第九十六話 本題
荷物という程のものはなかったが、部屋に運び込み一段落し、相棒の部屋へとやってきた。今後の話があるからとかで呼ばれていたんだ。
部屋に入ると、相棒はあの椅子に座り、巨大なコンピュータのキーを叩いていた。
『ちょっと待っててねぇ。』
叩く速さを全く変えずにそう言った。一体何をしているのだろうか?
“カチッ”
案外答えはすぐに出た。何も映っていなかった巨大なモニターに人影が映った。顔の見えない、襟に丸い蛇のようなバッジを付けている。これがウロボロスだと相棒に教えられたのは後の話だ。輪廻だとか、そんな意味を含んでいると…。俺は今までに見覚えがない人物が突然映り、少し身構えた。
『心配しなくていいよぉ。今までワンコに手を貸してくれた人だからぁ。』
話には聞いていた。相棒が全てを取り仕切っているとは考えられず、聞いたことがあった。誰か上にいるのか、と。いずれ会うことになるから、それまでは秘密だ、とはぐらかされ、それまでだった。
『初めましてだね。いろいろあって顔は出せないんだ。悪いね。』
声は機械で変えていなければ案外若い感じがした。流石に十代はないだろうが、せいぜい三十代までではあるだろう。
「別に構わない。こっちには感謝しきれない恩があるんだしな。」
言葉を取り戻した際、口調も変えた。あの時のリーダー格の男のように威圧的になれるようにと。俺はこれから戦うのだから。
『ありがとう。それじゃあ、今後の方針についてだが…まぁ、トーイッシュから聞いているとは思うが、これからは私の専属の戦士として仕えて、任務をこなしてもらう。その見返りとして、私の情報力を用いて君の自由を奪ったやつらを探し出す。…それでいいかな?』
「ああ。…ただ、任務についてそろそろはっきりと言ってもらえないか?」
トーイッシュにははぐらかされ、詳細は全くわからなかった。それでも、その頃にはもう既に戻るような考えはなかった。
『トーイッシュ、話していないのかい?…そうか。君は嫌うかもしれないが、多くは私たちにとって障害となるものを取り除いてもらいたいのだ。』
「用は…人殺しをしろと。」
『必ずしも…という訳ではないが、そうなることも多いだろうね。』
予想通り…か。
俺は仕事柄、社会の黒い部分を呆れるほど見てきた。人を騙し、法を犯し、自らの繁栄のためならば他人を傷つけることを厭わない人間。法で裁けず、苦渋を飲んだこともあった。そんな連中を殺すのであれば少しはマシか…なんて、甘ったるいことを考えていた。どれほど苦労するかも分かっていなかった。
「わかった。そもそも選択肢なんてないしな。」
厭味ったらしく言ったことでか、少し気を落とさせてしまったようだった。
『…ありがとう。それではいきなりだが、最初の任務を行ってほしい。』
今だにわからない。ターゲットがどう決められるのか…。