第九十五話 深淵へ
組もうといわれ、この時は本当に助かったのだと思った。元の姿に今すぐ戻れる訳ではない。それでも味方ができることでかなり救われた。拒否するなど毛頭なく、首を縦に振った。
相棒は無邪気な笑顔で俺の返事を受け止めた。今でさえも変わらないあの作り笑いの裏のどす黒さ…。あんな若いころからかと思うと、恐ろしい。相棒の過去に何があったのか知らないが、心が歪む程の事を経験したのだろう。
『よかったぁ、よかったぁ。断られたらどうしようかと思ってたんだぁ。』
白々しい内容だ。断られることはないと確信していたくせに…。
『とりあえず今は身体治してねぇ。ついでに話す練習もしたらいいよぉ。後、当分その姿だろうからぁ、ちょっと検査とかすることになるよぉ。その時はよろしくねぇ。』
それだけ言うと相棒はさっさと出て行った。あまりにも唐突に話が進み、いまいち状況を掴めていなかったのだが、とりあえず、一歩は事態が好転する方向へと踏み出したのだと思えた。実際はさらに深みへ足を踏み入れることになるなんて考えもしなかった。
次の日からこの身体に慣れる訓練を始めた。言葉を取り戻すことから始め、聴覚、嗅覚の変化への適用、傷が完全に治ってからは身体能力に慣れるべく、身体を動かしていた。こんな身体になっていたものの、血液等体内に異常はないらしく、定期的に何かを摂取しなければならないということはないそうだ。専門的なものは分からないが、遺伝子の不適合だのなんだのがあるんじゃないか、という不安はなくなった。
少しずつ、物事を落ち着いて考えていくことができるようになってきた。これから俺はどうするか…。―復讐。この姿にした奴らへの。人生を狂わされた奴らへ。そう…あくまで奴らだけへの。
半年もすればかなり自分の身体に慣れてきた。…どうも聴覚と嗅覚にはまだ違和感があった。今はさすがに慣れたがな。病室から離れ、俺は軍事施設のような場所へ移ることとなった。データも採り終わり、病院に居続けるよりも少しでも手がかりを見つける手助けになりたかったから。そして、何よりも俺をこんな姿にした奴らが武装集団であったことから、俺自身が奴らと戦いたかったこともあった。そこで約二年間、銃や格闘術等の戦う技術を学んだ。あくまで俺は自分を取り戻し、奴らの行いを阻止したかった。ただそれだけだった。だからこそ、そこまでできた。
それから、ここへとやってきた。その頃から原型はほとんどできていた。俺の部屋ぐらいか…。ここを拠点とし、奴らの施設を潰していく。それが俺が聞かされていたものだった。
ここへ着いたその日の夜のことだった。俺はやっと自分の立っている舞台がなんなのか知ることになった。