第六十四話 集う役者
「次は何処に行くの?」
車を運転してるトーイッシュに弾んだ声のまま訊いてみた。いろいろ回って来たから楽しくって楽しくって。
この前は服とか家具とか、そうゆうお店ばっかり回って来たから、ちょっと感じを変えて、ハイテク機械のあるところとか、音楽関連のお店、いろんな生き物がいる場所とか。まだまだ全然外の世界には面白いものがある。一週間世界を回っても、きっと見れてないものはたくさんあるんだろうなぁ。これからゆっくり見ていくんだ。
『次はアレだよぉ。』
トーイッシュの指差した方には何かドームが見える。でも、ドームって家とかが中に入ってるから、もっと大きいんじゃない?一回りも二回りも小さいけど…。
『元々ドームってアレくらいの大きさなんだよぉ。それをモデルにしたのがぁ、今、住宅街の“ドーム”なんだよぉ。』
そうなんだ。習わなかったなぁ。
「じゃあ、あの中には何があるの?」
この問いにトーイッシュの口が少しニヤッとしたことに気付いた。
『ライブなんかをしたりするんだよぉ。今日のケルベロスの獲物みたいなのがねぇ。』
そうだ。忘れてた訳じゃないけど、狼さんの仕事を見れるんだ。…ちょっと変な気分。見たいって思ってた。今も思ってる。でも、狼さんが怒ってた顔を思い出すと少し怖かった。そこにはきっと私の知らないものがあるんだと思う。…複雑な気持ちって言うんだろうね。
近くに行くと大きさが際立った。住宅街のあるドームと比べたら小さいけど、歌を聞くために集まるんだったらスゴく大きい。どれだけの人たちが入れるんだろう。
地下に駐車場があって車から降りる。それからエレベータに乗ってドームの中に入る。何もかも大きい。駐車場は向こう側が見えないくらい広いし、エレベータも五十人くらい乗れそうな大きさ。…なのに、車はいっぱい止まってるし、エレベータもギュウギュウってまではいかないけど、いっぱい人が乗ってた。
「狼さんの狙う人ってどんな人なの?」
こんなに人気のある人がどんな人なのかな、って気になって訊いてみた。
『海外で歌手をしてるんだよぉ。国の境目なしでスゴく人気のある人で、この国初ライブだからスッゴい人だね。なんたって、初めてこのドームを満員にしたんだから。』
「ま、満員!?この席全部埋まるの?」
その時、ちょうどホールに入ったところだったの。観客席は二階、三階まで続いてた。いたる所にイスがあってもう七割は埋まっていた。向こうにいる人なんて点くらいにしか見えない。一体何人入るの?
薄暗いってのもあったのかも知れない。真ん中の真っ白なステージがスゴく際立っていた。真上にあるライトに照らされて銀色にも見えた。
「…素敵。」
『見とれてないで早く座ってぇ。みんなの邪魔だよぉ。』
ちょっとボーっとしちゃって後ろから来てる人たちに気付かなかった。
「あっ…。ご、ごめんなさい!」
『気にすんな。』
後ろにいたスーツ姿の人が、優しく声をかけてくれた。よかった、恐い人じゃなくて。
トーイッシュは先に座ってた。隣に座ったらイスがフカフカで気持ちよかった。
『さぁ、もうすぐ始まるよぉ。観客十万人を迎えた中での晴れ姿がねぇ。』
トーイッシュは楽しそうに言った。