第八十五話 天使堕つ
小説の一部を以下二点修正しました。間違った情報を書きまして申し訳ありませんでした。
・ターシェの名前が一部、ターシャになっていました。正確にはターシェです。
・この第85話で、オーディンをギリシャ神話の神と書いておりましたが、正確には北欧神話ですね。
後、オーディンの槍の名前はグングニルという名前です。名前を直接使用しないのは、イフリートの腕と対にしたかったためです。
さらに、三つ首の番犬、ケルベロスの名前より、フェンリルの方が狼なので、適していると思っていたのですが、どうもフェンリルは神話の中でオーディンと絡みがあるようなので、ギリシャ神話のケルベロスの名前をお借りしました。三つ首じゃないんですけどね。
以上、裏話でした。それではどうぞ。
真っ赤に変わってたモニターの色が緑になり、けたたましいブザー音が止まった。“Complete”と表示された文字がとても冷徹に見えた。
「一体…何をしたの?」
恐ろしかったけど聞かずにはいられなかった。さっき言ってた言葉で予想はつくけど、それでも…。
『全部説明すると長いからちょっと省くよぉ。』
−
手術室から人が出て来た。さっきの白衣じゃなかった。…表情が固いが何か…。
『今のはいったいなんスか?』
「わかりません。これから確認してくるところです。」
彼らにとっても不測の事態なのか、焦りが見えた。だが、俺にはそんなことはどうでもよかった。扉が閉まる寸前に聞こえた音が、どうしても気になっていた。
『き、君!』
出て来た医者が俺が入ろうとするのを止めようとしたが、聞く耳をもっていなかった。
気のせいでいてくれ。
−
『姫さんが向かってた病院に先回りしたんだぁ。もちろん、ネット上でね。』
トーイッシュが誇らしげに話している。普段ならなんとも思わないのに、胸が締め付けられるみたいに痛む。
『んで、運ばれた手術室に入り込んで、さっきの使ったんだぁ。』
私の心の中とトーイッシュは全く反対になってるんだろうね。すごく楽しそうに話している。
「オーディンの槍?あれは一体なんなの?」
重く、冷徹な、あの感じ。聞かなくても恐ろしいものだと分かる。
『北欧神話のオーディンって知ってるぅ?俺も詳しくは知らないんだけどぉ、その神様の持ってる槍、投げたら百発百中なんだって。だからねぇ、その名前をつけたんだ。必ず…裁きが下るように、ってね。』
「裁き…。」
−
『入るなと言っているだろうが!』
後ろにいる医師が声を張り上げて怒鳴る。駆け寄ってきて、肩を掴まれ、その手を払いのけても止めようとする。俺は例えようのない不安に襲われてかなり焦っていた。ただ早く入らなければ、と。だから、邪魔をするこいつは−。
敵だった−。
“ドスッ”
腹に一発重いのをいれちまった。当たった感触で目が醒めた。わりぃことしたとは思ったが、止まってる時間はない。扉の方へと振り返ってもう一度手をかけた。
−
『言葉通りだよ。本物の槍じゃぁないけどねぇ。』
トーイッシュは話すことに夢中になってる。きっと途中じゃ止まらないと思う。
『手術するとき、必ずチップから脈拍とかのデータを取り出すんだぁ。つまり、その時は外部とチップが繋がるんだよ。普段はかなり固いガードがあってね、せいぜい位置情報しか取れないんだぁ。まぁ、普段はこれだけで全然オッケーなんだけどね。』
一呼吸ついてまた口を開く。
『それで、橋が架かってるみたいなものだからぁ、渡らせてもらってチップ内に到着ぅ。それでねぇ、チップの緊急時用の機能を無理矢理動かしたんだぁ。』
「…緊急時用?」
『そうそう、チップがどこに付いてるか知ってたらぁ、だいたい分かるよぉ。』
−
扉を開いた。
目に写った世界のはステージ上でのような…夢の中みたいにぼやけていた。医師たちがなんか言ってるが音だけで何を言っているのかわからない。俺に気付いてるんだろう、こっちを見てる奴もいるみたいだ。ただ、あの音だけは鮮明に聞こえた。
−
「…何?」
トーイッシュの口がはっきりとわかるほどつり上がった。何がそんなに面白かったんだろう。
『本来は命を救うもんなんだけどねぇ。物は使いようってことかなぁ。』
−
“ピーーーーー”
ついさっきまで考えられなかった最悪の未来が、そこにあった。