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「来い、2596番」
2596番。右胸に焼印で刻まれた私の名前。
檻の扉が開けられ、首輪につながっている鎖を引っ張られ無理やり檻の外に出される。
ああ、とうとう私の番かと思う。
もともとこの檻の中には10人、私と同じぐらいの年の子供達がいた。
でも、今はもう、私1人。
ある日突然どこかに連れて行かれ、そのまま誰も帰ってこなかった。
最後に残ったのが私。
一度、檻の扉が開けられた時に逃げだした男の子がいたけど、出口の先にいた人達に捕まりどこかに連れて行かれた。それで檻の中にいるみんなが悟った。逃げ出すことはできないと。
だから、大人しく鎖を持った人についていく。
鎖を持った人に連れられてたくさんの扉を通り抜ける。
大きい白い扉をくぐるとそこは部屋になっていて真ん中に色々なものがついた台が置かれていた。さらに、その台の上に円盤がぶら下がっていた。
鎖を持った人に言われて台の上に仰向けになる。
すると、鎖を持った人は台についているもので私の手や足を動かせないようにする。
鎖のついた首輪も外されて、代わりに台についている首輪をつけられた。
鎖を持っていた人は私が動けないことを確認すると部屋から出て行ってしまった。バタンと音を立て扉が閉まる。
縛られているせいで指先と頭しか動かせない。
しばらくすると、白い服を着た口元を白い布で覆った人がたくさん部屋に入ってきた。
着ている貫頭衣をハサミで切られ脱がされる。
右腕にチクっとした痛みを感じたので見てみると円柱に細長い棒がついたものが腕に刺さっていた。
円柱の中には黄色い半透明の液体が入っていて、上の方にある棒を押し込むと液体がどんどん減っていく。それと同時に、右腕の方からどんどん感覚がなくなっていく。
白い服の人達が集まってきた。
「ポイズンスライムの毒の投与、完了しました」
「よろしい。それではこれより、2596番への
アルラウネクイーンの心臓の移植を開始する。メス」
「ねぇ、なにするの?」
言っていることは難しくてよくわからないけど不安になって質問したが無視される。
「ねぇ、なにするの?ねぇ、答えてよ」
もう一度質問する。すると、1人がうんざりしたような雰囲気で
「うるさいな。黙らしておけ」
男の指示により、私の口は布を詰め込まれて塞がれた。
ナイフのようなものを持った人がそれで私の胸部をなぞる。なぞったところから赤い液体が出てくる。
これ、知ってる。血だ。でも痛くない。
何で何で何で何で何で
怖い怖い怖い怖い怖い
誰か、タスケテ。
目をさますと檻の中にいた。
なんだ、夢か。
そう思って起き上がろうとすると胸に痛みを覚えた。
慌てて貫頭衣の下を見てみると胸に長細い白い布が巻かれていた。その白い布の一部がうっすらと赤くなっている。
「っっっ!!!」
そーっと白い布を持ち上げると胸の真ん中が糸で縫われて塞がっていた。
じゃあ、さっきのは夢じゃないの?
私、何されたの?
「いたいよぅ。おなかいたいよぅ」
後ろを振り向くと鉄で作られた柵がありその向こうに自分より幼い女の子がいた。
その女の子はおなかを押さえて蹲り、痛い痛いと泣いていた。
「だいじょうぶ?」
柵に近寄って女の子に声をかける。
すると、女の子が気がついてこちらにやってきた。
「おねえちゃん、おなかいたいよぅ」
「だいじょうぶ、痛くない、痛くない」
柵の隙間から両手を出し右手で頭を撫で、左手で背中を軽くトントンと叩いてあげる。
しばらくすると女の子も落ち着いてきて、私の手にプニプニした頰をスリスリしてきた。 か、かわいいっ!
