王国の子守歌
この国は腐敗している。
わたくしが生を受けたのは、神の祝福を抱きし「ガルデニアース」という大陸三ヶ国の一つ。
広大な大地と、豊富な資源と、海への門が開かれている豊かな国。
始祖は女神ともいわれる王家を頂き、今代の王家には大地を富む祝福を与える神の寵愛深き聖女が存在する。
近隣諸国との関係は非常に良好で、戦争も政争もなく、国は安定していた。
わたくしは、その豊かな国の公爵家に生まれた。王家の血を引く、娘だった。
後宮に入ることになったのは、義務だった。先々代に降下した姫の血筋が入った、筆頭公爵家の令嬢としての、義務。
別に、構わなかった。
筆頭ともいわれる公爵令嬢のわたくしが、自由に恋想う方と添い遂げることはない。そもそも許されることはないと理解していたし、父も周囲に身分以前に年齢が釣り合う殿方はおかなかった。
教師でさえも例外なく、若くても父程に年嵩の妻帯者。もしくは引退間近の高齢者、または女性。わたくしに近い年齢なのは一つ年下の弟と、三つ年嵩の兄という徹底さ。
だから、わたくしは父の思うまま、後宮を束ねる筆頭公爵家の娘として後宮入りをした。
たとえ、殿下に寵愛を向ける子爵令嬢の存在があっても。
腐敗を、ただ見ていた。
わたくしが生まれた時には、もう、すでに手遅れで、わたくしが何をしたところでこの国の腐敗は止まらない。
父を、愛していた。
母を、愛していた。
兄を、愛していた。
弟を、愛していた。
国を、愛していた。
――殿下を、皇太子を、お慕いした。
だから、わたくしはこの国と共に終わろう。
「何故、お前がここにいる」
最後の最期、愛する寵姫の手を放して、命を奪われてしまった王に代わって、王座にあるこの方と。
「わたくしは、あなたの正妃ですから」
わたくしの言葉に殿下は―陛下は目を瞠った後、呆れたような、諦めたような、僅かな安堵をまぜて、苦く笑った。
「そうか」
共に生きたかった。たとえ愛を賜ることが無くても。この方をお慕いする気持ちをもって、支え、共にこの国の礎になることを、願った。
願いは叶わず、わたくしにできたことは、この方と共に逝くことだけだった。
それでも。
それでも、最期に共に逝くことを許されたことはわたくしにとって幸せだった。




