第六十三話 等しく過ぎた時間
『…ゴメンね。突然こんなこと頼んで。』
「気にすんな。上手くいけばこっちで奴を捕まえられる。」
ハック達が俺達に要求したのは一つ―邪魔になるなって事だ。ローテーションを組んで監視区の担当を替えるんだが、俺達はターシャの護衛後、後は全部観客席での見張りだ。ライブ中もここ。ターシェの知り合いだから、始めだけ会わせといて、後はどいてろ、だとよ。
まぁ、黙っててやるつもりなんてこれっぽっちもないがな。
『でもジェイクがガードをやってたなんてね。』
「なんだ?以外だったか?」
『ううん。そんな気がしてた。』
なんだよ、それ。
『俺、前で見張ってます。』
なんか笑いながら出て行った。なんだよ、全く。
『優しい後輩さんね。』
「どこがだ?…って、そんなことより、ターシェだってそんな売れてる歌手になるなんて思いもしなかったよ。」
『そうだね。あれからいっぱい頑張ったから。』
長い髪をかきあげた。
「だよな。夢叶えたんだからな。…あ、そうだ。俺のダチ、今何してると思う?」
仕事…として来た、なんてことはわかってる。憎い奴にターシャが命を狙われてるってことも十分わかってる。だけど、今くらい羽目を外したって罰は当たらないだろ?
昔の連れの話から始まって、荒れてた時や兄貴が死んだこと、レインたち家族のこと。何から何まで話した。ターシェには不思議とどんなことでも話せた。間抜けでダッセー失敗を隠さずな。
ターシェの方もいろいろと話してくれた。
俺達と離れて海外へ渡ったこと、言葉の違いで苦労したこと、向こうで出来た仲間に助けられたこと、再婚相手との仲で悩んだこと、音楽の勉強を続けデビューしたこと…。
ターシェは明るく話していた。時々笑ったり、ただ楽しかったかのように。だが、話の内容はそんな甘いもんじゃなかった。苦しくて、辛く、厳しい時の方が多かったはずだ。それでも、夢のために耐えてこれたから、ここにいるんだ。やっぱりターシェは強い。昔と変わらない。俺の憧れた強さだ。少しは近づけただろうか…。
コンコン。
『先輩、もうすぐ交代の時間になるッスよ。』
「ああ、わかった。」
『もっと話たかったんだけどね。』
「ライブが終わってから会えるだろ?」
『…そうだね、また会えるよね。』
「当たり前だろ?この俺がついてるんだ。絶対守ってやる。」
フフッ、と返してきた。
「そうだ、終わったらサイン貰えるか?レインたちにやりたいんだ。」
『いいよ。何枚でも。』
「約束だからな。じゃあな。」
笑って手をふるターシェに親指を立てて返事を返した。ドアを閉め、気合いをいれるため両手で顔を叩く。
パシッ。
廊下に響く。
「…シャァ!行くか!」
『はいッス。』