第六十九話 -AS- 忍び寄る魔の手
『美味しそうな弁当ですよ。』
買ってきた部下が弁当を配る。なんでもライブのスタッフが我々の分も用意していてくれたようだ。弁当を受け取って開けてみると、確かに・・・。この弁当はアタリの様だ。美味そうだ。
『そう言えばハックさん。さっき新しい衣装見せてもらいましたよ。カッコ良かったです。』
二口ほど口にしたところで買い出しに出ていた部下がそう口にした。新しい衣装?何のことだ?
「何の―」
”ドン―ッ!”
突然、弁当箱が爆発した。音は小さく、威力も大きくはない。ただ、攻撃としては十分だ。俺の左手が肉がえぐれ、血に染まっている。
「ぐっ・・・。」
痛みで声が漏れてしまった。他の部下も皆、手を負傷したようだ。痛みで叫ぶ者、腕をつかみ、体を丸くして、痛みに耐えようとする者もいた。早く医療班を・・・。無線に手をかけようとしたその時だ。
”バンッ!”
突然扉が開かれ、フードを被った全身黒で統一した男が姿を表した。部屋へ入りフードを外す。そこには獣をおもわせる仮面があった。
「…っ。」
ここにいる全員が銃に手を伸ばそうとしたが、左手の痛みがあるせいか、右手まで震え、構えるまでに時間がかかってしまう。
なんとか構え、銃口を向けるが震えてしまい、まともに狙えない。
仮面の男はその間に刀を使い、尋常でない速さで、部下の体を切り裂いていく。
構えるころにはアーディスと私しか残っていない。
狙いの定まらないままだが、引き金を弾こうとした。
その瞬間、右腕に痛みを感じ、銃を手放してしまった。腕には小型のナイフが刺さっていた。こんなもので離してしまうとは…。左手の痛みも合わさってなのかもしれない。
“サッ”
もう一つの銃をだそうとしている間にアーディスが殺られた。斬る音もほとんど聞こえない。
“ゴッ………”
足元に何か当たった。見なくてもわかる。…頭だ。視線を落とせばそれだけ隙を作ることになる。それよりも…早く…はや
“シュッ”
奴の刀が振り下ろされたされた時は、何を斬られたかわからなかった。
さっきまで引き金を弾こうとしていた右腕に感覚が無いことに気付いた。
…手首から先が斬り落とされていた。
「ぐっ…。」
斬られたと認識した途端、痛みが全身を駆け巡る。痛みのあまり、膝をついてしまった。
奴を見ると既に目の前にまで来ていた。血だらけの刀をゆっくりと振り上げている。
ターシェ様…、申し訳ありません。
ジェイク、この殺人鬼を止めてく……………。
―
これで全員か…。
刀をしまいながら、周囲を確認する。
全く、呆気無さすぎる。警戒心が無さすぎる。本当に守るつもりがあるのか?
情報通り、何か目的があるのか、警備が随分ずさんだ。突然の人員増加、連絡の遮断など、守るつもりなど全くないのではないか?
人員を他から得るなど、潜り込むことも難しいくはない。ライブ中での連絡遮断は明らかに愚かな事だ。
入り込めば後は簡単だった。ライブで使われる衣装に全身を黒で覆ったものがあった。それを身に纏えば違和感なく動けた。着る人物は始まる一時前までは監視室に籠るのだから、その人物として振る舞えばいいだけだ。
弁当に小型の爆弾を仕掛け、それを渡して部屋へと持って行かせる。カメラは一部同じ画像をループさせていた。監視室の前で待ち、タイミングを見計らい爆発させる。殺す程の威力では音が外部に漏れてしまう。だから、回りくどいが、負傷させる程度の威力に抑え、俺自身で息の根を断つ。
やはり、自分の手で仕留める方がいい。自分の罪をしっかりと背負えるからだ。
「無線は切ったか。」
『もち。』
次は歌姫か…。