第七十九話 野獣の如く
更新が遅れて申し訳ありません。流れをどうするか考えて何回か書き直したので遅れてしまいました。読んで頂けたら幸いですm(__)m。
俺の放った弾丸はガラスを破り、奴めがけて飛んでった。地面に下ろそうとしている左足の太股から血が飛び出し、左足は地面を踏み外し、態勢を崩して転がってる。これで走れねぇだろ。
確かにあいては憎い。ターシェを傷つけたから…。だが、まだ生きてるだろう人を見つけ出せなくなるなんてのは最悪だからな。今は生かしといてやる。
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ガラスが破れたのに気付いたときには遅すぎた。弾は左足の太股を貫通した。突然の痛みで踏み外し、態勢が崩れ、勢いを残していたので、転がった。
このままなら俺は車に追いつけず、彼女は助かるだろう。だが、悪いがそうさせることはできない。彼女だけを例外にはできない。
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「…は?」
銃弾が突き抜けた穴からひびの広がったガラス越しに見た光景は信じられなかった。
奴は回転の勢いを殺さず態勢を直し、四つん這いになった。仮面が仮面だし、手を前に出し、犬科が威嚇してるみたいに見え、殺気も混ざってまさに狼と思えた。
問題なのはこっからだ。
まさに獣。比喩とかじゃなくて。四足歩行でしかも立ってたときよか速いってなんだよ!人間じゃねぇだろ。
さっきの倍ぐらいのスピードで俺が銃を構え直すまでにすぐそこにまで近づいてきた。ビビったから時間がかかったって言ってもたかが知れてる時間だ。そんだけ速いってことだ。
直ぐに引き金を引いたが、さっきと違って割れた隙間から俺の姿が見えてるから簡単にかわされる。さらに悪いことに奴の姿がみえなくなった。…まさか車にくっついたのか?いや、なんも音してないし…。完全に見失ったと思ってたときだ。今通り過ぎた柱に爪で引っかいたような傷が見えた。直感で動いた。ターシェの横になってる座席に戻ろうとしたまさにその時だった。
“…ドンッ!”
何かが当たったような音。いや、あの野郎が車体の側面にしがみついたに違いねぇ。真っ直ぐターシェを狙うつもりだ。
座席に戻ったとき、窓の向こうであいつはまさに牙を振り下ろそうとしていた。
「ざっけんなぁぁぁっ!」
ターシェの背を支え、一気に抱き寄せた。間一髪だ。ガラスが割れ、奴の紅黒い腕が突き出てさっきまでターシェが横になってた椅子にでかい穴を空けた。
左手でしっかりと抱え、右手に握りしめた銃を向け、弾を放った。反射的に引き金を引いたもんだから、狙いは頭に向けちまってた。
気がついた時にはもう遅く、奴の頭は後ろにのけ反っていた。しまった。手掛かりが…。
しっかし、危機っつーのはしつこいもんで。奴ののけ反った頭はゆっくりと戻っていった。さっきのスローで巻き戻ししてるみたいだったその様子を、息を飲みながら見ていた。元の位置に戻り、奴と目があう。
考えてみりゃ、今回初めて奴の眼を見る訳だ。前の時と同じ、いや、それよりももっと深いものが見えた気がした。…正直に言う。元に戻るまでなにもしなかったのは完全にビビってたからだ。足撃ち抜いても四つ足で追いかけてくるわ、頭撃ち抜いても平然としてるわ、もうバケモンっとしか言葉が出てこねぇよ。
まぁ、二つ目は大袈裟に言い過ぎなんだけどな。元の位置に戻ったときに気付いたが、頭を狙った銃弾は仮面に守られて、ひびを入れたまでで止まっていたみたいだ。おかげ、なのか、せいで、なのか…微妙なところなんだが…。
たくよ、なんつー眼してんだよ。そんな眼で睨まれても絶対ターシェは放さねぇぞ。ターシェを支える手にさらに力をいれた。
『先輩!しっかり捕まっててください!』
突然バンの声が響いた。