弐(3)
門前町の駐車場に車を停めると天女のような煌びやかなピンクの羽衣を羽織った女性が目の前をとぶ。
御使いさんだな。
その女性がこちらこちらと目配せしてくるので呼ばれるがままに奥に行き、本殿の前に立つ。
二礼二拍手すると奥から神さまが出てきた。
黒い長髪に白い着物、美しい女性の神さまだ。
『何用だ?』
そう女性が俺に尋ねる。
が、口に出すと変人丸出しなので俺は心で会話する。
『いつもありがとうございます。今日はお使いにきたので挨拶に来ただけです』
『そうか、ご苦労であった。ついでだから浄化していけ』
多分俺が本殿には用事がないのはわかっていたはず。
じゃなかったら御使いさんなんて寄越さない。
でもそれを寄越してあえてきいてこう告げる。
おぅ…。
あるある、よくある、こういうこと。
俺は神社参拝で願いを叶えてもらうより何かすることの方が多いのだ。
神さまの社というものはもちろん綺麗だ。
でもその為には当然祀るものが必要だし、参拝客が落とす厄があまりに多いと神さまだけでは大変なので俺みたいなのにちょいちょい頼むのだ。
人の念の扱いはやっぱり人の方が容易いのかと俺は思っている。
『わかりました、では』
神社の辺りを白い円で囲む。
その中の地から黒いものが天にかえるように促す。
黒い点があがっていく。
そのままそれがなくなるまでそれを続けた。
そして一礼して今日の参拝を終わらせる。
後ろを振り向くと陽女さんがにこにこと俺を見ていた。
「浄化ですか?」
「浄化ですね、お待たせしました」
「いえいえ、あのですね、私別日に来ないといけないみたいなのですが」
「あら、何の為か教えてもらった?」
「陽の光がって言ってましたけどなんでしょうねぇ」
ふふと陽女さんは笑う。
神さまが抽象的なお願いをしてくることはよくある。
むしろお願い内容言うだけまだいい。
言わずのとりあえず来いとかもあるからな。
「わかったよ、じゃあ行こうか」
参拝も終わったので門前町に出る。
出ると先ほどの天女さんが待ってましたと言わんばかりにこちらをみてゆっくりと手招きした。
そして手前から3軒目の店を手で示す。
あー、ご褒美ね。
導かれるままに店に入るとそこの置物がひとつきらきらと黄金に輝いてみえた。
これか。
それを手にすると天女さんが頷いて天に昇っていった。
その置物をよく見る。
白く丸いフォルムでデフォルメされた可愛らしい龍の置物。鬣が金色だ。
たしかにこれは店の雰囲気にそぐうしあの龍に似ている。
「陽女さん、これ、買ってくるね」
「ご親切ですねぇ」
にこにこと笑いながらそういう妻にそうだねと笑いながらこたえる。
置物はそんなに値もはらず、しかしかの龍らしいものが手に入ったと思う。
「ランチして帰ろうか」
心置きなく妻とのランチを楽しんだ。
.