第七十一話 -AS- 想う時
…最後なんだ。せっかくまた会えたのに…。
“殺す”って冷たい言葉が心に突き刺さった。足が震えて、立てずに座りこんでしまいそうだった。
死ぬことよりも想いを伝えられないことの方が辛かった。だって私はそのためだけに頑張って生きてきたのだから。
ジェイクと知り合って間もなく、将来の夢について話したことがあった。
『とにかく強くなる。』
それがジェイクの話してくれた夢だった。それって夢なのかな?、ってクスクス笑っちゃった。ジェイクは顔を真っ赤にしてた。
『な、なら、お前はどうなんだよ。』
「私は…。」
私はうつ向いて黙りこんでしまった。その時の私にはなんの取り柄もなかった。目が見えないから、誰かに助けてもらいながらじゃないと生きていけない。そんな私に何ができるんだ?それにあんなに優しかったお父さんも、私の世話に疲れて何処かへ行ってしまったんだ。…そんな風に暗く、沈んでしまっていたから、夢なんてなかった。
『やっぱり音楽に関わるもんなのか?』
私が黙りこんでしまっていたのを見てか、ジェイクが話を続けてくれた。
音楽関連…か。
「…でも、目が見えないし…。」
『目が見えないからって何にも出来ない訳じゃないだろ?』
「…見える人には分からないじゃない。」
ジェイクの言ったことに少し頭にきてしまった。悪い事を言ったのは直ぐに分かったけど、謝ろうとはしなかった。その日は何だかそれ以上遊ぶ雰囲気にならなくて、帰った。
次の日、私はいつもの通りあのお店にいた。昨日あんな態度をとったからもう来てくれないんじゃないか、って思ってた。謝った方が良かったかな、て少し後悔してた。
『いらっしゃい。』
『こんちは。』
店長さんと…ジェイクだ。来てくれた。ほっとした。今の友達はジェイクたちしかいなかったから…。
『ターシェ…。』
私の目の前まで着た。突然手を取って、
『一緒に来てくれ。』
と、引っ張り上げられた。全然訳が分からなくて、戸惑ったけど、どこへ行くのか教えてくれないし、仕方なくついて行った。
ジェイクが止まった。急だったから、ちょっとぶつかった。
「…着いたの?どこ?」
けっこうな距離を歩いてきた。チップから地図を頭に取り出したけど、全然知らないところだった。
『ここか?…俺ん家だ。』
ジェイクの家?どうしてそんなところに?
『ターシェにいてほしんだ。俺だって暗闇に勝ってみせるから。』
ジェイクはやっぱり昨日のことを気にしてたみたい。当然だよね。きっとジェイクなりに私を励まそうとしてるんだ、って気付いた。
これからすることは私の目には映らない。だからこそジェイクは私の目の前でしようとしてくれてる。
目に黒い布を巻き、その状態で投げられたボールを全て受け止める。
あまり怖いように思えないかな?でもね、普段目に頼ってる人たちにとってこれはかなり怖いと思う。周りに何があるのか、ということが分からない。そんな真っ暗な世界から突然自分に向かってくるものがある。その恐怖はきっと何が近づくか、なんて関係ない。
私はその恐怖に少しは慣れてはいた。生まれてからずっとだからね。ジェイクは私を元気づけたいから、少しでも私に近付こうとしてくれた。自分が勝てれば私だって勝てるんだ、って…。