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椿鬼  作者: 彩花美月
12/19

参(1)








八重の相談を受けてから数日が経った。

八重は八重なりに自分の父は自分にとって悪人ではないと周りに言っているようだ。

俺は何もできないので応援の意味をこめて彼女の筆箱に手作りの赤瑪瑙のストラップをつけた。

彼女の気が増幅するように。

むくむくと気が湧き上がれば彼女は頑張れるはずだ。

そんな手伝いをするストラップにした。



それはそれとして

俺は中学時代の友人の相談をハジメの店で受けていた。

彼の名前は麻井といって

細い目をにっこりと笑わせ黒髪の短髪がよく似合う市役所職員だ。


それが訳のわからないことを言う。


「もう一度言ってくれないか?」


「何度だって言うし、信じられないのもわかるけど、まあもう一回言うな。

死人が生き返って…あれを生き返るというのかはわからないな生き返っているんだ」


「ジーザスクライスト!とでも言えばいいのか?」


「冗談じゃないから」



いや、わかってる。

わかってるんだ。

冗談じゃないのは。

こいつは依頼と言って呼び出しておいて冗談なんて言うやつじゃないんだ。

それはわかってるんだ。

でも起き上がりだって?

この現代でか?

あり得るか、それ?



「もうそろそろ話を進めてもいいか?」


「ああ、受け入れ難いが話は聞けそうだから聞こう」


「ありがたい」



そう言って麻井は長くため息を吐くと珈琲に口をつけおまけにもう一度ため息を吐いて話し始めた。



「俺の隣の課なんだが、死亡届を受理して火葬許可証を出しているんだが、その課に死亡届が出されてな、医師の死亡診断書もあり確実に死んでいるはずの通例通りの仕事だったから受理して火葬許可証を出したそうなんだ。

だが、死亡届を返してもらえないかと相談がきたらしく

何故かときいてみると家人が生き返ったそうなんだ」


「俺…頭痛い」


「市役所職員…その課の人達は吐きそうだよ。というか実際吐いた奴も倒れた奴もいるんだ」


「だよな…それで?」


「それでまぁ、あんまりにも人が倒れるんでな、メンタル強そうとかよくわからない理由をつけられて俺もその現場に同行したんだよ」


「麻井さん仕事できる…」


「ちゃちゃはいいから」


「ちゃちゃいれずに聞けないから」


「お前生業の割にメンタル弱いよね。で、まぁ、死亡届出されたご本人と思わしき人物、確かに動いていた」


「動いていた?」


「なんというか…虚ろなんだよ。人間っぽさが抜けてるっていうの?

俺の感覚でしか言えないんだけど。

喋るし動くしともすれば働けはするんだよ。

でも生気はないし冗談とかは通じないし本人の好ましいものとかもぜーんぶないみたいで機械みたいなんだよな。

でも身体は人間だから生々しい。

んで、まあ嫌がる医者も連れて身体を調べさせたんだけど生きてるらしいんだわ。

そうすると仮死状態だったんかねって感じなんだが今の医学でそれがわからんもんかねぇ…。と疑問も浮かぶ。

まあ俺は専門じゃないからわからんが。

で、まあこれが一件ならな、

まあそういうこともあるよなで形式的に裁判して済ますつもりだったんだがな、

支所とかあわせてうちの市だけで三十件も起きてるもんだからそんな風にもいかなくてな…。

中には動くのにも関わらず火葬場まで運んじまう猛者もいてなー…。

火葬場の人もこの火葬許可証本物ですか?!って問い合わせてくるしまあ大変なんだわ」


「大変なんだわで済ますお前怖すぎるわ。ほんっとメンタル強いね!」


「まあ、まあ、まあ。目の前で起きてんだから現実みねーと仕方ないでしょ」


そう言って麻井はまたはーっと長いため息をついて俺をみる。


「で、先生。この死体?みてくれねーかな。とりあえず原因知りたいんだわ」


「…ってなるよな。みるだけ?」


「とりあえず」


「市役所からの正式な依頼なの?」


「まっさか、馬鹿野郎。こんなわけわかんねーことに市民さまの税金使えるわけねーだろ!原因が科学的に説明できるんならお偉いさん説得して出してもらうけどな!有志の小遣いから出てるから勉強してもらえると非常に助かります」


「あい、わかりました。とりあえずみてみねーとな。いつ行く?」


「いつでもよくてなるべく早く。この近くにも一件あるからそこでみせてもらおう」


「まじかよ…この近くでも…嫌な予感…。だけど早めにやろうか。一時間後にまたここに戻ってくるわ。用意が必要」


「話早くて助かるわー。じゃあ俺戻るにも時間ないしここで珈琲のみながら先方に電話して待ってるわ。ありがとう」


そう言って麻井はにこーっと笑う。

たくましい。

メンタル強いとかよくわからない理由とか言ってたが本当に麻井はメンタル強いし、というか動じないし色んなモノをよくみる目を持ってるし、空気の機微もみれるし、本当役所内で頼りにされているんだろう。


俺はとりあえず席を立ち、自分の家に向かった。





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