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「なんという失態だ」
「も、申し訳ありません」
森の中に作られた秘密の研究所の1室。
そこには2人の男がおり、片方は椅子に座り机をトントンと指で叩き、苛立ちを隠さない声でもう片方の男を怒鳴りつけている。
「実験体が逃げたらしいが、どうするつもりだね?」
「はい、ただいま捜索隊を出し探させております。
しかし、周りが森ゆえなかなか思うように捜索が進まず・・・」
「所長、私は言い訳を聞きたいのではない。
実験体を逃がした責任をどう取るのかと聞いているのだよ」
「そ、それは・・・」
所長の顔からポタッと汗が落ちる。
「まぁ、今回は私の方でなんとかごまかしておく。
お前は逃げた実験体を確実に処分しろ。
できなかったら分かっているだろうな」
「は、はい。もちろんでございます 必ずや実験体を見つけ出し処分します」
「よろしい。では、私は失礼する」
そう言って男は部屋を出て行く。
結局逃げた実験体は見つからず、
その研究所の所長には別の人物がなった。
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「〜〜〜〜♪」
鼻歌を歌いながら私は畑で採れた野菜を切り、鍋に入れてスープを作る。
その間に、この前村の人からもらった猪の肉を焼く。プチっと自分の髪から臭い消しの葉っぱをちぎって肉の上に乗せる。ついでに自分の頭で育てた食べるとピリッと辛い実を粉末にしたものをかけて味付け。
「おばーちゃーん。ご飯できたよー。」
「いやー。いつも悪いねぇ。」
ドアが開きおばあちゃんが出てくる。
私は食卓にスープと肉、パンを運ぶ。
私の分はない。水飲んで日向ぼっこしてればお腹は空かない。食べようとしても体が受け付けず、戻してしまう。でも、自分の体に生えているものは食べても問題ない。
2年前、喉が渇いて干からびて、髪の毛の先が茶色くなって行き倒れているところを助けてもらい、そのままここ、森の中にある小さな家に住まわせてもらっている。
おばあちゃんに行き倒れるまでの話をすると泣きながら「大変だったねぇ」と慰められ、なんと、セレナという名前をくれた。私の大事な大事な宝物だ。
他にも、おばあちゃんから頭に生えている草や葉っぱや花のこと、薬の作り方、そして、水魔法を教えてもらった。
これでもう干からびて倒れる心配はない!
これは1年前おばあちゃんの娘さんの結婚式に行くためおばあちゃんについて行った時にわかったことなのだが、私は魔物、らしい。
村に入ろうとしたら魔除けの結界に阻まれて気分が悪くなり入ることができなかった事で発覚した。
姿からして1番近いのがアルラウネとのこと。しかし、今まで見たことのない全くの新種だという。
「なんか、髪の毛から葉っぱが生えていて頭がお花畑だから不思議な子だなと思っていたら魔物だったのね」
ウフフとおばあちゃんは笑っていた。
私、魔物らしいけどこのままでいいの?と聞いたらセレナはいい子だから問題ないそうです。
そうですか。
年はよくわからないけど、見た目が13歳から15歳の子供が通う中等部の学生と同じぐらいなので、間をとって14歳ということになっている。
朝ごはんも食べ終わり食器の片付けをしている時、その人物はやってきた。
「おかあさん!遊びに来たよーっ。」
玄関の扉がバンッと開き若い女性がおばあちゃんへ駆け寄る。
しかし、おばあちゃんに駆け寄った女性に待っていたのは頭への鉄拳制裁だった。
「あいたぁ! ああ、懐かしのこの痛み・・・。って、そうじゃない。
なんでいきなり鉄拳制裁!?」
「このバカアリス。走る妊婦がどこにいる」
「え、えへへ。ごめんなさい。
あ!セ・レ・ナちゃーーん!ああ、このすべすべもちもちのお肌、イイ」
私を見つけた瞬間飛びついてきてスリスリし始めた少し残念な女性はアリスさん。
おばあちゃんの娘さんで、もう直ぐ赤ちゃんが生まれるそうです。旦那さんは幼馴染のイルクさん。とっても優しい良い人です。
「あら、お説教が足りないようね」
「そんな殺生な」
ベリッと引き剥がされるアリスさん。
うわぁ。おばあちゃんの指がアリスさんの頭に食い込んでるよ。
アリスさんの顔が心なしか赤く染まってるのは気のせいだと思いたい。
おばあちゃんの説教が終わった後
「なーんか甘酸っぱいものが食べたいなー」
私の方をチラッ、チラッと見てくるので、お皿を用意して私の頭になっている青紫色の実を盛り付けてアリスさんに渡してあげる。
すると、この味、これが食べたかったのよー。と、とても美味しそうに食べ始めた。妊娠してるせいか無性に食べたくなる時があるらしい。
まさか、これを食べるために村から10分離れたここまで来たわけじゃないよね?
