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魔導防衛軍魔法少女隊  作者: 一二三五六
第一章 結成!魔法少女隊
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第一章11 『戦場へ』

 ――街に音がない。


 魔導防衛軍が所有する輸送用大型トラックの中で、陽和は耳を澄ませる。耳に入ってくるのは道路を転がるタイヤの音と小さな爆音。人の声も逃げる足音も一切聞こえない。余計なものを排除した空間。陽和はそれを知っている。


 ――あの時と同じだ。


 今も尚、頭から離れないあの場所が、陽和の中に現れる。その時の恐怖も。希望も。

 この空間を作り出しているのは『ハルディン』と呼ばれる魔導防衛軍が持つ魔導兵器だ。指定した場所に透明な膜のようなものを貼り、魔獣や魔導士以外の生物を排除する結界を作る。この魔導兵器は魔獣が現れた瞬間に起動し、現実の世界から隔離する。街への被害を避けるための防衛策として使われている。まさか五年後に再びこの空間へ入ることになるとは、昔の陽和は夢にも思っていないだろう。

 だが、今の陽和も、思いもしていなかったことに直面している。


 ――いつかは戦場に立つ時が来るのはわかっていたけど、まさか島に来たその日に戦闘だなんて。


 陽和はふと自分の手元を見る。膝に乗せた稼働形態プロトフォームのシュテルンが、トラック内の照明に照らされてキラリと光る。それを持つ手が震えていることに気づき、誤魔化すように強く握った。


 ――実践をやったことがないわけじゃない。訓練学校で何百回と練習してきた。でも、相手は生き物。訓練学校にいた人工知能があるマネキンロボットじゃない……魔法の使えない私に勝てるのかな。


 頭の中で何度も魔獣と戦った、だが何度やっても勝てるイメージが湧いてこない。あの時の恐怖の所為なのか、魔法が使えないからか、嫌な思考が次々と溢れてくる。心臓を握られたように胸が苦しい。

 でも、

 だけど、


 ――負けたらそれで終わり、あの人を目指すことなんてできない。それだけは絶対に嫌だ!だからこそ、なんとしてでも勝たないと!


 俯いた顔を上げ、ゆっくりと、大きな深呼吸を一度だけ。胸が少し軽くなるのを感じる。


 ――大丈夫。大丈夫。自分のやれることを精一杯やれば。それに戦うのは私だけじゃない。


 陽和はトラック内を見渡す。

 自分と同じ軍服と杖を持った少女たちが、戦場を待っている。表情は十人十色、イキイキしている者もいれば、緊張して強張っている者もいる。そんな中で、陽和の隣に座っている真樹は、今にも泣き出しそうな顔を浮かべていた。


「真樹ちゃん、大丈夫?」


 声を掛けられたことに驚きながら、慌てて目に溜まった涙を拭う。


「だ、大丈夫、ちょっと緊張してるだけだから……」


 震える声で答えた真樹は、手だけではなく体も震えていた。陽和は改めてトラック内を見渡す。

 表情は変わらない。だが誰も彼もが落ち着きがなかった。


 ――そっか、選ばれたといってもみんな魔獣との戦いは初めてなんだ。


 それを理解した上で、陽和は震える真樹の手を握る。


「すごい震えてる……やっぱり緊張するよね」


「……うん」


「私も同じだよ、すごい緊張してる。それにちょっと怖いしね」


「……そうだよね」


「でも、大丈夫!」


 陽和は立ち上がり、真樹に笑顔を見える。


「だって、今までこのために頑張ってきたんだから!それに、ここにいるみんなは、師団長に選ばれて魔導士なっただよ?いざとなったら頼りにすればいいだよ!――まぁ、私は頼りになるかわからないけど」


「芦住さん……」


「そうだよ!ひよりんの言う通り!」


 先ほどからイキイキとしていた茜が胸を張って立ち上がる。


「ピンチの時は茜に言って!ギガ速く助けに行くからね!」


「そうですね、出会ってまだ間もないですが、私たちは同じ部隊の仲間です。支え合っていきましょう」


「ね?だから、一緒に頑張ろう!」


「芦住さん、みんな……ありがとう」


 堪えたはずの涙が頬を伝う。だがその表情は先ほどよりも晴れやかだった。

 その様子を見ていたのか、真樹たちの会話が終わると同時に声が聞こえてきた。


『はーい幼女のみなさーん聞こえますかー!石動お兄さんでーす!』


 とてもお気楽な青年の声は、まるで脳内から語りかけているかのように聞こえてくる。シュテルンに搭載されている機能の一つ、『念話無線』によるものだ。その機械に触れている者同士で会話することが可能で、声を出せない状況でも外部と交信するために作られた魔導兵器である。現在はシュテルンと司令部の無線が繋がっている。


『もうすぐ魔獣と第四小隊が戦闘している品川駅周辺に到着するよ』


『魔獣の数は何体いますの?』


『第四小隊の報告によると――三〇体だね』


『三〇体!?』


『メガ多いね!』


『そのうちの一四体倒しているみたいだから、残りは一六体。でも奴らは複数で行動し、尚且つ一人一人を狙ってるから、倒すのも一苦労。おまけに第四小隊も数が減って少し押され気味だな』


 陽和たちの間に再び緊張が戻ってくる。

 戦場はもう目と鼻の先、後戻りはできない。


『さあ、初陣だよ魔法少女諸君!君たちの実力を見せてくれ!』


 大型トラックが停車し、荷台の扉が開いた。

 少女たちは一斉に戦場へと舞い降りた。


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