第八十三話 オーディンの槍
ターシェが泣き止んで間もなく、車は病院に着いた。バンと共にターシェを連れて行くとすぐに治療を受けるため手術室へと運ばれることとなった。
「俺達はここで待ってるよ。がんばれよ。」
『うん。』
担架で運ばれる姿を見て何か言わずにはいられなかったんだが、中途半端な感じになっちまったな。
『ジェイク、バン君本当にありがとう。』
『そ、そんな、ターシェさんが助かったのは先輩のお陰ッスよ。自分は何にもできなかったんスから。』
「そんなことねぇよ。お前がいたお陰だ。」
ターシェが傷ついてからは俺は完全に動揺していた。何をすべきか見失っていた。ステージから逃げ出すのも、奴を振り払うときも、かなり助けられた。
『いいコンビだね。ジェイクってちょっとドジだけど、よろしくね。』
『は、はいッス。』
「おいおい、誰がドジだ。訂正しろよ。」
さっきまでのことが全部悪い夢だったみたいに薄れていく。忘れたりはしない。二度とあんな危ない目にあわせないよう、しっかり守らねぇとな。もう二度と…。
「どうやらそろそろみたいだな。」
白衣を着た連中が来たのが見えた。これからターシェの傷を塞ぐ。あの傷なら綺麗に見えなくなるだろうな。他にも検査をするだろう。っても、強く打ったりしてないから斬られた傷以外はないだろう。
『じゃあ、またね。』
手術室へと消えていく前にターシェが微笑みながら優しく言った。
「ああ。」
久しぶりに笑みが自然に出た気がした。
−
−昨日強盗が入って一家惨殺ですって。唯一家にいなかった長男だけ助かったそうよ−
「き〜たきた。」
全く待ちくたびれて死んじゃうよ。何分待たすきだよ。五分も待ったんだよぉ。
えーと、そ、こ、の、手術室に行くにはっと。壁一個越えなきゃいけないのか。医者のパスありゃいけるか。さっき管理のとこで履歴あさったとこにあったのが…、よしよし、入った入った。さぁて、こっからなんだよなぁ〜、固いのは。何十にも層があるから通りにくいったらありゃしない。…あれを使うしかないんだよなぁ。
−私のところに来なさい。お前に生きる術をやる−
−ただし、覚悟があればだが−
「あのさぁ、俺が冷たいって言ったよねぇ?でもホントはとってもやさしいんだよ。」
足を勢いよく振ってイスを回転さして、セフィーの方に向いた。
「なんたって狼ちゃんができなかったことを代わりにしてあげるんだからぁ。」
やっと俺の言いたいことがわかったみたいで、下を向いてた顔を上げた。顔色悪いねぇ。ビビっちゃったのかねぇ。
「どうしたのぉ?恐いのかなぁ。大丈夫だよ、あんな気持ち悪い声なんて聞こえないし、キー押すだけだよぉ。」
俺の言葉に首を振る。何が?
『ちがうの。声とかじゃなくて…、よく…わからない。』
あっ、そう。もうちょっと骨があると思ってたのにここまでかぁ。まぁいいや。
−よこせ!あいつにケジメつけなきゃ生きていけない!−
「じゃあちょっとウルサイけど…いくよ。」
−殺人プログラム。だっさい名前。せっかくだからかっこよくいこ−
実行。部屋中のモニターが全部真っ赤になり、ブザーが鳴り響く。慣れてないからうるさくてしかたない。
−誰も避けられない裁きー
そして、赤いモニターに文字が映る。今日の主役の登場だ。
−オーディンの槍−