その後、アリスさんに大きくなった中を触らせてもらった。
そーっとお腹を触るとお腹の中が動いてびっくりした。赤ちゃんがお腹の中で蹴ったそうだ。
アリスさんはすごく優し顔をしていた。
数日後、私は村の周りにある麦畑にきて歌を歌っている。私が歌うと周りの植物が元気になるので定期的に歌いにきている。
春になり、ポカポカと太陽の光が暖かい。蝶々がヒラヒラと私の頭の上に来て花の蜜を吸っている。
小鳥さんがやってきたので、頭に生ってる実を取って手のひらの上に乗せると手首に止まって食べ始める。
すると、続々と小鳥がやってきて腕や肩に群がる。
「わわっ。喧嘩しなくてもあげるから」
両手でお皿を作り、その上に実を置く。
肩に止まっている小鳥の中にはちゃっかり私の頭から直接食べているのもいた。
私のとこだけ小鳥たちの鳴き声でかなり賑やかになっている。
「あ、セレナちゃん、丁度いいところに」
「あれ? イルクさん、そんなに急いでどうしたんですか?」
村の方からアリスさんの旦那さんがすごく慌てて走ってきた。
小鳥たちがバサバサっと飛び立っていく。
「アリスが産気づいたんだ。早くお義母さんに知らせないと」
「た、大変! 私がおばあちゃんに知らせに行く!」
「ああ、助かるよ。お願いする」
というわけで私は森の家へと走る。
見た目は普通の人とほとんど同じだけれど、私は魔物。本気で走れば人間よりずっと早く走れる。
「おばあちゃん、アリスさん、赤ちゃん産まれそうだって」
「なんだって! 急いで支度するよ」
おばあちゃんは村に中で一番経験豊富な助産師だ。
出産に必要な道具を準備して、急いで村に向かう。
アリスさんのいる部屋に入ると部屋いっぱいに鉄の匂いがして汗をびっしょりとかいて苦しそうなアリスさんと、真っ赤なシーツの前で青ざめた顔をしながら必死に赤ちゃんを産ませようとしている若い女性がいた。
「あ、師匠! 血が、血が止まらないです。
このままじゃ・・・」
「お、母さん、私はいいから、あかちゃんを」
「何弱気になってるんだい。私が来たからには
もう大丈夫だよ。ターシャ、それを取っておくれ」
私はその光景を見て動けずにいた。
アリスさんの絶叫が部屋に響く。
血の匂いが一際濃くなり、ベッドのシーツの赤い染みが更に広がっていく。
アリスさんが見てわかるほどにどんどん衰弱していく。
その様子を見て、研究所のお腹から木が生えた女の子の姿を思い出す。衰弱していき最後には木になってしまった女の子。アリスさんもこのままだと死んじゃう。
そんなの嫌だ。
何か、私にできることは・・・
ある。私の体にこの場を切り抜けられるものが。正確には頭に生えている。
私は夢中になって頭に生えている葉っぱや蜜、実を近くにあったコップに入れて最後にナイフで手首を切って、出てきた透明な緑色の体液をコップの中身が浸かるまで入れた後、お腹にぎゅっと力を込める。
必要なものややり方は何故か知っていた。
コップが輝き、中に透明な青い液体ができる。
「アリスさん、これ飲んで」
アリスさんの口元にコップを運び少しづつ飲ませる。
苦しげな呼吸がだんだん整っていき顔に血の気が戻る。
「あ、出血が止まった」
「アリス、赤ん坊の頭が出てきたよ。後少しだから頑張りな」
数刻後、アリスさんは無事、男女の双子の赤ちゃんを産んだ。一時はどうなるかと思ったが、母子ともに無事でよかった。まさか双子だとは思わなかったけど。
イルクさんはとっても喜んでいた。
「そうそう、エレナ、さっきはありがとうね。
初めて見たけどさっきの薬は一体何だったんだい?」
「わかんない。なんか、アリスさんのこと助けたいと思ったら
頭に浮かんできた。何て言うか、最初から知ってた感じ?」
「ふむ。魔物としての特性かのぅ」
「そうなのかなぁ。よくわかんない」
この日からおばあちゃんは薬草や薬についてより専門的に教えてくれるようになった。
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