んだ勇者と、闇魔法を持つ魔獣との接触によるものと断定しており、聖魔法を使えるイオリ・セブ、ヨシオ・マルヤマ、ヤハク・ザロッギーニ、三人のS級授受者により捕らえられた。

邪気を祓うためには身代りが必要。身代りになった者は、邪気に呑まれ邪人化する。邪人となった者は、勇者の替わりに葬られが、その処分のしかたは――


「――巨人兵に食わせること…それは、約500年間変わらず行われてきた――」

「邪気を巨人兵に蓄えさせていた。邪神竜復活のために…歴代の勇者は、邪気を集める道具でしかなかった…」


説明を聞いていたローヌは唖然としている。


「勇者の有用性と、巨人兵の使い道はご存知だったかと思いますが、ヤマト氏は…ラトゥールを破滅させようとしていました。あなたの…ローヌさんの召喚魔法を幾度も使い、勇者を召喚し続けたことで、巨人兵は実用できる状態になったんです」

「…そんな…うちは、勇者を――」

「わかっている。ローヌ殿は、勇者を召喚するだけのコマだったに過ぎない。だが、3年前にマルヤマ殿が気づいた。『あの巨人兵は、あと数年で邪気が溢れだす。早いうちに処理をしなければ』と言っていた。ヤマト氏の目を盗み、巨人兵を葬るには"深"の協力者が必要だっともな…」

「深層転移者。記憶を引き継ぎ、ヤマト氏と供に長き時を歩んだ500年前の転移者達は、カンターナさんとリビターナさん以外の"深"の幹部は、行方を眩ませました…」


イオリとカズキはカンターナに目配せをし、カンターナはローヌの目をしっかりと見て言う。


「私はね…キヨマツ様から、『私が生きているうちは、ラトゥールを滅ぼす気はない』って訊いてたんだよ」

「…訊いて、た…でも――!」

「ロージェンヌは知って欲しくなかったのさ…」

「う、うちは…キヨマツに、嫌われてたの、か…」

「違うよロージェンヌ。キヨマツ様は誰よりもあんたを愛していた。そして…深層転移者の"伊"の奴等を欺くためでもあった。ラトゥールを滅ぼすためには巨人兵に必要な邪気を集めないと…と嘘をついてね。でも、奴等の考えは逆だった…奴等はもとから、地球を滅ぼす積もりだったのさ」


カンターナは、周りで聞いている転移者達に視線を送る。


「…国際転移者協会は、深が立ち上げたんだ」

「「「え!?」」」


この場にいる転移者達全員が、カンターナの唐突な言動に驚かれる。


「今の会話の流れで――」

「なんで協会が――」


辛うじて言葉を発したアドラスとナカジマ。他は、まだ思考が追い付いていない。


「簡単さ。深の奴等が、キヨマツ様を疑いだしたのさ…ラトゥールに召喚された勇者の管理をしてるのはキヨマツ様。その管理を"転移者"としての枠として管理、利用するために」

「なるほどな…地球から召喚されてきた勇者は、同じ地球からの転移者である俺達と一緒だからか…他の転移者を管理することで、歴代の勇者の行動も同時に把握出来る仕組みだったのか――」

「でも、それならなんでヤマト伯爵は早めに協会を潰さなかったの?地球、守りたかっただけでしょ?」


訊ねたのはハナコだ。いまだ状況を理解できないもの達は、ハナコがした質問の意図も理解できていない。


「まさか、ハナコさんから…」

「茶化さないでよカズキくん!ラトゥールか地球って話なんでしょ!」

「ご、ごめんハナコさん…じゃぁ、今から皆が解るように説明する――」


ハナコに謝るカズキ。少しローヌとカンターナから距離を置いてから、ハナコの質問に答える。

ローヌが訝しい目をカズキに送るが、カズキはそれを無視して話しを進める。だが――


「――!?説明は後だ!!」

「「「!!?」」」


カズキ以外も、全員が異変に気づいた。


「長話がすぎたか…」

「マルヤマさん、が…そんなわけ――」

「こっちに来るぞ。兄弟、どうすんだよ!」


男性陣が迫りくる巨人兵に狼狽える。

カズキは直ぐ様カンターナに目配せし、イオリとともに巨人兵へと駆け出した。


「兄弟!!?」

「ベス、待避するよ!」

「な、でもカズキが――」

「言うこと聞きな!ほら、ロージェンヌも、あんた達も、早く!!」


鬼気迫る中、カンターナの指示で樹海へ逃げる。

イオリ、カズキ以外のメンバーは、カンターナからこれからの行動を訊いた。


「いいかい。ワードゥルファー達は物理結界だけに集中しな」

「了解だ!」

「「了解」」


結界班のワードゥルファーとヴェルディ、バグが指示された場所へ。


「アドラス、手筈通り…頼んだよ!」

「了解した。ハルナ!」

「行こう!」


アドラス、三日月のメンバーとハルナは、神殿の方角へと向かう。マーニだけはここに残るよう指示された。


「ベス、セルビオ組はここにいな…」

「かあ…カンターナさんよ、何が始まんだ?」


虚ろなローヌを胸の前で抱いているカンターナにベスが訊ねる。


「前を見てな。そろそろ、巨人兵が動きを止めるよ…」


カンターナの言う通り、巨人兵の動きが止まる。

その巨人兵の所から、人影が此方へと向かって来るのが見えた。いや、此方へと吹き飛ばされたように地面に叩きつけられた。


「タイガ!?」

「勇者か!」

「待ちな、邪気に当てられちまうよ…」


ベスとセルビオが身を乗り出すが、カンターナに制止される。

勇者タイガはむくりと立ち上がり邪魔な岩を薙ぎ払う。


『イオリ…カズキも、裏切り……者…ぐぁあああー!!!』


勇者タイガは、すでに邪気に侵され体の色が黒く染まっている。

邪人化した状態でも、禍々しい邪気を撒き散らし、巨人兵の元から勇者を追ってきた二人へ、がむしゃらに聖剣の斬撃を放つ。


「…おい、あれじゃぁ――」


大地をも切り裂く斬撃がイオリ達を襲う。その光景にベスやセルビオ達は、カズキが生還することを絶望視していた。


『間に合ったぞ』

「…だろうね。ワードゥルファーは?」

『ヴェルディさんとバグさんの支援で、まだ結界の維持はできる。一人だったら、一撃を防ぐので精一杯だ、とぼやいてたな…』

「ほう…軟弱なことを言うねぇ。今まで何もしなかった分まで、死ぬ気で維持しな、って言っとくれ」

『了解だ』


姿の見えないナカジマの声と気配。カンターナの頭の近くから声がするが、報告が終わると気配が消える。


「いま、ナカジマさんの声がしたぞ!」

「騒ぐんじゃないよ、ほら」

「うおっ!…なんだ、このリング…石がついてんな?」

「ベス、それは短波魔石だ。短い距離だが、会話が出来る魔道具だな」

「マジか!すげぇ…」


セルビオの説明に感動するベス。カンターナに「さっさとつけな!」とどやされ、ベルトアの分厚い手で右耳に取り付けられる。





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