私はこぬこです!
公都ガルデア……インデステリア王国で二番目に人口の多い、人口30万人にもなる街…いや都市だ。
ガルデアへ入場した3人は、先ほどマリアとシネラのお腹が鳴ったので、食事処も隣接している宿に入り、部屋をとる前に遅い朝食兼昼食をとっていた。
ガチャンガチャン!
「モグモグ…ゴクゴク……モグモッ……」
カチャンカチャン
「ハムホム……ハムハム…」
腹ペコのふたりは料理が出てきたと同時に貪る様に食べだす……いや貪っているのはマリアだけだ。シネラは左手でフォーク握り料理を食べている、フォークを持つ手はぎこちないが、たぶん初めて使うのだろう…と、ユリは思ったが、マリアには注意をする。
「マリア様、はしたないですよ?まるで豚の食事風景です」
「…ブー!?ゲホッ!ゲホッ!……なんです〜!ぶっ豚じゃないです〜!!」
「うっ!?」
マリアが吹き出した食事がシネラにかかり、手持ちの布で拭き取りながら豚を見るユリに、マリアは続けた。
「シネラちゃんだって〜上手く食べれてないです〜私だけ豚は嫌です〜!」
「…シネラちゃんはまだ子供です。マリア様は成人です。作法とまでは言いませんが、あれだけ教えてこれでは、豚の食事同然です。」
「ぐぐぐーです〜」
「豚と言われたくなければ、シネラちゃんの模範となる食事をしてください…わかりましたね?」
「…はいです〜」
マリアへの教育もあり、3人とも食事後のお茶ならぬミルクを飲みながらこの後の行動を話し合っていた。
「登録が先です〜!」
「休みます。冒険者ギルドへ行くのは、明日です」
「登録してからでも休めるです〜!――」
マリアとユリは両者譲らず、と言ったところだ。マリアは冒険者に成るために家出をしたので、早く冒険者ギルドに行きたい。ユリは家出の手伝いで前日から寝ずに準備をしていたので休みたい…ユリは、5日間寝ずに活動出来るほどの体力はあるがふたりは知らない…
「――ユリさん、冒険者ギルド、行こ?私も行ってみたい!」
「…シネラちゃんも?ですか…明日でも――」
「――シネラちゃんも行きたいって言ってるです〜!多数決です〜!?ひぃ〜です〜!?」
ユリに、ギラッ!と睨まれ怯むマリア、シネラは「おねが〜い」とつぶらな瞳で訴えている。
街道や列に並んでいるとき、マリアにあれだけ冒険者の話を聞かせられれば興味がわいても仕方がない、子供は好奇心の塊だ、ダメと言われたらやりたくなるのが子供である。はぁ〜、と溜め息をついてユリはシネラの頭をなでる。
「…わかりました。冒険者ギルドへ行きましょう」
「「やったー(です〜)!!」」
シネラとマリアは、ハイタッチをしながら喜ぶ、マリアが「チョロいです〜♪」と言っているが、シネラも喜んでいるので聞き流す。宿に入る前にふたりでこそこそ話していたのは、この打ち合わせだったのだろう…冒険者ギルドから戻ってきたらマリアにお説教ですね……とユリは心の中に刻みながら席を立つ。
「さて、行きますよ」
と、シネラの手を引いて入り口へ歩きだす。
あ〜です〜!とマリアがあとを付いてくるが完全に無視で、通りに出て冒険者ギルドへ向かい歩く。
シネラはユリの顔を見るが、笑顔ではある、笑顔だが目が笑ってない…いや怒っていると感じ、見るのを止め黙って歩く、ひとり後ろで煩いが次第にしょぼくれて静かになる。
10分ほどお通夜状態で歩いて一行は、立派な5階建ての建物の前に着いた。
「……ここが、冒険者ギルド?」
恐る恐るユリの顔を見て聞くシネラ、そうですよ♪と、ユリは笑顔答えてくれた、もう怒ってないようだ…
「入るです〜♪」
立派な建物にテンションが上がったマリアが我先にと入っていく、ユリ達もそれに続き中へ入る。
お昼過ぎなのでギルドの中は閑散としているが、数人ほど冒険者やひとりだけの受付がフードを目深にかぶった女性を対応していた。この時間帯の受付はひとりで対応している様だ。
