参(5)
走り出してひとつめの角を曲がる。
鞄のポケットに陽女さんがいれておいてくれた塩を背にまく。
次に足首にも塩をまく。
また次の角を曲がる。
そこで不動明王印を真言を唱える。
お不動さんの力で悪いものとの縁を切ってもらう。
それからまた次の角を曲がり大祓の祝詞を唱える。
これで身を清めて相手方から自分の気を辿れないようにする。
ちょうどいいところに目の前に神社がある。
…が入れないな。
応急処置をしたとて俺の身体は穢れを持ってしまっているのだろう。
かみさまの眷属が鳥居の前で手をひろげて入るなと示している。
仕方ない。
もう少し行ったところに寺があったはず。
寺は多少の穢れをつけていても大丈夫。
俺はその寺の敷地に入った。
小さい寺だが寺は寺。
ここの住職はよく掃除しているし結界も保たれてる。
少しここでやり過ごさせてもらおう。
寺の階段に腰をかける。
ふぅと息をついた。
悪いモノはもうついていない。
俺の身体に穢れは残っているが呪いの相手方が俺を辿るのはできないようにはした。
今は寺の結界で目くらまししてあるししばらくここにいればいいだろう。
あとは家に帰って塩酒風呂に入り儀式をしてきちんと落とすだけだ。
はーっともう一度息を吐く。
安堵した。
ついてこられたら困る。
俺の大切なモノにあんなものに触れられたくない。
この仕事をやってる以上
どうしても付き纏う問題だけど
だからこそ万全にいつも用意するのだ。
家族や友人を巻き込みたくないのだ。
すっかり項垂れた俺に上から声が降ってくる。
人ではない。
『挨拶がまだだぞ』
そうだ、お邪魔して人心地つかせて頂いてるのにまだ挨拶をしていない。
無作法ものだ。
俺は腰をあげると階段を登り寺の中に靴を脱いで入り前をむいた。
ここお不動さんだったか。
「先程はありがとうございました。今も寄せていただきありがとうございます」
『オレが今回の件にぴったりだった。それはよい。アレにはこの寺でも手を焼いている』
アレというのは動く死体のことだろう。
確かに葬儀をあげたのに動き出したりしたら寺に駆け込む人もいるだろう。
そしてその理由はやはり寺の住職はわからないだろう。
寺の住職はそういったことの専門家ではない。
「アレは葬儀をしているときにはもうアレなのですか?」
『そうだ。しかし完成してないので動かぬ』
完成してないので動かないということはやはり呪か。
「それはどういったものなのでしょう」
『俺の専門ではない。生と死を司るものにきくがよい』
なるほど、そうくるか。
確かに神仏には得手不得手があるからな。
お不動さんならこの手のことは得手だと思ったがそれの説明はこのお不動さんの役割ではないのだろう。
「わかりました。お守り頂きお言葉頂きありがとうございました」
そう感謝を伝えると俺は不動明王印を結び真言を唱えた。
仏は自分の印を結び真言を唱えられるのがすきだ。
これは俺からの御礼である。
『うむ、励めよ』
怖いお顔が少し和らぎ笑ったようにみえる。
俺は頭を下げお不動さんの寺を後にしてハジメの店へ向かった。
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