第六十五話 光に誓って
スゲェ人だなぁ。サクヤドームが満員になるなんて初めてなんじゃねぇか?ターシェ嬉しいだろうな。…なんか知らねぇが俺も嬉しいよ。
だけど、見回りしにくいとこだけなんとかならねぇかな。さっきも女子高生が邪魔で通れなかったしな…。まぁ、隣に座った彼氏っぽいのがどかしてくれたがな。
『もうすぐ始まるッスね。ターシェさんのライブ。』
三階の最前列を見回ってたときにバンがづぶやいた。
「お前…なんのためにここにいるか、ちゃんとわかってるよな?」
今のは絶対俺にバレないように声小さくしたんだろ?周りがうるさいから聞こえないと思ったんだろう。残念でした。
『わ、わかってるッスよ!護衛ッスよ。』
…わかりやすいな。痛いとこつかれて苦笑しているバンを見て、俺も笑ってやった。あくまで嫌味っぽくな。
時刻はすでにライブ開始三十分前。だいぶ人の流れが落ち着いてきた。
俺たちの担当は二階の最前列。ターシェが立つステージがよく見える。
これからターシェの上がるステージを見ながら考えていた。
―ターシェは何でケルベロスに狙われてるんだ?―
ケルベロスの狙う人間は年齢から職業までかなりの違いがある。恐らくケルベロスは依頼を受けて人の命を奪っている。依頼を受けているような奴は簡単に別けたら二通りの人間しかいない。一つはただの殺人狂。殺すことに主軸があり、対象を特に選ぶような趣味を持っていない人間。もう一つは目的が別にあり、その過程で“殺し”というスキルが必要な場合。生きるため、とか、復讐するため、とかだ。ケルベロスは後者に当たるだろう。あの殺気は何か別に目的があるように感じた。
憎悪。
復讐が奴を駆り立ててるのかもしれない。
とすればターシェを狙う理由は…情報との交換といったところか。しかも何人も手をかけているところをみると情報はまだ貰えていないのかも知れない。そして次のターゲットがターシェなのかも知れない。あくまで仮説だけどな。
どんな理由だろうと、復讐の踏み台ならなおさら、ターシェの命を奪わせる訳にはいかない。絶対に守るんだ。
気付かない内に思いっきり拳を握っていた。もうイタズラの可能性なんて考えていなかった。
『先輩、知り合いだからって熱くなりすぎるといざというときちゃんと動けないッスよ。』
後ろに仕事モードに入ったバンが真面目な顔をして立っていた。
「ハハ…。お前に言われるとはな。」
そんなとき、明かりが落ち、辺りは暗くなる。
ステージがさらに輝きをます。
そして…始まった。