第七十七話 逃避
バンが俺の後ろについて、俺はターシェを背負って階段を駆け降りて行く。本当は何段も飛んで下りたいところだが、傷ついたターシェの身体に響くといけないから、一段ずつ下りないとな。
今俺達が向かってんのは運搬用出入り口−ステージに荷物を運ぶ際に使うとこだ。一般出入り口じゃ、この混乱で人がいすぎて通れないだろうし、なにより奴が追いかけてきたら、余計に被害が出る。
階段が終わり、広い空間に出た。運ばれた荷物を一時的に保管するスペース。この先に運搬用の車があるはず。そいつを掻っ攫って乗ってけば…。
『先輩、先に行っててください!』
数え切れないくらいの木箱やなんかを通り過ぎて、もうすぐ駐車場が見えてきそうなとこまで来て、バンが壁の方へと走りだした。正直、走り出したから気付いたが、なんて言ってんのかわからなかった。
“ギギギギギッ”
コンクリでできた倉庫内に重たい音が響く。音のする方を向くとシャッターが下りてきている。なるほど、よく周りが見えてやがる。
『ちょっとは時間稼ぎになるかと思うッス。』
追い付いてきたバンが少し息をきらせながら言う。
「十分だ。ありがとよ。」
俺もこういう時こそ冷静でないとな…。ターシェをしっかりと抱えなおした。
駐車場に着き、近くの車に駆け寄る。黒のワゴン。これを使えばターシェを救える!
『先輩、下がっててくださいッス。』
言うと同時にバンが持っていた銃を、思いっきり振りかぶり、運転席のガラスに打ち付けた。ガラスは跡形もなく砕くだけ散り、少し残った部分も砕ききる。鍵を開け、バンは運転席、俺はターシェを後部座席に下ろし、背中の傷を見た。
傷自体は浅く、血も命に関わるほどは出てはいない。つっても、余裕があるわけじゃねぇ。まだあいつが追ってきてるにちがいない。だから、早くここをでねぇと。
「バン、出せるか?」
『もう少し待ってくださいッス。』
このタイプの鍵は−今広まってる車全部についてるんだが−チップでの認証確認でエンジンがかかるようになってる。登録されてる奴にしか運転できないって訳だ。つまり、俺らには運転できないってことでもある。
そこで登場すんのがバンの持ってるハッキングソフト、フェイクだ。これはインストールさせると、今までの履歴をあさって、一番最後に使った奴のアカウントで入り込んじまう、っつーもんだ。昔の連れがくれたもんでなかなか重宝してる。
“ピッピーッ。”
『先輩、開き−。』
丁度、バンが後ろに振り返えった時だった。突然、車全体が揺れ、低い爆音のような音が響いた。きやがった。
恐らく今のはバンが閉じた防壁を爆発してんだろう。ただ、今のこもった音だと、まだもってるみていだな。つってもかなりの振動だった。次もつかわかんねぇぞ。
「バン!早く出せ!」
俺が言い切るのが早いか、バンが振り返るのが早いか、すぐに振り返えってエンジンをかけた。
『出します!しっかりつかまっててくださいッス!』
一気に踏み込んだから少しよろけちまったが、止血してる左手は離さなかった。
すぐに立て直したが、再度あの揺れがきた。さっきよりも耳に響く爆音とともに…。