「なんで!なんで!?銀貨2枚でしょ?なんで5枚なの!?」
「ですから初めての登録者は銀貨5枚で、再登録者が銀貨2枚なんです!」
なにやらトラブルようだ。
「5枚なんて無いし!!」
「では、お引き取りください。銀貨5枚お持ちいただければ、その時はご登録いたします。次の方がお待ちなのでお帰りください…」
「うー、帰る場所なんて……」
フードの女性は「…家出したから…帰れるわけないじゃん……」と言い残し受付を離れる。
「…ユリ、私も同じで――」
「――ダメです。冒険者になる…マリア様、最低限の心得は?」
「……自分の身は自分で守る。自分達の身は自分達で守る……です…」
そうです、とユリは頷く、マリアは自分と境遇が一緒の彼女に、同情はして良いが仲間ではない赤の他人に、手を貸してはいけない…金銭の貸し借りもだ。
入り口へとぼとぼ歩いて行く彼女は、3人の横を通りすぎ扉の前で立ち止まる。えっ?と声を漏らし3人の前まで戻ってきて、シネラをまじまじと見る。たまらずシネラが質問した。、
「…あの〜何か?」
「…な…」
「な?」
フードの彼女はわなわなと震えながら声を漏らす。
「…ね…」
「ね?」
「ななっなんで!猫人族の子供がいるのー!?」
その叫びに室内にいた全員がビクッ!となる。
「ちびっこ!なんで村にいない!?成人するまで村から出てはダメだって言われてるでしょ!…まさか?!拐われて――」
「――ちっちがう!転移陣に乗せられて、それで……」
「…っ!ケリヒの森に行ったの!?どうして!……ああ、どうしよう…村に手紙を……」
と悩むフードの女性にユリが質問する。
「…すみませんが、貴女の種族は猫人族ですか?」
「?…あーそうだよ、よっと!これでいいかな!」
フードを外し姿を見せる。毛並みは赤茶色だが、耳と尻尾がシネラと似ていて、スタイルは…まぁこれからの成長に期待する…
ユリは、やはり…と呟き彼女に事の経緯を説明する。
「――となり、一緒にいます」
「…成る程ー、スゴく分かりやすかった!」
4人はテーブルを囲みながら話しをしている。
「シネラちゃんは、帰りたいですか〜?」
今まで黙っていたマリアが突然言い出し、場が静まりかえる。シネラは突然の事にどうしたらいいかわからず、ユリと猫人族の少女を交互に見る……
静寂を破ったのはこの場の4人ではなく、ひとりの男性だった。
「それなら、ユリ嬢が村まで送ればいい…」
4人は声がした方へ顔を向けると、長身で屈強な身体をした大柄の男性がこちらにやって来る。
「……アルバード!?」
「10年ぶりだな、ユリ嬢!」
ガハハッ!と豪快に笑う男性はユリの知り合いで、アルバードと言うらしい。
「お知り合いです〜?」
「…10年前に同じ依頼で、一緒になっただけです」
「お姉さん!冒険者なの!?」
「ユリさんは元B級冒険者だったんだよ!」
「ガハハッ!…懐かしいな!俺がA級の時に、当時のA級達よりも有名だったしな!」
「「「有名(です〜)?」」」
はぁ〜、と溜め息をユリがつくが、アルバードは続ける。
「ん?お前ら知らんのか……ユリ?教えてないのか?」
「若気の至りですので……」
苦虫を潰した様な顔をするユリ、マリアでも知らないとなると知られたくない過去なのだろう…だがアルバードには関係無いので、それ大声で喋る。
「じゃあ教えてやろう、黒髪の美少女!ダークエンジェルユリだ!」
「「「…ダークエンジェル……」」
ガハハハッ!と笑いだす。ユリがテーブルを両手で叩き立ち上がりながら「違うでしょ!」と怒鳴る。メチャクチャご立腹だ……
「ガハハッ!すまんすまん!よし、冗談はここまでにして、本当の二つ名を教えてやろう……」
