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季節は秋。村の麦畑は黄金色に波打つ麦の穂が一面に広がっていた。
待ちに待った麦の収穫の日がやってきた。刈り入れの作業は村人総出で協力して行う。
「いやぁ、去年に続き今年も豊作だ」
「やっぱり、セレナちゃんのお陰かのぅ。
ありがたや〜ありがたや〜」
「そこ! ありがたがってないで手を動かしな」
「セレナちゃんかー。いいよなぁ。かわいいよなぁ」
「うんうん。頭の花とか実がいいアクセントになってて、
清楚というか、可憐というか」
「噂だと料理、上手らしいぞ」
おおっ!
盛り上がる男の子諸君。
「あ、私この前食べさせてもらった。
もうほっぺた落ちそうなぐらい美味しかった」
「「「なんだって!」」」
頰に手を当て料理の味を思い出したのか陶然とした様子の少女。年頃の女の子としてあるまじき表情を浮かべているが気にしない。
それだけ美味しかったのだ。
「それに、食後のデザートにセレナちゃんの頭になってる
果物もらったんだけど、もう、最高っ!
ああ、思い出したらまた食べたくなっちゃった。
・・・・・・じゅる。」
「羨ましい、羨ましすぎるっ!」
「何故、何故アンネだけぇぇぇぇ!」
「え、あんたたち、まだ食べたことなかったの?
かっわいそー。村の女の子はみんなご馳走になったよ」
「うわぁ、あの料理食べてないなんて
人生ものすごく損してるよ」
周りの女の子たちから可哀想な物を見る視線を向けられるそろそろ結婚したいなー。と考えている年頃の男の子たち。
村の女の子たちのあまりにも羨ましい体験に血の涙を流す男子一同。
「神は、神はいないのか!」
「おのれ、女子共め」
「俺も食べたい。食べてみせる!」
「むしろ俺は食べて欲しいっ」
「ふんっ!いいもん!
お嫁さんになってもらって毎日食べさせてもらうもん!」
「「「それだ! だが、抜け駆けは許さん」」」
結婚すれば毎日食べられるという案に飛びつく男子一同。
1名、怪しい発言をした者がいたが、周りの女子から汚物を見るような目で見られる。
「そこ! くっちゃべってないで手を動かすんだよ」
近所のおばちゃんに睨まれて慌てて作業に戻るのだった。
一方、話題の主であるセレナは森の中をテクテク歩いていた。秋になり頭の上の花が枯れてしまい何かいい物がないか探しに来ているのであった。
ここ2年は忙しくてなかなか行く機会に恵まれなかった。
実は頭に生えている花や実はやろうと思えば季節外れの物でも生やすことはできるが、維持するのに体力を使う為、なるべく季節にあった物を生やしたほうが楽なのだ。
そのため、セレナの頭の上は左右にある大好物のグーレと葉っぱしかなく、かなり寂しいことになっている。
ちなみに、グーレとは赤い皮のぶどうで、とっても甘い。
このぶどう、セレナの頭で育っているため種がない。なので、皮ごと美味しくいただける。
村の女の子たちに料理を振る舞った時にデザートとして何気なく出した、このグーレ。実は、通常のグーレの変異種で、セレナの頭にしか生えない大変貴重な果物だったりする。
しかし、セレナは彼女自身はもちろん村の誰一人としてそんなことは知らないので、頼まれれば割と気軽に渡している。
「あ! いい物はっけーん!」
いそいそと倒木の元へ駆け寄りゴソゴソとしだすセレナ。
そして、突然立ち上がったかと思うと両手を空に掲げる。
「ふふん」
ドヤ顔である。
手には、柄がなく層状の形をした灰色の地味なキノコが大事に握られていた。
ポシェットから誕生日(おばあちゃんが決めてくれた)にアリスさんから貰った手鏡を取り出して、層状のキノコをカチューシャのように頭にのせる。
「うん、うん。いい感じ」
大満足なご様子。
このキノコ製カチューシャ、いい感じにセレナの魅力を引き出している。灰色で地味なくせしてなかなかいい仕事をする。
「これもいいかも。少し折らせてもらうね」
小さな赤い実が生っている木の枝を折り、右側のグーレの近くに植える。鏡で確認して一つ頷き、また歩き始める。