すると突然、女の子が尋常じゃなく苦しみだした。
慌てて少しでも楽になるように、そう思いながら女の子の背をさする。
でも、女の子はどんどん弱っていく。
「お、おねえちゃん、い、いたい、よ
や、やだ。たすけて、おねえちゃん、たすけ・・・」
女の子のおなかから木が生えた。
そのままどんどん大きくなり、大人と同じぐらいの高さになった。
女の子から生えている木には葉っぱが青々と茂っている。
女の子の右手が私の貫頭衣の裾を握りしめている。
「・・・・・・え?」
何が起きたのかわからない。女の子はピクリとも動かない。
私はただ、茫然と女の子を見つめることしかできなかった。
しばらくすると、白い服の人が3人きて女の子の檻の中に入ってきた。
「2373番でもだめか」
「素材が素材ですし、仕方ないですよ。
普通の個体では耐えられないですよ」
「まぁ、この個体を研究すれば原因も分かるはずなのだ。
とにかく、研究には犠牲がつきものなのだよ」
「ま、まって」
白い服の3人は、そのまま女の子をどこかに運んで行ってしまった。
「ぎゃあああああぁぁぁぁぁ!」
恐る恐る後ろを振り返る。
そして柵越しに見てしまった。
かつて人間だったであろう、人の形をした木を。
不意に胸が痛み出した。
身体中が熱くなり、体の内側がかき混ぜられるような気がした。
余りの痛みに声すら出せない。目の前が真っ白になる。
怖い、怖い、私も木になっちゃうの?
恐怖に押しつぶされながら私は意識を失った。
目が覚めた。目が霞んでよく見えない。体かだるくて動かすのが億劫だ。
「また失敗か」
「データは揃っている。この個体は処分だな」
上半身を起こして辺りを見回す。
相変わらず檻の中だったが、白服の人が3人いた。
「おい、起き上がったぞ」
「なに!? 死んでなかったんか」
「せ、成功したのか?。よし、研究だ。
あ、その前に所長に報告か」
慌てて檻の中から出て行く3人。
視界の隅に植物が映った。
まさかと思い自分の体を見る。よかった。何も異常は見当たらない。
じゃあ、この植物はなんだろうと引っ張ってみる。頭が引っ張られる感覚があった。
そうして気がついた。
この植物が自分の髪の毛だということに。
腰まである茶色だった自分の髪が緑色になり、髪のあちらこちらから葉っぱが生えていた。
頭の上を触ってみた。 何かある。
引っ張ってみると、プツッと音がして何かが取れた。それは、真っ白な綺麗で可愛らしい花だった。
「ここかね? ほう、素晴らしい」
訳が分からず混乱していると、髭が生えた偉そうな白服と5人の白服がやってきた。
「所長、個体番号は2596番。移植部位は心臓です」
「なるほど、なるほど。では、サンプルとして腕を1本採取しなさい。
ふふ、これで我々の研究は飛躍的に進む」
怖い、目が怖い。
私をまるでものを見るような目。
嫌だ、ここから逃げたい。
「ん? この匂いは・・・
あ、あの花は睡魔草。まずい、はな・・・」
白服の1人が何かに気がついて慌てて警告をする。しかし、最後まで言えずにその場に倒れる。
それを皮切りに残りの5人もばったばったと倒れてく。よくよく見ると6人とも寝てしまっていた。
檻の扉が開けっぱなしになっていたので、所長と言われていた男の体をツンツンと指でつつき、反応がないのを確認すると檻の外に出て、そっと扉を閉めて鍵をかける。
外に出た。森の中だった。
途中にいた白服の人や剣を持った人は、なぜか例外なく皆眠ってしまった。
出口にたどり着くまでにたくさん檻があったがその中には正気を失った子供や死んでしまっていた子供が入っていた。どれも体の一部が人間ではなかった。
久々の太陽がポカポカと気持ちい。
陽の光を浴びていたら元気が出てきたので、とりあえずここからできるだけ離れることにする。
陽が暮れて夜になり、また陽が昇り太陽が真上に来た頃、水の流れる音が聞こえた。
「! 水! 水!」
無性にみずが飲みたくなり、音のする方へ走る。着いた先には森に囲まれた湖があった。
岸に膝をつき両手でみずを掬い夢中でみずを飲む。
「むぅ?」
水面に映る自分の姿に気がつく。
目の色が緑に変わっていた。髪の毛も緑色に変わり、あちこちから葉っぱが生えている。頭の上は色とりどりの花が咲き、まるでお花畑のようだ。頭の両側には房状の赤い実や青紫色の小さな実がなっていた。
試しに、青紫色の実を食べてみる。
「〜〜〜〜〜!」
甘酸っぱくてとても美味しかった。ちなみに、実は採ってしばらくすると勝手に生えてきた。
食べ物には困らないと安心し、再び森を歩く。
(そういえば、お腹減らないな、なんでだろう?)
次は4月2日に更新します。