急にアルバードは真面目な口調に変わり3人は唾を飲む、「心して聞け…」アルバードが目を瞑りそう言い、ユリは再度溜め息をつき、諦めたように椅子に座る。アルバードは目をカッ!と見開き二つ名を叫んだ。
「爆雷の双魔剣士、ユリ!」
「「「爆雷の双魔剣士(です〜)!!」」」
スゴく強そうな二つ名に復唱し、3人は目をキラキラさせながからユリを見つめる。
「……昔の事です。今は鍛えて無いので、そこまで強くありません…」
「何を言うか?もう少しでA級に成れたのに引退すると聞いて、皆残念がってたぞ?どうせスティフォールの屋敷でも鍛えていたのだろ?」
「……」
「ユリは毎日、私に剣術を教えてくれたです〜♪ここに来る前も一緒にやったです〜」
アルバードは、だろうな!ガハハッと笑う
「ユリ嬢は、たったの一年でB級まで上がった天才で努力家だ。ましてやA級にまであと少しだった者でユリの性格だ、怠ける筈がない!ガハハハッ!」
「「ユリ(お姉)さん凄いね!」」
猫の二人は耳と尻尾をシンクロさせながから興奮する。マリアは「さすが私の侍女です〜!」と胸を張り、ユリは「穴があったら入りたい……」と呟いて両手で顔を覆う……
アルバードは笑いすぎてむせかえり胸を叩いて落ち着かせ、ふーと息を吐くと4人に向き直り話し出す。
「それで、どうするんだ?ちっちゃいのを村に送るんだろ?ちょうど案内役が居るんだ…えーと、名前はなんだ?」
「マリです!!」
「おー元気がいいな!マリは、村に帰るんだろ?こいつらに付いて案内してくれ」
「それは……」
マリが困った顔になりユリを見る。ユリも困った顔になるが、事の経緯をアルバードにも話そうと口を開く。
「アルバード、シネラは――」
「――私!…帰る場所ない!……村も知らない!……冒険者に……なり…た…い…」
「シネラ…ちゃん…」
「ちびっこ……」
マリアとマリは冒険者になるためにここに来たので、シネラが口にした言葉に共感した。だがユリとアルバードは違った…
ユリは過去の自分を…、アルバードは、昔この冒険者ギルドで見たユリを…
「昔のユリ嬢だな……」
「昔の私ですね……」
ふたりの呟いた言葉が重なる。目線はシネラに向けられ、今にも泣き出しそうな顔だが、瞳には力強い決意の意志が見える。
「似ているな、あの頃のユリ嬢も――」
「――まだ出逢ってから数時間しか経っていません…あとそれ以上、私の過去を喋らないでください」
おーこわい!と怖がった振りをするアルバード…シネラの姿と昔のユリが重なり、その時の事を思い出し、うんと頷きシネラを抱き寄せ受付へ向かう。
何が起きたのかわからないシネラは、されるがまま連れてかれる。マリアとマリはポカーンとたたずみ、ユリは赤面しながら後を追う。
「アルバード、まさか登録させるの?」
「ユリ嬢もあの時登録しただろう?……シネラも冒険者になりたいだろ?」
ユリは、シネラが過去の自分と同じ様にされると思い聞くが、アルバードは空いている受付の中に入り、当たり前の様に言い出しシネラに再確認する。シネラは首を何回も縦に振り肯定すた。
「じゃっ、この水晶玉に手を乗せて名前を言ってみろ」
シネラは言われた通り水晶玉に、ペチッと手を乗せて名前を言う
「…シネラ………えっ!?」
「なっ!?」
受付の中にいる二人が驚きの声をあげる。ユリが「何?どうしたの?」と慌て水晶玉を覗く、マリアとマリも駆けつけ水晶玉を見て驚く。
『シネラ:16才 小猫族:女性』
「…私より年上です〜」
「…16才でしたか……」
「…ユリ嬢と…一緒じゃなかったな……」
「ここぉここぉぁ」
皆がそれぞれの想いをこぼすが、マリは顎が外れてしまった様だ。
シネラはずっと「ここここ……」と、どこかの鳥の鳴き声を真似ている…
「…ここ……こぬこーー!?」
しばらくシネラは「こぬこ…」と呟いていた。




