参(3)
そうしてハジメの喫茶店に戻ると麻井が手を振ってくる。
鞄の中身をまとめ用意も出来てるようで立ち上がると行こうかと声をかけられた。
「近いってどのくらい?」
「三軒先」
「げっ」
普段はそういうものを感じないようにしてるとはいえ三軒先でそんなことが起こっていて気付かないものか、俺の勘。
外に出てこの家と指された家を凝視する。
家に黒い霧散したような気がまとわりついている。
これ本当に気付かなかったか?
ちょっとおかしくないか?
術者避けの術でも使われているのか?
俺は息を大きく吸って止める。
これは多分気付かれないようには難しいな。
同化するしかないか?
これに…?
この禍々しいものに?
同化して穢れを負うのと気付かれるのどちらがマシだろうか。
気付かれてもいいからあとで撒いた方がいいな。
よし。
俺は息を吐くと意を決してその家の敷地に入った。
自分を護っているから具合が悪くなったりはしない。
麻井にも護りをかけたいところだが
俺と同じモノだと認識される方がまずい。
麻井は俺より何度も出入りするだろうし
普通にしてた方がいいのだ。
本人自身の護りも強い方ではあるし。
となりの麻井が
ごめんくださーい
と声をかける。
呼び鈴が壊れているのだろう。
電子機器の具合悪くなりやすいんだよな、こういうところって。
はーい
と家人の声がして
50代くらいのほっそりとした長身の女性が出てきた。
「遠藤さん、こんにちは。市役所の麻井ですー」
「はい、お待ちしてました」
どうぞおあがりくださいとスリッパをすすめられる。
俺は靴を脱いで揃えるとそれを履かせてもらった。
こちらですと女性が奥に案内してくれる。
が、案内されなくてもわかる。
なんだこれ、なんだこれ、なんだこれ。
絶対外法使ってやがる。
くさい。
よきものではないことは明白だ。
家人が生き返るなんて
いいことのように思えるが
理から外れるというのはそういうことだ。
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