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第八十四話 偽りの安息

手術室前、幅の広いイスに深く座った。だらしねぇ格好だな。気にするほど体力なかった。


『先輩、どうぞ。』


ホント、気が利くよな。


「悪いな。」


バンが差し出したコップを見ると思い出したみたいに喉の乾きが鮮明になった。と、なりゃぁ一気に飲んじまう訳だ。コップを逆さにするまであっと言う間もなく飲み終えた。


飲み終えてやっと考えが廻るようになってきた。今頃かって感じだが、かなり違和感を覚える。


「…なんで、ターシェは生きてんだ?」


『…え?』


かなり問題発言をした俺を疑惑と憤怒を抱いた表情で見るバン。当たり前だよな。ターシェが生きていてくれたのは嬉しい。ただ…。


「ステージで…なんであいつは斬る力を緩めたんだ?半身吹っ飛ばしたりとかしてきた奴が。今更躊躇なんてしないだろ?」


心の中に燻る疑問をそのまま言葉にした。その言葉は中に漂うだけで誰かに向けた訳じゃない。届かない言葉に答えが返ってくる訳もない…。


『わかんないッスけど、今は…。』


時間が止まったみたいに静かだった。動かしたのはバンの方だった。


「そうだな。…悪い。」


今はターシェが助かった事を喜び、帰りを待ってやるべきだ。気にはなるが、今は忘れるか。


『これからターシェさんどうするんスかね?』


「それでも、歌、続けるだろな。あいつの夢だし、それに俺の言葉、ちゃんと受け止められてた。あいつは強いから大丈夫さ。」


…気のせいか?言い終わった時に見たバンの顔がこれでもかって位にやけていたぞ。


『先輩って、あんなキザな事言える人だったんですね。』


こ、この野郎!そう言われて今になって恥ずかしくなってきた。…どんだけいっぱいいっぱいだったんだよ。まだなんか残ってないよな?


「うるせぇ。」


あの時はそう言わずにはいられなかったんだ。しゃーねぇだろ。


身内が殺されて、魂が抜けたようになったり、憎悪で復讐に取り付かれたり…、以前の自分を完全に失った人間を何人も見てきた。…見れたもんじゃない。一度落ちたらそうははい上がれない、奈落に落ちたかのように−。


ターシェにそんな風になって欲しくなかった。だから、あんな言葉がでたんだろうな。まぁ、俺の先輩の言葉なんだけどな。受け売りってやつだ。


『なら、余計早くあの“犬”捕まえなくちゃなんないッスね。』


やっと不気味な笑みがひいたな。…その通りだ。ターシェがまた活動できるようになるにはあいつを確保する必要がある。次逢ったら覚えてやがれよ。ぼこぼこにしてやるからな。…にしても−。


「“犬”かよ。」


『はい。“犬”ッス。』


二人して笑った。なんかわかんねぇがツボに入った。急にスピードが上がったときに見せたあの姿が犬が威嚇するときみたいだったのを思い出したからかもな。


「よっし!ターシェの件が一段落したら−。」


“ブンッ”


突然廊下中のライトが消えた。手術中を示す赤いランプだけが不気味に灯っていた。


『い、一体なんスか?』


直ぐに明かりが戻った。たいしたことなかったのか?突然のことに考えが廻らなかったが、ただ不安だけが心に浮かんだ。


嫌な予感なんてのは当たるもんだ。するんじゃなかった。後悔したって何も変わらないが、何度も何度も心に爪をたてた。

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