第六十話 変装
遅くなって申し訳ありませんでした。だいたい十日サイクルだったんですが、忙しくて。待ってくださった方もそうでない方もどうぞ楽しんで行ってください。
『じっとしててねぇ。』
私が座っているイスの後ろから、トーイッシュが髪飾りを付けてくれた。
「そんなの付けてどうするの?」
『見ればわかるよぉ。』
髪飾りをいじりながら返してきた。―カチッ―、と髪飾りが鳴ったみたい。
『鏡を見てごらんよぉ。』
手鏡をもらって顔を見てみた。鏡って自分の顔を映し出すものだよね?そこに映ってたのは…誰!?
『この髪飾りは髪を好きな色に一瞬で変えられるんだよぉ。』
鏡に映ってたのは髪が真っ黒な女性…私なんだって。髪の色が違うだけじゃないの。お化粧とか服とかもいろいろと変えたら、全然私には見えないんだぁ。
なんでこんなことしてるかって言うと、昨日の事覚えてる?私が狼さんを怒らせちゃったときのこと。仕事を見せてくれるって。でも、私、よくわからないんだけど、誰かに探されてるんだって。ずっと一人だったのに。
それで、見つかったらお仕事見れないから、こーやって変装してるの。
「これなら私だって判らないよね?」
イスから立ち上がって大きい鏡の前まで行ってみた。さっきは手鏡だったから顔しか見えなかったんだけど、全部みたら昨日までの私と全然違うかった。なんていうか…外の人だなぁ、って。
『オッケーだねぇ。全然わかんないよぉ。でも助かったよ。服のコーディネートは姉ちゃんのを見てたからできたけど、化粧なんて知らないからぁ。覚えててくれてさぁ。』
変装の手伝いをしてくれたトーイッシュが後ろから腰に手をあててそう言った。ちょっとだけ、二人が姉弟だって信じられるような気がする。
『せっかくそんなに変わっんだし、まだまだ時間あるから、外出ようかぁ?』
「ホントに!?」
私の心を読んだみたい。したいことを言ってくれた。やったぁ。
『ちょっと準備してくるから、先に下に下りといてぇ。車鍵あいてるからぁ。』
「わかったぁ!」
ちょっと子どもっぽかったかな?トーイッシュが部屋を出た後、私もカバンを持って部屋を出た。
ついこの前外に出れたのに、初めてのとき見たいにうれしかった。今度は何が見れるのかな?どこに行けるのかな?
―足が止まった。
狼さんの部屋の前。
昨日、なぜ狼さんがあんなに怒ってたのか、まだよくわからない。まちがってるなんて思ってない。人間は何度も何度も戦争ってものをして、世界をこわして、人をこわしてきた。その時の写真とかを見て、ひどさが伝わった。だから、人間なんていらないものだ。そう受け取ったの。
だから、私は狼さんがちがうって言う訳がわからなかったの。
なんの音もしないドアの前に立っていたけど、玄関に進んだ。まだ慣れないハイヒールをはいて、下に下りて行った。