第七十八話 現れし憎悪
やはりこの兵器は悪魔だ。
ステージに上がってきた十人程のガードが今は白いステージに黒い人型の灰しか残していなかった。
座席部からまだ撃ってくる者もいたが、どうでもよかった。それよりも後を追うことが最重要だ。
後を辿るのはそう難しい事ではなかった。ステージ近くでは焼けた臭いで満ちていたが、奴らが向かった出口に向かうと、少なからず血が落ちていたし、鼻も利くようになった。全く…皮肉もいいところだ。階段を下り終え、倉庫に入った時点で壁は閉じる直前だった。無駄だとは思ったがパネルを見つけた。案の定パネルは壊され、こちらからは操作不能になっていた。仕方ない。
腰のベルトに備え付けている手溜弾を取り出し、中央あたりにあるダイアルを目一杯時計回りに回す。そのままピンを抜き、防壁に張り付けた。
この手溜弾はダイアルを回すことで威力を変えることができる。最大まで回せばダイナマイトをも越える威力になる。弁当箱に仕掛けたのはこれの超小型版だ。ただ、最大で使うのはだいたいこういった壁を壊したりだとか、物にしか使わない。前にも言ったが、あくまで最後は俺自信の手で仕留める。
爆発前に距離をとり、さらに耳を手で塞ぐ。かなり力をいれても響くほど聞こえるこの耳のせいで、この時だけはどうしても両手が使えなくなってしまう。
“ドォーン”
耳だけではなく、振動が身体中に響いた。壁の方を見るも、爆煙ではっきりとは分からないが、一発では開かなかったようだ。少しずつ薄らいできた煙の中に入り壁を確認すると、ひびが入っている。もう一度試すか。予想していたのですでにダイヤルを回していた手溜弾を同じところに設置し、再び壁から離れた。…また両手を塞がれる訳だ。
“ドォゴーーン”
この響き…どうしても慣れないな。爆音がさっきとは異なり、砕けた音が混ざっている。爆煙も風を受けてか、乱れている。どうやら破れたようだ。風で煙が晴れ、人一人分は通れる程の穴があいていた。あれだけ空けば十分だ。その穴へ少し態勢を下げて駆け抜ける。
穴を通過すると同時に、少し離れたところからエンジン音が響いてくる。まだ間に合うのか…。俺は音の響く方へと脚を進めた。
−
「バン!もっとスピード出ないか?」
『こんなに周りにいろいろあったら上げられないッスよ。』
大型車ばっか停めてあるから、邪魔なのは分かるが、それでも奴はまだ近くにいる。追い付かれる可能性はまだある。
そんな時だ。目の端に黒い影が見えた気がして、座席の後ろに振り向いた。くそっ、しつけぇんだよ。
黒い塊がこの車の後を自分の脚だけで追いかけてくる。こっちは車だってのにしっかりとついてくる。
「バン!」
『わかってるッスけどこれ以上は−。』
「これから狙い撃つからあんま揺らすなよ!」
バンの話を無視し、上着をぬぎながら伝えたいことだけ口にした。命令口調ってあんま好きねぇけど、こういう時はこっちの方が丁度いい。バンは理解したみたいで、何も言わなかった。
脱いだ上着をターシェの傷口に巻き付けた。少し離れるから、止血ができない以上、なにもしないよかマシだろ。
銃を腰から抜き、もう一列後ろに下がり、後ろをつけてくる奴を狙う。どうやら向こうからはこっちの様子が見えないらしく、ガラスに銃を晒してもなんの変化もない。丁度いい。これで脚でも撃ち抜きゃ、追ってこれねぇだろ。
奴は駆けて追ってくるし、車も揺れる。だが、弱音なんて吐いてる暇はねぇ。しっかりと狙いを定める。
引き金を引くときになって、突然悪魔の声が聞こえた。
脚ですませるのか?ターシェを傷つけた代償はその程度なのか?
命を払わせろ。
俺は…引き金を引いた。