第九十二話 広がる恐怖
あまりにも突然だった。
“ドカァァァン!”
数歩前の壁が爆音と共に吹き飛んだ。衝撃で後ろに吹き飛ばされた。壁にぶつかり、勢いは止まったものの、背中に痛みが拡がる。一体何なんだ、と崩れた壁へと目を向けた。
穴の向こうから光がもれていた。そして、照らしだされている一つの人影。逆光のせいではっきりとは見えなかったが、目の前まできてはっきりとわかった。武装した兵士だ。恐れていた現実に怯え、身体が動かなかった。
『動くな。』
銃を構え、たったそれだけを口にした。いや、たったそれだけで十分だった。俺は動けなかった。ただ、その中で頭だけはよく働いた。こいつは俺を捕まえにきたのか?俺をどうするのか?…だが、逆に悪い方にしか考えられず、むしろ、何も考えられない方がマシだった。
人影はさらに増えた。穴から三人増え、全員で四人。顔の鼻から上はゴーグルのようなもので隠れていて、身体のサイズ程度でしか区別できない。内二人が俺に銃を向け、他二人で外部と連絡をとっているようだ。
『はい、今確保しました。』
離れている二人の内、背が高く、細身の男が話している。
無線を使っているんだろう。これから俺をどうするか決めるのか…。ここの人間たちなのだろうから、いいことは起こらないだろうな。…もちろん、かなりの恐怖で心が満杯だった。ただ、あまりにも日常から逸脱した事しか起こらないからだろう、頭と心が離れ、第三者として見ているかのように頭は冷静だった。
『…はい、了解しました。』
二言目にはこの言葉が続いた。今思えば、俺の処置は予め決められていたのだろうな。背の高い男がゆっくりと近づいてくる。
『立て。…私について来い。』
短く、必要最低限の事しか言わない。だからこそなのか、威圧的で拒否することなど微塵も考えられなかった。恐る恐る立ち上がり、その男の後に着いていこうとした。
“ヴァァァン!”
「………ッ!」
足に響く痛み。耐えられずにその場に崩れ、少しでも和らげば、と痛む場所を抑える。右足の太股から赤く、生暖かいものが溢れていた。
『…生かしておくのが命令だぞ。』
背の高い男が強く言う。俺の右側にいた、銃弾を放った男は悪びれることなく返す。
『こんな化け物何してくるかわかんないからなぁ。用心ですよ、用心。』
痛みを受けてやっと頭と心が繋がった。恐怖が意識さえも蝕んでいく。まだ、死にたくない、と、心の奥底から悲鳴を上げた。
『それに一発や二発すぐ治るんでしょう?もう一発撃っときましょうか?』
銃をもう一度構えてきた。そこまでは覚えている。ただ、銃口が目に映った瞬間からぷっつりと記憶がない。
気が付いた時には何もかもが終わっていた。