頭の上も充実してきた頃、はたと気づく。
「あー。そういえば、小麦という手もあったかー。
よし、イルクさんにもらいに行こう」
思い立ったが吉日さっそく村へ向かおうとする。
その時、不意に後ろの茂みがガサガサと音をたて背後に気配を感じた。
「あ、あわあわあわあわ」
振り返った先にいたのは体長3メートルはあろうかというビッグベアだった。
普段はこちらが挑発しなければおとなしい性格の魔物だが、秋は冬眠に備える為にたくさん食べなければいけないので攻撃的になる。
「ワ、ワタシ タベテモ オイシクナイヨ」
恐怖で言葉がおかしくなっている。脚もガクガク震えている。
しかし、ビッグベアはセレナをジッと見つめ鼻をヒクヒクさせて匂いを嗅いだ後、何かに納得した様子を見せてクルッと背中を見せて何処かへ去ってしまった。
「あ、あれ? 助かったの?」
緊張が解けてセレナはその場に崩れ落ちてしまった。
とりあえず、さっさと村に帰ることにする。震える脚を無理やり動かしながら村へと向かった。
村の畑にたどり着き、イルクさんを発見する。
ちょうどお昼の時間でみんなで集まってご飯を食べていた。
「イルクさーん」
「セレナちゃん、どうしたんだい?」
「その、できればでいいんですけど、小麦を数本分けて欲しいんです」
「ああ、それなら数本と言わずにもっとたくさん持っていってもいいよ。
セレナちゃんのおかげで今年も豊作だからね」
「あの、頭に植えるので本当に数本でいいです」
「そうなんだ。あ、こっちおいで。俺がつけてあげるよ。
・・・・・・こんな感じで植えればいいのかな?」
「はい、大丈夫です」
さっそく手鏡で確認。
右側の前髪の一部と小麦の穂が同化しており可愛くできていた。
なかなかセンスの良いイルクさんであった。
「すごいです! ありがとうございます!」
「気に入ってもらってよかったよ」
一方村の子供達。
女の子サイド
「いいなぁ。あのカチューシャ、かわいいなぁ。私も欲しいなぁ。
って、よく見たらキノコ!?」
「よし、あのキノコ採りに行くわよ」
「頼んだら植物のアクセ、作ってもらえるかな」
「セレナちゃん、美味しそう。・・・・・・じゅるり」
「ちょっ、待ちなさい。確かに頭の上は美味しそうだけど
美味しそうなのはセレナちゃんじゃないよ。正気に戻って!」
男の子サイド
「や、やべぇ。可愛い・・・」
「春と夏もいいけど、秋セレナちゃんも、イイ」
「オイラがつけてあげたかった」
「あ! あの赤いぶどう。あれが女子が食べたという至宝の果実!」
「なっ、なんだと。 セレナちゃん、俺にそのぶ・・・グハッ!」
「ふっ、抜け駆けは許さん」
「イルクさん、イルクさん。
よかったらデザートにグーレ、いかがですか?」
「え、いいの? アリスの分も貰ってもいい?」
ピクッ
「はい、いいですよ。どうぞ」
「いやー、ありがとう」
セレナは左右に1房ずつなっているぶどうを採るとイルクに渡す。
そこへ「ぶどう、いかがですか?」に反応した子供たちの中から1人の少女が歩み出てきた。
「セレナちゃん、私もその、貰ってもいいかな?」
「うん、いいよ。ちょっと待ってね。
っん・・・・・・・っふ・・・・・はい、どうぞ」
「あ、あああありがととう!」
「? どういたしまして」
目をギュッと瞑り、やたら色っぽい声を出しながらグーレを実らせ、女の子に渡しすセレネ。
かわいそうなことに目の前の女の子は真っ赤になっていた。
真っ赤になった女の子を見たセレネは熱でもあるのかな?と、少し心配になっていた。
その様子を見ていた女の子が続く。
「わ、私にも頂戴!」
「いいよ。 ・・・・・・っん。 はい!」
「あ、ありがとう」
「私も!」
「俺も!」
「ワシも・・・」
「待ちな、このエロジジイ!」
「はわわわわ」
一斉にやってきたので最初は少し慌てたセレナだったが無事にその場にいた全員に配ることができた。
「ごほっ、ごほっ」
「大丈夫か?風邪でもひいたか?」
「そうかもな」
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