第六話 想定外
作戦はこうだった。相棒が『F』になりすまし、地下にある発電システムまで忍び込み、破壊することで、奴らを混乱させる。次に予め殺した本物の『F』の無線を使い侵入者が、下にいると思わせる。その間に屋上から社長室までワイヤーで降り、潜入してターゲットを始末する。社長意外にボディーガードがいるのも想定内。窓を割り侵入し一瞬でかたずける。そこまでは順調であったし、外にいる奴らが入って来ることも想定していた。だが、俺のスピードについてこれる人間がいるとは想定外だった。
改造されたこの肉体は人間の能力を凌駕しているものだ。だからといって、自分を過大評価したりはしていない。戦いの中に身を置く者として、いつも神経を集中させ、手を抜くことなどしない。あの男に対してもそうだった。無線に手をかけようとしたところを狙ったのだ。こうなるとは…。
作戦が終了したら、ワイヤーを使い、屋上に上がり逃げるつもりだったが、殴られたときにあの男が窓側に、俺が扉側に移ってしまったために部屋から出るしかなかった。脱出方法はもう一つあった。だが、それには四十階まで降りないとならない。
万が一を考え、相棒がパラシュートを用意してくれている。そこまで行けば…。
エレベーターは止まっているので、道は階段のみだが、さっきの男が仲間を上に集めたはずだ…。四十階まで辿りつく前に出会わないことを祈るだけだ。
だが、悪い事というものは続くものだ。
四十階までなんとか辿りつき、パラシュートの隠してある、職員用のロッカーから取り出した。ノートパソコンほどの大きさのバックを背負い、ショットガンを手にした。あとは窓を割って逃げるだけ…。気を緩めたその時だった。一筋の光が俺の足を貫いた。
「………!!」
右足をレーザーで撃たれた。叫びそうになったが、声を押し殺し、撃たれた脚をかばいながら、右の通路に身を隠した。撃ってきた方向を見ると、五、六人ほどの小隊が銃を構えていた。やっとわかった。ここまで来る最中に一人も敵を見なかったのは、俺がどう出るか見るために気配を消して隠れていたのだ。そして、パラシュートを見つけるまでに配置を完成させ、俺を包囲したのだ。そして、奴の姿もそこにあった。